デジタルモンスター研究報告会   作:タマリリス

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想像し得ない悪意の創造

まず、モリシェルモンがここにいる理由だが…

大きく分けて『偶然』か『作為的』かの2通りが考えられる。

 

偶然というと…

たとえば、デジタルワールドとの間に偶然デジタルゲートがつながり、野生デジモンが入ってくるケースだ。

 

実際、デジタルワールドとどこかのサーバーの間に偶然デジタルゲートが開き、デジモンが侵入してくることはたまにある。

 

カンナギエンタープライズが開発した、デジタルワールドへのゲートを開く技術は、その現象を模倣したものだ。

 

しかし、自然現象で開くデジタルゲートは極めて小さなものだ。

幼年期デジモンが一匹通れるかどうかってサイズしかない。

 

では、野生の幼年期デジモンが偶然このパソコン内へ住み着き、ちょうど今モリシェルモンへ進化したのだろうか?

 

それは有り得ないとは言い切れないが…考えにくい。

デジタル空間に住み着いたデジモンは、環境負荷が加わったり頻繁に戦闘する機会がない限り、DPの高い成熟期デジモンへ進化することはないと考えられている。

 

となれば、偶然ではなく作為的なものである可能性が高いのだが…

 

もしもクラッカーが育成して差し向けた刺客だとしたら、「なぜモリシェルモンなのか?」という点が疑問だ。

 

モリシェルモンはDPが高くて大量の餌を食べるデジモンだ。

その上、本能に従って生きるので、人間の指示を覚えて理解するようなデジモンじゃない。

 

クラッカーがデジモンを道具扱いするにしても…

モリシェルモンは、その道具としての適性が低いのだ。

 

そんなデジモンを、クラッカーが飼育しようとしたらどうなるか。

今我々の目の前にいる個体がやっているように、パソコン内のデータを食い散らかすだろう。

 

故に、戦闘用の刺客デジモンを育成するにしても、もっと適任となるデジモンがいくらでもいるはずだ。

 

分からない…

なぜモリシェルモンがここにいるんだ…?

 

『…そういうことか。分かったよ』

 

そう言ったのは…

スポンサーさんだった。

 

『おそらくこの個体は、野生のモリシェルモンだね。貝殻に苔が生えている』

 

あ…

よく見たら確かにそうですね。

色々あって気が動転していたせいか気づきませんでした。

 

しかし、どうして野生のモリシェルモンがここに…?

 

『簡単な話だよ。クラッカーはデジタルを開き、野生のモリシェルモンをここへ呼び寄せた。ただそれだけのことだよ』

 

呼び寄せた?

どうやって…!

 

『野生動物を呼び寄せる方法なんてそう難しいことじゃない。餌を設置して、おびき寄せればいいのさ』

 

餌…

まさか。

 

『彼らはモリシェルモンの大好物である粘菌デジモンを飼育しているんだろう?それを餌にしてモリシェルモンをおびき寄せ、デジタルゲートをくぐらせて…、ここへ送り込んだ、ということだろうね』

 

…はい?

 

『何か筋が通らない点があったかね?』

 

……………………。

理解はできます。

できますが…………。

 

私では、思い至らなかった。その可能性に。

 

余りにも…

あまりにも、ひどすぎる話じゃないですか。

そんなのは。

 

『クラッカーが我々のセキュリティデジモンを暴力で排除したならば、極論を言えばクラッカーが自分で強力なデジモンを飼育する必要すらなかったんだ』

 

…。

 

『強力で凶暴な野生デジモンを、我々のデジモンにぶつければ、目的は果たせるんだ。別に指示を聞かないデジモンだろうが構わない。「目の前のデジモンを捕食しろ」なんて、命令するまでもないだろうからね』

 

我々が、ファンビーモンを育てて本能のままに暴れさせたという戦術を…

クラッカーはさらに悪辣なやり方で、やり返してきたってことですか。

 

『…とんでもない奴らだねぇ』

 

仮にこのモリシェルモンを、頑張って討伐したところで…

 

『クラッカー側にとっては何一つ損害にはならないだろうね。なにせあの個体は、クラッカーがコストを費やして育てたデジモンではないのだから。失うものはなにもない』

 

…。

クラッカーが、刺客としてモリシェルモンを選んだ理由は…。

 

『野生デジモンを誘き寄せたいとしても、餌を用意できなくては実現できないだろうね。もしもガルルモンのような、普通の肉食デジモンをおびき寄せたいならば、普通の動物型デジモンを餌にする必要があるね』

 

普通の動物型デジモン…。

トコモンとかプニモンみたいな幼年期でしょうか。

 

『そうだね。だが、それにはコストがかかりすぎる。餌にする幼年期デジモンを殖やして育て、しっかりと言語教育を施して、「モリシェルモンのところへ行ってから、デジタルゲートに向かって逃げてこい」なんて指示をするのは、労力とリターンが釣り合わないだろう。そもそもそんな死を前提とした指示に餌デジモン達が素直に従うとは限らない。指示を無視してデジタルゲートのない方向へ逃げれば計画はパーだ』

 

それはそうですね…。

成功確率が低すぎる。

 

『だが彼らの手駒には、司令塔の意のままに動く粘菌デジモン達がいる。楽にどんどん殖やすことができて、死を恐れない粘菌デジモンが。しかし、普通の動物デジモンは粘菌デジモン達を餌として認識しない』

 

まあ食いつかないでしょうね…。

ガルルモンとかグレイモンをゲレモンやズルモンの餌で誘き寄せようと思っても絶対食いつかない。

 

『ただし一種だけ…デジタルワールドでただ一種だけ。粘菌デジモンを大好物とし、それを餌にすることで誘き寄せることができる強力な肉食デジモンがいる。それがモリシェルモンだ』

 

…。

 

『君の前に突如出現した刺客がモリシェルモンである理由は…これで説明できないかな?』

 

…おみそれしました。

私には、そこまで考えつきませんでした。

何故なんでしょうね。

 

『…犯罪心理学というやつだ。君はデジモンや生物、シミュレーションの知識はあっても、連中のドス黒い悪意に対する理解が不十分かもしれないね』

 

…不勉強ですね、私は。

 

『無理もないさ。君はもともと世の中を良くするための研究をしている研究者なのだから。あんなゴミクズ野郎共への理解が不足していたとしても、責められる謂れはないさ』

 

…だけど、こういう手を想定できていれば…

サラも、ワームモンも、失わずに済んだはずです。

 

『…それはそうだねぇ…』

 

『…さて。ここまで言えば、ケン君なら…あのモリシェルモンをどうにかする方法は、パッと思いつくだろう?』

 

…方法はあります。

クラッカーの手口の逆をやればいい。

 

すなわち…

デジタルゲートを開き、チビマッシュモンを餌にして、このパソコンから誘き出せばいい。

 

デジヴァイスの中のデジタル空間には、幸いなことに今ブイモン達がいるのとは別に、もう一個部屋がある。

危険な存在を隔離するための隔離チェンバーが。

 

そっちへ誘き出せば、とりあえず除去はできます。

 

『…やれるかね?』

 

…。

 

スポンサーさんにそう問われたが…

正直、絶対にやりたくない。

 

これまでに我々が、チビマッシュモンを犠牲にするような戦術を一切やってこなかったかと問われたら嘘になる。

 

ディノヒューモンの農園からブイモンとワームモンのデジタマを採取したときは、揺動のためにチビマッシュモンを放ち、犠牲にしたことがあった。

 

クレカ事件のときは威力偵察のために、ズバモンとルドモンで武装したスカモンにチビマッシュモンをぶつけたことがあった。

 

だが、その時はどちらも、ボスマッシュモンが自らその役割を買い、チビマッシュモン達へ指示をしてくれていた。

 

私自身が指示を出したわけではない。

 

ワームモンとサラマンダモンを失った直後の今…

チビマッシュモン達へ、私がその指令を出すのは…

 

…正直、今は無理だ。

 

私のこの感情は、セキュリティサービスの運営としては、大きく間違っているものなのだろう。

 

非情にならなくてはいけないときがある。それが今なのだろう。

 

それでも…

指示ができない。

 

『素晴らしい!』

 

え?

 

『いい判断だ。その通り。君はそんなことをやらなくていい。チビマッシュモンを犠牲にして、モリシェルモンを追い払うことなんてやらなくていいんだ。君の判断は100%正しい!』

 

な、何故ですかスポンサーさん?

教員さんも驚いてますよ、今のその発言に。

 

『だって我々は慈善活動家じゃないんだ!その教員は、悪徳業者に自分からダマされて、安物買いの銭失いをしたってだけのことだろう!個人情報流出事件の真相は暴かれ、我々の汚名は払拭できた。ならもう帰ってくればいい!ハーッハッハッハ!』

 

それを聞いた教員さんは目を見開いた。

「そっ…そんな!で、でもそれじゃあ私達のデータは!?」

 

『んん?依頼は受け付けますよ!ただし、我々が提供する正規のサービスとこの場で契約することが条件だ。そうすればモリシェルモンもどうにかしましょう。どうしますかな?』

 

す…スポンサーさん。

こんなところでも営業活動ですか。

 

『我々が投資したのはビジネスのためだ。慈善活動は結構だが、それは利益に繋げなくてはならない。でなければ私もカネを送れなくなるんだ』

 

…それはそうですけども…。

 

「し、しかし上に許可を取らないと…この場で勝手に契約なんてできませんよ…!そんなことしたらまた怒られる…!」

 

『それは結構!では上に許可を取ってから契約の可否を判断すればよいでしょう。我々が動くのもそれを待つことにします』

 

「え、ええ…しかしそれでは、データをどんどん食べられちゃうんじゃ…」

 

『そうなりますなぁ』

 

「…ど、どうにかしてくれませんか?」

 

『タダで?』

 

「…できれば…」

 

『貴方は我々に、何の対価も求めずに受けているチビマッシュモン達の命を犠牲にして、あなた達の間違いの尻拭いをしろと言っているのですかな?』

 

「…」

 

『イエスかノーかで答えていただきたい!』

 

「…イエスです」

 

…。

地獄だ、この空気…。

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