デジタルモンスター研究報告会   作:タマリリス

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メインPC突入! 探検開始

現在、メインPCはデータマイニングソフトの出力データをゴミ箱へ送り続けている状態である。

 

そして、ゴミ箱に潜んでいる何かは、ほぼ間違いなくデジモンだということが分かっている。

 

それは何故か…?

 

 

 

数日前、研究メンバーの一人がこう言った。

「ウィルスだかデジモンだか知らないが、電源をシャットダウンしてコンセントを抜けば活動停止するのではないか」と。

 

講演会で報告したピチモンを使った実験では、電源を切っている間、ピチモンはハードディスク内のデジタケを食べないことが確認された。

 

その考えに基づき、ゴミ箱のデジモンが対処不能ほど成長したり繁殖したりしないように、我々は一度、パソコンの電源を落としたのである。

 

 

数時間後に再度起動して、ゴミ箱の中身を確認したところ…

なんと、電源が切られていたにも関わらず、ゴミ箱の中身のデータ容量が減っていた。

活動は止まらなかったのだ。

 

このまま電源を落としていたら、やがてゴミ箱の中身どころかPC内のデータを全て食い尽くされてしまう可能性があったため、やむを得ず電源を入れたままデータマイニングを続けているのである。

 

 

…この一件から、我々は新たな知見を得た。

デジモンは、「コンピューターの中」ではなく「デジタル情報の中」にいる動物であり、質量の増減無しでゼロイチのビット情報を書き換えられる記録媒体の中なら、どこででも活動できるのかもしれない…ということだ。

極論を言えば、ソロバンの中や、楔形文字が刻まれた粘土板の中ですら活動できる可能性すらある。

 

ピチモンがデジタケを食べなかったのは、電源の入っていない状態で磁気ディスクの磁気を書き換えられる程の力を持っていなかったからか…

あるいは、夜が来たと思って単に眠っていただけなのかもしれない。

 

 

 

コマンドラモンとフローラモンの様子を見てみると…

 

フローラモンは、いつぞやの教材ソフトを起動していた。

 

そして、文字読み上げ機能を立ち上げて、「土」「石」「キノコ」「水」などの音声を鳴らしていた。

 

コマンドラモンは、その音声を聞きながら、土、石、キノコ、水を指さしていた。

 

これは…?

自発的に、言語の学習をし始めている!?

 

どうやら、コマンドラモンが、フローラモンから単語を教わっているらしい。

 

以前我々は、フローラモンがなかなか言語を学習しないため、その知能を犬程度だと評価していたが…

どうやら我々は、根本的な勘違いをしていたらしい。

 

当時のフローラモンには、自分から他者とのコミュニケーションをする…という目的や、その動機が存在しなかったのである。

 

だから、あのときは言語を学習することそのものの必要性や意味を理解しておらず、学習意欲が芽生えなかったのだ。

 

ところが現在は、コマンドラモンという仲間がいる。

 

そして、仲間と連携したり遊ぶために、コミュニケーションの手段を必要としている。

 

ここまでの条件が揃ってやっと、初めて学習意欲が芽生えた…というわけだ。

 

2体は教材ソフトをいじくって遊んでいたが…

しばらくすると何やら悩み始めた。

 

教材が出題するクイズに、「犬」「太陽」「鳥」「パパ」「ママ」「ミルク」「空」などの単語が出始めると、その意味が理解できずに頭を悩ませているようだ。

 

そうか…

このビオトープで、見て経験したもの以外は理解できないのか。

 

ゴミ箱のデジモンが成長・繁殖する可能性があるため、あまり余裕はないのだが…

 

せめて作戦のために必要最低限の指示をあらわす言葉くらいは教えておいた方がよいのではないだろうか…?

 

 

 

人類の最大の発明は何か?と問われたとき…

人々は様々な回答をする。

電気だとか、車輪だとか、インターネットだとか、数字のゼロだとか、ハーバーボッシュ法だとか…。

 

その中で特によく挙げられる回答のひとつに、「言葉」がある。

 

人類は、言葉を発明したことで、意思疎通がとれるようになり、協力して課題を解決する力や、技術を蓄積・継承するが大きく向上し、文明を持つ種族へと「進化」した…という説さえある。

 

それだけ、言葉というものは価値のある技術だということだ。

 

たとえゴミ箱にいるデジモンが、種族として進化したとしても…

 

おそらく、こちらの二体が簡単かつ重要な意思疎通がとれるようになれば、それを上回る「進歩」…いや、「進化」ができるはずだ。

 

 

今の時代、進化とは肉体を強化して白兵戦闘力を上げることだけを指さない。

技術を向上させ、新しいことができるようになることもまた…大げさな表現かもしれないが、「進化」といえるだろう。

 

まず私は、最新式のデジドローンをセットアップした。

 

「デジドローンVR」。

私の上半身にモーショントレース用のセンサーを取り付け、VRゴーグルを被る。

 

そして私のアバターの3Dモデルを設定し、デジタル空間へ呼び出す。

 

これによって私はドローンから、ランプの魔人のように上半身を出すことができるのである。

 

尚、移動は左手に握っているコントローラーで行う。

 

ビオトープにアバターを召喚すると、最初二体は警戒した。

新たな戦闘訓練の相手か?と思ったようだ。

 

だが、「キノコ、お食べ」と言いながらいつものキノコを渡すと、私をドローンの中の人だと理解したようだ。

フローラモンは私の手に甘えてきた。

 

こうやってVRでいざ対面してみると、この方がコミュニケーションが取りやすいことに気づいた。

ボディランゲージなどの非言語によるコミュニケーションは、喋ることのできないこの二体にとって、重要な情報となるのだろう。

 

我々は、コロシアムを少しいじって迷路を作った。

 

この迷路には罠やボットを仕掛けてある。

 

一番奥の宝箱へたどり着くことができれば課題クリアとなる。

 

この迷路を使い、私は二体へ、「待て」「進め」「攻撃しろ」「逃げろ」「周囲を警戒しろ」「行動をやめろ」などの命令を教育した。

 

一日が経つ頃には、まあ、ちゃんと明日まで覚えているかは分からないが…

ごく単純な指示は、一通り教えることができた。

 

 

…翌日。

私は、ミッションサポート用のアイテムを揃えた。

デジモン達へのエネルギー補給用のキノコや、盾としてその場に出せるドローン、揺動用の戦闘訓練ボット等だ。

 

いよいよ、例のPCに突入するか…!?

あるいは、何か最後にやっておくことがあるだろうか。

 

 

 

 

一通りの訓練は終わった。

コロシアムからビオトープへ戻る。

 

さて、あとはこの二体をパソコンへ送り込むか…

 

…フローラモンは、こちらへゴムボールを投げてきた。

以前の戦闘訓練で使ったやつだ。

私はそれをキャッチした。

 

投げ返してほしいのだろうか。

私はボールをフローラモンへ投げ返した。

 

フローラモンは、コマンドラモンにもボールを投げた。

 

コマンドラモンは、ボールを私に投げてきた。

 

そのまま私達は、しばらくキャッチボールをした。

なるほど、VRでのアーム操作のいい練習になる。

 

…もしかしたらフローラモンは、ずっと寂しかったのかもしれない。

何か私に恩返しをしたかったのかもしれない。

 

…このキャッチボールは、私を楽しませようとしているのだろうか。

 

研究者として、そういう勘繰るような目で観察してしまうのは、良いことなのか、悪いことなのか…。

 

 

 

しばらくキャッチボールをして、フローラモン達と遊んでやった。

 

さて、どうするか…

一応、もうデジクオリアのUSBドングルは手元にあるので、デジドローンを飛ばして観察できる。

 

偵察するだけであれば、デジドローンだけでも可能といえば可能だ。

もっとも、某へ干渉する力は殆ど無いだろうが…。

 

内部の状況も不明なまま、いきなりデジモンを連れて行く必要はない。

 

まずはデジドローンを飛ばして、PC内部のデジタル空間を調査した。

 

パソコン内のデジタル空間は…

 

我々のいる研究室とよく似た内装の、薄暗い迷路になっていた。

 

壁には研究データの報告資料がポスターのように貼られていたが、そのほとんどが破れていたり、カビたりしている。

 

やがて、だんだんと床からキノコが生えているのが散見されるようになった。

 

ゴミ箱のアドレスに近寄るにつれて、どんどんキノコの量は増えていく。

 

我々がフローラモン達へ与えているのとは異なる、紫色のキノコである。

 

フローラモン達はその映像を、よだれを垂らしながら見ていた。

 

…調査中のメインPCの画面をカメラで撮影し、カメラの映像をビオトープのあるパソコンへ入力するという、ちょっと手間のかかる方法で二体に見せている。

 

やがて我々は、衝撃的な光景を目にした。

 

迷路の天井に、データマイニングソフトとみられる箱がついており、そこから木のクズのようなペレットがばらまかれている。

 

そのペレットは、床にびっしりと埋め尽くされた粘菌に、どんどん飲み込まれているのである。

 

粘菌はまるで血管のように床にフラクタル幾何学模様を作っており、ペレットはどんどん迷路の奥へと運ばれている。

 

ペレットの行方を追うと…

 

まるで蟻塚のようにそびえ立つ、カビの要塞の中へと、運ばれていってるようだ。

 

 

 

 

…飛行型ドローンだけでは、要塞の入口にまで突入するのは難しそうだ。

回転翼が要塞の壁に当たり、そのまま埋まりそうだ。

 

四輪型ドローンに切り替えれば、中に入れるかもしれないが…

 

さすがに地面を走行する四輪型ドローンは、ここに巣食うデジモンに見つかってしまうことだろう…。

だが恐れていては何も進まない。

四輪型ドローンで、要塞の中へ突入を試みた。

 

入口は狭いが、通ってみると案外広…

…!?しまった…!

タイヤが空転して、進めない!

 

要塞の入口は、カビがたくさん生えていた。

その大小様々なカビのせいで、ドローンのタイヤが地面から浮いてしまい、空転してしまったようだ。

 

…どうするか…。

ドローンの転送は、一度進んだところまでしか行えない。

そのため、一度回収すれば後退はできるが、ドローンだけではこれ以上要塞内部を調査することは難しそうだ…。

 

私はコマンドラモンとフローラモンをフラッシュメモリに移し、それをメインPCへ接続した。

 

そして、四輪型ドローンを、一番近いアクセスポイントのところまで後退させると、その場へフローラモンとコマンドラモンを呼び出した。

 

フローラモンは、今まで映像で見ていたこの場所へ来ることができて嬉しそうだ。

 

一方のコマンドラモンは、周囲を警戒して観察している。

 

やがてフローラモンは、床に生えている紫色のキノコを発見した。

 

フローラモンは、それに手を伸ばした。

 

何かやばい気がする。

私は「待て」と指示した。

 

フローラモンは、一瞬動きを止めたが…

…首をかしげた。

 

そして、命令を無視して、再びキノコへ手を伸ばし、それを掴んだ!

 

 

しまった。

我々は、フローラモンをあまりにも甘やかして育てすぎた。

食欲を前にして自制する、という訓練を全くさせてこなかったのである。

 

だがまあ、フローラモンの立場になってみれば、待つ理由など考えられないといえる。

我々は一種類のキノコしか与えてこなかったし、キノコ=食べても安全なもの、という認識になるのはごく自然なことだろう。

いつも食べているようなキノコに、何を警戒することがあろうか。

 

フローラモンは、キノコを口へ運んだ…。

 

 

 

 

コマンドラモンが、フローラモンの持っているキノコを地面へはたき落とした。

 

フローラモンは怒って、コマンドラモンへ吠えた。

 

コマンドラモンは、私のドローンの方を静かに指差した。

 

フローラモンは、怒ったような表情で、キノコと自分の口を交互に指さしている。

 

コマンドラモンは横に首を振り、ドローンを指さした。

 

なんてこった。

こんなことで喧嘩になるとは…!

 

…私はドローンから上半身を出すと、コマンドラモンだけにデジタケを渡した。

 

コマンドラモンはそれを受け取って食べた。

 

フローラモンは、自分にも欲しい、と言わんばかりに手に近付いてきたが…

 

私は「床のキノコ」「食べる」「ダメ」、

「私が手渡すキノコ」「食べる」「良い」、「分かった?」と聞いた。

 

フローラモンは、不機嫌そうだが、しぶしぶ頷いた。

私はフローラモンにも、ちょっと少なめにデジタケを渡した。

 

フローラモンは、名残惜しそうに床のキノコを見ていたが…

デジタケを受け取って食べた。

 

するとフローラモンは、先程キノコを触っていた手を痒そうに掻き始めた。

 

うわぁ!

フローラモンの手の花弁にブツブツが生えている!

やはり毒キノコだったらしい。

 

フローラモンは痒がっている。

なにか薬でも持っていればいいのだが…そんなものはない。

デジモンの体にどんな薬が効くのかなど我々はまだ知らない。

 

私はドローンから水筒を取り出して、フローラモンの手へかけた。

そして手を包帯でよく擦ってやった。

 

キノコの毒は手の表面から流れたらしく、それ以上症状が進行することはなかった。

 

…毒キノコの近くにある、カビの要塞…。

デンジャラスな香りがする。

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