目の前に広がる光景は、昨日と変わらず摩訶不思議だった。
蝶のようにはばたく多種多様の本の群れがある。鉛筆やシャーペンでできたシャンデリアが宙につられている。銃が植木鉢代わりとなって赤い花を咲かせている。
「うーん、今見るとSUN値が削られそうだなあ、現実ではありえないものが目の前にたくさんあるし。
でもどうなんだろう?……先輩、大丈夫ですか?」
「何……ここ……?」
「……知らね。まあ説明してくれるやろ」
二人の方を見ると、十六夜先輩は困惑した様子で、宵崎先輩は投げやりな、もしくは無関心な態度で周りをきょろきょろしている。
「宵崎先輩は肝が据わってますねー。これ見て驚かなかったんですか?」
「……驚きより興味が勝ってるんじゃない?知らんけど」
「えぇー、先輩のことなのに投げやりですね」
「まあ、なんか考えるのめんどいし」
「……結構落ち着いてるね、二人とも」
混乱から抜け出したのか、十六夜先輩が話しかけてからずっと首をかしげて目を合わせない宵崎先輩と私の会話に入ってきた。
目は慣れたのか聞くと、大丈夫との声が。まあこれで話は出来るでしょう。
あとはミクちゃんを探してから説明をしたいのだけど……いた。
ミクちゃんは本の蝶に囲まれている中、鉄骨製のイスに座っていた。どうやら蝶を一つ捕まえて読んでいるようだ。
手を振って呼びかける。こちらに気づいて手を振り返してくれた。かわいい。
そのままミクちゃんは立ち上がり本を椅子の上に置く。すると本は羽ばたいて仲間の元へ行く。
「冬芽ちゃん、何かあったの?……ってその二人は……」
「ミクちゃん連れてきたよ、ミクちゃんが言ってたふたり!」
「ミク……ちゃん?あのバーチャルシンガーの、初音ミク?」
「……」
そう言えばミクちゃんは、ぱっと笑顔になって二人に近づいていく。
やはりミクちゃんの髪型はツインテではなくハーフアップで、少しだけ違和感が残る。
これを初対面で見たら、さて、どんな反応をしてくれるかなあ、二人は。私、気になります!
「はじめまして~初音ミクだよ~、よろしくね十六夜若葉ちゃん、宵崎青葉くん」
「……私の知ってるミクと違うな」
「せやな」
……なんか二人の反応が微妙だな。
十六夜先輩は困った顔で笑っただけ。宵崎先輩に至っては一度ミクちゃんを見た後周辺を見始めたし。
何でだろうね?ボカロをあまり聞いていないのかな?
「二人とも冬芽ちゃんのユニットに入ったの?」
「ううん、まだだよ。今から勧誘するところなの。」
「なーんだ、まだだったの。私は二人がいると楽しそうだから入ってほしいなあ」
「……ミクちゃんもこう言ってますし、先輩方、私のサークルもといユニットに入ってくれませんか?」
……説明する手間が省けるから、このままうなずいてくれたらいいなあ。
呆れた目で十六夜先輩は見てくるけど、うなずいてくれたらいいなあ。
「お前今、ダシに使ったな」
「強引だなあ」
「いいじゃないですか、それでどうなんですか?」
「……うん、別にいいよ。入らない理由もないし……でも、本当に私でいいの?」
「ええ!大丈夫です!」
「宵崎先輩はどうですか?」
「……ああ、まあ、いいんじゃない?めんどくさそうだけど」
「いいってことですね?」
「そうなんじゃない?」
「ありがとうございます!!これからよろしくお願いしますね!」
「歓迎するよー!若葉ちゃん、青葉くん、これからよろしくね!」