フローラモンは、コマンドラモン同様に、マッシュモンとも対話を試みて、例の教材ソフトを使って我々の言語を教えていた。
マッシュモンは、もともと独自の言語を使って会話ができていた…。そのせいか、我々の言語も比較的早く覚えた。
以後、ビオトープに連れてきたこの個体を、「ボスマッシュモン」と呼ぼう。
ボスマッシュモン「モシュシン!マシシシ、モシャンモムメメ、マシマショウ!マシマ、ママシシ、メシュマメムモモシャ、マシマ?」
…んんん?
これはマッシュモン語だろうか…?
我々にコンタクトを試みているのだろうか。
私は答えた。
「我々は君達の言葉が分からない。我々は君達と意思の疎通を望んでいる」
マッシュモンは、ウムムと悩んでいるようだ。
そこへコマンドラモンが、教材ソフトの音声読み上げ機能を差し出した。
マッシュモンはその使い方を見て、文字を入力した。
『かみよ、ありがとう。われわれに、ごはんをくれて。たすかっている、とても』
…。
マッシュモンが伝えてきたことはそれだけだった。
私は返答した。
「君達はどこからやってきたのか?いつからいたのか?君達の目的はなんなのか?」
ボスマッシュモン『わからない。あのばしょで、うまれた。なかまいない。だから、なかまふやした』
「君たちは増えすぎた。あの場所も狭くなってきただろう、別の場所に移る気はないか?」
ボスマッシュモン『ごはんは、たりている』
「あげられるご飯の量には限界がある。これ以上増殖されると、供給が追いつかない」
ボスマッシュモン『それはこまる。なら、たくさん、かびを、ふやしてる。かびをたべる。それで、いきられる』
カビ?
…ああ、ポスター等に生えていたやつか。
あれはパソコン内の様々なデータを分解してカビに変換していたのか。
…喋らない菌類なら、簡単に始末できるんだが…
この喋る菌類はそう簡単にはいかなさそうだ。
「このパソコンは、我々が研究のために活用している。このまま殖えられて、研究データを食べられると、我々はとても困る」
ボスマッシュモン『けんきゅうとは、なに?わからない』
…まあそうなるか…。
どう説得すればいいんだ?
研究とは何かを説明すればよいのだろうか?…ううむ、どこから説明すべきなんだろうか。
私はデジドローンをデジタルワールドに放ち、マッシュモンの住みやすそうな場所(凶暴な肉食デジモンがいないところ)の映像を見せて移住を勧めてみた。
ボスマッシュモン『いきたくない。そこには、とてもおそろしいてきがいる、きがする。たべられてしまう。たべられたくない』
「あのPC内で生まれたはずなら、デジタルワールドの記憶は無いのでは?」
ボスマッシュモン『おぼえてはいないけど、わかる。おおきくてつよい、むしがいる。だれか、だいじなだれかが、たべられた。からだが、おぼえている。たべられたくない。たべられたくない』
…よくペットの動物が飼い主の元から脱走して、厳しい環境で生きられず、衰弱の果てにカラス等に食われる等の末路を辿るのを聞いたことがある。
ペットの動物は外界を知らないから、飼い主の家が一番安全に生きられることも分からない。
だが好奇心ゆえに家の外を探検してみたくなり、その結果危険に晒されるという愚行をするのである。
正直、このマッシュモンも同じように、外に興味を持たせて脱走させてしまえば片付くのではないか…と考えていた。
だが、予想外なことに、潜在意識の中に外敵への警戒心があるらしい。
ええいちくしょう!そんなの後出しジャンケンだ!ズルいぞ!
だが、納得もしていた。
なぜ彼らはただのキノコではなく『毒キノコ』の姿をしているのか。
おそらく、森林でスコピオモンあたりが暴れていたときに産まれたデジモンなのだろう。
植物系デジモンの仲間たちが次々と捕食されているうちに、毒キノコとなってどんどん殖えるという形で環境に適応したのだろうか。
我々がビオトープ作りのためにデジタルワールドから土や植物を採取しているときに、その胞子がそれらに付着し、パソコンの中に住み着いた…ということだろうか。
我々は、スコピオモンがジャガモンに倒される映像を見せた。
「デカい虫はもう倒された。森林は平和なはずだ。のびのび生きていけるはずだ」
ボスマッシュモン『まだいるかもしれない、あんぜんなところにすみたい』
図々しいぞちくしょう!だんだん腹立ってきたな…タダ飯喰らいの分際で!
だが、落ち着こう。冷静になろう。冷静に、効率的に対処しよう。
女性研究者「ところで、なんで巣の中にピンボールとかソリティアみたいなゲームがあったんですか?」
ボスマッシュモン『あれはだいじなもの。たいくつなとき、みんなであそべる。さびしくならない』
「その大事な物が無くなったら困るか?」
ボスマッシュモン『とてもこまる』
「ピンボールやソリティアを食べてしまおうとする奴がいたら、どうする?」
ボスマッシュモン『それはてきだ。たたかって、やっつける』
「あのパソコンの中には、私にとって大事な物がたくさんある。君達にとってのピンボールやソリティア以上に大事なものだ。君達はそれを食べようとしている」
ボスマッシュモン『…』
「そのまま居座り続けられると、君達がゲームを守るためにやると言ったことを、私達が君達にやらなくてはならなくなる」
ボスマッシュモン『…かみさまと、たたかいたくはない』
我々は協議した。
様々な意見が飛び交った。
もう面倒臭いし、だいたいマッシュモン共のことは分かったから、このパソコンを初期化してしまえばよいのではないか、という意見。
デジタルワールドが嫌なら、もっと安いPCをたくさん用意して、それらへ移住させればよいのではないか、という意見。
マッシュモンの天敵をデジタルワールドの中から探して、その子供を育成してパソコンへ放り込み、生体駆除ないしデジタルワールドへ追い出せばよいのではないか、という意見。
…どれも一長一短ある。
だが、採用できる案はひとつしかない。
…
私は休日に、高校時代の友人と宅飲みしながら、マッシュモンのことを話してみた。
友人「え?パソコン内に住んでて、喋れる生き物?おもしろそー、飼ってみてーww」
いやいや…。
すごい勢いで殖えるんだぞ。
パソコン内にうじゃうじゃ増えたらどうする。
友人「パソコンが危ないなら、ゲーム機とかに入れればいいんじゃね?デジモン飼育専用の端末とか用意してさ」
うーん。
どんどん殖えるんだぞ?端末が食い尽くされかねないぞ。
友人「デジモンって環境に適応すんだろ?だったら、ちっちゃい端末で生きられるように進化するんじゃねww」
…簡単に言ってくれるな。
だが、…うーむ。ん?
…一概に否定できないぞ?
パンピーの突拍子もない発想というのは、時に私の想像を超えてくる。
可能なんだろうか?そんなことが…。
もたもたしていると、どの案も採用できなくなるくらい個体数が殖えかねない。
決断を迫られる日は…近い。