ある小学校から苦情の電話が来た。
なんでも生徒の親達のメールアドレスや、携帯電話会社のアカウントが盗まれてしまう被害が多発しているという。
被害者達はプチ見張りマッシュモンのサービスを導入しているのに、クラッカーの被害にあうとはどういうことだ、どうにかしろ、慰謝料払え、などと…
まくしたてるような口調で責めてきた。
しかし、どうにもおかしいのだ。
被害者達の名前が、プチ見張りマッシュモンサービスの契約者リストに一切載っていないのだ。
契約関係がないのだから、調査する義理はないのだが…
どうにもきな臭い。
汚名返上のために、その学校へ調査をしに行くことになった。
教員は契約書を見せてきた。
「ホラ!見守りマッシュモンサービスの契約書!知らんぷりはさせません!」
ん…?
見『守り』マッシュモンサービス…?
なんだこりゃ!
この業者、うちじゃないぞ!
ほら、契約書に書かれてるサポート窓口の電話番号も違いますよ!
ここに電話してみたらどうですか?
「電話したけど通じないんですよ!あんた達勝手に電話番号変更したでしょ!最初の頃は電話通じたのに!」
いや、だって電話番号がバイオシミュレーション研究所とも、サービス業務委託先とも違うんですから。
「そんなわけないでしょおお!ほら、ちゃんとバイオシュミレーション研究所って書いてあります!契約書に!」
どれどれ…
…確かにおっしゃった通りに書いてますね。
…バイオ『シュミ』レーション研究所って。
「ね!?」
…うちはバイオ『シミュ』レーション研究所です!
バイオ『シュミ』レーション研究所じゃありませんよ!?
「同じでしょうが!ちゃんとマッシュモンがシステム保護してくれてるし、餌だってあげてる!見てご覧なさい!」
どれどれ…
私は試作品デジヴァイスを学校のパソコンへ接続し、仮称デルタの力でデジタル空間内の映像を映し出した。
やがて、高解像度の鮮明な映像がモニターに映し出される。
…このデジヴァイスは、想像してた以上に便利だ。
重いパソコンを持ち運ぶ必要がない。スマートウォッチ程度の小ささの軽い端末でデジタル空間を映せるのは本当に助かる。
デジタル空間の映像には…
マッシュモンの姿が映し出された。
「ね?ほら、ちゃんとマッシュモンがいるでしょ!」
ど、どういうことだ…
全然契約した覚えがないのに…。
「それにしてもずいぶん綺麗な映像ですこと。軽量デジクオリアで映した映像はもっとジャギジャギしてるのに…」
デジタル空間内を見回すと…
…ん?
ズルモンやゲレモンが這い回ってるぞ!
このパソコン、クラッカーのスパイウェアデジモンに感染してる!!
「だから呼んだんでしょう!あなた達がいるのにこんなんなってるから!役立たず!」
…仮にも小学校の教員なのにその言い方はどうなんですか。生徒に背中を見せられるんですか?などと言いたくなったが、堪えた。
あちらとしても、生徒達やその保護者達が受けている被害をどうにか解決したくて必死なのだろう。
このマッシュモン…
なんでズルモンやゲレモンを放置してるんだ…?
怪しいぞ。
色々わからん…
とりあえずリーダーに現状報告をした。
『なるほど…ひとつ確かめたいことがある。そのパソコンにインストールされている軽量デジクオリアとやらのことだ』
それがどうかしましたか?
『そのソフトを起動しろ。そして、デジヴァイスで映している高解像度デジクオリアと映像が同期しているか、今から指示する方法で確かめてくれ』
…調査方法はこうだ。
まずは軽量デジクオリアで、怪しいマッシュモンへ餌を与える。
その餌を…
私がデジヴァイスに入れて連れてきたボスマッシュモンに横取りさせる。
そのとき、軽量デジクオリアにどんな映像が映し出されるのかを確認するのだ。
もしもきちんとした正規品のデジクオリアなら、どれだけ解像度が低くてジャギジャギしていようと、二体のマッシュモンが映り、餌を奪われる光景が映し出されるはずだ。
では、実験開始。
「ほーら餌でちゅよ~♪…って、コホン!オホン!ほら、餌を食べなさい」
教員さんが餌やりコマンドを実行する。
軽量デジクオリアに映し出されたのは…
一体のマッシュモンが、餌を食べる姿だった。
我々のデジヴァイスの画面では、二体のマッシュモンが映り、餌をボスマッシュモンが奪ったところが鮮明に映っているのに。
どういうことだ…!?
学校のパソコンの軽量デジクオリアと、デジヴァイスのデジクオリア…
二つの映像が全く同期していない!
『やはりか…』
リーダー!こ、これは!?
『よく聞けケン。そのソフトウェアは…デジクオリアじゃない。偽物だ』
に、偽物のデジクオリア!?
不正コピー品ってことでしょうか?
しかし、不正コピー品ならカンナギからオタマモンが来て不正コピーソフトをハードウェアごと焼却するはずでは!?
『え!?そ、そうなのか?俺はそんな情報知らなかったが…』
ア゜ッッッッッッッ!!!!
すみません今の聞かなかったことにできませんか!?!?!?
『………………………………………………………わ、わかった』
ありがとうございます。
オホン…それで、偽物のデジクオリアってどういうことですか?
『その軽量デジクオリアと呼ばれるソフトの実態は、おそらく非実在のデジタルペットを育成するだけの、ただの育成ゲームソフトのようなものだ。餌を与えたら、餌を食べる映像が映るように最初からプログラミングされている。実際に餌を食べているかどうかとは全く無関係にな』
…な、なんだって…!?
じゃあこのデジクオリアは、実際には怪しいマッシュモンの姿を映してないってことですか!
『そうなるな。それもただの育成ゲームソフトじゃない…おそらくクラッカーのデジモンが侵入できるようにするためのバックドアが仕込まれているんだ』
や、ヤバ…
じゃあ、このパソコンの中の怪しいマッシュモンは…!?
『…少し調べてみよう。ボスマッシュモンに、その怪しいマッシュモンの細胞の断片を採取させろ。うちのサービスで育成しているマッシュモンと同じ遺伝子を持っているか調べる』
分かりました。
では、この怪しいマッシュモンにチャットでコンタクトを取ってみます。
『マッシュモン、細胞の断片を採取させてくれ。正規のサービスで配っているマッシュモンと遺伝子を照合してみる』
すると、怪しいマッシュモンは…
…!?
なんと、ネットワーク回線のトンネルに向かって走り出した。
…来い、みんな!
こいつを捕まえろ!
私はデジヴァイスを使って、デジタル空間内にゲートを開いた。
トンネルを塞ぐようにゲートを開き、怪しいマッシュモンの逃走経路を断った。
これはすごい。ランドンシーフほど自由自在ではないが、ある程度アクセスポイントから離れた位置にもゲートを開けるようだ。
ゲートから飛び出したのは…
『おいらのでばんだなああ!』
腕にワームモンをくっつけたブイモンだ。
『やれ!ワームモン!』
ワームモンが糸を吐き、怪しいマッシュモンを捕縛した。
やったぜ!
怪しいマッシュモンの細胞の断片を、ボスマッシュモンに千切り取らせて、ネットワーク回線経由で我々の研究所へ送ってもらった。
しばらくすると、リーダーから返事が来た。
『解析したが…、うちのマッシュモンと遺伝子が完全には一致していない。別株だ』
べ、別のマッシュモン…!?
『厳密には、遺伝子配列の一部は一致している。ある時点までは、我々のサービスのマッシュモンと遺伝子が一致していたようだ。育成デバイス「デジタルモンスター」を売ったあたりの時点まではな』
…ま、まさか…
育成デバイスからマッシュモンを抜いて育てた…!?
『配ったマッシュモン達のバイタルサインは常時デバイスから送信させていたし、買えなくなったら端末を返却させている。だからデバイスに入れたマッシュモンが奪われたわけではないはずだが…』
…そういえば。
クラッカーが使う粘菌デジモンは、確かマッシュモンとヌメモンの遺伝子が混ざってるんですよね。
『…そうだ。ジョグレス進化と考えられる』
なんで今まで気付かなかったんだろうか。
少し考えれば気付けたはずだ。
クラッカーの手持ちには、粘菌デジモンにジョグレスさせる前に株分けしたマッシュモンがいる可能性がある…と。
その個体を犯罪に利用する可能性があると…!
「あ、あの、どうなったんですか?うちのマッシュモンちゃんは?」
…落ち着いて聞いてください。
あなたが契約した業者は、うちではありません…
悪質な詐欺業者です。
「へ!?」
我々を騙ることで、セキュリティデジモンどころかスパイウェアデジモンを仕込み…
こっそり情報を抜き取っていたんです。
「そ、そんな…!」