デジタルモンスター研究報告会   作:タマリリス

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ホエーモンの隆盛

現在探しているデジモン…それはクジラ型デジモンのホエーモン。

 

我々が最初に発見した個体は、イルカ型成熟期デジモンであるルカモンが、オクタモン一味に襲われている最中に進化したレベル5の個体だった。

 

凄まじい高出力の戦闘能力と、莫大な消費カロリーを持つ。

これまでにデジタルワールドで観測された中で最大のDPと巨体をもち、ジャガモンやシューティングスターモンを遥かに上回る。

 

ホエーモンはオクタモン一味のゲソモンとシェルモンを瞬殺した。

オクタモンも危うく殺されかけたが、浅瀬へ逃げ、そのまま汽水域まで進み…、そこでホエーモンが岩場へ座礁したことで、どうにかオクタモンは生き延びた。

 

だがオクタモンは二度と海に戻らなかった。

本来、成熟期デジモンは個体としての成長が完成しているが故に、成長期デジモンに比べて環境への適応能力に乏しい。

だからオクタモンは定説通りならば海水から出られない…はずだった。

だが、オクタモンは汽水域へ、やがて淡水へ、進出した。

身体から塩分が抜けていく地獄の苦しみを味わい続けていたが、『戻ってホエーモンに食われたくない』という一心でその苦しみに耐え、淡水に耐えるトレーニングを続け、身体を適応させていった。

そうしているうちに、やがてオクタモンはレベル5へ進化し、陸上へ進出した。それが今我々の目の前にいるベーダモンである。

 

こんな無茶で急激な進化をしたせいか、産んだデジタマが陸上では孵化しないようだ。だから我々にデジタマを預けてきたのだ。

無理のない話だ。両生類型デジモンや、初期のヌメモンだってデジタマは水中に産んでいた。ベーダモンもそうすればいいのではないかと提案したのだが…

ホエーモンへの強い恐怖心から水中生活にトラウマがあるらしく、頑なに水中にデジタマを産むのを恐れている。湖や池でもダメらしい。

このままでは埒が明かない。無理に陸上での孵化を目指すプランよりも、ベーダモンのトラウマを払拭させるプランの方がよほど現実的だ。

 

だからホエーモンが現状でも海で暴れているかどうかを確かめるために、今デジドローンでホエーモンを探しているのだ。

 

しかし、広い海のどこかへやみくもにデジドローンを潜航させてもホエーモンがピンポイントで見つかるとは限らない。

ガッチモンの検索能力は水中には未対応である。

 

そのため、まずは寒冷地の陸上で、ホエーモンの痕跡を(半ばダメ元で)探しているのだ。

 

そうしている我々(のデジドローン)の目の前に現れたのが、この奇妙な姿のデジモン。

シャチに二足歩行の手足が生え、浮き輪とライフジャケットを着用したような姿のデジモンである。

命名オルカモン。

 

…その容姿には、明らかにルカモンやホエーモンの面影があった。

 

エレキモンが一度海に進出したのがルカモン、そしてホエーモン。

おそらくこのオルカモンは、その系統が再び陸上への適応能力を取り戻した形態だ。

 

我々の世界にこのようなニッチの生物は存在していない。

 

「クエエエーーーー!!」

オルカモンは上陸し、そのまま陸上をドテドテと走って逃げた。

 

…何から逃げていたんだ?強力なデジモンだろうか?

我々は、オルカモンが向かってきた方へデジドローンを飛ばす。

 

やがて霧の中から、オルカモンを追っていたものの正体が見えてきた。

 

それは…まったく想定外の物体だった。

 

船だ。

 

全長20mを超える巨大な船である。

船体の左右からはオールが100本近く突き出ており、絶えずオールを漕ぎ続けている。

帆は畳んでいるようだ。

 

船は既にオルカモンを狙っておらず、引き返すために旋回している最中であった。

 

なんだこの船は…!?

誰かが作ったのか?あるいはこういうデジモンなのか?

 

カリアゲは食い入るように船を見ている。

「でけー船だな…それにしてもスピードがすげーぞ!なんだこりゃ!」

 

ピンと来ないけど、そんなに速いの?

「エンジンで動く現代の船のスピードに慣れてると遅く見えるかもしれないけどな。オールで漕ぐ船としてはかなりの速さに見えるぞ!」

 

メガは映像を見て分析している。

「航行速度は約15ノット。時速30kmだ。帆を畳んだ船がこれだけのスピードを出せるのか…」

 

リーダーは驚くような表情で船を見ている。

「これは…ガレー船だ!なぜこんなものがデジタルワールドに!」

 

ガレー船!?なんですかそれ!?

 

「大量の乗組員が手でオールを漕ぎ、自由自在に操舵ができる船だ。帆船と異なり風向きに左右されずに航行できるが、乗組員の疲労が蓄積される上に大量の飲食物を消耗するため長期航海には向かないものだ」

 

長期航海には向かない船…?

何に使うんですか?

 

「海戦だ」

 

戦…!

 

「紀元前3000年頃、古代ギリシャの時代に開発された軍船だが、18世紀に至るまで使われ続けた。構造を見るに、その末期頃のモデルのようだ」

 

そ、それが今なぜ、ここに…?

 

「デジドローンを船へ近付けて、乗組員の顔を拝みたいところだが…、嫌な予感がする。デジドローンがあちらに見つかった時、攻撃されなければいいが」

 

 

そうして見ていると、船の甲板に何かが現れた。

人型のシルエットのデジモンだ。

 

…なんだこいつは!?

その姿は、まるでマンガに出てくるようないかにもな海賊のデザインだった。

 

右手がフックに、左手が大砲になっている。

なんなんだこいつは…!

 

「ムゥーン!もう雑魚はいい!大物はどこだ!」

 

し、喋った!

人語を喋ったぞコイツ!

何らかの形で『人間と関わり、言語教育を施されたデジモン』だ…!

こいつが船長か!?

 

デジドローンが映すその光景を、ベーダモンは食い入るように見ている。

『これは なんと文明的だ 驚いた カリアゲよ 汝の言う通り 文明とは このようなものを造り上げる力をいうのかもしれぬな』

 

なんなんだこの海賊っぽいデジモンは…!

この船で何をしようとしているんだ?

 

 

我々が食い入るようにガレー船を見ている時、クルエが苦々しい表情で呟いた。

 

「ねえ、なんか今私達、ホエーモンを探してるけどさ…。前にホエーモンの子供達のこととか色々動画に撮ってたよね?ベーダモンにそれは見せないの?」

 

あ、そういえばあった。映像資料が。

 

『なんだと あるのか 録画が うぬら何故それを最初に言わぬのだ この空け者共が』

 

空け者…そらけ?なんて読むんだこれ。

ベーダモンのチャットに知らない単語がある。

 

クルエがジトッとした目で答えた。

「うつけもの、だよ。おバカとかそういう意味」

 

なんでそんな言葉教えたんだ!?まあいいけど…。

でも、そりゃそうだ。過去の映像資料をさっさとベーダモンに見せたほうがいいね。

その方が、現状とのつながりが見えやすい。

…先程のオルカモンが何者なのか、なぜあんな進化をしたのかも理解しやすくなるだろう。

 

『さっさと見せろ』

 

オーケー。

私はベーダモンの要請通りに、ホエーモンに関する過去の映像資料を再生した。

 

 

ざっくりかいつまんで説明すると…

 

レベル5のホエーモンは確かに強かったし、運動能力も高かった。

超音波の反射によってソナーのように遠距離のデジモンを探知し、それらを丸呑みにした。

海でホエーモンと戦って勝てる者はいなかった。次々に大量のデジモン達がホエーモンの餌になった。

 

だが、30m近い巨体ゆえに一日に大量の餌を必要とした。

海を荒らしている最中に、海に住むデジモンのほぼ全てが、ホエーモンを常に警戒し、本能的に避けるように進化したのである。

 

これによりレベル5ホエーモンは、大量に餌を確保し続けることが困難になる。

 

その後、ホエーモンは子供を産んだ。

その子供達であるオタマモンはレベル4…成熟期で、ルカモンではなく15mくらいにスケールダウンしたホエーモンへと進化したのだ。

 

レベル4のホエーモンは親よりDPが低かったが、基礎代謝量が減ったため、親ほど大量の餌を常に必要とするわけではなくなった。

無駄に巨大で、無駄に強大すぎたオーバースペックな親と異なり、飢えに苦しまずに済む適切なサイズと戦闘能力へと最適化されたのだ。

 

『レベル5デジモンが産んだ子孫が、成熟期で親と同じ姿かつスケールダウンしたデジモンになる』という進化。

ジュレイモンやドクグモン、カブテリモンなどでも見られた『レベルダウン進化』の先駆けであった。

 

やがて親であるレベル5のホエーモンは姿を消した。

生死は不明。死骸は発見されていないが、生きている姿も発見されていない。デジドローンの耐圧力では潜れない深海で活動しているのか、未探索エリアで生きているのか…。

 

姿を消した親の代わりに、第2世代型ホエーモン…レベル4のホエーモン達が海を荒らし尽くした。

何者もホエーモンに敵わなかった。

 

しかしながら、海のデジモン達は死に絶えはしなかった。

『ホエーモンがいる環境』に適応する進化をしたのだ。

 

それは、ホエーモンの鳴き声…

特に、獲物の位置を反響で調べるための超音波ソナー音を、海のデジモン達は聴き取り、猛スピードで逃げるようになったのだ。

 

ゆえにレベル4のホエーモン達は、獲物を捕まえることができなくなった。

そして、子孫である第三世代型ホエーモンを残し…、第2世代型ホエーモンは全て餓死したのだ。

 

第三世代型ホエーモンは、相変わらず15mほどの巨体だ。しかし、それまでの祖先とは全く異なる食性をとっていた。

所謂プランクトン食である。

大食いではあるが、祖先たちに比べればDPは五分の一ほどだ。

 

ホエーモンのソナー音は、海のデジモン達にすっかり警戒され攻略されてしまったようだが…、それでも尚捕獲できる獲物がいた。

 

それは、ピチモンやポヨモン等のプランクトンデジモン。

『海流に逆らわずに漂っているデジモン』達である。

 

自力で泳いで逃げることができないのだから、超音波が聴こえるとか聴こえないとか関係ない。

 

第三世代型ホエーモンは、超音波によってプランクトンデジモンの位置を捉え、ゆっくり泳いでそれらを飲み込む。

海水の中から喉の毛で濾し取って消化するのだ。

 

その巨体がもつ機能は、筋肉の塊というよりは、獲物のプランクトンをたくさん取り込むための巨大な袋のようであった。

 

第三世代型ホエーモンは白兵戦闘能力が乏しいのだが…、その大声とソナー音は海のデジモン達の本能に、根源的恐怖として刻み込まれている。

故にどんなに非力でも、その巨体から大声を響かせれば、どんな相手も逃げていくので襲われることはない。

祖先が暴れた恩恵を受け、虚仮威しによって無敵の存在になったのである。

 

…我々が過去に観察したホエーモンに関する記録はこれが全てだ。

 

どうだった?ベーダモン。

少しは安心した?第一~第二世代型の強いやつがいなくなって。

 

『ここから 随分時が 経ったようだが 今はどうなっている』

 

それを今調べようとしているんだよ。

 

『ということは 第三世代型ホエーモンの子孫が また先祖返りして 強くなっている可能性も あるか』

 

あるね。

 

『引き続き 調査を進めよ 余の下僕共よ』

 

了解。

 

 

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