デジタルモンスター研究報告会   作:タマリリス

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決死の覚悟

『…デジタルゲートを開く技術がうっとうしいな。どこかにデジタルゲートを制御するシステムがあるはずだ、虱潰しに破壊しろ!』

 

蛮族デジモン達は、デジタル空間を次々と破壊していく。

 

メガは顔を青くしている。

「あああああ!サーバーのシステムが次々に破壊されていく!!」

 

『デジモン達だけに任せるのは非効率か。ファイヤウォールがない今、通常のマルウェアも送り付けてやるか…くっくっく…!』

 

すると…

AAAのデジドローンのすぐ近くに、デジタルゲートが開き…

ティンクルスターモンが出てきた。

 

ティンクルスターモンは、AAAのデジドローンを真っ二つに切り裂いて破壊した。

 

これでもう、AAAはデジモン達に指示は出せないし、デジクオリアでデジタル空間内を覗くこともできないはず…!

 

『くくく、ハズレだ』

そう言って、物陰からデジドローンが出てきた。

くそ、さっきのはダミーか…!

 

ティンクルスターモンは、今出てきた方のデジドローンに向かって飛んでいく。

 

『…軌道が決まったな!フーガモン、やれ!』

 

AAAがそう言うと、物陰からフーガモンが飛び出てきて…

 

青銅の棍棒を構えた。

 

しまった、罠だ!

戻れティンクルスターモン!

 

逃走用デジタルゲートを開こうとしたが、間に合わず…

フーガモンがフルスイングした棍棒が、ティンクルスターモンに当たった!

 

カキーンと甲高い音を立てて、勢いよく吹っ飛んでいったティンクルスターモンは、そのままデジタル空間の壁に突き刺さった。

 

だ…大丈夫かティンクルスターモン!

 

『ウゥ ダ ダメソウッス』

 

…致命傷を負っていないのが救いか…。

蛮族デジモンがトドメを刺しに来る前に、デジタルゲートを開いてビオトープにティンクルスターモンを回収した。

 

てぃ、ティンクルスターモンまで…!

もうクラフトモンしか、成熟期相手にまともに戦えるデジモンがいない…!

 

クルエが席から立った。

「…確か、キノコ生成用のスパコンありましたよね。少し借りますね」

 

リーダーが答えた。

「い、いいが…何をする気だ?」

 

「あと、電話もちょっと借ります」

 

「いいが…だから何をする気だ!?」

 

「…リーダーには言えないことですが…今、私達に必要なことです」

 

「言えない…か。オレ同様に説明する余裕がないからか?」

 

「余裕あっても言えないです!え、えと…説明難しいですが…とにかく言えないけど、今必要なことなんです!」

 

「…そうか。信じよう」

 

「あざまっす」

 

クルエさん…

何か策があるんだろうか…?

それにしても、『余裕があっても言えない』とはどういうことだろうか…。

 

『くっくっく!もう貴様達にできることはないぞセキュリティ!蛮族共、システムを徹底的に破壊し尽くせ!』

 

AAAのデジドローンがそう言い放つが…

 

『…?おい、シャーマモン共、コエモン共…どうした。聞こえていたら返事をしろ』

 

…成長期蛮族からの返答がないらしい。

 

『ん?おかしい…シャーマモン!コエモン!貴様らどこへ行った!?』

 

あれだけたくさんいたシャーマモンとコエモン達は…

いつの間にか

どこにもいなくなっていた。

 

『なんだ…何をした貴様ら…!?成長期蛮族どもをどこへやった!』

 

確かに…

どこへ行ったんだあいつら!?

 

私の隣で、リーダーが呟いた。

「戦えるデジモンは残り少ない。だが、まだ俺達には武器が残っているということだ。…思考という武器がな」

 

『何を言っている…!』

 

な…何したんですかリーダー?

 

リーダーは、マイクを切って少しだけ呟いた。

「…ドーガモン。投影。AAA。以上だ」

 

それだけ言った後、リーダーは再びマイクをONにした。

 

それだけ言われても…全然わからん…!

できればもっとちゃんと教えてほしい…!

あと、できれば何かするなら先に言ってほしい。

 

…だが、この状況では仕方ない。

 

もしも私達の会話の間に、敵が都合よく攻撃の手を止めてくれるのなら。

もしも話す時間が無限にあるのなら。

リーダーは事細かに、これから何をするか、今何をしたのか、丁寧に相談し、教えてくれるだろう。

 

チェスの駒を指し合うように、考える時間がいくらでも取れるのなら。

誰がどのデジモンに何をどう指示するか、チームのみんなでじっくり話し合って決めることができるだろう。

 

だが現実には、敵は我々が話し合っている間に攻撃を待ってくれなどしない。

 

一分一秒ごとに状況が変化する戦場だ。

攻撃のチャンスが一瞬で生まれては、一瞬で消えていく。

危機が一瞬で訪れ、パートナーデジモンに襲いかかってくる。

 

たとえ、その度に「待った」を宣言し、チームみんなでじっくり相談をしようとしたところで、ただ攻撃のチャンスが去っていき、新たな危機が訪れるだけだ。

 

もしかしたら、リーダーが成長期蛮族を消した手品は、事前に私にじっくり説明する時間をとっていたら、機を逃して間に合わずに失敗していたものだったのかもしれない。

 

…そう考えると。

たとえ軽率な行動で悪手を指し、大失敗するリスクを抱えてでも、今できることを、間に合ううちに、とにかくやり続けるしかない。

 

リーダーもクルエも、誰も彼も説明不足になるのは仕方ないといえるだろう。

説明する余裕がない状況なのだから。

 

しかし、とうとう攻撃できるのがクラフトモンだけになってしまった…

 

敵の蛮族デジモン達は、我々最後の武器であるランドンシーフのシステムの破壊を試み、デジタルゲートを自在に開く戦術を無効化しようとしている。

 

今、こうしている間にも、次々と蛮族デジモン達は我々のサーバーのシステムを破壊している。

デジモンがシステムを破壊するスピードは驚異的だ。

じっと機を伺っていれば手遅れになるだけ…。

なんとかしないと、何か動かないと…!

 

…でも、ここからどうしますか。

さっきの手品で、残りの成熟期達も消せませんか?

 

「AAAが見ている所では使えない手だ。それに、まだ戦力差を覆せる可能性はゼロじゃない」

 

どうするんですか…?

 

「チビマッシュモン達を繰り出して、デジタル空間内のマルウェアを駆除させて、デジモン伝送路のコントロールを取り戻せれば、ジャスティファイアからスターモンを呼べる…!」

 

…できますか?

この状態で。

 

「じゃあ他にどうする」

 

…やりましょう。

たとえ破れかぶれでも、本当の手遅れになる前に。

 

「マシ~~~~~~!!」

 

デジタルゲートから、チビマッシュモン軍団が飛び出した。

 

チビマッシュモン達は、デジタル空間内にばら撒かれたマルウェアの匂いを嗅ぎつけ、散らばって走った。

 

最新のマルウェアは恐ろしい。

AAAが我々のサーバーに送り付けてきたマルウェアは、何も対処しなければ蛮族デジモン達が暴れまわるよりも早くサーバーのシステムを破壊してしまうものかもしれない。

 

だが、現状どうにか被害を押し留めることができているのは、うちの研究所のセキュリティ部門やメガが頑張ってマルウェアに対抗してくれているからだ。

 

敵の方が優勢だが、どうにか必死に綱引きをしている状況だ。

 

だがデジタル空間においては、情報生命体デジタルモンスターが絶対強者だ。

デジモンにとっては、マルウェアは楽に狩れる餌のようなものだ。

 

チビマッシュモン達は、次々とマルウェアを見つけては食べていく。

 

『始末しろ!そいつらを!』

 

「ガウオオオオ!」

 

フーガモン達は、チビマッシュモンを殺すべく、青銅棍棒を掲げて襲いかかってきた。

 

「オ゛ォン!」

 

フーガモンは、地面でマルウェアを貪っているチビマッシュモンを棍棒で叩き潰した。

 

「マ゛シィイイイイ!」

 

…今だ!

 

フーガモンの頭上でデジタル空間が開き…

クラフトモンがドリルを回しながら飛び出してきた!

 

ドリルの回転音に驚き、左手を後ろに回しながら振り返るフーガモン。

 

クラフトモンは、ドリルを突き出した。

 

フーガモンがとっさにかざしてきた左手の平をドリルが貫く。

 

「ギャアアアアアァアアア!!」

 

いけ!

そのまま押し込んで左腕を破壊しろ!

 

フーガモンは、棍棒を振りかざした。

ヘルメットが破壊されて素の頭部が露出しているクラフトモンの側頭部に、棍棒がヒットした。

 

すさまじい金属音だ。

あの状況で反撃してくるなんて…なんて奴!

 

クラフトモンはぐらりと揺れたが…

手を緩めず、フーガモンの左腕の手首まで、さらに深くドリルを突き刺した。

 

「ガギャアアアアアアアア!」

 

フーガモン左腕の傷口から勢いよく血が吹き出した。

効いてるぞ!

 

「クラフトモン!後ろだ避けろ!」

リーダーの声がした。

 

クラフトモンはとっさに横へ飛び退いた。

 

…クラフトモンの脚に、大量の溶けた蝋がぶちまけられた。

 

「グウゥ!?」

 

クラフトモンは距離を取った。

 

『フン…素早い奴だ。もう少しで頭から蝋を被らせて窒息させてやれたものを』

AAAの声がした方を見ると…

デジドローンのとなりに、アイスデビモンがいた。

 

クラフトモンの脚についた蝋は、早くも固まった。

カチカチになったクラフトモンの脚は、だいぶ動かしづらそうだ。

 

キャンドモンの親…

ガソリンのように高いオクタン価の特殊な蝋を操る、白き悪魔…アイスデビモン!

 

メガが口を挟んだ。

「なんでアイスデビモンなのに蝋なんだ!それじゃワックスデビモンだろ!」

 

『む…』

 

「お前もしかして蝋と氷の区別つかないのか?そんなの令和の小学生ならみんな分かるぞ!ヘボエンジニアどころか幼稚園児以下の語彙力だお前は!」

 

何急に!?

とつぜんメガがAAAのネーミングを罵り始めた。

 

「バーカバーカ!」

 

『バカは貴様の方だメガ。アイスデビモンは、蝋だけでなくガラスや石灰も取り込んで操れるのだ!私の傑作デジモンだ!』

 

アイスデビモンはAAAの指示を待っており、クラフトモンはアイスデビモンの様子を伺っている。

 

「ガラスも石灰も氷じゃないじゃん!何がアイスデビモンだ!氷を武器にしないくせに!そいつの名前はセメントデビモンとして登録してやる!」

 

『浅学!短慮!!短絡的!!!英語のスラングでは氷のように美しく輝く宝石やガラスをiceと呼ぶのだ!だいたい常温で融解する氷なんか武器にしてどうする!解けてしまうだろ!流体を敵に浴びせて硬化させたいなら、常温で個体の物質を武器にした方が合理的だ!』

 

「今だ!デジタルゲート開け!」

 

メガはAAAと言い争っている傍らでPCを操作し、クラフトモンの隣にデジタルゲートが開いた。

システムがだいぶ損傷しているため、ゲートは不安定になっているが…

クラフトモンはゲートへ飛び込み、ビオトープへ逃げた。

 

『しまった!逃げられた!クソ!…だが逃げたなら逃げたでいい。今のうちにマルウェアの駆除にあたっているマッシュモン共を全滅させてしまえ!そしてシステムを滅茶苦茶に破壊しろ!』

 

 

 

 

ビオトープでは、オタマモンがクラフトモンの脚を火で炙って、蝋を溶かした。

 

クラフトモンは、フーガモンに殴られた側頭部を押さえて痛そうにしている。

 

よくやったクラフトモン!

フーガモンの左腕の動脈をぶち破れたはずだ!

このままフーガモンはどんどん失血していくはず…!

 

そう思ってデジタル空間を見ると…

 

アイスデビモンは、フーガモンの傷口に蝋を詰め、止血をしていた。

 

ううっ…

あんなことまでできるのか…

 

衝撃とともに、ビオトープ内に警報ブザーが鳴り響いた。

 

デジタルゲートを開くシステムが破損し始めている!

いよいよ敵の手が王手に届きかけている。

 

これまで、インターバルを挟みながらヒット・アンド・アウェイを繰り返してきたが…

一休みできるのはこれが最後になりそうだ。

 

い、いけるかクラフトモン!

だいぶ辛そうだけど…

 

「…」

 

クラフトモン?

 

「しまには わたしのタマゴが ひとつある かしこく やさしい りっぱなせんしに そだててくれ」

 

…分かった。

 

「いこう さいごの たたかいだ!」

 

クラフトモンは、よろめく脚に力を入れて踏ん張った。

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