デジタルモンスター研究報告会   作:タマリリス

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クラッカーの研究開発手法

~AAA視点~

 

今日も今日とて私は忙しい。やることが沢山ある。

目下早急にやるべきことは、セキュリティ共に殺されたアイスデビモンの代わりを育て上げることだ。

 

他にもタスクは山ほどあるが、それは部下にやらせている。

 

我々のクラッカーチームは基本的に、最初に私がやったことをマニュアル化して、部下に任せるという流れで動いている。

欠けたワイヤーゴーレモンの補填はQQのババァに任せている。あれほどの能力を持つデジモンの育成は、二つ星クラッカーでなくては務まらない。

 

私がタスクを命じるのとは別に、メンバーにはある程度自由にデジモンを使ったサイバー攻撃やサイバー犯罪をやらせている。

ただし「必ず目立たないようにする」というのが鉄則だ。

 

QQのババァはその規則を破って勝手にクレカ会社への攻撃を行い、ズバモンとルドモンを鹵獲された。何度思い出しても腹立たしい。

ババァには再びズバモンとルドモンのような武器デジモンを育て上げることを命じているが…、それに必要な『トータモンのデジタマ』がなかなか手に入らない。

 

リクガメ型デジモンのトータモンは、デジタマを固めた土の巣の中で育てる。

何度も類人猿デジモンを送り込みデジタマ採取を試みたが、全て迎撃された。

 

一応、トータモンのタマゴを直接回収するのでなく、集落からトータモンの子孫であるガメモンを拉致して成熟期に育て上げるというアプローチも試しているのだが…

うまくいっていない。

 

クソ!!

本当にあの損失は大きい。

ズバモンとルドモンを殺されたならばまだしも、「鹵獲された」というのが本当に酷く堪える。

 

もしもセキュリティチーム共が、ズバモンとルドモンを成熟期まで育て上げ、武器型デジモンを量産したとなったら手に負えない。

我々は圧倒的な不利を強いられることになる。

 

だからこそ私は、多少強引なタイミングでもセキュリティの本拠地へハッキングを仕掛け、類人猿型デジモンを送り込んでシステムの破壊とズバモン・ルドモンの奪還を強行したのだ。

 

結果として、類人猿デジモン達は撃退されて私は敗北した。

まあ別にいい…プラチナスカモンとナニモンが生還できたのだから被害は軽めで済んだほうだ。

いや…アイスデビモンの損失は大きいが…とにかく地獄に仏だ。

我々のような悪党は仏に慈悲など乞う気などないがな。

 

それにあの敗戦から収穫が何一つなかったわけではない。

セキュリティチームはなんと、農園のパイルドラモンがやったようなデジクロスの再現に成功した。

 

奴らが再現に成功したのならば、我々にも再現できる可能性はある。

いかなる条件を満たせばデジクロスが再現できるのかは不明だ。

ブイモンを庇ったあの大きなデジタマは何だ?

ブイモンの奴はアレをワームモンと呼んでいたが…、部下の報告によれば、ワームモンはモリシェルモンの罠で確実に致命傷を与えて殺したはずなのだ。

 

ヤツらの手の内を暴きたいところだ。

デジクロスしたフレイドラモンを鹵獲して解剖・解析すれば多少はカラクリが見えてくるだろうか。

 

そう考えていると…

QQのババァから連絡が来た。

 

『AAA様ァ!お望みのピコデビモンを捕獲しましたよォ!ヒーッヒッヒッヒ!』

 

ご苦労。あのすばしっこいやつをよく捕獲したものだ。

さすがは元三ツ星クラッカー。

さっそくこちらへ転送しろ。

 

『了解!ヒッヒッヒ!』

 

しばらくすると、翼を釘で打ち付けられて木の板に拘束されたピコデビモンが私のパソコンへ転送されてきた。

デジクオリアを起動し、パソコン内のデジタル空間…

実験室内を覗く。

 

「キ…ギギー!」

ピコデビモンは必死にもがいて脱出しようとしている。

 

私は実験室に、スノーゴブリモン…。

シャーマモンが寒冷地に適応した亜種である類人猿型成長期デジモンを呼び出した。

 

スノーゴブリモン!私の指示通りにやれ。

いいな?

 

「ウワーオゥ!グッヘッヘ…」

 

スノーゴブリモンは、メスを手に取ると…

ピコデビモンの解剖を始めた。

 

「ギャアアア!!!ギャギャギャギャギャ!!!」

生きたまま解剖されるピコデビモンは絶叫した。

 

スノーゴブリモンが解剖を進めている中、私は切開部からデータを計測する。

 

デジモンのデータを解析する際、五体満足なまま表層から情報を読み取るのと、切開して体内からデータを読み取るのとでは、採取できる情報の質がはるかに異なる。

 

…バイオシミュレーション研究所のデジモンの進化は、我々クラッカーチームの進化に比べてかなり遅いように見える。

人為的な進化の方向付けも、おそらくデータを食わせてパッチ進化をさせる程度であり、『それ以上』をやっているフシがない。

 

これは勝手な予想だが…

バイオシミュレーション研究所は、生物研究の基本や基本たる『解剖』をろくすっぽやっていないのではないだろうか?

 

だとしたら随分な半端者だ。

生物の研究を深めるには古今東西、生体解剖が必須といえる。

生きたまま循環系や臓器の仕組みを観測するからこそ、様々な知見が得られる。

それはデジモンとて同じことだ。

 

強襲を仕掛けた際、ヤツらは我々の戦力の多様さに驚いていたが…

もし奴らが『解剖』をしていないのだとすると、そこに差が出て当然のことだ。

 

やるべきことをやらずに何が研究者だ。

笑わせてくれる。ただのペット飼育の延長線上ではないか。

私の方がよっぽど『研究者』らしいことをしている。

 

その時、部下の一人から通信が入った。

『ぐふふ、AAA氏ィ!報告があるおww』

 

なんだ?JJ。

私はピコデビモンの解剖で忙しい。後にしろ。

 

『まあまあそう言わずに!今しか見れないおww』

 

…なんだ?今しか見れない?

そう言われると気になるが。

 

『ダルクモンたんの貴重な産卵シーンだおwwハァハァ(;´Д`)』

 

勝手にしろ!

そのくらい貴様が面倒見れるだろう。いちいち急ぎで私に報告することではないだろう。

 

『ななな!こんな可愛いおにゃの子の貴重な産卵の瞬間を見ないなんて!損だお!拙者は部下に向けて実況配信注ですのにwwAAA氏ってホモかお?』

 

違う!

もういいか、切るぞ。

 

『ああ待っ…』

 

あまりにくだらない報告だったので通話を切った。

 

この男のコードネームは『JJ』。

スパイウェア型のズルモン・ゲレモンを使った情報窃盗や、ダルクモンの世話などを担当している。

 

この男はデジモン出現以前からやり手のクラッカーだった。

漫画やアニメ、アダルトコンテンツなどの著作物を違法に複製して無料で公開するサイトを運営していた。

インターフェースの利便性故か、毎日のアクセス数は凄まじいことになっていたようだ。

 

まあ、そんないかがわしいサイトを何の利益もなく運営するはずもなく。

当然ながらサイトにはスパイウェアが仕込まれている。

動画や漫画などを閲覧しに来たユーザーのパソコンにウィルスを送り込み、情報窃盗をしていたのである。

 

かつては上手くいっていたが、近年のJJはやや困っていたようだ。ウィルスセキュリティ技術が格段に向上しており、やり手のクラッカーであるJJですらなかなかユーザーのパソコンにマルウェアを送り込めずに四苦八苦していたのである。

 

そんなコイツに…

私はデジモンを与えた。

 

結果JJは、物凄く狡猾にズルモンやゲレモンを活用し、多大な成果を出した。

自身が運営するサイトへゲレモン達を仕込み、違法アダルトコンテンツを閲覧しに来たユーザーが画像や動画データをダウンロードする際に、ユーザーのパソコンへデジモン伝送路を繋げてゲレモンを送り込むのだ。

 

人間が開発したファイヤウォールなど、伝送路が繋がった状態でのデジモンの前では無力だ。

そうしてJJは大勢のユーザーから情報窃盗に成功し、我々の組織の運営資金を稼ぐことに大いに貢献しているのだ。

『ぐふふ、AAA氏ぃ、ぼくって悪党だと思うかお?』

 

そうだな、大悪党だ。

 

『まぁねぇ』

 

だが、本来有料であるはずのコンテンツをタダで違法に閲覧しようとするユーザー共も悪党だ。

小悪党が大悪党の餌になっているだけだ。一種の食物連鎖だな。

 

『どぅふふww』

 

まあそういうわけだ。

貴様の働きにはこれからも期待しているぞ、JJ。

 

『ほめられたww承認欲求満たされるゥ~www』

 

…ところでだ、JJ。

貴様には以前から、類人猿デジモンの傾向進化の調整を任せていたな。

 

『ういッスw』

 

このプロジェクトを最初に始めたのは私だ。

ほぼ猿同然の姿で言語を扱うこともままならなかったジャングルモジャモンを品種改良し、人の姿に近づけるというプロジェクトだ。

 

医療研究機関から盗んだ様々な人体計測データを類人猿デジモンへ食わせ、パッチ進化を促した。

 

それに加えて、私がでっち上げたインチキ宗教…

アブラハムの宗教観をベースにして単純化した宗教における『天使』のイメージを、類人猿デジモン達の集会の演説にて云い伝え…、

そして『天使の姿に近いほど清く正しく、獣の姿に近いほど穢れている』という固定観念を植え付け、差別を煽ることで、猿デジモン達へ『天使の姿へ近づきたい、近づかねばならない』というストレスと淘汰圧を与え続けた。

 

結果、当初は猿のようだったジャングルモジャモン達が、セピックモンやゴリモン、ハヌモンなどを経て少しずつ人の姿へ近づいていき…、ついに原人型デジモンのフーガモンが誕生した。

 

そこまでは、私がやったことだ。

後はその延長線上のことを繰り返すだけだから、JJにタスクを引き継いだ。

(ただしニセシャッコウモンを使った演説は私自身が担当した。JJに好き勝手に喋らせると計画外のろくでもないことを吹き込みかねないためだ)

 

結果、フーガモンの子孫は、女性型のキンカクモンへ進化し…

キンカクモンの子孫はほぼ人間の、それもアングロサクソン系の少女そっくりなシスタモンへ進化した。

 

そしてそのシスタモンが、天使型のダルクモンへと至った。

 

我々の計画が大きく前進したわけだ。

よくやった。

 

『あざっすww』

 

して…気になることが一点あるのだが、JJ。

 

『なんスか?』

 

…フーガモンの子のキンカクモンから、なぜいきなり女性型になった?

 

『そ、それは、えーっとっすねwwなんででしょww…あ、そうだ、哺乳類型デジモンだから授乳できるようにボインちゃんになったんじゃないですかねwwきっとそうだおww』

 

…正直に答えろ、JJ。

貴様が運営しているサイトに掲載している、卑猥なコンテンツのデータを食わせてパッチ進化を促したな?

 

『ギクッ』

 

どうなんだ。

 

『…なんでばれたんだおww』

 

分からんわけがなかろうが!

キンカクモンといいシスタモンといいダルクモンといい、姿に貴様の趣味が出すぎているんだよ!

 

シスタモン・ブランの件だが…。

類人猿が修道女の姿に近づく進化をするのはいい。聖職者とは天使や神を崇拝する存在だからな。

女性型に近い容姿になるのもまあいいだろう。

 

だがなんだあのデザインは?

ウサギのような被り物を身に着け、フリルがついたピンク色でロリータ系のオタク臭いミニスカ衣装を身に纏っている。

聖職者…というパブリックイメージには随分遠くないか?

ええ?

 

『う、おうぉ…』

 

シスタモンが進化した天使型デジモン、ダルクモンだってそうだ。

まるで水着のような姿じゃないか。

天使型…というには、どうにも布面積が足りないデザインに見えるが?

 

『どぅ、ドゥフフwwwぼくこういうの好きなんスよww』

 

やっぱりじゃないか!!貴様!

これでモヤモヤがハッキリした。

なぜこんな姿に…と思ったが!貴様の仕業か、JJ!!

 

『うぅ…なんかペナルティがあるかお?』

 

…クソ!なんというか…気分的には何か裁きを下してやりたいところだが。

奇しくも貴様は、私が命じた要件をしっかり満たした成果を出している。

 

聖職者型デジモンを経由し、天使型デジモンへの進化を誘発する。

この私以外にこのような傾向進化を促せる手腕を持つ者がいるだろうかと不安だったが、貴様はそのミッションをやり仰せた。

随分趣味に寄せたようだがな。

 

『だって、ゴリマッチョなんか育ててもつまらんおwwどうせやるなら楽しくやんなきゃモチベ上がらねえおwww』

 

…JJにとやかく言うのはここまでにしておこう。

我々の組織はアウトローのならず者の集団だ。そこにまるで健全な会社のように規律や秩序を求めるのはお門違いというものだ。

 

表社会に合わない社会不適合だからこそ、我々の犯罪者集団に流れ着いたのだから。

ある程度好き勝手にやらせるのも、このろくでなし共をまとめ上げるための一つの手だ。

 

だが…JJ。

なんだ、その、あまり卑猥な姿にしすぎるなよ。

今の路線のまま全裸とかにしたらさすがに何らかの処罰を下すからな。

 

『…AAA氏ィ』

 

なんだ。

 

『…コスプレ物で、途中で脱ぐのってクソだと思わないかお?www』

 

知るか!

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