アイスデビモンは、逃げ惑うチビマッシュモン達を蝋で次々と固めている。
そんなアイスデビモンの背後に…
デジタルゲートがひとつ開いた。
そして、クラフトモンが飛び出してきた。
『アイスデビモン!後ろだ!』
アイスデビモンは後方を振り返り、クラフトモンへ蝋を浴びせた!
…だが。
蝋はクラフトモンをすり抜けて、地面に貼り付いた。
『…幻影だ!ファンビーモンと同じ!囮だ!』
本物のデジタルゲートは…
フーガモンの頭上に空いた。
『フーガモン!頭上だ!迎え撃て!』
「ウガウ!」
先程左腕をドリルで抉られてよほど怒っているのだろう。
怒りの表情を向けて、棍棒を構えて頭上を向くフーガモン。
棍棒で迎撃する気だ…!
ゲートから落ちてきたのは…
透明な粘液だった。
粘液はフーガモンの顔にかかった。
「ウガ!?」
次に顔を出したのは…
クラフトモンでなく、オタマモンだった。
オタマモンは、フーガモンの顔に火炎放射を放った。
粘液もとい燃料に引火し、フーガモンの顔面が燃えた。
「アガアアォァアアアアア!!!」
顔を押さえるフーガモン。
よし、これでフーガモンは目が効かない!
オタマモンに続いて、クラフトモンが飛び出した。
クラフトモンは、フーガモンの後頭部目掛けて…
ドリルを突き出した!
完璧な不意打ちだ。
これで脊椎を破壊すれば、フーガモンを倒せる!
フーガモンは…
空中で宙返りをし…
なんと、全く視界が効かない状況にもかかわらず、強烈無比なキックを放ち、クラフトモンを蹴り飛ばした!
地面を転がるクラフトモン。
「ゴボッ…ぐ…!」
なんだ!?
一体どうやって、クラフトモンを探知した!?
視界が効かず、顔面が燃えているのに!
AAAの指示も無かったのに…!
そういえば、パルモンの花粉で目がふさがっている状況で、モリシェルモンの弾丸を弾いたりしていた…。
まさか、未知の感覚器官か、はたまたテレパシーのような能力があるのか…!?
リーダーが驚いている。
「ヤツは…おそらく『戦いの勘』で蹴りを放った…!」
戦いの勘!?
そんなバカな!
「長い間、パイルドラモン現役時代のディノヒューモン農園の勢力と戦い続け、野菜の強奪を成功させてきた奴らだ。信じられないが…長い戦いの経験からくる『直感』と『読み』で、俺達の策を打ち破ってきた…!」
な、なんてヤツ!
理詰めでは上回っていたはずなのに…
理屈もへったくれもない!
フーガモン…蛮族の王。
我々はあいつを甘く見ていたのだろうか。
想像を遥かに超えた手強さだ。
クラフトモンは立ち上がろうとしている。
「キー!キキー!」
セピックモン達が、遠くからブーメランを投げ、クラフトモンを攻撃している。
一発一発が強烈なダメージだ…!
や、やばい!
フーガモンは、瀕死コエモンの腹部をパンチで貫き、傷口から出る出血で顔を洗った。
そしてコエモンの衣類を剥ぎ取り、頭を擦り付けて、粘液を拭き取ったようだ。
そして、クラフトモンのところへ来て…
クラフトモンを力いっぱい、何度も踏みつけた。
く、クラフトモン…!
戻れ!
システム不調で不安定気味なデジタルゲートを、クラフトモンの真下へ空けた。
だがフーガモンは、クラフトモンを蹴り飛ばし、ゲートの位置から離れた所へ転がした。
クラフトモンは、立ち上がろうとしているが…
ボロボロだ。
ロボットのように見えるその体の至るところから出血している。
もう、クラフトモンは戦えない…!
「トドメエエェェ!」
フーガモンは、棍棒を構えて、クラフトモンへ突撃した。
「やめろおおおおおおお!」
何者かが、鎌を振りかざしてフーガモンを攻撃した。
フーガモンはその鎌を躱して、立ち止まった。
「ふぅーっ…ふぅーっ…!クラフトモンを…それいじょう…いじめるな…!」
スナイモンの鎌を構えたブイモンだ。
ぶ、ブイモン…
「あああああ!おいらが!あいてだあああああ!」
ブイモンはスナイモンの鎌をブンブンと振り回して、フーガモンを攻撃する。
フーガモンは軽々とそれを躱して…
ブイモンの腕を蹴り、鎌をふっとばした。
「う、ああぁ!ぶ…ぶきが!なくったって!だああ!」
ブイモンは己の拳でフーガモンに殴りかかるが…
強烈なカウンターパンチを食らって、地面を転げ回った。
「ぎゃう!」
『くっくっく…!もうそんなザコしかいないのか!農園にいるブイモンだな?私の忠実な信徒達は、そいつと同じ顔をしたデジモンをこれまで何体もブチ殺してきたぞ!』
いくら何でも…この戦力差にブイモンだけで立ち向かうのは無謀だ…。
どうしますかリーダー。
私がそういうと、リーダーはマイクを切ってから口を開いた。
AAAに聞かれないようにするためだ。
「…かくなる上は、ここに攻めに来ている蛮族デジモンだけでも、サーバーに監禁して道連れにするしかない…。負傷したパートナーデジモン達をデジヴァイスへ保護し、サーバーの回線を切断してクラッカーのデジモンを閉じ込めるんだ」
それをやるということは…
「ああ。我々の研究室の大規模サーバーも、そこに蓄積された研究データも…すべてオシャカだ。すでにバックアップを取っているものを除いてな」
『はーっはっはっは…もう終わりだなぁ!ナニモン、セキュリティチームが道連れを画策して回線を切断し、私からの通信が途切れた時にどうすればいいかは分かっているな?』
AAAがそう言うと…
高いとこで寝っ転がってるハゲオヤジデジモンが、「ウィー」と言いながら手を上げた。
…あいつナニモンって名前なのか。
というか… 最後の悪あがきの道連れ作戦すら読まれて、既に対策済みだっていうのか…!?
嘘だろ…!?
『トドメをさせ…フーガモン!』
フーガモンは、ブイモンににじり寄って…
棍棒を振りかざした!
「ガオォーー!」
「ちく…しょう…!」
その時。
急にデジタルゲートから飛び出してきた何かが、ブイモンとフーガモンの間に割って入り…
ブイモンの代わりに棍棒を食らった。
「ひっ…!え…!?」
『なに…!?』
攻撃を受け止めたのは…
白い大きなデジタマだった。
ワームモンとサラマンダモンが、割れたデジタマと融合してできたタマゴだ。
棍棒の強烈な一撃を受けたデジタマは…
ビシビシと大きなヒビが入った。
『なんだ?ゲートから出てきたデジタマが…自ら転がって、ブイモンを庇っただと?あり得ない現象だ…!』
「あ、ああ、ワームモン…!なんで…お前また…!」
デジタマの割れた部分からは、何かのエネルギーが流れ出ている。
「ワームモン…おいらまた、オマエを盾にしちまった…。あ、ああ…!」
ブイモンは、デジタマを抱きしめた。
『くっくっく…!何やら知らんが面白い現象だな…デジタマがひとりでに動き回るなど…!どうやって動いている?どうやって周囲の環境を知覚している?手足も感覚器もないのに!』
AAAがそう言うと、フーガモンがブイモン達を見て余裕そうに嘲笑った。
「ガッハッハッハッハ!!」
ひび割れたデジタマを抱きしめながらうつむいていたブイモンは、静かに顔を上げた。
「…そっか…そうだったんだ…。オイラ…かんちがいしてた。ワームモン…おまえのこと…」
「もしあのとき、オイラがみがわりにしようとしても…おまえほんとは…」
「じぶんでオイラのうでから、にげられたんだ」
「でも、そうしなかったのは…」
「オイラを…かばってくれたんだな…ワームモン…!」
ブイモンは目を閉じて、割れたデジタマを優しく撫でてから…
目を見開いた。
『くっくっく!傑作だ、割れたデジタマに何を話しかけている?』
「…ワームモン…またいっしょにたたかおう…」
ブイモンは立ち上がった。
「ちがう、いっしょにたたかうんじゃない…」
「ひとつになって!たたかうんだ!」
割れたデジタマから、突如不思議な光が放たれ…
ブイモンを包んだ。
『ん?何だ…?この光は?』
割れたデジタマに、さらにヒビが入り…
外殻が細かい破片に分離した。
デジタマの中から放たれる光は、力強い眼光を秘めたブイモンを包み込む。
光の中のブイモンのシルエットは、少しずつ背が高くなっていく。
デジタマの破片が、光り輝くブイモンの手足や胴体、頭部に貼り付き、装甲を形成していく。
『なんだ…なんなんだこの現象は!フーガモン!何かわからんが殺せ!』
「ウガアアァァ!」
フーガモンは、青銅の棍棒でブイモンに殴りかかった。
その棍棒を…
ブイモンは片手で止めた。
「ガウウゥ!?」
「よくも…クラフトモンを…ファンビーモンを…みんなを…!」
やがて光が消えると、そこには…
燃え上がる勇気のように勇ましい炎の紋様が刻まれた装甲を、手足と胴体、頭部に纏ったデジモンがいた。
ナイフのように鋭いツメとツノが生えている。
「てめえら…灰になっても燃やし尽くしてやる!」
装甲を身に纏ったブイモンは、手のツメに炎を纏った。
ツメが高熱によって赤熱化していく…!
「ウ、ウガオオオォ!」
フーガモンは棍棒をひったくると、再度振りかぶった。
「うらああああ!」
ブイモンのツメは、青銅の棍棒を一瞬で溶断した。
「ガァウ!?」
『な…なんだこの切断力は!?』
「だあああらあああああ!」
ブイモンが再度ツメを振りかざす。
「ヒイッッ!?」
フーガモンは両腕でガードする。
…炎のツメを受け止めたフーガモンの両腕は、プラスチックカッターを押し付けられた発泡スチロールのように綺麗に切断された。
「ガ…ゴァアアアアア!?」
「邪魔!なんだ!よ!」
ブイモンはツメをフーガモンの腹部へ突き刺した。
「オゴオォォ!!」
痛みに絶叫するフーガモン。
「消えろぉおお!」
フーガモンの腹部へ突き刺さったツメから出た炎が、フーガモンを体内から炎上させた。
「ゴボォォォオォォ!」
フーガモンの口から炎が吹き出した。
ブイモンがフーガモンの腹からツメを引き抜くと…
フーガモンは倒れた。
『バッ…バカな!あのフーガモンを…こうもあっさりと…!?貴様、何をした…!』
まさか…この現象は…!
リーダーが頷く。
「間違いない。この土壇場で…ついに成功させた。覚醒したんだ…デジクロスの力が!」
『バカな…こんな都合の良いタイミングで偶然進化したのか!?成熟期に!そんな幸運が!奇跡が!あり得るのか!』
「幸運でも偶然でも奇跡でもねーよ!」
そう叫んだのはカリアゲだった。
「ブイモンとワームモンは、ずっとずっと特訓してきたんだ!何度失敗しても諦めずに!そして今、たとえ無茶でも!強がって立ち向かったおかげでその努力が実った!覚えとけヘボエンジニア…これはな、偶然じゃなく必然ってんだよ!」
フレイドラモンは静かに口を開いた。
「カリアゲが見守ってくれてたから、オイラは諦めずにいられたんだよ」
「そっか!じゃあ、今の実力を見せてくれ!いけ、ブイモン!」
「…オイラはブイモンじゃない」
「えっ違うのか!」
「ここにいるよ!ワームモンも、サラマンダモンも!」
「そうか…いるのか!じゃあ新しい名を付けてやる!名前は…炎の竜!フレイドラモンだ!」
フレイドラモンは、蛮族デジモン達を睨みつけている。
『こ、これは面白い現象だ…。だが…デジタルワールドにはエネルギー保存則がある!それだけのパワー、常に発揮していれば長くはもつまい!』
「…かもな」
フレイドラモンは自分の手のひらを見つめ…
そして、強く握りしめた。
「先に火が消えるのは、お前とオイラ…どっちかな、AAA!」
『くっくっく、運良く手札にジョーカーが舞い込んだようだなぁ研究者共!だが、ゲームにはジョーカーたった一枚だけでは勝てないことを!教えてやる!』