硫化水素とアミノ酸が吹き出る熱水噴出孔。
その付近にあるタマゴから、デジモンが産まれた。
このスライム状の幼いデジモンは、やがて熱水噴出孔から離れ、海底をズルズルと這い始めた。
我々はこのデジモンを「ズルモン」と命名した。
さて、このズルモンだが、スイムモンやガニモンに見つかっても、一向に捕食される様子がない。
時折スイムモンが飲み込もうとするが、すぐに吐き出してしまう。
どうやら毒素を含む肉体を持っているようだ。
ズルモンの周囲には、石のようなデジモン…ゴロモンが歩き回っている。
しばらく放置すると、ズルモンもやがてゴロモンへと進化した。
ゴロモンは二本足で海底を歩き回り、海藻や砂を食べている。
排泄物は、そのほとんどが砂を占める。
おそらく、砂の中から微生物やミネラル、死んだデジモンの残骸などをより分けて吸収しているのであろう。
そして、食べた砂のいくらかを外殻の生成に利用している。
この外殻はとても硬い。
そして何よりも、石に擬態することで捕食者から身を護るのに役立っているようだ。
スイムモンやガニモンは、擬態中のゴロモンを見かけても、特に反応を示さない。
だが、ゴロモン達にも天敵はいるようだ。
シャコモンがそれだ。
シャコモンの中には、ゴロモンを殻の中へ閉じ込め、じわじわと消化することを覚えた個体もいるようだ…。
さて、今我々が観察しているゴロモンには、シャコモンという天敵が存在することになる。
ゴロモンは、のっしのっしと河口へ向かい、上陸を試みた。
途中、天敵のシャコモンと出くわし、真珠を撃ち出されることがあったものの、幸運にも生き延びた。
やがてゴロモンは、シャコモンが苦手とする酸性の強い水域を歩くようになった。
活火山から流れてきた溶岩が、硫化水素を水に溶かし、硫酸で海水を毒化させているのだ。
ゴロモンはズルモン時代の毒素は失ったが、毒への耐性は持ったままらしい。
そのままゴロモンは、活火山の見える浜辺へと上陸した。
ゴロモンがたどり着いた陸地は、植物がほとんど見当たらなかった。
それもそのはずだ。
活火山から流れ出る溶岩や火山灰が、常に大地へ降り注いでいるからだ。
流石に火山から数十キロ離れれば、緑地も見えてくるが…
こんなところでゴロモンは生き延びられるのだろうか?
ゴロモンは緑地への移動を開始した。
個体によってはここへ住み着く者もいるかもしれないが…
この個体はそうではなかったようだ。
やがてゴロモンは、より陸上での活動に適した姿へと進化した。
我々はこの種をゴツモンと名付けた。
ゴツモンはゴロモンの頃よりも歩くスピードが早く、餌を食べる量も多い。
やがてゴツモンは緑地へと辿り着いた。
ゴツモンが辿り着いたのは、植物が生い茂る森林であった。
この付近は未調査エリアである。
このゴツモンは、時折石や土を口にすることもあるが、基本は草食のデジモンのようだ。
ゴツモンは食べやすそうな植物を探している。
あまり硬い草は消化に適さないと判断し、柔らかい草を食べている。
やがてそんなゴツモンは、地面から奇妙な草花が生えているのを見つけた。
草花であるにも関わらず、稀にぴょこぴょこ動くのである。
さらに、その周囲には、土が掘り返されたような痕跡がある。
ゴツモンは、それらの草花の部分だけを食べた。
草花を食いちぎられた植物は、茎をぶんぶんと震わせたが、やがて動きが止まった。
ゴツモンが去ってから一時間後に、草花は徐々に再生を始めた。
…もしかしたら、これもデジモンなのかもしれない。
ゴツモンはそれからも、動く植物の草花の部分だけを食べ続けた。
掘り返して根っこまで食えばさらに栄養を補給できるであろうに、その選択はしないようだ。
そんなゴツモンは、しばらくの間、捕食者に狙われることが無かった。
なにせ見た目が岩なのである。岩に擬態すれば、スナイモンに襲われることは無かった。
だがある日…ゴツモンは、枯れ木に襲われた。
いや、正確には、枯れ木に擬態するデジモンである。
枯れ木に擬態するデジモン…ウッドモンは、無防備なゴツモンへ襲いかかった。
ゴツモンは驚いて逃げようとした。
だがウッドモンが伸ばした根は、ゴツモンの右腕に絡みつく。
ゴツモンは、己の右腕を切り離して逃げた。
ウッドモンは、切り離されたゴツモンの右腕へ触手を突き刺し、エネルギーを吸い取った。
驚いた。こんなデジモンがいるとは…。
現実世界にも食虫植物などはあるが、植物の体を持ちながら、ここまでアグレッシブに捕食活動をする植物など存在しない。
…右腕を失ったゴツモン。
彼は不幸なのであろうか?
否、幸運である。
あれだけ獰猛な捕食者に襲われながら、失ったのが右腕一本で済んだのだから。
これまで天敵知らずでのんびり暮らしていたゴツモンであったが…ウッドモンという天敵が現れた。
「枯れ木に近寄らなければいい」と思うかもしれないが、ウッドモンには歩行能力がある。
擬態などせずとも、飛行できないデジモン…ゴツモンやワームモン、ヌメモン等に対しては、普通に歩いて襲いかかるだけでも捕食できるのである。
ゴツモンはウッドモンに襲われないように、山岳地帯へ移動した。
ウッドモンは平地を走るのは得意だが、高所への登り下りがニガテだという弱点を発見したためだ。
しかし山岳地帯には、栄養価のある植物は多くはない。
この環境に適応するために…
ゴツモンは驚くべき進化を遂げた。
高い移動能力を獲得した。
走るスピードが早くなっただけではなく、原理不明の飛行能力を獲得したのである。
流れ星のように高速で移動するこのデジモンを、我々はスターモンと名付けた。
スターモンは常に飛行し続けているわけではなく、普段は地上を歩いて移動する。
ある日スターモンは、ウッドモンに襲われた。
だがスターモンは、素早い動きでウッドモンを翻弄し、背後に回った。
そしてパンチを放って反撃した。
ウッドモンは、負けじとスターモンに根を伸ばして絡め取った。
このままでは、根を突き刺されて体液を吸われてしまう…!
だが、スターモンはとんでもない方法でこの窮地を脱した。
なんとスターモンは、高速パンチのラッシュを放ち、体液を吸われる前にウッドモンを滅多打ちにしたのである。
ウッドモンは昏倒し、スターモンに背を向けて逃走しようとする。
だが、スピードではスターモンの方が遥かに上だ。
ウッドモンの後頭部をスターモンのパンチが叩き割り、ウッドモンは地に倒れ伏した。
スターモンは、ウッドモンの死骸を捕食した。
たくさんのデジモンから栄養を吸い取っていたウッドモンの肉体は、豊富な養分を持っていたようだ。
そうしてスターモンは、ウッドモンを見つけては、それに自ら挑んで殴り倒し、捕食するようになった。
いつしかスターモンの巣の周りには、ワームモンやテントモンといった、弱くてウッドモンに食われやすいデジモンが住み着くようになった。
彼らの目には、スターモンは天敵を打ち倒してくれるヒーローのように映っているのかもしれない…。
やがてスターモンは、巣の中でいくつかタマゴを産んだ。
産んだタマゴからは、ズルモンではなく、砂に似たデジモンが産まれた。
我々はこのデジモンを、スナモンと名付けた。
我々は驚かされた。てっきりズルモンが産まれるものとばかり考えていたからだ。
デジモンという生物は、我々の世界の生物とは成長の仕方が大きく異なるようだ。
デジモンは成長するに従って、自らの遺伝子そのものを大きく変化させていく。
そしてタマゴを産んだとき、己の最新の遺伝子をそのタマゴへ受け継がせるのである。
このスナモンは、親と同じスターモンへと成長するのであろうか?
それとも…
前回観察対象としていたヌメモンは、ヤンマモンに捕食されてしまったため、観察対象の変更を余儀なくされた。
だが、今回のスターモンは、未だ負け知らずである。
親となったデジモンが、これから先どうなっていくのか…
引き続き観察を続ける。