トゲモグモンの兄弟であるボアモンもまた、デジタマを4個産んだ。
そこから産まれたトコモンは、やがて4匹とも、レベル3へ進化した。
バクのような姿の、4匹の哺乳類型デジモン…バクモンは、森の中で草を食べながら生きた。
やがて4匹のバクモンは、それぞれ異なる姿のレベル4デジモンへ進化した。
牛型デジモン、ブルモン。
シマウマ型デジモン、シマユニモン。
ヤギ型デジモン、ゴートモン。
ヒツジ型デジモン、シープモン。
子供達の共通点は、親譲りの硬い蹄である。
走行に適した脚部を活かして、これら偶蹄類型デジモン達は、大地を駆け巡った。
…彼らについて特筆すべき点はない。
足が速ければ、生存に有利に決まっているからだ。
偶蹄類デジモン達は、森やサバンナ、山岳地帯、平原へ、それぞれ住処を移していった…。
…さて。
ブロッサモンを倒した、竜人型デジモン…エクスブイモンと、蜂人型デジモン…スティングモン。
彼らのその後をまとめたレポートが上がってきたので、さっそく見てみることにする。
二体は、ブロッサモンの頭部を運び、サバンナの方へ向かった。
そこには、大きな集落があった。
ディノヒューモン農園を中心として、原始的な文明ができていたのである。
爬虫類型デジモンと、蜂型デジモンか共生し、農作物を育成する巨大農園。
エクスブイモンとスティングモンは、ブロッサモンの頭をそこへ持ち帰ったのであった。
エクスブイモンは、村の長であるディノヒューモンのもとへブロッサモンの頭部を届けた。
ディノヒューモンは、ブロッサモンの頭部を何度も切断し、細切れにした。
おおよそ500ピースほどに分離された。
それを乾燥させた後、石をくり抜いて作った容器の中へ入れて貯蔵した。
ディノヒューモンは、この乾燥ブロッサモンを何に使うのであろうか…。
…
数日後。
ディノヒューモンは、群れのデジモン達に何かを指示した。
すると群れのデジモン達は、いっせいに森へ向かった。
そして木々を伐採し、材木にして、サバンナの集落へ持ち帰ったのである。
木材の有用性に気付いたということだろうか。
次々に木を切り倒していく集落のデジモン達。
怒ったレッドベジーモンが攻撃を仕掛けたが、フライビーモンやモスモンの集中攻撃を受けて倒された。
もしかしたら彼らは、ブロッサモンが倒れ、材木を収集しやすくなる機会を伺っていたのかもしれない…。
その頃。
森の中では、ジャガモンとウッドモンが向かい合っていた。
ジャガモンは、自分の体の中から、大きな芋を取り出し、ウッドモンへ差し出した。
ウッドモンはその芋を食べた。
すると、ウッドモンの肉体は、急激に巨大化を始めた。
枯れ木そのものであったウッドモンは、青々と生い茂る葉に包まれた。
その進化を見届けたジャガモンは、深くうなずくと…
体表を構成する岩石のような装甲が、ボロボロと剥がれ落ちていった。
ジャガモンの肉体はどんどん崩れていく。
やがて、ジャガモンはこぢんまりとした姿となった。
頭部から、根っこと枝、葉が生えた姿だ。
サイズは小さめの成熟期程度だ。
その小さな体になったジャガモンは、目を瞑り…
そのまま眠った。
しばらく観察したが、ジャガモンは目を覚まさなかった。
間違いなく生きてはいるが、太陽光を浴びてわずかに光合成するだけであり、動き回ったりはしないようだ。
大木へ進化したウッドモンこと、ジュレイモンは…
休眠状態のジャガモンを一瞥すると、森の中心へと進んでいった。
…ときに。
現在のデジタルワールドは、成熟期…レベル4デジモンを頂点とした生態系ではあるものの、個体数では成長期…レベル3デジモンの方が多い。
それは何故なのだろうか?
なぜデジタルワールドは、レベル4デジモンで埋め尽くされていないのだろうか。
デジモンはレベル4になれば格段に戦闘能力が増す。
それならば、どいつもこいつも成長期で留まっておらずに、みんなグレイモンやスターモン、モノクロモンといった戦闘能力の高いレベル4や…あるいはスコピオモンのようなレベル5になってしまった方が、個体の生存率は上がるはずだ。
しかしながら、デジモン達は誰も彼もが戦闘能力の高い姿を手にしたわけではない。
プカモンやヌメモン、ベジーモンのように、あえて弱い姿を選んで進化する個体も大勢いるのである。
一体、なぜなのか…?
それは、高い戦闘能力をもつ肉体を維持するには、莫大な消費カロリーを必要とするからだ。
かつて出現したレベル5デジモン、スコピオモンを覚えているだろうか。
スコピオモンは、その強靭な肉体を維持するために、森林に住むデジモン達を乱獲した。
そのすべてを食らったわけではないが、飢えをよほど恐れていたのか、スコピオモンの巣には恐ろしい数のデジモンが麻痺毒で活動を止められ、保存食として備蓄されていた。
あのときは森林のデジモンの5~10%が消え、生態系のバランスが変わったともいわれる。
もしもあのままスコピオモンを止めるものがいなかったら、どうなっていただろうか?
森林のデジモン達は絶滅していたかもしれない。
そうなれば、スコピオモンは餓死していた可能性がある。
故に、スコピオモンは。
圧倒的な強さを持ってはいたが、生存に有利かというと全くそんなことはなく、むしろとても脆い存在だったといえる。
かつて我々の世界は、巨大生物であふれていた。
トンボの祖先は体長が30cmもあったといわれているし、全長20mを超える恐竜が陸上を闊歩していたこともあった。
しかしながら現在では、そんな巨大生物はほぼ存在しない。
トンボは小さくなり、恐竜は小鳥になった。
皆あえて大きさと強さというアドバンテージを捨て、小型化したのである。
そう、つまり。
大きく強くなることだけが進化ではない。
小型化し、弱くなることで、環境に適応しやすくなることもあるのだ。
それがデジモン達の進化の方向性のひとつだということである。
では、デジモンにとってレベル5への進化は、死の病なのであろうか?
過剰なパワーと引き換えに強い空腹に襲われるだけの、誤った進化なのだろうか。
…そうとも言い切れない。
ひとつ、レベル5に到達しても、安定して生きていける系統がある。
それは、光合成によって体内で栄養を合成できる、植物型デジモンだ。
ジャガモンやブロッサモンがそうだ。
あのブロッサモンは一体何者だったのであろうか。
ジャガモンとの関係は一体なんだったのだろうか。
我々の研究所は、ブロッサモンは『ジャガモンの後継者である』と仮説を立てた。
ジャガモンは、スコピオモンに対抗するために、スターモンとウッドモン、大勢のゴツモン達が融合して進化したレベル5デジモンである。
その戦闘能力は、これまで見てきたデジモン達の中で群を抜いて最強であった。
ジャガモンならば、グレイモン・ティラノモン・グラウモンの3体と戦っても、大してダメージを受けずに勝っていただろう。
だが、ジャガモンは戦闘能力が高すぎるあまり、消費カロリーが高く、『森の守護者』を担うにはオーバースペックだった。
単独の戦士として最強であっても、守護者としての役割に向いた肉体をであるかというと、そうとは言えないのだ。
だからジャガモンは、デジタマを産み、後継者であるブロッサモンを育てたのだ。
…だが。
そのブロッサモンは死んだ。
そして今、ジャガモンは体内のエネルギーをウッドモンへ渡し、ジュレイモンへと進化させた。
ジャガモンのような、動物型と植物型のハーフではなく。
完全な植物型のレベル5デジモンに、守護者の座を譲ったのである。
ジュレイモンは、さくらんぼのような赤い果実を実らせた。
甘い香りに誘われ、動物型デジモン達がジュレイモンの周囲に集まり、果実を食べていく。
ジュレイモンはそれを眺めながら…
にっこりと笑っていた。
我々は、レベル5デジモンについての研究をレポートにまとめた。
そして講演会で発表した。
デジモン研究の講演会には、学者のみならず一般の方々もよく来てくれる。
小さな男の子もちらほら散見される。
一通りの発表が終わり、質疑応答の時間に入った。
様々な人々からの質問が行われる中、小学生とみられる男子から、思いもしなかった質問が飛んできた。
「レベル5デジモンはなんでそんなに強いんですか?」
…我々は答えを持ち合わせていなかった。
というより、考えたこともなかったのだ。
「なぜレベル5デジモンがそんなに強いのか」などと。
かつて出現した暴虐の王、スコピオモンは、体のサイズはスナイモンと同程度だったはずだ。
だが、パワーもスピードも体力も、レベル4とは比較にならないほど向上していた。
少なくとも現実の動物なら、体のサイズが変わらないなら、筋繊維の密度もそう大きく変わらないはずだ。
体内に蓄えられるエネルギー量もそう大きな違いはないはずだ。
それなのに、スコピオモンはなぜあんなに強かったのか?
…我々はその理由を調査しようとした。
だが、断念した。
サンプルが少なすぎるためだ。
今後、レベル5デジモンからデータ計測できる機会はあるのだろうか…。