3体の恐竜型デジモンは、食事を終えた後、別れて行動し始めた。
彼らの動きは、何かを探し回っているようにも見える。
すると、ティラノモンの足下へ、一体のデジモンが近寄ってきた。
草食恐竜型デジモン、モノクロモンである。
「火で敵を焼き払って餌を仕留める」という生態は、モノクロモンも持っているものだ。
分厚い装甲と強いパワーを持つモノクロモンは、現在は森林で最強のデジモンの候補のひとつとして数えられている。
モノクロモンは、ティラノモンに向かって吠えた。
「俺の縄張りを荒らすな」と言わんばかりだ。
笑みを浮かべるティラノモン。
二体の強力な恐竜型デジモン同士が激突した。
…その頃。
普段は寝てばかりいるジャガモンは…
珍しく起きていた。
その肉体は、以前見たときよりもさらに巨大になっていた。
レベル5になってからも成長しているのだろうか。
炎に包まれている木々の方をじっと眺めているようだ。
やがてジャガモンは、その巨大な体をゆっくりと起こし、四本脚で立ち上がった。
だが…ジャガモンは、恐竜デジモン達の方を向いてはいない。
…むしろ、彼らのすぐ近くにある、何か別のものを、見ているように思えた。
しばらくすると、ジャガモンは森林の中を徘徊し始めた。
ベジーモンや、テントモン、マッシュモン等、大勢のデジモンがジャガモンの方へ駆け寄ってきた。
そしてジャガモンの足を登り、岩のような体の隙間へ、次々と隠れていった。
やがて、モノクロモンの死骸を完食したティラノモンは、グレイモンとグラウモンに合流し、ジャガモンの方へ駆け寄ってきた。
そして3体はジャガモンへ火炎放射を浴びせた。
ジャガモンは、体内へ大勢の森のデジモン達を収納し、岩の隙間を閉じて丸まった。
十数秒の火炎放射が続いた。
やがて火炎放射が止まると…
ジャガモンの体表は、火鉢に放り込まれた石のように、赤熱していた。
グレイモンは、ジャガモンを尻尾で叩いた。
グラウモンは、腕の刃でジャガモンの岩を剥がそうとした。
ティラノモンは、ジャガモンの岩を噛んで剥がそうとした。
…だが、ジャガモンはびくともしない。
グレイモン達は、繰り返しジャガモンへ火炎放射と打撃を浴びせ続けた。
熱で脆くなったジャガモンの岩は、さすがにヒビが入る。
…そのとき。
突如、地面の土が盛り上がり、地中から何か巨大なものが出現した。
ジャガモンをタコ殴りにしていたグレイモン達は、突然の轟音に驚いた。
その巨大な何者かは、素早く蔓を伸ばし、ティラノモンの首を絞め、持ち上げた。
…巨大な植物型デジモンだ。
ジャガモン程のサイズではないが、グレイモン達3体を横に並べても尚、一回りほど上回るサイズであった。
頭部は花のようになっており、そこから無数の蔓が生えた姿だ。蔓には茨のトゲのようなものが生えている。
植物型デジモンは、ティラノモンの頭を勢いよく地面へ叩きつけた。
頭部を強打したティラノモンは、うめき声を上げた。
グレイモンとグラウモンは、巨大植物デジモン…ブロッサモンへ火炎放射を浴びせた。
ブロッサモンは、怒号をあげながら、それを無数の蔓で防御する。
火炎放射が止まると、防御に使った蔓が焼け落ちて、ちょっと表面が焦げたブロッサモンの顔が現れた。
…蔓を何本も犠牲にしたとはいえ、スターモンさえ葬った最強クラスの2体の恐竜デジモンの強力な火炎放射を耐えきるとは、このデジモンは何者であろうか。
最強クラスのレベル4…成熟期である恐竜デジモン達よりも、さらに一回り強力なレベル4か?
あるいは、ジャガモンと同じくレベル5に到達しているのか…?
ジャガモンが一歩前に踏み出し、グレイモン達へ近づこうとした。
加勢しようとしているのだろうか?
だが、ブロッサモンはジャガモンを睨んで吠えた。
それを見たジャガモンは、一歩下がって元の位置へ戻った。
ブロッサモンは、ジャガモンからグレイモン達の方へ、視線を移した。
戦いは熾烈を極めた。
ブロッサモンは、鋭い蔓の鞭でグレイモン達へ攻撃を仕掛けた。
蔓の先端に生えている花弁は、刃物のように鋭利だ。
グレイモンの右腕に、鞭が直撃した。
腕には深い切り傷がつき、どくどくと出血している。
これを恐れたグレイモン達は、3体で代わる代わる火炎放射をすることで、蔓の攻撃を牽制した。
恐竜デジモン達は、火炎放射の後にしばらくインターバルが必要なようだ。
一体が火炎放射をブロッサモンへ浴びせる。
炎が止んだら、ブロッサモンが蔓攻撃を仕掛けてくる前に、すかさず二体目が火炎放射を浴びせる。
そうやってローテーションを組み、ブロッサモンの蔓攻撃を封じつつ、火炎放射の防御のために蔓を消費させ続けた。
それが続いたせいか、ブロッサモンの蔓の再生スピードはだんだん遅くなっていった。
だが、ブロッサモンも負けていない。
火炎放射を大量の蔓で防御しながら、蔓の壁の内側に攻撃用の蔓を仕込んでいたのだ。
火炎放射が止んだ瞬間、防御に使った蔓の壁の中から、攻撃用の蔓を伸ばし、恐竜デジモン達の隙をついて攻撃した。
しばらくの間、戦況は五分五分だったが…
ブロッサモンが放った蔓の攻撃が、ティラノモンの喉を真横に切り裂いた。
ティラノモンは、喉の裂け目から夥しい量の血飛沫と火炎を噴射しながら、ブロッサモンの上に倒れ込んだ。
恐竜デジモン達は、だんだん火炎放射の威力が衰えてきている。
炎を吐くのに必要なエネルギーが尽きかけているようだ。
それに加えて、ティラノモンは喉を切り裂かれて倒れた。
ゆえに波状攻撃のペースは遅くならざるを得ない。
不動のジャガモンの目前で戦うブロッサモンは、己の優勢を悟ったのか、口を歪ませて笑みを浮かべた。
戦いの前は、青々とした森林が生い茂っていたというのに。
周囲は既に炎に包まれ、燃えた木と灰に覆われていた。
恐竜デジモン達が捕食活動のために突き進んできた進路は、上空から見るとはっきりとした黒い線となっていた。
燃え尽きた木々が、黒い線を引いていたのである。
もうすぐこの戦いは終わるだろうか…
そんな気持ちで眺めていた我々は、不思議なものを見た。
恐竜デジモン達が突き進んできた黒い線が…
猛烈な勢いで灰煙を立て始めたのである。
まるで、燃え尽きた木々と灰の中を、何かが突き進んでいるかのように…。
グラウモンが、ブロッサモンに火炎放射を吹きかけようとしたが…
ブロッサモンは蔓を伸ばし、強引にグラウモンの口を閉じさせた。
炎を吐き出せなくなったグラウモン。
ブロッサモンは火傷だらけの痛々しく満身創痍な肉体を大きく震わせて、グラウモンの心臓をめがけて、蔓を突き刺そうとした。
…その時。
一瞬だった。
燃えた木々の中から、凄まじい勢いをつけた二体の巨大な影が飛び出してきたのである。
あまりに突然の出来事だったため、反応できなかったブロッサモンは…
飛び出してきた『何者か』の体当たりをまともに食らい、太い茎の中心へ、巨大な角を深々と突き刺された。
絶叫を上げるブロッサモン。
傷口から、夥しい量の体液が噴出した。
ブロッサモンを突き刺した、二体のデジモン達は…我々が見たことがあるデジモンだった。
…タスクモンだ。
森に適応できず、すごすごと逃げ帰っていったはずの彼らが、何故ここにいるのか。
何故このタイミングで、突撃を仕掛けてきたのだろうか。
タスクモン達の体当たり攻撃は、ブロッサモンに深い深いダメージを与えたようだ。
ブロッサモンは、己の茎に突き刺さったタスクモン達へ蔓を巻き付け、死にものぐるいで引き剥がそうとした。
そうして無防備になった顔面に…
グラウモンは火炎放射を浴びせかけた。
これまでは、苦手な火炎放射を蔓で防御することで凌いできたブロッサモン。
まともに顔面に火炎放射を浴びたブロッサモンは、断末魔のような叫びを上げながら、燃える頭をぶんぶんと震わせた。
そこへ、グレイモンが追い打ちでトドメの火炎放射を浴びせようとした。
…ジャガモンが間に割って入り、頑丈な甲殻で炎を防いだ。
ブロッサモンを庇ったのである。
タスクモン達は、ブロッサモンの蔓から脱出すると、再び焼けた助走路の向こうヘと走り去っていった。
睨み合うジャガモンと、グレイモン&グラウモン。
だが、瀕死のブロッサモンは自身の上に倒れかかったティラノモンをどけると、ジャガモンを睨んで吠えた。
ジャガモンは、訝しげな表情をブロッサモンへ向けたが…
ブロッサモンに二回ほど吠えられると、グレイモン達とブロッサモンの間から体をどけた。
…ブロッサモンはどういうつもりなのか?
こんな死にかけの体で、多勢に無勢の戦況で。
尚、一体で戦おうというのか?
…合理的ではない。
レベル5のジャガモンの助力を得れば、これらの敵を撃退できる可能性は大きく上がるはずだ。
…ブロッサモンの行動原理を、私は理解できない。
なぜわざわざ自分を不利な状況へ追い込むのか。
我々は、一連の出来事に呆気にとられていた。
なぜここに、タスクモンがいるのか?
なぜこのタイミングで、突然襲いかかってきたのか。
やがて、研究員の一人は、恐るべき仮説を提唱した。
曰く…
あれら2体のタスクモン達は、かつて森林に適応できず、森にタマゴを残してサバンナへ退却していったタスクモン達と同一個体である。
だが、それが不自然だった。
自分の死すら恐れずにモノクロモンを仕留めようとする、あの異常な攻撃本能を持ったタスクモン達がだ。
木々が邪魔で体当たりがうまくできなかった…というだけで、おめおめとサバンナへ逃げ帰るものだろうか。
…いや、逃げたのではない。
タスクモンは、機が熟すのを待っていたのだ。
森林の環境へ適応するために。
タスクモン達は…
グレイモン、グラウモン、ティラノモンの卵を森林へ産み落とし、成長した彼らによって森林を焼き払わせた。
そうして森林を焼け野原にし、平原にすることで…
体当たり攻撃を存分に使える環境へ作り変えようとしたのだ。
この森林のあった場所へ適応し、この地の支配者となるために。
我々はその説を聞いて、恐怖で身を震わせた。
ゾッとした。
そんな恐ろしい生き物がいてたまるか…と思わずにはいられなかった。
だが、そう考えると辻褄が合ってしまうのである。
突如、火炎放射で全てを薙ぎ払う恐獣の出現、そしてこの場にタスクモンが現れたことの辻褄が。
なんという恐ろしい執念であろうか…。