四つん這いになって移動する、グレイモンの姿があった。
グレイモンは、レベル5のブロッサモンとの戦いで全身にダメージを負い、トゲモグモンの氷によって脚にひどい凍傷を負っている。
加えて炎を吐くエネルギーは枯渇してしまった。
まさに満身創痍といった状態だ。
グレイモンは山岳地帯へ向かって這いずっている。
こんな状態では移動することすら一苦労であろうに、わざわざ標高の高い山岳地帯へ移動するのは何故なのだろうか…。
グレイモンは、移動中に見つけた植物型の幼年期デジモンや、動きの遅いヌメモンを食って栄養補給している。
だが、腹はあまり膨れていないようだ…。
そこへ、ふたつの巨影が迫ってきた。
大型岩石デジモン、ゴーレモン。
そして甲虫型デジモン、カブテリモンである。
二体の体はボロボロに傷付いている。
この二体は、かつてスターモンと共に、グレイモン達3体の恐竜型デジモンに戦いを挑んだ個体である。
前回の戦いでは、こっぴどくやられてしまい、スターモンが時間稼ぎをしたおかげで逃げ延びることができたようだ。
一度力の差を思い知らされたゴーレモンとカブテリモン。
普通ならば、生き延びられたのが幸運と思い、二度とグレイモン達に挑もうとは思わないはずだ。
だが、ゴーレモンはヒビの入った拳を握りしめ、グレイモンを殴りつけた。
腹部を打たれて、叫ぶグレイモン。
続いてカブテリモンが、プラズマの球体を発生させ、それをグレイモンの腹へ放った。
グレイモンは、転がってプラズマ弾を躱した。
…ゴーレモンとカブテリモンは、どうやらグレイモンを仕留めにきたようだ。
炎を吐く体力がなく、片脚が凍傷で動かない状態の満身創痍のグレイモンでは、これら2体のデジモンと戦うのは圧倒的に不利だろう。
なすすべなく倒されるだろう…。
そう思っていた。
だが。
グレイモンは恐ろしいくらい粘った。
ゴーレモンの強靭なパンチを、腕で受け止めて、尻尾攻撃でカウンターを決めた。
カブテリモンの突進攻撃を受け止め、そのまま持ち上げて地面に叩きつけた。
なんということであろうか。
グレイモンは、片脚に深刻なダメージを負い、全身に深い傷を負っても尚、純粋な格闘能力だけで2体のデジモン達と互角に渡り合っていた。
…いや。
ゴーレモンとの格闘戦に限って言えば、完全にグレイモンが上回っている。
グレイモンは、炎を吐けずとも、純粋な格闘戦能力だけでゴーレモンを遥かに上回っているのである。
グレイモンは、カブテリモンの羽や右腕を噛み千切った。
ゴーレモンの左腕を尻尾攻撃で粉々に打ち砕いた。
恐るべき戦闘能力だ。
…だが、深いダメージを負って尚、カブテリモンとゴーレモンは、怯まずにグレイモンへ猛攻を続ける。
カブテリモンのプラズマ弾がグレイモンの頭部に当たったことで、戦況は徐々にカブテリモン&ゴーレモン側に傾き始めた。
とうとうスタミナの差が出てきたようだ。
ゴーレモンとカブテリモンが、これだけ傷付きながらも戦いを続けるのは何故だろうか。
これは予想だが…
2体はスターモンの仇討に来たのだと、私は思う。
今はジャガモンの一部となっている、元祖スターモン…
その子供が、恐竜型デジモンとの戦いで火炎放射に身を焼かれて命を落とした、スターモン二世である。
スターモン二世は、ゴツモン達やテントモンを護りながら共に暮らしていたデジモンである。
このゴーレモンには、ゴツモンの面影がある。
おそらく、スターモン二世の子供か兄弟であろう。
そしてカブテリモンには、スターモンと共生して暮らすテントモンの面影がある。
グレイモンがその命を奪った代償は、あまりにも大きかった。
捕食や生存のためではない。
「義」と「復讐」のために、我が身を捨ててこの2体は戦いを挑んできたのだ。
グレイモンは狡猾な戦い方をしていた。
カブテリモンやゴーレモンの身体を欠損させることで、心を折って短期戦で追い払おうとしたのであろう。
合理的な戦い方である。
だが、理を超えた概念に基づく、捨て身の攻撃。
悪く言えば無謀や蛮勇とさえいえる精神が、グレイモンの力を超えたのだった。
地に伏したグレイモン。
かつてグレイモン達が焼き尽くした、黒焦げの木々の中に手を突っ込んでいる。
カブテリモンは、とどめの一撃といわんばかりに、プラズマ弾を放った。
…グレイモンは、木々の燃えカスの中から何かを掴み、目の前に掲げた。
それは、モノクロモンのものと思われる甲殻であった。
モノクロモンの甲殻は、プラズマ弾を防ぎ、粉々に飛び散った。
おそらく、ここはかつてモノクロモンのいち個体が、ある恐竜型デジモンと死闘を繰り広げ、命を落とした場所だ。
スカベンジャーデジモン達では消化しきれずに残っていた甲羅の残骸を、グレイモンは咄嗟に拾って防御に使ったのだ。
カブテリモンのプラズマ弾は、再び撃てるようになるまでのクールタイムがかなり長いようだ。
それまでの間、ボロボロのゴーレモンが持ち堪えられるかは怪しい。
カブテリモンは、トドメを刺すために、グレイモンへと駆け寄った。
片腕を破壊されたゴーレモンは、残った方の腕でグレイモンを地面へ押さえつけた。
グレイモンは、焼け焦げた森の中に仰向けに押さえつけられる。
そして2体は、口を大きく開けた。
グレイモンへ致命傷を与えるために、首へ噛み付こうとしているのだ。
ゴーレモンとカブテリモンは、強靭な顎と鋭い牙で、グレイモンの首へトドメの一撃を放つ…!
…グレイモンは…
黒焦げの木々の中から、両手でそれぞれ、何かを掴んだ。
それは…
かつてこの場で、モノクロモンと死闘を繰り広げて散った、タスクモンの長い角だった。
グレイモンは、二本の鋭い角を掴み上げると、噛みつき攻撃を放っているカブテリモンとゴーレモンの口の中へ突き刺した。
ゴーレモンは、タスクモンの角によって頸椎を貫かれ、倒れ伏した。
カブテリモンは、刺された角が口を貫通して後頭部から突き出ていた。
夥しい量の体液が噴出し、絶叫するカブテリモン。
グレイモンは、ゴーレモンの口から角を引き抜くと、カブテリモンの脳天ど真ん中へ突き刺した。
カブテリモンは、地面に倒れて、ジタバタと暴れまわった。
後頭部と脳天を角で貫通されたカブテリモンは、方向感覚を失ったのであろうか。
空中へ何度もパンチやキックを繰り出している。
グレイモンは、カブテリモンの頭部を尻尾で滅多打ちにする。
首と頭の傷を広げようとしているようだ。
だが、ピクリとも動かなくなったゴーレモンと違って、カブテリモンは頭部を破壊されてもなかなか死なない。
昆虫型デジモンは、思考中枢が脳だけに集中しているわけではなく、脊椎全体に神経系が分散しているようだ。
だが、方向感覚を失っている状態では、もはや勝機がないと察したのだろう。
羽を一本失ったカブテリモンは、残った三本の羽をばたつかせて体を浮かせながら、地面を這って遠くへ逃げていった。
満身創痍になりながらも、追っ手を撃退したグレイモン。
グレイモンは、ゴーレモンの岩のような硬い甲殻を剥ぎ取り、内部の筋肉や内臓などの軟組織を食った。
夜になった。
ゴーレモンを貪り食って、空腹を満たしたグレイモンは、片足を引きずりながら、先程よりもハイペースで山岳地帯へと移動していた。
拾ったタスクモンの角を、登山用ピッケルのように使うことで、匍匐のスピードを上げているようだ。
なにせ、カブテリモンを取り逃がしてしまったのである。
頭部を滅茶苦茶に破壊されたカブテリモンにどこまでやれるかは不明だが、助けを呼ばれたら危険だ。
そのため、一刻も早くこの場を去ろうと焦っているのだろう。
グレイモンは、両手に握っているタスクモンの角を見つめている。
もしも、モノクロモンとタスクモンの残骸がこの場に落ちていなかったら…
グレイモンは自力では対処しきれず、ゴーレモン達によって確実に仕留められていたであろう。
そして、それ以前に…
ブロッサモンとの戦いでは、親であるタスクモン達が、グレイモン達のために命を賭して時間稼ぎをしてくれなければ、その場から逃げ切ることができず、ブロッサモンに倒されていたはずだ。
…かつてこの場で、モノクロモンへ異常な闘争本能をもって戦いを挑み、散っていったタスクモン。
そして、ブロッサモンとの戦いでグレイモンを逃したタスクモン。
それらの死が、今グレイモンを生かしているのである。
グレイモンは、山の麓へ辿り着くと、やがて睡眠を取った。
朝になると、やや脚の痛みが引き、体力が回復してきたようだ。
餌を探して、グレイモンはその場を徘徊し始めた。
…すると、聞き覚えのある羽音が、グレイモンへと近付いてきた。
頭と首に痛々しい傷痕が残ったままのカブテリモンが、追ってきたのである。
どうやら、方向感覚を取り戻したようだ。
カブテリモンは、プラズマ弾をチャージし、グレイモンへ向かって放った。
それに対して、グレイモンは…
火炎放射で迎え撃った。
グレイモンの火炎放射は、カブテリモンのプラズマ弾を飲み込み、そのままカブテリモンの身を焼いた。
熱さに絶叫するカブテリモン。
グレイモンは、カブテリモンへタックルを放ち、地面に押し倒した。
そして二本のタスクモンの角を掴み、カブテリモンの首へ両方突き刺した。
カブテリモンは、首へ突き刺されたタスクモンの角を、4本の腕で引き抜こうとしている。
グレイモンは、タスクモンの角から手を離した。
カブテリモンは、虫ピンで刺された昆虫標本のように、地面に留められている。
必死に起き上がろうとするカブテリモン。
だが、首へ突き刺された角はなかなか抜けない。
グレイモンは、再びカブテリモンへ火炎放射を放った。
頭部へ向かって、集中的に。
…その一撃で、カブテリモンの頭部は炎に包まれて焼き尽くされ、完全に機能を失った。
カブテリモンの首に突き刺さったタスクモンの角は、グレイモンの火炎放射で焼かれ、ボロボロになっていた。
グレイモンは、カブテリモンを捕食しようとした。
だがカブテリモンは、なんと無理矢理起き上がった。
頭部を完全に失い、首が千切れたカブテリモン。
視聴覚を失い、もはや五里霧中となったようであり、あらぬ方向感覚へプラズマ弾を放っている。
グレイモンは、カブテリモンを尻尾で殴りつけて地面に倒すと、全身を食い千切って咀嚼した。
グレイモンは去った。
その場には、食い散らかされたカブテリモンの残骸と、燃え尽きたタスクモンの角が残っていた。
グレイモンは、脚の傷が癒えてきたようであり、身を起こして歩き始めた。
極めて強い、生への執着である。
そしてグレイモンは、山の麓でタマゴを3個産んだ。
タマゴから産まれたデジモンは、やがて進化して成長期デジモンとなった。
翼竜型デジモン、ヴォーボモン。
ドラゴン型デジモン、ドラコモン。
そして、鳥型デジモン、ファルコモンである。
強力無比な破壊者、グレイモンの遺伝子を継いだこれら3体の成長期デジモンは、これからどのように環境へ適応していくのであろうか。
そしてそれらの親である、グレイモン自身は…。