デジタルモンスター研究報告会   作:タマリリス

110 / 156
仮称デルタ

クラッカーが不正に繋げてきたデジモン伝送路を遮断することには成功したので、物理的にネット回線を遮断する必要はなくなった。

 

AAAがデジドローンでデジタル空間内の状況を確認してクラッカーデジモンへ指示を出せるという弊害はあるが…

だからといって回線を切断するとこっちもデジクオリアのオンラインライセンス認証がエラーを吐いてデジドローンが緊急停止してしまい、パートナーデジモン達に指示を出せなくなってしまうので、切断はしない方が良さそうだ。

 

だが、こうしている今もクラッカーデジモン達は、デジタル空間を破壊しながら、重要な研究データを強奪している。

AAAが蛮族という物資強奪に特化したデジモンを育成して、農耕を教えなかったのは、彼らを強盗として利用するためだったのかもしれない。

このまま放置すればものの10分でシステムが破壊し尽くされてしまう…!

 

ん…?

よく見ると、僕達がデジモン伝送路を維持しているマルウェアを探している最中に、敵の数がさらに増えたようだ。

具体的に何がどれだけいるか…という差分についてはさすがに分からないけども、明らかにさっきはいなかった種類のデジモンがいる。

 

蟹型成長期デジモン、ガニモン。

それが3体いるようだ。

 

そんなばかな…!

ガニモンは人と意思疎通できるようなデジモンじゃなかったはずだ。

どうやって手懐けているんだ…!?

 

それだけじゃない。

プラチナスカモンもいる。

プラチナスカモンは、ジャングルモジャモンと並んでネット回線トンネルの前に陣取っている。

 

そしてもう一体。おかしなデジモンがいる。

一頭身体系のハゲオヤジ…とでもいう珍妙な姿のデジモンだ。

 

ハゲオヤジデジモンは、破壊活動に加わることなく、高い壁に登ってあぐらをかいて座りながら、ポヨモンの干物をかじっている。

とっくりから何かの液体を小さな土器に注いで、気分良さそうに飲んでいる。

 

色からすると…おそらくアルコール飲料だ…!

ポヨモンの干物をつまみにして、果実酒かなんかを飲んでいる!

ふざけやがって!

 

今、バイオシミュレーション研究所のところにいる戦力は…

重機型成熟期のケンキモン(とその本体)。

植物型成長期のパルモン。

アテになるかならないか分からないファンビーモン。

ファイヤウォール破損中に次々と送り込まれてくるマルウェアの駆除に奔走しているチビマッシュモン軍団。

 

…フローティア島にいるトコモンと、ケンキモン(の本体)のデジタマ、ププモン達は戦力外だ。

 

使える武器は…

コマンドラモンの爆弾の予備が30発。

パルモンが貯蔵していた花粉を入れた小さな袋が15袋。

 

あとは、鉄製の道具…ツルハシが2つ。

ショベルが2本ある。

 

「ツルハシやショベルって凶器としてもフツーに使えるよな。一応武装すりゃ武器の質ではこっちが上か」

 

「…カリアゲ、蛮族デジモン達の武器を良く見てみろ。骨棍棒じゃない」

 

「ん?武器っスかリーダー…。なんか光ってる…金属製かあれ!?」

 

「青銅の棒だ。銅とスズの合金。鉄には敵わないが、それでも強力な武器だ」

 

「銅…そーいやあいつら、なんか金属の精錬っぽいことやってたな…!」

 

…戦力差はあまりに絶望的だ。

 

「そ、そーだ!リーダー、外に助けを呼ぼうよ!パルタスさんとかスポンサーさんに!」

 

「そうだなクルエ。ジャスティファイヤとクロッソエレクトロニクスにグループ通話を繋ぐ!」

 

リーダーは、スポンサーさんとパルタス氏の二人に通話をした。

『ケン君が向かったニセ業者事件は罠だった…!?そっちの本丸が攻められているのか!我々が飼育している赤オタマモンを5匹ほど向かわせるかね?』

 

「それは助かるが…ネット回線トンネルの前に、プラチナスカモンとジャングルモジャモンが陣取って見張っている。外からの増援に対して出待ちをしているんだ。せっかくオタマモンを送り込んできてもらっても、おそらくトンネルを抜けた瞬間に青銅器の棍棒で叩き殺される」

 

『むぐ…うかつに増援も送れないのか』

 

「スポンサーさん。ケンキモンを防衛のために出動させたい。まだデジタマを一個しか産んでいないが構わないな?」

 

『勿論だ!「デジタマを2個産むまで出動禁止」と言ったのは、コマンドラモンを安全に殖やしてサービスの質と量を上げるためだ。その本拠地が攻め落とされたらサービス継続が不可能だ!ケンキモンを出撃させてくれ』

 

「わかった」

 

『だが…絶対に敵に鹵獲されてはいけない。理由は分かるね?』

 

…優秀なセキュリティデジモンは、優秀なクラッカーデジモンにも成り得る。

もしもコマンドラモンがクラッカーのもとで殖やされ、悪用されたらと思うと…気が気じゃない。

透明化ができて、銃や爆弾による火力があり、知能が非常に高く、そして勇敢。

その上、その優秀さのわりにDPが低い。

そこらの力自慢の成熟期よりもよっぽど費用対効果が高い。

 

…こんな優秀なデジモンがクラッカーの先兵として利用されたら、IT社会は冗談抜きで滅ぶ。

 

「…ああ。分かっている」

 

デジクオリアの画面から、ケンキモン(の本体)の声がした。

 

「敵には 決してつかまらない もし捕まったら その場で自爆する」

 

「気持ちは嬉しいが…自爆に使える火薬があるなら、敵にぶつけてやってくれ」

 

「わかった リーダー」

 

続いてパルタス氏から発言があった。

『状況は分かった!我々も至急増援を送ろう!どれだけ送れるかは上の許可次第になるがな!』

 

あれ。

ネットワーク回線トンネル前でジャングルモジャモンとプラチナスカモンが出待ちしてるから、増援は送れないって言ってなかったっけ。

 

『くだらん!トンネルから登場次第、その猿と大便どもをブチ殺してしまえばいい話だろう!』

 

それはそうだけど…

本当にできるなら助かるよ。

 

クルエがひょこっと顔を出した。

「スポンサーさん、ローグソフトウェア?ってところに救援は要請できないでしょーか?」

 

『…難しいだろうね。彼らの言うことは予想できる。「そんな契約はしていない」…その一言で終わりだろう』

 

カリアゲはそれを聞いて頭に血が登ったようだ。

「そりゃねえだろ!俺達が攻め落とされたら国内デジモンセキュリティ事業の一大事だぞ!協力してくれよ!」

 

『…彼らは今の状況を、「競合他社がひとつ潰れてくれるなら儲け物」と捉えるだろうねぇ』

 

「ウッソだろ…警察と提携してる会社がそんなんでいいのかよオイ…」

 

リーダーはため息をついた。

「…今挙げたものが集められる戦力のすべてか。この戦力差を埋めるには程遠そうだ」

 

いや。

まだ味方がいるよリーダー。

 

「なに?誰だ?」

 

僕だ!

 

「メガ…お前が?デジタルアソートは非戦闘用デジモンしかいないんじゃなかったのか?」

 

そうだ。

デジタルアソートの平和利用目的デジモンは、低コスト運用を前提にしているから、パワーもスピードも防御力も低い。

 

だけど、その力を戦いに活かせないわけじゃない。

さっきだってそうだったでしょ?

 

「確かに…仮称ガンマの検索能力のおかげで、チビマッシュモンの体内からマルウェアを発見できたな」

 

…『仮称デルタ』。

今のこの状況の数的不利を、わずかだけど誤魔化せる力を持つデジモンがいるんだ。

 

「なに!どこにいるんだ?」

 

今はケンといっしょにいる。

…デジヴァイスの中だよ。

 

「思い出した…仮称デルタは、デジヴァイスに搭載したデジクオリアシステムを管轄しているデジモンだな!…そいつが役に立つのか?」

 

確実に心強い味方になるはずだよ。

ただ…

呼べればの話だけど。

 

「ネット回線トンネルの前では敵が出待ちしているんだったな。すると、ネット回線を通らずに、直接パソコンにUSB接続して送り込む必要があるのか。今すぐにケンにここへ戻ってきてもらう必要があるな」

 

カリアゲは眉をしかめた。

「そういやケンは今どこにいるんだ?ちょっとケンに通話してみるか」

 

カリアゲはケンに電話をかけた。

「もしもしケン!こっちの本拠地がクラッカーに攻められてる!すぐに帰ってきてくれ!今どこにいるんだ!?」

 

早く戻ってきてケン…!

 

「何だって!?タクシーが渋滞に捕まって抜けれない!?」

 

えぇ!?

 

 

 

 

 

 

~ケン視点~

 

今私はタクシーに乗り、帰路についているところだが…

長い渋滞に捕まっていて、車が進まない。

 

SNSで、地名と共に「渋滞」と検索したところ…

このあたりの道路の信号機の調子がおかしいらしい。

信号機のシステム障害はなかなか復旧の目星がつかないようだ。

 

そんな状況で、カリアゲから電話が来た。

研究所が攻められているので、今すぐに帰ってきて欲しいとのことだ。

 

早く帰りたいのはやまやまだ。

タクシーが進まない以上…ここで降りて、徒歩で走って帰るか…!?

 

『どれくらいかかるんだ!?』

 

徒歩だったら…、どれだけ全力で走っても1時間はかかる。

途中で渋滞がない道路を見つけて、そこでタクシー呼んでも…10分20分じゃ着かなさそうだ。

 

『どうして今日に限ってそんな!俺が車で迎えに行ってもムリか!?』

 

街中の信号機が異常な挙動をしてるらしい。

赤と青が同時に灯ったり、黄色を飛ばして急に赤と青が切り替わったり…無茶苦茶だ。

 

『なんだよそりゃ…』

 

カリアゲの落胆した声に続いて、シンの声が聞こえた。

 

『デジヴァイスってwifi使えるんスよね?ケンさんのスマホのデザリング機能で、仮称デルタを俺のスマホに無線で送ってもらってから、それをUSB接続でパソコンに送り込めばいいんじゃないッスか?』

 

おお、そっか。

それでいくか!?

 

『…残念だけど、ケン、シン。今のデジヴァイスは正規品じゃなくて試作品なんだ。システム全体の機能うち、どの領域までを本体のハード・ソフト側に仕込み、どこからを仮称デルタに持たせるかのバランスも調整中なんだ』

 

そ…それで?今はどうなのメガ。

 

『wifiの無線機能は、本体側じゃなくて仮称デルタの力で実現しているんだ。だから無線通信でデルタが移動を始めた途端、無線接続が切断されてしまうんだ』

 

な…なんだって!?

結局無線じゃ送れないのか!

 

シンの声がした。

『USB接続でのデータ通信はできるんスか?そっちの通信システムもデルタが管轄してたら、デルタはどうやってもデジヴァイスから出られないってことになるッスね』

 

リーダーの声がした。

『いや、USB接続ならできるはずだ。デジヴァイス本体にUSB通信機能がなかったら、そもそもデルタを最初にデジヴァイス内に入れることすらできなかっただろうからな』

 

『なるほど。じゃあケンさんのスマホにデルタを移動して、そっちから無線通信で送ったらどうッスか?』

 

『それは別の問題で難しいよ。今デジヴァイス内にモリシェルモンを閉じ込めてる隔離チェンバーと、ブイモン達がいる飼育室の境界を維持する機能は、仮称デルタの力で実現してるんだ。だからデルタが抜けたら、ブイモンとモリシェルモンが同じ部屋で鉢合わせになる』

 

それは絶対させられない…!

くそ…

クラッカーデジモンが研究所のシステムを破壊し尽くす前に、研究所に仮称デルタを送り込むのはどうやっても無理か…!?

 

『いや…大丈夫だよケン。タクシーの外を見て』

 

…?

どういうこと?メガ…

 

私がきょとんとしていると、デジヴァイスから懐かしい声がした。

 

『はっはっは むかえに きたでござるよ ケンどの』

 

私はタクシーの外を見た。

すると、そこには…

 

四つの回転翼でホバリングしている、空中バイクがあった。

 

こ、これは!?

 

『せっしゃにのって いっしょにとぶで ござる』

 

前にデジタルアソートのデモンストレーションのときに乗った…

『デジモンの力で自動運転する空中バイク』だ!

 

『これで ひとっとびで ござるよ』

 

私はタクシーの運転手に料金を払い、タクシーを降りて、渋滞している道路から離れた。

そして空中バイクに乗り込んだ。

 

『しっかり つかまるで ござる』

 

空中バイクは、凄まじいスピードで飛行した!

時速100kmは出ている…!

 

『けんきゅうじょまで いっちょくせんで ござる はっはっは』

 

で、でもこれ…大丈夫なの?

道路交通法とか。

警察に捕まったら面倒なことになるんじゃ…

 

『しんぱい ごむようで ござる』

 

な、なんで…?

 

『なぜなら ガンマどのの けんさくのちからで パトカーのいちをさがし せっしゃの ナビゲートのちからで そこをさけて とんでるからで ござる』

 

す、すごい…凄すぎる。

デジタルアソートのデジモン達は、そこまで高度な機能を有してるのか。

 

それにしても…

仮称なんちゃらって呼び方は、流石に覚えづらい。

もう少し覚えやすい名前はないのだろうか?

 

君の名前なんだっけ?

 

『せっしゃは 仮称ニューでござるが… ふむ けんきゅうじょが こわれれば せっしゃたちも おしまい ケンどのと われわれは いちれんたくしょうで ござるな』

 

…そうなるね。

 

『ならば いずれ せっしゃにあたえられる デジモンとしてのなまえを なのらせてもらうで ござる』

 

助かるよ。

 

『せっしゃのなは…』

 

仮称ニューがそう言うと…

デジヴァイスの画面が起動し、見たことがないデジモンの姿が映し出された。

 

そこに映し出されたデジモンの姿は…

これまでに見たどのデジモンとも似ていなかった。

 

三頭身くらいの人型ではあるが…

全身が緑色で、薄い黄緑色のラインが入っている。

 

頭部には矢印のような形状の飾りがついていて…

両腕は、赤いマーカーの形状をしていた。

 

そのマーカーは、例えるならば…

地図アプリで目的地を指し示すマーカーのようだ。

 

『せっしゃの名は… アプリモンスターズ計画 試作ロット第二号 ナビモンでござる』

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。