「ズ…ズビ…!」
固まった蝋から、頭部だけが出ている状態のファンビーモン。
そこへ、キャンドモンが二体やってきた。
や…やめろ!
「ドキャーー!」
キャンドモン達は、口から火を吐いた。
キャンドモンやアイスデビモンの蝋は、特別に高温で燃えやすい性質のようだ。
火は蝋に燃え移り、ファンビーモンを焼いていく。
「ズビィイーーーッ!」
あああ…
ファンビーモンが燃やされていく…!
ファンビーモンの翅は溶けた蝋が絡み付いているため、羽ばたかせても飛べないようだ。
それだけじゃない。
ファンビーモンは昆虫型デジモン。腹部の気門で呼吸をするタイプだ。
その気門に溶けた蝋が流れ込んでいるようであり、呼吸器官を焼かれている!
し…
死んでしまう…ファンビーモンが…!
「ズビ、ズビィィ!」
めらめらと燃えていくファンビーモン。
シャーマモンやコエモン達は…
「ウガァアア!」
先程さんざんビビらせられたことで鬱憤が溜まっているのだろうか。
ファンビーモンを寄って集って、青銅棍棒で滅多打ちにし始めた。
そこへ…
「やめろよおおお!」
なんと、ブイモンが腕をブンブン回しながら走り込んできた。
「ウガ!?」
シャーマモンの一体を殴り飛ばしたブイモン。
溶けた蝋の中からファンビーモンを引っ張って救出した。
「うあっちいぃいいいいい!」
溶けて燃えた蝋はブイモンの手を灼いていく。
だが、ブイモンは構わずにファンビーモンを背負って、走った。
「ゲート!はやく!」
私は、デジタルゲートをブイモンの眼の前に開いた。
ブイモンは、ファンビーモンを抱えてゲートへ飛び込んだ。
…
ブイモンを送り込んだ先はビオトープだ。
ここは飲み水をたくさん保存してある。
今のフローティア島は、井戸を作っている最中。
だから飲み水はこのビオトープに貯蔵しているものを使っているわけだ。
ブイモンは、燃えているファンビーモンを、自分の手ごと大きな水瓶に突っ込んだ。
水が蒸発するジュウ~という音が鳴る。
「あっちちちち!」
しばらく水につけると、溶けた蝋がファンビーモンの体から剥がれて水面に浮かんできた。
火は鎮火したようだ。
ブイモンは、ファンビーモンを水瓶から出して、床へ寝かせた。
ブイモンの手は火傷しているようだ。
ぐったりしたファンビーモンは、ブイモンの方を見ている。
全身を焼かれ、呼吸器を灼かれ…
蛮族デジモン達に青銅の棍棒で叩きのめされたファンビーモンの外骨格はボロボロに割れていた。
せっかく助けはしたが…長くないかもしれない。
「ファンビーモン…おまえのこと、いまでもだいっキライだよ」
ブイモンは、ファンビーモンに向かって話しかけ始めた。
「ちいさいころ…おまえにおそわれて、ハリをめにさされて…しにそうになった。ワームモンがたすけてくれなきゃ、オイラはおまえにくいころされてた」
ブイモンは静かに話しかけている。
「いまでも、おまえのこと、だいっきらいだ。ついさっきまで、いなくなってほしいって、ずっとおもってた。…でも、おまえは、あんなおっきなやつらと、ひとりでたたかってた」
「なあ、おまえはなんであんなつよくてこわいやつらとたたかえるんだ?つよいからか?」
ファンビーモンの体の傷を見ているブイモン。
「…ちがうよな。ファンビーモンも、オイラとおんなじチビッコなんだ。たたかれたらケガするし、よわいチビッコなんだ。それなのに…おまえは、デカいオトナとたたかって…なんたいもやっつけた」
ブイモンは目に涙を浮かべた。
「おまえのこと、キライだけど、でも…、カッコいいっておもっちまった。おまえみたいにカッコよくなりたいって…あこがれちまったんだ」
ファンビーモンの体を揺さぶっているブイモン。
「オイラがきらいでも…オイラがだいすきなひとたちにとって、おまえはたいせつなんだよ!だから…しんじゃだめだよ、ファンビーモン…!」
…
戦場では、ファンビーモンの立体映像が消えた。
もはや映していても意味がないので、ドーガモンが立体映像を消したのだ。
デジモンの体力は有限だ。あれだけの立体映像を個別に動かし続けていては疲弊してしまう。
ドーガモンはいったんビオトープに入り、特性栄養ドリンクで栄養補給をして休憩した。
リーダーが、ドーガモンに話しかけた。
「ドーガモン、休んでいるところ済まないが…新たな教師データで深層学習してほしい。頼めるか?」
『いいケド… なんだ』
「今までの戦いの録画データだ。ここから、ある情報を抜き取って、学習してほしい。できるだけ急ぎで」
『…クラフトモンがたたかってるもんナ おちおちネてもいられねーカ…』
戦場の状況は、圧倒的に不利だ。
クラフトモンは、先程まで巨大でパワフルなケンキモンを自身の体内の貯蔵エネルギーで操作していたため、だいぶエネルギーを消耗している。
それにクラフトモン本体の腕力はそれほど強いわけではないのだ。
ドリルの殺傷力は高いが…。
ティンクルスターモンも、かなりエネルギーを消耗している。
成長期の小さな体で、あれほどの殺傷能力のある回転タックルを放ち、既に敵デジモンを何体も斬り殺している。
ティンクルスターモンの高速飛行は、物理的な推進機構がなく完全にエスパー能力だけで推進力を得ているので、エネルギー効率が悪いのだ。
さすがはジャスティファイアが鍛え上げた国防用デジモン。
成長期どころか並の成熟期より強いが…スタミナが低めの短期決戦デジモンであるらしい。
カリアゲがAAAのデジドローンに話しかけた。
「AAA…てめえなんで今までアイスデビモンを繰り出してこなかったんだ。はじめっからアイスデビモンを繰り出していれば、シマユニモンも、ドリモゲモンも、失わずに済んだかもしれないじゃねーか!大事な部下じゃねえのかよ!」
『ん?そいつらなど、所詮は野生デジモンだ、どれだけ失おうが勝手にデジタルワールドから生えてくるだろう。畑のキャベツより容易くなぁ』
「なんだって…!?」
『てっきり貴様らはズバモンとルドモンを手懐けているとばかり思っていたが…その様子だと奴らを手懐けてはいないようだなぁ!くっくっく!』
「ふざけるな…お前…デジモンを何だと思ってやがる!」
『ん?その質問には前に答えたはずだぞ?同じことを何度も言わせるな… 道具だ!』
「んだとてめえ…」
リーダーがマイクを握った。
「…デジモン伝送路は遮断したはずだ。いつの間にアイスデビモンを送り込んだんだ」
『くくく、自分で考えてみたらどうだ?』
メガがサーバーの状況を確認している。
「うわ、そんな!デジモン伝送路が再び繋がってるよ!」
リーダーは驚いている。
「どういうことだ!」
メガが色々調べた。
「そうか…最初に伝送路を繋がれたときは、チビマッシュモンにマルウェアを仕込んでいた。でも今はファイヤウォールが破壊されてしまっているから…直にマルウェアを送り込んできて伝送路を繋げたんだ!」
クルエが驚いている。
「そんな…マルウェアはチビマッシュモン達が駆除したはずじゃ!?」
…ごめん。
戦場にモリシェルモンを放ったとき、チビマッシュモンにはいちど退却させたんだ。
あのまま戦場にいると、蛮族より優先してチビマッシュモンを食べるから。
…きっと、その僅かなチビマッシュモン不在期間を突かれたんだ。
『くっくっく…!勘付いたか!既に手遅れだがな…!』
こ…
こいつ…!
『さて、おしゃべりはもういいか?時間稼ぎにはもう付き合えん。終わらせよう、このゲームをな!』
カリアゲは怒りの表情を向けた。
「ゲームだと…ふざけんな!デジモンの命を、ゲーム感覚で…!」
『フーガモン、キンカクモン、アイスデビモン…そしてセピックモン!そいつらを片付けろ!』
『かかれ!』
AAAの号令と同時に、成熟期蛮族とアイスデビモンだけでなく、シャーマモンやコエモン、キャンドモン達も、一斉に襲いかかってきた。
数が…
数の差がありすぎる!
どうする…!?
一旦クラフトモンとティンクルスターモンをビオトープへ引っ込めるか…?
だが、そうしたとしてどうなる…?
無抵抗で我々のサーバーを破壊されて、壊滅するだけだ。
何か…!
何か手はないのか!?
クルエさん!
ベーダモンの説得はできないか!?
「た、助けてぇベーダモン!」
『なんだ ここまでなのか? つまらん』
「だめだぁ、手を貸してくれない!」
ちくしょう、だめか!
その時。パルタス氏から通信がきた。
『貴様ら喜べ!上を必死に説得して、スターモンとジオグレイモンの出撃許可を出させたぞ!』
おお、それは助かる!
すぐスターモンと…なんでしたっけ…とにかく増援デジモンを送ってください!
『わかった!だから伝送路の接続を許可しろ!』
え…
め、メガ!できそう!?
『ダメだ!デジモン伝送路の接続切り替えシステムがAAAに乗っ取られてる!ジャスティファイアのサーバーに繋げない!』
そ、そんな…
ジャスティファイアからの増援は来れないのか!
つ…
詰んだか…ついに…!?
その時、デジタル空間の上空にデジタルゲートが開き…
パルモンが出現した!
「さいごののこり! ぜんぶ!」
パルモンは、花粉の備蓄ストックを、今自分自身の頭の花から出せる花粉とともにありったけ蛮族デジモン達の頭上からばら撒いた。
おお、いいぞパルモン!
花粉で目潰しをすれば、奴らの集団攻撃は封じられる!
花粉アレルギーによる催涙効果が効いている間に、クラフトモンのドリルやティンクルスターモンのカッターで攻撃すれば、ワンチャン…!
『この私に!二度も同じ手が通用すると思ったか!?くっくっく…愚かだなぁ!キンカクモン、電撃棍棒へマントを巻き、空中へ放電しろ!』
キンカクモンは、言われたとおりに毛皮のマントを脱いで棍棒へ巻き、棍棒を空中へ掲げた。
そして、キンカクモンの棍棒から放電が放たれた。
キンカクモンも電気を使えたのか…!
すると…
ばら撒かれた花粉が、全て棍棒に巻かれたマントに吸い寄せられた。
「ゲホ!ゴホ!」
キンカクモンは花粉が効いているためか、苦しそうに涙と鼻水を出し始めたが…
他の蛮族デジモンや蝋燭デジモン達は平気そうだ!
か…花粉が…
対処された!
カリアゲが驚いた。
「なんだ!?何が起こったんだ!?」
リーダーは苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「静電気だ…!ヤツはマントに強力な静電気を蓄電させることで、ばら撒かれた花粉をクーロン引力で吸い寄せたんだ!プラズマクラスターの原理だ…!」
そ、そんな…!
こんなに早く花粉攻撃を対処してくるなんて!!
認めなきゃいけない…
AAAは、強いデジモンを操っているってだけの奴じゃない。
AAA自身が、司令塔として相当手強い…!
『仕留めろ、セピックモン!』
セピックモン三体は、パルモン目掛けてブーメランを投擲した!
パルモンはデジタルゲートへ飛び込んで逃げようとしたが…
両足にブーメランが1つずつ命中した!
「ぎゃああっ!」
パルモンの両足はへし折れてしまった…!
どう見ても骨折している。
だが、パルモンはツルを伸ばしてデジタルゲートを掴み、どうにかビオトープへ戻ってきた。
…
ビオトープに戻ってきたパルモン。
「あううぅぅ…!」
折れた両足がひどい内出血を起こしている。
「いたい…!」
カリアゲがパルモンに話しかける。
「パルモン…今できる中で一番の手は…!やっぱ進化だ!」
「しんか…!」
「このままじゃクラフトモンとティンクルスターモンはきっと蛮族たちに殺される…!他のみんなも!頭数に差がありすぎるんだ!」
「うぅ…!」
「パルモン…ブイモン…!そしてボスマッシュモン!きっとやれるはずだ!今こそ…進化だ!」
パルモンとブイモン、そして体をようやくいつものサイズにまで形成し終えたボスマッシュモン(真・ボスマッシュモンの分身)は、カリアゲの言葉に頷いた。
「パルモン…しんかぁーー!」
「ブイモン!しんかーーー!」
「マシュモ、ミシュマァーーー!!」
…どうなる…!?
「「しんかできない…」」「マシュマ~…」
ううっ…
やっぱり進化は気合いを込めるだけですぐに反応が始まるものではないんだ…!
「スコピオモンやルカモンが戦闘中にレベル5へ進化したから、いけると思ったんだけどな…ちくしょう…!」
やむを得ない!
ティンクルスターモン、クラフトモン!いったんゲートに入れ!
そう指示すると、ティンクルスターモンとクラフトモンは、私が開いたデジタルゲートへ入った。
二体はビオトープに入ってきた途端、地面に腰を下ろした。(ティンクルスターモンに腰はないが)
だいぶ疲労しているようだ。
とりあえず、特製栄養ドリンクを与えて栄養補給をさせた。
こ…
これからどうします!?リーダー!
「俺達の最後の切り札、それは…この自由自在にデジタルゲートを開けるランドンシーフだ。これを使って…粘れるだけ粘る!マッシュモン達は、伝送路を乗っ取っているマルウェアを探して駆除してくれ…できるか!?」
「シマッ!」
ボスマッシュモンとチビマッシュモン達は、敬礼のポーズをとった。
頑張ってくれ…!
しかし、これだけの数の蛮族デジモン…
戦力差を覆す方法はあるんですか!?
「…ドーガモン。深層学習は終わったか?」
『なんとか おわったゼ』
「よし…」
…何か秘策があるんですね。
「説明すると長くなる。今必要なことだけ伝える。…AAAの意識が、シャーマモンやコエモンといった、成長期蛮族デジモン達に向かないように、注意をひいてくれ」
…分かりました。