16体のファンビーモンのうち15体は、ドーガモンがファンビーモンの姿を深層学習して、デジタル空間へ投影している「立体映像」である。
16体のうち1体だけが本物のファンビーモンだ。
作戦前にモリシェルモンを片付けたのは、そうしないとファンビーモンは敵へ攻撃せず、大きなモリシェルモンの死骸を貪って空腹を満たすだけになるためだ。
ドーガモンとファンビーモンの連携(?)によるこの作戦は、敵をパニックに陥れることには成功したが…
あいにく、決定力に欠ける状況だ。
まず、ファンビーモンの毒針は無限に飛び出るわけではない。
毒針が尽きるなり、食欲が満たされるなりすればファンビーモンは攻撃を止めるだろう。
そして、ファンビーモンが戦場にいる間、パルモンやブイモン、オタマモンはデジタル空間に出てこれない。
ファンビーモンは敵味方の区別なく、食えそうなデジモンを無差別に攻撃する。
そのため、食えなさそうなケンキモンとティンクルスターモン、マッシュモン以外の味方デジモンは、この場に出てきたらファンビーモンのターゲットになりかねないのだ。
そういうわけで、今戦場で戦えるのはティンクルスターモン、ファンビーモン、ケンキモンだけだ。
マッシュモンは、近接格闘能力が低いデジモンであるため、直接的な戦闘ではなく、サーバー内にばら撒かれたマルウェアの駆除というタスクを任せている。
先ほどはモリシェルモンの捕食対象になることを危惧して一時退避させていたが、モリシェルモンが倒されたため再びデジタル空間に出てきている。
我々の主戦力であるケンキモンは、ガニモンの攻撃で脚部を破壊されており、満足に移動できない。
一方、敵の戦力は…
ドリモゲモン、ガニモン、プラチナスカモンは倒したが…
シマユニモンに乗ったフーガモンや、キンカクモン、キャンドモン…
あとはジャングルモジャモンやセピックモン、成長期の蛮族デジモンが何体か残っている。
ハゲオヤジデジモンは、相変わらず高いところで戦いを見物しながら、干物を食ったり酒を飲んだりしている。
なんなんだこいつは。
成熟期のデジモンは、(ハゲオヤジデジモンは分からないけど)どれも強敵だ。
この三体でどうにかできるのか…!?
…しかし、なにか妙な悪寒がする。
何かを、忘れているような…。
本来いるはずの敵が、その場に欠けているような…。
不思議な感覚だ。
現在戦闘可能なジャングルモジャモンは3体。
セピックモンも3体だ。
『フーガモン!ジャングルモジャモン!セピックモン!キンカクモン!あの蜂共を片付けろ!今増員を呼んで弓矢を持ってこいと命じてはいるが、そいつらが来るまで待つことでセキュリティ共に時間稼ぎをされると厄介だ。さっさと片付けてしまえ!』
「う、ウホオォ!」
成長期の蛮族デジモン達やキャンドモンは、ファンビーモンの毒針が届かないところへ隠れているが…
今名指しで呼ばれた成熟期達は、腹を決めたらしく、空を飛ぶファンビーモン達へ攻撃を仕掛けるようだ。
ジャングルモジャモン達は、倒れ伏している蛮族デジモン達の手元から、青銅の武器をひったくり…
しこたま投げまくった。
セピックモンは、手持ちのブーメランを投げまくった。
キンカクモンとフーガモンは、打撃武器を構えてファンビーモン達をじっと観察している。
ファンビーモン達は、投げられた武器を回避する。
そして毒針を放って反撃するが…
その殆どは、蛮族デジモン達から命中寸前でハズレた。
それらは全て立体映像の偽物だが…
防御しないわけにはいかないのだ。
既に毒針で何体かの蛮族デジモンが仕留められているのだから。
シマユニモンは、再び角に放電攻撃のエネルギーをチャージしている。
今の敵の中で、最も厄介な相手は…
シマユニモンだ。
何故なら、電気は「通りやすいところへ流れる」性質を持っているからだ。
ゆえにシマユニモン自身には16体のうちどれが本物か見分けがつかなくとも、ひとたび放電攻撃を放てば、電流そのものの性質によって合成映像の群れの中の本物のファンビーモンを感電させることができる。
再び放電を放たれたら、本物のファンビーモンがやられる…!
そうなる前に、シマユニモンだけは仕留めなくてはいけない!
ティンクルスターモンが、シマユニモンをめがけて回転しながら飛んできた。
シマユニモンは、それを素早い身のこなしで回避した。
シマユニモンはとんでもなくスピードに優れている。
「ウガーオゥ!」
フーガモンは、空中で青銅棍棒を振るってティンクルスターモンへ振りかざした。
ティンクルスターモンは、空中で青銅棍棒を回避する。
スピード自慢同士の戦い。
互いに攻撃を躱し続けている。
だが、シマユニモンのチャージが終わったら、その戦いも終わるだろう。
シマユニモンの放電攻撃は、回避が極めて困難。
ティンクルスターモンがいくら素早くても、電流はそれを追尾して感電させてしまう…!
やがて、シマユニモンの角に放電攻撃のチャージが溜った。
『フーガモン!その手裏剣デジモンを撃ち落とせ!』
シマユニモンは、角をティンクルスターモンへ向けて…
電撃攻撃を放った!
電撃攻撃は…
ティンクルスターモンの方ではなく、ファンビーモンの方でもなく。
シマユニモンの真上へと飛んだ。
『なに!?』
シマユニモンの直上には、巨大なデジタルゲートが開いており…
その中から、ケンキモンが落下してきたのだ。
電気は「流れやすい方向へ流れる」。
ゆえにティンクルスターモンの方でなく、巨大な鉄の塊であるケンキモンのボディへ流れるのは必然だ。
『よけろ!シマユニモン!』
シマユニモンは、自分の真上に落下してきたケンキモンを…
死物狂いで回避した。
ケンキモンは、大きな音を立てて地面に落下・衝突する。
脚部が大破し、パーツが飛び散った。
これだけのダメージを負ったら、ケンキモンはもう戦えないだろう。
『くっくっく…自爆覚悟の投身攻撃か!だが無駄に終わったなぁ!』
シマユニモンは放電を止めて、再びティンクルスターモンの方を向いた。
『セピックモン!いったん蜂共はいい!その手裏剣デジモンを全員で仕留めろ!』
ううっ、それはまずい!
セピックモンのブーメラン攻撃は、空中で予測不可能な軌道を描いて敵に当たりに行く。
その攻撃力も強力だ。
それを3つも投げられたら…
いくらティンクルスターモンでも躱しきれない!
敵デジモンの意識がすべてティンクルスターモンに注がれた、その時…
空中から、何者かがシマユニモンへ襲い掛かった。
ゴーグル付きの黄色いヘルメットをかぶり、右手がハンマー、左手がドリルになっているその姿は、まるでロボットのようだ。
…今だ、やれ!
ケンキモン…
いや…!
クラフトモン!
「うおおおぉ!」
クラフトモンは、シマユニモンの直上から襲い掛かり…
左手のドリルを回転させ、シマユニモンの脳天へ叩き込んだ。
「ブルッギャアアアアアアアアーーーーー!!!」
ドリルはシマユニモンの眉間を貫通した。
よし!やった!
ケンキモンが地面に落下して大破する寸前に、中に乗っている本体であるクラフトモンは、コックピットを開けて上空へ飛び出していたのだ。
奇襲作戦成功だ!
シマユニモンに乗っていたフーガモンは驚いた。
『そのデジモン…中に別のデジモンがいたのか!フーガモン!やれ!』
シマユニモンに乗っていたフーガモンは、青銅棍棒でクラフトモンの頭部を思いっきり殴打した。
クラフトモンのヘルメットがバラバラに飛び散った。
…だが、クラフトモンは飛び退いた。
このヘルメットは「壊れることで衝撃を受け止める」タイプだ。
頭部にもろに打撃を食らっていたら即死だったかもしれないが…
ヘルメットがたった一度だけ、その致命傷級のダメージを肩代わりしてくれたのだ。
シマユニモンは…
「ブ…ブルルヒ…」
ばたりと横に倒れた。
乗っていたフーガモンは、地面に自身の脚で着地した。
『…シマユニモンが殺られたか…』
よし!
これで、ティンクルスターモンとファンビーモンを確実に倒せるシマユニモンを討ち倒した!
まだ瀕死の状態で、死んではいないようだが…
大脳をドリルで破壊された状態で、また立って歩けるようにはなることは二度とないだろう。
勝ち筋が見えてきたぞ!
ファンビーモン軍団が撹乱しつつ、ティンクルスターモンとクラフトモンがデジタルゲートを駆使してヒット・アンド・アウェイで攻撃を仕掛ければ…
キンカクモンとフーガモンに勝つ目が出てくる…!
『…くっくっく…ははははは…!ようやく手札を出し尽くしたようだな!』
そっちもだろうが!
『貴様達は不利な状況を、敵の戦力を観察・分析し、弱点を突く戦略で不利を覆す戦いをしていた。まるでパズルのピースを埋めるようになぁ…!』
な…なんだ。
その余裕は。
『くっくっくっく!そう、貴様達の最大の弱点は…!手繰り寄せた細い細い勝ち筋を…未知の情報で潰されることだ!はっはっは!』
な、なんだ…
何を言っている!
などと話していると…
ジャングルモジャモンのうち一体が、群れに紛れた本物のファンビーモンの毒針を食らった。
「ウホギャアア!」
ばたりと倒れるジャングルモジャモン。
ファンビーモン…まだいけるか?
その時…
ファンビーモンの群れの上から…
突如。
大量の溶けた蝋が落下してきた。
群れの中で、たった一体だけのファンビーモンは、その突然の攻撃を察知しきれずに、蝋に絡め取られた。
「ズビィ!?」
ファンビーモンを絡め取った蝋は、地面に落下してべちょっと貼り付いた。
ファンビーモンは、蝋から脱出しようとするが…
既に蝋は固まっている。
抜け出せない!
「ズ、ズビ、ズビィ!」
なんだ…
何が起こったんだ!
『そういうからくりか。まとめて全員仕留める算段だったが…。どうやっているかは知らないが、1体を除けば全ては蜃気楼のようなものだったらしいな』
ば、バレた…!
ドーガモン作戦が!
『くっくっくっく!これで厄介な蜂の動きは封じた!お前達、もういいぞ、出てこい!』
AAAがそう言うと…
ファンビーモンに恐れをなして逃げていた、成長期の蛮族デジモン達やキャンドモン達が、物陰からぞろぞろと出てきた。
『はーっはっはっは!どんな気分だ!?セキュリティ共!切り札を潰された瞬間は!』
カリアゲは顔を真っ青にしている。
「何だよ…何だよあの蝋は!」
…そうだ。
なにか忘れていたと思ったが…
これだ!
確実に、AAAの手元に存在することが分かっていたはずなのに…
今までここにいなかった存在。
それが今まで潜伏していた可能性に…
私達はなぜ気付けなかったのだろう。
そう…
ランサムウェアデジモン、キャンドモン達の…親デジモンが!
ファンビーモンを蝋で捕獲したデジモンは…
大きな翼を羽ばたかせながら、上空からゆっくりと降り立った。
真っ白なタイツで身を包んだ、細長い手足と大きな翼を持った…
悪魔のような姿だった。
両手の指から生えた爪は長く鋭利だ。
これが、今まで隠れていた…
キャンドモンの親か!
『真の切り札は、伏せておくものだ…そうだろう?くっくっく…!はーっはっはっは!』
ま、まずい…
ここに来て、わけのわからない性質のデジモンが出現するなんて…!
想像していなかった。
完全に虚を突かれた。
プラチナスカモンを、ドリモゲモンを、シマユニモンをも失ってまで…
奥の手を隠し続けていただんて。
そんなの、予想していなかった…!
『まとめて蝋人形にしてやれ!アイスデビモン!』