ジャングルモジャモンの一体が口を開いた。
『テンシサマ!バブンガモンノヤツ マタコナイ! レイハイ サボッテ コウセキサイクツ ヤッテル!バカ!ウホホ!』
『ああ…バブンガモンはまた居ないのか。無理もない、ヤツはお前達よりずっと頭が悪いのだ。礼拝だけでなく労働もサボっていたり、弱かったらヤツも制裁していたところだ』
信徒デジモン達は、それを聞いて大笑いした。
『笑えるだろう!アレがかつてお前達を導いていたのだ、あんな低能の出来損ないがな!バブンガモンを慕うんじゃないぞ。バカが伝染るからな!』
信徒デジモン達はさらに笑った。
シスタモンもクスクス笑っている。
クルエは不思議そうだ。
「…何が面白かったの?今の話の…」
リーダーが答えた。
「グサグサの話から察するに…AAAのヤツは、類人猿デジモンを品種改良して蛮族デジモンを作った。単為生殖のデジタルモンスターで品種改良を行うには…、方法はひとつ。不都合な形質を持った個体を『間引く』ことだ」
「間引き…」
優生学みたいですね。
「グサグサは信徒の中でカーストを作ったと言っていたが…、それはすなわち『被差別階級を作ること』を指す。ヤツらはAAAの命令に従い、高い知能を持つ個体を上位階級とし、AAAの命令に従わない個体を被差別階級にしたんだ」
…その結果、バブンガモンはカースト最底辺に貶められたということか。
労働力と戦闘力があるから残っているが…
それがない個体は『間引かれた』のだろう。
『さて…余談はそろそろいいだろう。先日、フーガモンやドリモゲモンをはじめとする勇敢な神官戦士達が、我々天使と共に、悪魔と戦って…命を落とした。勇敢な最期だった』
信徒デジモン達は哀しみの声をあげた。
『フーガモンサマ…ドリモゲモンサマ…』
…いや、誰が悪魔だよ。人聞きの悪い…。
『そこで寝込んでいるキンカクモンは、この戦いを生き延びた勇者だ。キンカクモンは果敢に悪魔を追い詰め、あと一歩まで追い込んだが…深い傷を負い、力及ばず倒れた』
『オォ、キンカクモンサマ…』
シスタモンは、親であるキンカクモンの痛々しい腹部の縫い後を心配そうに眺めている。
『いずれ悪魔達は、信徒のお前達を攻めにくるだろう。ブルースキン達がそうであるようにな!』
信徒デジモン達はざわめく。
『オォオォ…!アクマ!ブルースキン!コワイ!』
『テンシサマ!オタスケクダサイ!』
『ブルースキンはお前達信徒の文明を侵略し、滅ぼそうとしている!』
文脈的に、悪魔は我々を指すのか。
ブルースキンってなんだ?
リーダーが返事をした。
「…おそらくディノヒューモン農園の奴らを指す言葉だ。農園の爬虫類デジモンや昆虫デジモンは、皮膚が緑の色素や青の構造色をしていることが多い」
おお、確かに。
ブイモンもそうだ。青の構造色は、紫外線を反射するから日照りが強い屋外での長時間活動に向いている。
農作業に従事した勲章の青い肌を…
AAAは蔑称にしているのか。
カリアゲが眉を潜めた。
「いや、侵略してるのは蛮族だろ!なんで農園を侵略者呼ばわりしてんだ!」
「カリアゲ、おそらくAAAは…信徒たちが先に仕掛けたことを隠している」
「え?」
「信徒が先に仕掛け、それに対し農園が反撃したのを…『農園側からの一方的な侵略行為』として信徒デジモンへ教えているんだ」
「…は?」
「だから信徒にとって、農園への攻撃は略奪じゃない…復讐であり、制裁であり、誅罰なんだ」
「…分かり合えないのか?」
「無理だな。信徒達の言葉は農園の言葉とは違う。言葉が通じないから話し合えない。言語の壁を使って、AAAは意図的に対立構造を作っている」
「…バブンガモンとグサグサは通じあえてるんじゃ…」
「だからバブンガモンを貶めているんだろう。奴らと話せるから」
…。
私は言葉を失った。
「それじゃあ…蛮族たちは…自分から農園を襲ったつもりじゃなくって…。『農園に攻撃されてるから、防衛のために戦ってるんだ』と勘違いしてるっていうのか…?リーダー…」
「そうなるな」
「…もしかしてよ、蛮族デジモン達って…そんなに悪い奴らじゃないんじゃねえか…?そりゃ差別とかはあってもさ、人間だって似たようなもんだしさ…。あいつ等はあいつ等なりに…仲間を護るために、命を懸けて、戦ってたってことじゃ…!」
「…そういうことだ、カリアゲ」
「な、なあ、どうにかして… シューティングスターモンを撃ち込む前に、あいつらを説得できねえかなリーダー…?あいつら日本語通じるんだろ?伝えるんだ、AAAに騙されてるって!」
「どうやってだ?奴らは我々が何を言おうと悪魔の誑言と決めつけるだろう。それに信徒の社会ではAAAの言いなりになることが地位を保証する。AAAの言葉を疑う者などいない」
「そんな…!」
「言葉が通じずとも意思疎通ができる相手もいる。ベーダモンのように。だが言葉が通じても意思疎通できない相手もいる。信徒達がそうだ」
「…助けられねえってことかよ…!」
その時、パルタス氏から通信が入った。
『こちらパルタス。シューティングスターモンのチャージは完了した。合図があればいつでも撃てるぞ!』
「パルタス!聞いてくれ!予想外のことが起こったんだ!」
『な、なんだ!?そちらのデジモンに被害が出たか、あるいは蛮族共が散らばって逃げたのか!?』
「違う、そうじゃない…蛮族デジモン達は、騙されていたんだ!AAAに!」
『…?今更どうした』
「奴らが騙されていたとしてもだ、好き好んで農園を略奪したり、悪事をしてるんなら…滅ぼされても仕方ねえって思ってた。だけど違うんだ!農園を攻撃してたのも、俺たちを攻撃してきたのも!その動機は自己防衛のためだったんだ!自分たちが被害者側だと、AAAに嘘を吹き込まれていた!あいつらそんなに悪い奴らじゃないんだよ!」
『…はぁ。それで?』
「それでって…!だから!どうにか話し合いを…!」
『それでというのは。予想外のこととはなんだ?』
「え、だから…。俺たちが蛮族なんて呼んでいた類人猿デジモン達が、実はそんなに悪行三昧の悪い奴らじゃなかったってことで…」
『…?事前に予想していた通りではないか』
「…え?」
『典型的な宗教テロ組織の思想だな。まあそんなものだろう。シューティングスターモンを撃ち込む作戦の障害になる情報はまだ何もないが…』
「…何言ってんだ?あんた」
『貴様こそ何を言っている、カリアゲ。無駄話をしている余裕はないと思うが?』
「パルタス…てめぇ…!蛮族デジモン達が、こういう考えだと分かってたのか…?分かったうえで、シューティングスターモンを撃ち込むって提案してきたのか!!」
『何を今更。蛮族デジモン達は、戦いの最中に自分たちを信徒と、AAAを天使と呼んでいた。この手の支配をされていることは、それだけで容易に読み取れることだろう?それが分かったうえで貴様たちも私の提案を呑んだんじゃないのか?』
カリアゲは、机を拳で叩いた。
「…俺だけが… 俺だけが何もわかってなかったのか…!」
震えるような声を絞り出すカリアゲに、クルエが声をかけた。
「…私も同じ気持ちだよ、カリアゲ」
「…クルエ」
「…気持ちは。分かるよ」
「…」
カリアゲ。私も気持ちは分かる。
同じことを思っていた。ただ黙っていただけだ。
「…ケン」
だけど…言葉にできなかったんじゃない。言葉に『しなかった』んだ。
「…そうだよな、そうだよな、ケン!クルエ…!」
『いい加減にしろカリアゲ!自分が正義のヒーローか何かだとでも思っているのか!』
「…!」
『貴様らは何者だ、セキュリティチーム!リーダーからは、コミックに登場するような正義の戦隊だとでも教わっているのか!?』
「…違うよ。俺たちは正義のヒーローじゃないと…。生存競争をしているんだと、聞いた…。あんたが言ってるようにだ、パルタス…」
『ならば必然!敵が勧善懲悪のコミックから出てきたようなヴィランでないことも分かるだろう!あんなフィクションは、後腐れなく制裁欲求を満たして脳内麻薬を刺激し快楽を得るためだけの低俗な娯楽にすぎない!現実にあんなサンドバッグなどいない!デジタルワールドにもだ!』
「…リーダー、悪い。俺、別の部屋で… フローティア島にいるパートナー達の面倒を見てるよ…」
「…カリアゲ」
「作戦がうまくいってさ、グサグサと仲良くなれたらよ… 俺の代わりに、ブイモンとデジタマモンを褒めてやってくれ…」
「…分かった。こっちでやっておく」
カリアゲは席を立とうとしたが…
『逃げるな!!カリアゲ!!!』
「っ…」
『己が背負う業から目を背けるな!!!それが責任というものだろうが!!』
「…わ、わかった…わかったよ…!見届ける…すべて…!」
カリアゲは震える声で、席に着いた。
画面を見ると、ニセシャッコウモンはすでに演説を始めていた。
ん?あ、あれ?もう始まってたのか。
今の騒ぎで画面をぜんぜん観てなかった。
誰か、信徒達がどういう話をされてたか聞いてましたか?
「…しまった。聞いていなかった」
リーダーが苦い顔をしていた。
私もクルエもシンも聞いていなかった。
「僕は聞いてたよ」
メガは画面を見ながらそう答えた。
め、メガ…!
ニセシャッコウモンの演説を聞いてたのか。
ということは逆に、こっちの騒ぎは聞いてなったの!?
「?だってそんなの、僕たちがフローティア島で原住民のガニモンを殺戮したことの延長線上でしょ。人の姿に擬態しているからって何が違うわけでもない」
…すごいねメガは。私ですらそう割り切れない。
人に擬態してるから殺しにくいだけ、か。
「畑を荒らす猪を撃てて、猿は撃てないハンターがいるという。人に近い獣は同情心を誘うんだってさ。くだらない。どっちも同じだろうに」
…そう割り切れるメガがいて助かるよ。
それで、ニセシャッコウモンは何を話してたの?
「メモ取りながら聞いてる。サーバーに置いてあるから読んで」
私はメガがとったメモを読んだ。