最後の少女アリアとアポリアの未来   作:ツル@oreo

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第3話 鉄の味のキス

「……うぅ」

「———ッ」

 

 美しき少女が(うめ)いた。

 その声でハッと我に返る。

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

 俺は少女に駆け寄った。 

 突然現れた未知のロボット。それに接近するなんてありえない。常識的じゃない。

 だけど、体が勝手に動いていた。

 行動が思考を先行していた。

 俺は少女に駆け寄ってその体に触れる。

 彼女はぴっちりと体に張り付いている薄い宇宙服を着ていた。パイロットスーツというのだろうか。だから服の上からでも彼女の肉体の感触がダイレクトに伝わって来てドキドキした。それでも、パイロットスーツの素材が特別なのであろうか、体温は全く感じず、水に触れているような冷たさを感じた。

 

「……う、うぅ、ここは?」

 

 俺の腕の中で少女は目を開く。

 彼女の発する音声は、俺には理解できない謎の言語だった。だが、脳内に「ここは?」という意味の日本語に変換される。そして、強制的に理解させてくるような妙な感覚がある。

 特別な翻訳機を使っているのだろうか。

 

「地球だよ!」

 

 彼女の問いに答える。

 

「地球……私、やってしまったの?」

「罪?」

「ごめんなさい……私、巻き込んでしまった。怪獣を連れてきてしまった……」

 

 少女はおぼろげな様子でぽつぽつと言葉を漏らす。

 

「怪獣? しっかりして! 何を言っているのか……!」

 

 キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア—————‼

 

 獣だ。

 背後から獣の鳴き声が響き、ロボットの背面を見る。

 そこには見たこともない巨大な化け物がいた。

 四足歩行で一見すると亀のように見えるが、頭はなく、ただギザギザの尖った甲羅が幾重にも重なっているような姿。

 かなり簡略化して表現すると幾重にも三角コーンを重ねて横倒しにしたものに手足を生やしたもの。フォルムとしてはそれが一番近い。

 だが、グラウンドに四肢をめり込ませて存在する〝アレ〟はそんな可愛らしい存在では断じてない。

 

 怪異の獣————怪獣(かいじゅう)

 

 キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア—————‼

 

 頭はない。だが、奴は鳴く。 

 甲羅の隙間と隙間を震わせて、獣のような鳴き()を発生させていた。

 触れてしまえば傷ついてしまいそうな禍々しい姿。

 彼女が〝美〟の極致だとすれば、アレは‶恐怖〟の極致だ。

 一つの山のような巨大な生命体が敵意を向けて屹立している。

 それがどんなに怖い事か———。

 

「あ、あれが……かいじゅう……?」

 

 俺の奥歯がガチガチとなる。

 コワイ。

 森でクマと対峙したとしてもここまでの恐怖は抱かないんじゃないか? 

 クマと怪獣では大きさが全然違う。

 勝てる勝てないの前に、逃げられる逃げられないの話で、怪獣からは絶対に逃げられない。どんなに今から全力で奪取しようとも、一つの山が通り過ぎるのを回避するようなものなのだ。もたらす破壊の範囲が全く違う。

 死ぬ。 

 俺は選択肢を間違えた。

 ロボットなんかに駈け寄らず、この少女を放っておいて一目散に逃げればよかった。

 今から逃げても、絶対にあの怪獣に踏みつぶされて死ぬ。

 

「本当にごめんなさい」

 

 恐怖に震えていると、女の子がまた謝った。

 

「あなたを私たちの戦いに巻き込んでしまった。だけど、こうなってしまった以上……ウッ!」

 

 少女が痛そうに右腕を抑える。

 

「君……怪我を⁉」

 

 彼女の右腕にはガラス片が突き刺さり、血が流れていた。

 青い———血が。

 

「———ッ!」

 

 思わず息を飲んだ。

 目の前の少女が宇宙人なのだと嫌がおうにもわからせてくる色。

 肌の色は人間と全く変わらない、むしろ人間よりも柔らかで美しいのに、血は青い色。

 異常なものに遭遇すると人間は本能的に恐怖を感じる。

 

「ごめんなさい……あなたたちを巻き込みたくなかった……」

「————ッ、大丈夫?」

 

 だが、俺はその恐怖を押さえつけて、制服を脱ぎ上半身裸になる。

 

「少し痛むぞ」

「……ンッ⁉」

 

 少女の腕からガラス片を引き抜いた後、制服のシャツを巻き付けて、一応の応急処置をする。

 これが正しい対応なのかどうかはわからない。相手は宇宙人だし、シャツについた俺の汗が傷口に入ってしまって悪影響を及ぼすかもしれない。逆効果なのかもしれない。

 でも、やらずにはいられなかった。

 これ以上ガラス片で彼女の肌が傷つくのは許せなかったし、なにより、この時にいろんなことを考えて何もできないと、今後の人生ずっといろんなことを考えてなにもできなくなってしまいそうでこわかった。

 彼女にはそれがどういう結果になろうとも何かしてあげたかった。

 例え宇宙人だとしても、彼女は優しい女の子だ。そう確信できたから。

 だから、守らなければ———そう、思った。

 

「————ッ」

 

 少女の瞳が見開かれ、目が合う。

 翡翠色をした綺麗な瞳だった。

 

「……あなたの名前は?」

仁兎来刃(にとらいば)

「そう、好きよ。仁兎来刃(にとらいば)

「————ッ!」

 

 優しく微笑んだ。突然何を言い出すのかと思ってしまい、顔が熱くなる。

 だが、彼女の表情はすぐにキリッとした真剣な表情に切り替わる。

 

「———仁兎来刃(にとらいば)。あなたに頼みがあるの。この星を守るために、この機神(マキナ)———〈アポリア〉に乗って戦って」

 

 〈アポリア〉———それがこの巨腕を持つ巨人の名前。

 

「……俺が?」

「そう———」

「できるわけがない。動かし方がわからないし……」

「大丈夫……」

 

 彼女が顔を近づける。

 

「私の全てをあなたに()げるから———」

 

 口づけを交わす。

 俺の唇と彼女の唇が触れる。

 

「————ッ!」

 

 その瞬間———頭の中に何かが流れ込んできた。 

 青い海と白い巨大な塔———その上に浮かぶ二つの月。空には光る川が虹の様に流れ、真っ白な大理石の大地が広がっている。

 記憶だ。

 この少女の記憶が頭の中に流れ込んできているのだ。

 

 ———アリア・ヘレナルート。

 

 そのキスで、俺は彼女の名を()った。

 

×     ×     ×

 

 ———2026年7月1日。午後7時00分。

 

『こんばんは、全国のニュースをお伝えします。衝撃的なニュースが入ってきました。本日午前10時42分。熊本県高森町に怪獣が出現したというニュースです。これは実際の映像です———わかりますでしょうか? 熊本県立高森高校の校庭に突如として現れた二体の怪獣。一体はサイのようにも見えますが、もう一体は巨人のようにも見えます。まるでSF映画の様に空から……隕石として降ってきたこの二体。怪獣は互いに争うようにもみ合い———一体を殺害して……殴られ、爆散しております……ショッキングな映像を流してしまい申し訳ありません。ですが、この光景は本日、本当にこの地球上であった出来事です。当局はこの事態の大きさを鑑み、国民の皆様に詳細な情報をお伝えするという考えの元、自衛隊の航空映像をそのまま放送させていただいております。なお、今回生き残った巨人のような怪獣は、この後煙のように消えてしまいました。一体今、この世界で何が起こっているんでしょうか?』

 

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