デジタルモンスター研究報告会   作:タマリリス

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演説

~少し時間を遡り、メガ視点~

 

ニセシャッコウモンが演説を始めた。

話を聞く限り、AAAはセキュリティチームのことを「悪魔」と、ディノヒューモン農園のことを「ブルースキン」と呼んでおり、

両者のことを信徒に襲い掛かる加害者、外敵であると教えているらしい。

 

それを聞いたカリアゲが、ショックを受けて騒ぎ始めた。蛮族デジモン達の価値基準が僕たち人間に似通っていることに気づいたらしい。

…まあ心配はいらないだろう。リーダーやケンなら、カリアゲをうまく落ち着かせられるはずだ。

その間、僕は僕がやるべきことをやる。

ニセシャッコウモンの演説内容を記録し、それを読み解けば、今後AAAがやろうとしている悪事について情報が得られるかもしれない。

 

あちらのことはあちらに任せて…

僕はニセシャッコウモンの演説内容を書き留めた。

 

『我々天使は、キンカクモンやフーガモンと共に悪魔と戦った。フーガモンやドリモゲモンは悪魔と刺し違えて倒れた…。だが敗北したわけではない!敵もまた大きな損害を負った!』

 

『オォ~…!』

 

『だが信徒達よ!危機感を持て!このまま貴様達が今よりも強くならなければ!力を増した悪魔達やブルースキン達が、貴様たちが蓄えた富を奪い、貴様達の家族を貪り食いに来る!』

 

『アクマコワイ…!』『ブルースキンコワイ…!』

 

『だが絶望はするな、希望を持て信徒達よ!神は敬虔な信徒のお前たちの信仰に応えて、天使の力の一端を授けた!キンカクモンを、そしてその子孫シスタモンを見よ!我々天使の姿にどんどん近づいている。これは大いなる天使の、悪を撃ち滅ぼす力が芽生えていることを意味する!』

 

『オォオーーー!!』

シスタモンがちょっと照れている。

 

『信徒達よ!フーガモンを、ドリモゲモンを超えて強くなれ!これまで以上に力を磨き、己を鍛え上げ!そして我々「天使」に近しい存在へと進化するのだ!そうして力を合わせれば、必ず悪魔を撃ち滅ぼせる!貴様達も、その家族も!子供も!皆救われる!戦うしかないのだ!』

 

『カミサマー!テンシサマァァ!!』

 

『さて…。目指すべき将来像を共有したところで。ここにいる者達の中には、これまで私から直に啓示を受けたことのない者も大勢いることだろう。私が出来損ないのバブンガモンに代わり、お前達信徒を統べるようになってから産まれた者達の中には特にな』

 

…そうか。

今の世代には、既にニセシャッコウモンが蛮族を統べるようになってから産まれた個体も多くいるんだ。

かつてバブンガモンが、類人猿デジモンのリーダーだったこと自体を知らない個体も…。

 

そういう個体から見れば、バブンガモンは生まれた時既に被差別階級だったということになる。

かつて祖先たちを導いた先代リーダーのバブンガモンに対して、敬意も何もあるはずがない。敬意を持てるはずがない。

 

きっとバブンガモン派もいたのだろうが…

そういう者達は間引かれてしまったのだろう。

 

おそらく、初期の類人猿型デジモンは、猿やネズミに近い姿だったのだろう。

バブンガモンや、その親プレイリモン(プレーリードッグに似ているらしい)、ジャングルモジャモン、ゴリモンなど。

 

だが、ニセシャッコウモンは今の話から察するに、「人の姿に近づく進化をした個体」を、カースト上位に据えようとしているとうかがえる。

これは明らかに、人工的に進化を促しているアプローチだ。

人間の姿を提示し、それに近づくように進化をしろと促しているのだ。

 

そうして、猿型デジモンはどんどん人の姿へ近づいていったんだ。

シャーマモン、フーガモン、キンカクモン… そしてシスタモン。

 

いったい何の目的で、デジモンの姿を人間に近づけようとしているのかは…

まだ分からない。

 

『敬虔なる信徒のために、今一度!この世界の成り立ちを!そしてお前達の信仰に対する加護を!説明しよう!』

 

はてさて、どんな話が出てくるか…。

 

『考えたことはあるか?お前達が住むこの世界は…いったいいつ、どこで、どうやってできたのか。なぜデジタルモンスター達が住んでいるのか。なぜ朝があり、夜があり、火があり、水があり、土があるのか』

 

『ザワザワ…』

 

『なぜだと思う?シスタモン』

 

『ハイ!カミサマが!ツクッタノデス!』

 

『その通りだ!よく教育しているなキンカクモン。そう、この世界、デジタルワールドは神が作った。その大いなる存在に仕えるのが、我々天使だ』

 

AAAのやつ、自分のことを天使だという嘘を大真面目に言い張ってるのか。よくそんなことが言えたもんだ。

 

『神がこの世界を作ったのは、お前達信徒のためだ。水はお前たちが飲むために。土はお前達が踏みしめるために。太陽はお前達を暖めるために。夜はお前達が眠るために。そしてデジタルモンスター達は、お前達信徒が食べるために。信徒のために用意したのだ。お前たちは神の子なのだ!』

 

『オォ~アリガタヤアァ~!』

 

神の子…ねぇ。

リアルワールドで大きな勢力拡大に成功している様々な宗教の教義を切り貼りしているっぽいな。

 

『だが!お前達の遠い祖先は、神を裏切り、神の立場を乗っ取ろうと叛逆した。その結果、神はお前たちの祖先の罪を裁いた。だが慈悲によって、獣に似た姿に変えて生きることを許したのだ。罪を償うために』

 

『ソセンユルセネェェ!』『ソセンハフケイダー!』

 

『なぜお前達信徒は、天使の姿に近づいているのか?それはお前達が祖先から背負わされた原罪を、敬虔な信仰と働きによって、少しずつ浄化しているからだ。少しずつ罪が清められ、元の姿と知能を取り戻しているのだ』

 

『オォオーー!!』

 

『一方でブルースキン達…あれらは、お前たちの祖先から枝分かれした者の一部だ。獣の姿になっても尚、罪を清めるどころかさらに神に叛逆したため、罪を重ね… あのような醜い異形の姿になったのだ』

 

『ブルースキンユルセネエェ!』『ブルースキンハフケイダー!』

 

…類人猿型デジモンが、農園の爬虫類型デジモンと枝分かれしたのは、そんな理由じゃないと思うけど。

 

『信徒達よ!お前達の子孫が完全な天使の姿へと至った時!お前達の祖先が犯した罪は完全に清められるのだ!信徒達よ!それを目指し清く正しく努めよ!』

 

『オォー!キヨク!タダシクウウゥウ!!』

 

何が清く正しくだ。

サイバー犯罪者がどの口で言うんだか。

 

しかし…なるほど。

いくらなんでも、自分たちの祖先を被差別階級に貶めるなんて、蛮族共は随分底意地が悪いんじゃないか?と思ったけど…

『原罪』という概念を利用していたのか。

 

蛮族デジモン達は、生まれつき祖先が犯した罪を背負っている…ということにして。

正しい行い(サイバー犯罪への加担や、農園への略奪行為)を繰り返すことで、その罪が清められ、人格的な正しさを得ていくのだと。

 

それに加担しないバブンガモンは、罪が清められていない咎人であるがゆえに…

『悪人』と見なされているんだ。

 

そんなのに騙されるか?くだらない…と、思いがちだけど、案外ばかにできない。

リアルワールドの人間達は、これら蛮族デジモン達と同様に、罪人とみなした者に対して集団で行う私刑を、「正義」と呼ぶことがある。

実際に罪を犯したかどうかにかかわらず。

 

2018年、メキシコ中部のアカトランである事件が起きた。

二名の男性が飲酒運転で捕まるという、なんということもない事件だった…。当初は。

 

しかし、インターネットのSNS上で、彼らは「幼児の連続誘拐犯だ」「車の中に酒があったのがその証拠だ」とデマを流された。

やがてSNSのユーザー達の中では「釈放されたら何人もの幼児が犠牲になる」「だから彼らに正義の裁きを下そう」という意見が膨らんだ。

 

結果、二名が釈放された後、150人ものインターネットユーザーが彼らを殴り、蹴り、ガソリンをかけて燃やし…死に至らしめた。

そういう事件が、実際にあったのだ。

 

このように、「罪人のレッテルを貼られた者」に対しては、現代人すらも狂気の残酷性を発揮するのだ。

人間ですら、マインドコントロールによって野蛮な正義感を発揮し、理屈の通らない私刑を行うのだ。

人に近い姿へ進化している類人猿型デジモンが、同じ理屈のマインドコントロールをされるのは、不自然なことじゃない。

 

と、このあたりでカリアゲやケン達の一悶着が終わったらしいので…

今までとっていたメモの置き場を教えた。

落ち着いたら読んでくれるだろう。

 

ニセシャッコウモンがそう話していると…

一体のシャーマモンが、ぷるぷると震えだした。

 

『ヨクモ…フーガモンサマヲ…!アクマ!ユルセネエエエ!』

 

シャーマモンは光り輝き…進化した!

 

人…というよりはなんだろう。

ファンタジー作品のゴブリンとかドワーフに近い姿になった。

 

『おお!いいぞ、獣からさらに天使に近づいたな!お前の名は…グロットモンと命名する!』

 

『ハハァー!』

…こうやって人型に近づく進化を促しているのか、AAAは。

 

それからは、演説でたいしたことは言っていなかった。

戒律についてちょっと触れた程度だった。

 

そろそろ演説が終わる…という雰囲気を察して、僕はパルタス氏に連絡をした。

 

パルタスさん!

演説が終わるよ!

 

『わかった!シューティングスターモン、発射スタート!』

 

『オーケーイ!!!!』

シューティングスターモンから通信が入る。

ウィンドウに、シューティングスターモンを映すデジドローンの映像が映し出された。

既にデジタルワールドに出て、準備をしていたらしい。

密林から少し離れた森林の中だ。

 

『ファアイブ… フォォー… スリィーー… ツゥーー… ワァン…!』

シューティングスターモンの下部から、凄まじい風圧の空気が噴射され始める。

周囲20mほどの地面に散らばっている枯れ葉や土砂、幼年期デジモンなどが、放射状に吹き飛ばされていく。

木々がざわめき、シューティングスターモンを中心にして木々が斜めに傾いている。

 

『シュウゥゥッ!!!!』

シューティングスターモンの下部から、爆発的なエネルギーが放出され…

シューティングスターモンは天高く飛び上がった。

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