マッシュモンに、あの巣のことを聞いてみた。
ボスマッシュモン『きがついたとき わたしは ひとりだった なかまが ほしかった』
ボスマッシュモン『だからわたしは なかまを ふやした』
ボスマッシュモン『わたしは ことばを おしえて かれらに おしえた。さびしく なくなった』
ボスマッシュモン『みんなで げーむをたのしんだり かみさまに いのりのおどりを ささげるのは たのしかった』
ボスマッシュモン『だけど おそろしいてきが くるきがした。だから おおきな しんでんを つくった』
ボスマッシュモン『そうして いまに いたる』
…。
なるほど…。
研究グループ内で協議が行われた。
スポンサーの方も通話ソフトで加わっている。
リーダー「私が最初に提案してしまうと、皆それに引っ張られかねない。私はまず聞く側に回ろう」
カリアゲの研究員「俺は…例のPCをまっさらにしてしまうしかないと考えている」
痩せた研究員「えぇ…」
カリアゲの研究員「だってよ…元々あれを残していたのは、調査をするためだろう。んで、もう知りたいことは大体分かったよ。じゃあもう、いいだろ…」
痩せた研究員「マッシュモン達は、ぼくらを慕ってくれている!対話が通じる相手なんだ!それを皆殺しにするなんて…もうちょっとやりようがあるだろう!」
カリアゲの研究員「じゃあなんだ?問題を先送りにし続けて、こいつにメインPCをBIOSまで食い尽くされるような取り返しの付かないところに来てしまうのを待つってのか!?」
痩せた研究員「そ、そんなこと…!」
カリアゲの研究員「じゃあどうするんだ、言ってみろよ」
痩せた研究員「…安いパソコンをいくつか用意して、そこに住ませるとか…」
カリアゲの研究員「んで、そのパソコンが餌の供給の限界を迎えたら、また何台も買うのか!?クソの役にも立たないパソコン何台買って電気代食わせまくりゃいいんだ!」
スポンサー『我々が提供した資金を、無駄な出費に使うようなら、別のグループ出資することを選んでもいいんだが?』
痩せた研究員「う、うぅ…」
リーダー「他に案のある者はいるか?」
提案の前に、ひとつ質問があります。
マッシュモンは、なぜあんなにたくさんパソコンの中で増えたのでしょうか?
リーダー「外敵への恐怖感からくる防衛本能ではないのか」
なるほど、そうかもしれません。
では、何故ただのキノコのように地面に生えるのではなく、歩き回り、歌ったり踊ったりゲームをしていたのでしょうか?
リーダー「それは…。…何故だ?餌が限られた量であれば、無駄に歩き回るのは効率的ではないな。それに外敵を恐れているのであれば、歌を歌って自分たちの居場所を知らせる必要もない」
そうです。
マッシュモンは、とても高度なコミュニケーション能力を持っています。
フローラモンやコマンドラモンでさえ、自分からあんなにメッセージを発信することはできていません。
マッシュモンは…デジタルワールドにいた頃、高いコミュニケーション能力をもち、仲間達と団欒をしながら暮らしていたと考えられます。
集団生活を好むということは…それだけ孤独を恐れるということ。
マッシュモンがパソコン内でたくさん殖え、そして歌や踊り、ゲームをしていたのはそのためです。
マッシュモンは…進化によって、高度な感情を『得てしまった』。
そうであるが故に、孤独と退屈を『苦痛』と感じるようになってしまった。
だから一見非効率的に見える矛盾した行動をして、寂しさを紛らわせて生きていかなくてはいけなかった。
我々を神と崇め、神殿まで作ったのは…我々に構ってほしかったからなのです。
リーダー「…つまり?」
マッシュモンは、外敵からの捕食に適応するために進化した、というよりは…
『孤独』に適応するために進化をしたのです。
つまり。
寂しくなくなり、誰かに護ってもらえる安心感さえ得られれば、マッシュモンは大量増殖する必要がなくなるのです。
リーダー「…それで、君が提案するのはどんな案なんだ?」
マッシュモンを、ゲーム機のような小型端末へ収納し、それを有志へデジタルペットとして販売するのです。
カリアゲの研究員「何っ!?お前、そんなことしたら…!」
当然、我々のビオトープと同様のファイヤウォールを導入し、脱走しないようにします。
カリアゲの研究員「そ、それでも…!小型端末じゃ、殖えたときすぐいっぱいになっちまうぞ!」
デジモンは環境に適応して進化する生き物です。
それも実験の一環ですよ。
そのリスクを説明した上で、実験協力者を募るんです。
攻略サイトを見れば結果が分かってしまうようなゲームとは違う、本当の未知の領域です。
そこに魅力を感じる方がいるというのは…研究者である我々なら理解は難しくないでしょう。
痩せた研究員「ま、マッシュモンをお金儲けのために売り飛ばすっていうのか!?僕達と慕ってくれている子達を!そんなの非人道て…」
スポンサー『そこの痩せた研究員くん!!!シャラップ!!!全く君はナンセンスだな、我々はそのために君たちへ出資しているのだぞ!!』
痩せた研究員「!?」
スポンサー『そこの君、続けたまえ!』
端末には、一般的なwifiモデルタブレットを使用します。
マッシュモンは他者との対話を好むため、言語教育用の教材ソフトをプリインストールしておき、ユーザーと音声読み上げ機能で話ができるようにします。
無論、飛行機能をオミットしたデジドローンVRや、解像度をデチューンして処理を軽くしたデジクオリアもプリインストールします。
価格はだいたい30万円前後でよいでしょう。
カリアゲの研究員「た…高くないか?」
犬のトイプードルなんて60万円しますよ。
猫のスコティッシュフォールドで相場30万円です。
それより希少な存在なんです。
むしろ安上がりでしょう。
スポンサー『むしろ安上がり、と言ったが…利益は出るのかね?』
痩せた研究員「そ、それに!餌はどうするんだ?端末のCPUに負荷かけてデータマイニングソフトでもぶん回すのか?入力データも無しじゃそれは無理だよ」
餌となるペレットは我々が生産し、有料DLCとして販売します。
スポンサー『ハーッハッハ!いいねぇ君!素晴らしい是非とも君の案でいきたいねぇ!』
痩せた研究員「!?ま、まじですか」
スポンサー『もしよかったら、スポンサー特権で是非とも優先的に売って欲しい客がいるんだがいいかね?』
リーダー「誰です?」
スポンサー『私の娘だ』
リーダー「…なるほど」
痩せた研究員「で、でもなぁ…。仲良くなれた相手をだよ?お金のために売り飛ばすってのは、ちょっと気が引けるなぁ…」
お金のためというのは少々語弊がありますね。
正しくは、研究のためです。
育成端末からは、定期的に育成のログデータを我々のサーバーへ送信させます。
これにより、ユーザーはデジタルペットを自由に育成できる。
我々は、メインPCを取り戻せる上に、同一の遺伝子をもつデジモンが、異なる外部刺激を与えられて育成されたらどのように変化が生じるか調べることができる。
マッシュモンは、飼い主とコミュニケーションが取れるから寂しくなくなるし、デジタルワールドへ帰る必要も消去される必要もない。
三方一両得。win-win-winの取引です。
カリアゲの研究員「だけど、もし売れなかったらどうするんだよ…」
ええと、そ、それは…。
女性研究員「別に売れないなら売れないでいいんじゃないですか?」
え?
女性研究員「私達の当初の目的はメインPCの奪還ですよね?うまいこと言ってマッシュモン達を端末に送ることさえできればそれで十分目的は達成されるじゃないですか。安いタブレット端末数十台でそれができるんなら、どう転がってもメリットになりますよ。売れるかどうかなんて、オマケですオマケ。在庫が余ったらぽいちょすればいいんです」
…あー。この人…案外すごい事言うな。
…とまあ、これが私の案です。
リーダー「…他に案のある者はいるか?」
モヒカンの研究員「いやぁ…今のを聞いたらもうね…拍手しか出ないや…」
リーダー「カリアゲ、細身。君達はどうだ」
カリアゲの研究員「…リスク対策は怠るなよ。どう考えても消してしまうのが一番安全ではあるんだからな」
痩せた研究員「…マッシュモンが幸せになれるんなら、まあ…」
リーダー「…決まりだな」
スポンサー『では!そうと決まれば!私は早速研究協力者を募るとしよう!君たちは端末の用意とマッシュモンの説得を頑張りたまえ!君達の素晴らしい活躍に期待している!』
…案が通った…。
マッシュモンに、とりあえず必要なことだけ聞いてみよう。
…
ボスマッシュモン『われわれは かみさまと はなればなれに なるのか』
別れがあれば、出会いもある。
私達だけでは、これだけたくさんのマッシュモンをみんな面倒見れるだけの余裕はない。
これからは、新しい神様と仲良くしてほしい。
ボスマッシュモン『…なかまたちは わたしが、せっとくする。…このわたしも、あなたと はなればなれに なるのか』
…必要以上に殖えないなら、ここにいてもいい。
ボスマッシュモン『それは ほんとうか』
…できれば他の個体たちに、我々の言葉を教えてあげてくれ。
ボスマッシュモン『それが おんがえしになるなら そうする われらが かみよ』
…
それから、私達が端末販売の準備をしている間。
ボスマッシュモンは、マッシュモン達に我々の言葉を教えた。
そして、「もうすぐこの世界は闇に閉ざされる。だが神は、我々に方舟を用意してくださった。もうすぐ出航の時は訪れるだろう、その時こそ我等は神の使いとなりて、新たな神と出会い、新世界のために使える使徒となるのだ」等と仰々しく語ると、大勢のマッシュモン達は感涙しながらバンザイしていた。
何の書物に影響されたんだ…?
あ、そうか。
デジモンの魂の研究のために、メインPCには民俗学や宗教学の資料も入れてたんだっけ。
多分それを食ったんだな。
スポンサー『君!研究協力者を募ってみたよ。そうしたところ…どうなったと思う?』
どうなったんでしょうか。
スポンサー『販売予定の端末56台に対して、世界中から合計10万件を寄せる購入希望者が応募してきたよ!問い合わせが殺到している!素晴らしい!』
ヒエッ…
どうしましょう。
スポンサー『そういうわけだ!マッシュモン達は日本語の勉強中とのことだし、フランス人やアメリカ人の日本語勉強の役にも立ってくれるかもしれないな!』
…とりあえず、56台は在庫なしで捌けるんですね。よかったです。
スポンサー『もっとたくさん作れないか?マッシュモンってたくさん殖えるんだろう?』
さすがにマッシュモンにどんどん繁殖しろって言うのは無理筋です。
我々にも応えられる期待と応えられない期待があります。
スポンサー『それもそうか!ハハハ!』
スポンサー『それはそうと君!いちばん大事なもの決め忘れていないかね?』
いちばん大事なもの…?
スポンサー『そう、このデジタルペットを入れた端末の商品名だよ!なんかこう、ビシっとカッコよくて、それでいて親しみが持てそうな感じの商品名をつけてくれたまえ!』
分かりました。
端末の商品名は…
「デジタルモンスター」です。