メガ、教えて欲しい。
デジタルアソートのアプリモンスターズ達は、一体どうやって作ったんだ?
「うーん…本来は機密事項なんだけども…」
今回の戦い、我々バイオシミュレーション研究所の実力だけでは太刀打ちできなかった。
アプモン達が助けてくれたおかげで、対抗できたんだ。
我々も、あれくらい多彩な能力を持つデジモンを育て上げないと、これからの戦いに勝てないかもしれない。
「…分かった。セキュリティデジモンを飼育するノウハウが強化されることは、デジタルアソートにとっても大事なことだ。技術協力していこう」
ありがとう。
「アプリモンスターズ達は、マッシュモンをベースにして作ったんだ」
マッシュモンを…!?
みんな姿がマッシュモンとは似ても似つかないけども。
ガッチモンなんて哺乳類ぽい姿してるぞ。
「マッシュモンは近接格闘能力こそ低い。だけどその代わり、他のデジモンにはない生体機能を持っている。自身の肉体を構成する菌糸を進化させてアップグレードしたり、同じ記憶を持った個体を複製することができるんだ」
ふむふむ。
「その性質が、僕達の平和利用デジモン計画には非常によく適しているんだ。マッシュモンをベースにして、必要な機能のソフトウェアを餌として与え、全身の菌糸をパッチ進化させることで、与えたソフトウェア・アプリケーションの力を学習・獲得させていったんだ」
なんと…。
ガッチモンもナビモンもドーガモンも、元はマッシュモンだったのか。
「厳密には…マッシュモンを高度に進化させて、全てのアプモンのベースとなる『素体』を作った。その複製体にソフトウェアを与えてパッチ進化させたのがアプモンたちだ」
なるほど…。
どうやって収益化するの?
「マッシュモンは、自身の分身を生み出す力を持っている。アプモン達も、分身を作る力を受け継いでいる。さすがに身体を構成するデータが高度化しすぎたせいか、マッシュモンより複製スピードはずっと遅いけどね」
すると…
アプモン達のコピーを販売することで、収益を得るってこと?
「販売というよりは…見張りマッシュモン同様に、レンタルサービスのサブスクになるね。あまりたくさん殖やすことができないんだ。売り切りになんかして、用が済んだときに勝手に廃棄されちゃかなわない」
それはそうか。
「先日の戦闘に出したアプモン達は、実験中のプロトタイプ。つまり…やがて分身体のオリジナルとなる個体だ」
ということは…
その個体がクラッカーとの戦いで死亡したら。
「バックアップもあるにはあるけど…だいぶ後退することになっていた」
…リスクが高い危険な賭けだったんだね。
「安いものさ。ネットをクラッカーに支配されてしまうのに比べればずっとマシだよ。市場そのものが破壊されてしまうから」
…そうだ。
我々の使命は、クラッカーを倒すことそれ自体じゃない。
ネットの治安を維持し、人々の暮らしを護ることだ。
戦闘はその一手段にすぎない。
そういえば、クラッカーが利用してる粘菌デジモン…
ズルモンやゲレモン、スカモン等も、元はマッシュモンだった。
「そう。…今なら分かる。あれらは膨大な失敗作の上にできた一握りの成功だってね」
失敗作…?
「うん。アプモンの研究開発は、毎回トントン拍子で成功するわけじゃない。時に失敗することもある。望まない進化をした個体もいたよ。誤った学習、誤ったパッチ進化をした個体が何体も出た」
…その個体はどうしたの?
「…成功は失敗の積み重ねという。だけど失敗は失敗だ。たくさん出現する失敗作の個体を、無意義に飼い殺しするための飼育コストを割いていては、さらに進歩した成功作個体の飼育にコストが回らなくなってしまう」
…処分したのか。
「そうだよ。失敗作は処分して、アプモン達に与える栄養分へと分解した。たくさんの失敗作アプモン達が、研究途中で消えていった」
…。
「僕がデジタルアソートを立ち上げて、このバイオシミュレーション研究所と別組織として切り離した理由がこれだ。君達は眩しすぎる…僕達デジタルアソートの研究の路線とは相容れない。誰一人切り捨てないのが君たちの強みだから」
…カリアゲが心配してたよ、メガのことを。
昔とずいぶん、考え方が変わったって。
その理由がそれか。
「デジモンが将来、クラッカーとの抗争の武器以外の役割を持ち、人々の暮らしにプラスの影響を与えられるようにする…。平和利用デジモンを生み出す。そのために必要なことだったんだ、『失敗作を切り捨てる』ことはね」
…。
「君達バイオシミュレーション研究所のセキュリティチームは、デジモンを失敗作として切り捨てない。たとえ弱いデジモンや、指示を聞かないデジモンであっても…、その長所を見出し、弱点をカバーし、それらを組み合わせて敵に立ち向かった。だから君達はAAAに勝てた。そうだね?ケン」
…。
うん。私もそう思うよ、メガ。
コマンドラモンやパルモンのように、それ単体で優秀なデジモンだけを画一的に増やしていては、クラッカーに太刀打ちできなかった。
味方デジモンが誰一人欠けても、勝てなかった。
だけどその味方デジモン達は、どんな姿にするかを設計して、指向性を持たせたわけじゃない。
デジモン達自身に、どう進化するかを任せた。
デジモン達が生来に備え持っている、未知を探求し、予測不可能な進化をするという性質に…、その混沌が生み出す可能性に賭けたんだ。
「そう。だから君達は圧倒的な数の不利を覆せた。だけどそれは…とどのつまり、セキュリティチームの為すべきタスクが『敵性デジモンを暴力で排除すること』だから、そのアプローチが使えるんだ」
…。
「AAAは言った。デジモンは道具だと。…どう思う?」
そんなだから敗けたんだあいつは。
「…そうかもね、そうかもしれない。クラッカーは、ただ暴力で敵を倒すだけのデジモンを育てればいいというわけじゃない。デジモンに情報窃盗をさせたいなら、それができるような能力を持ったデジモンへと進化の指向性を持たせなくちゃいけなかった。それはつまり、望まない形式を持ったデジモンを切り捨てることを意味する」
…スパイウェアデジモンの粘菌デジモン達や、ランサムウェアデジモンのキャンドモンやアイスデビモンを作り上げるためにも、膨大な失敗作を犠牲としてきたってわけか。
「間違いなくそうだ」
デジモンに対する愛着なんて全くないんだろうな…あいつは。
「意外かもしれないけど…AAAはね。自分のデジモンを愛しているよ。おそらくね」
ええ!?
そうは思えないぞ。簡単にあっさりとデジモンを切り捨てるし。
蛮族デジモンを捨て駒にしていた。
「蛮族デジモンはあくまで野生デジモンを利用しているだけ…。彼の中では『自分が造り上げたデジモン』ではないってことだろうね。ズバモンとルドモンに対する彼の執着はどうだった?」
…是が非でも取り返そうとしていた。
使い捨ての蛮族とは真逆だ。
「そう。スカモンもそうだった。最初にスカモンと戦った時は、トドメを刺される前にチューモンに脳を回収させていた」
そういえばそうだっけな。
「二度目の戦いもそうだった。クレカ事件の後、クラッカーが僕達のサーバーへ攻めてきたとき、最後に戦場に残っていたのはプラチナスカモンだった。だけどAAAはプラチナスカモンへ僕らのサーバーを破壊する命令を出さずに、退却命令を出した。何故だと思う?」
…なぜ?
「おそらく…価値を比べたからだよ、ケン。僕達のサーバーを破壊して、プラチナスカモンを道連れにされて失うことよりも。僕達にトドメを刺せる絶好の機会を手放してでも、プラチナスカモンを生還させることをAAAは選んだんだ」
…それほどプラチナスカモンは大切なのか、AAAにとって。
「きっとそういうことだ。先日の戦いでプラチナスカモンがモリシェルモンに飲み込まれた後、ドリモゲモンはケンキモンより先にモリシェルモンを優先して倒した。それもきっと価値を比べたのが理由だ。ケンキモンを不意打ちできるチャンスを手放してでも、プラチナスカモンがモリシェルモンの胃酸で溶かされる前に救出する必要があったんだ」
…。
考えてもみなかった。
AAAにとって、デジモンに優先順位があったなんて。
「プラチナスカモンは戦いの道具やサイバー犯罪の道具というだけじゃない。AAAはプラチナスカモンに…なにか特別な使命を与えているとみえる」
そういえば、鉱山でプラチナスカモンが口からズルモンを出し、チョロモンになって帰ってきたのをレアモンに食わせてたね。
あれはなんだったんだ?
「まだわからない…けど、AAAの企みはきっと、小手先のサイバー犯罪で小銭を稼ぐことだけじゃない。まだなにかある」
嫌だな…。
「先日の戦いで、アイスデビモンだけ扱いが違っていたのに気付いた?」
扱いが違う?
どういうこと?
「アイスデビモンが戦いに投入されたタイミングは、僕達がすべての手札を出し切った後だった。シマユニモンとドリモゲモン、ガニモン寄生型のズルモン…優秀な手駒を数多く失った後で、アイスデビモンを投入してきたんだ。最初から投入していれば、それらを失わずに済んだかもしれないのに」
確かにそうだ。
でも、なぜ…?
「あいつは『失ってもいいデジモン』と『失いたくないデジモン』を明確に分けている。後者を生還させるためなら、前者をいくら犠牲にしてもいいと考えているんだ」
そ…そうか。
最初からアイスデビモンを投入していたら、パルモンの花粉でアイスデビモンが視界を塞がれている間に、モリシェルモンやケンキモンがアイスデビモンを倒していた可能性もあった。
「そういうことだね。アイスデビモンを倒されたときのAAAの狼狽ぶりを見た?きっとアイスデビモンもプラチナスカモン同様に、『他の何を犠牲にしてでも生還させなきゃいけない、失ってはいけないデジモン』だったんだ。ヤツの計画にとっては」
…
そんなに大事だったのか。
「だって、ガラスやセメントやワックスを自在に操れるデジモンだよ?その価値を想像してみてよ」
…欲しすぎる!
拠点づくりにもってこいだ。
「そうなるよね。いくらでも活用できる力だ。悪用もね」
なるほど…。
「だから、そう。AAAは…、利用しているだけの野生デジモンじゃなく、自分で作り上げたデジモンに対しては、『道具として』明確に愛情を持っている、はずだ」
道具として愛情を…?
「そうさ。自作のパソコンを愛機と呼んだり、自慢の車を愛車と呼んだりすることがあるでしょ。人間は道具を、道具として愛せるんだよ。だからデジモンを道具扱いすることは、必ずしも愛情を持っていないというわけじゃないんだ」
…その割には、キャンドモンとか粘菌デジモンは使い捨てているように見えたけど。
「消耗品として利用することまで含めて道具…ということだろうね。ケンにも『お気に入りの消耗品』はあるはずだ」
あー。
シャンプーとか洗剤とか食糧品とかね。
そういう感覚なんだ。
「だからあいつは、デジモンを道具とみなしていることを批難されても平然としてるけど…ヘボエンジニアと言われると根に持つくらい怒る。見えっ張りなんだよあいつ」
見栄っ張り…?
「あいつ、僕が見下すような発言をして挑発したら、すぐカチンと来て口論に乗ってきたでしょ?そうやって僕はヤツの隙を作り、クラフトモンをゲートから退避させたり、ハックモンのマーカーをデジドローンにくっつけることができた」
…随分AAAのパーソナリティーを詳しく分析してるね。
「…僕達デジタルアソートも、デジモンを道具として扱う側だからね。分かるんだ、少し」
メガ…。
「僕達はケンやセキュリティチームとは違う。デジタルモンスターを、僕達が望む姿へ進化させなくちゃいけない。そのためには、デジモンを道具として割り切らなきゃいけないんだ」
…デジタルアソートの研究内容を、カリアゲが知ったら怒るかもな。
「その気持ちがカリアゲのいいとこだ。だからブイモンはカリアゲの気持ちに応えて土壇場でデジクロスに成功した。僕にはできないことだ」
…持ちつ持たれつだね。
「軽蔑したかな?僕達のこと、デジタルアソートのことを」
…正直に言う。
私は、デジタルアソートのようにはなりたくない。
「…」
だけどそれは、私自身がそうなりたくないってだけの話だ。それ以上でも以下でもない。
デジタルアソートは、社会に必要なことを、そしてデジタルモンスターが人々に受け入れられるために必要な事をやっている。
私がなりたくない姿になってでも。
そのことに、私は敬意を評すよ。
「…ありがとう、ケン」
私だって清廉潔白じゃない。
ディノヒューモンの集落から奪ってきたデジモンの子供を戦わせている。
まるで海外の紛争地帯の少年兵みたいにね。
「うおっ…ケン、言うゥ~。僕はずっとそれ言わずに黙ってたのに…」
自分達が何をしているかくらい分かってるさ。
この世界に神様がいて、善を救い悪に裁きを下すとしたら…
人間のためにデジモンを利用し戦わせている私達は、裁かれる側かもしれない。
「…綺麗事ばかり言ってられないね」
そうだね。
いつかしっぺ返しを食らうかもしれない。
「その時は、僕も共に裁かれるよ」
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