デジタルワールドは、世間一般の俗説では「デジタルネットワーク上に存在する擬似電脳世界」とされている。
これについて、度々ある質問が寄せられる。
「デジタルワールドはいつから存在するのか」と。
デジタルワールドやデジモンのことを聞きかじった人々の間では、様々な噂が広がっている。
「千年前から生きている幻のデジモンがいる」とか
「数百年前、古代デジタルワールドでは高度な文明があった」とか…。
現在インターネットと呼ばれているWWW(ワールド・ワイド・ウェブ)で、世界初のウェブサイトが公開されたのは1990年12月20日のことだ。
ここでいうデジタルネットワークが、WWWのことを指すのであれば、その歴史は最長で32年ということになる。
従って、俗説通り「デジタルワールドは、デジタルネットワーク上に存在する空間」だとするならば、たとえ古代デジモンや、デジタルワールド古代文明とやらがあったとしても、その歴史は最長で32年しかないということだ。
数百年前のデジモン文明とか数千年前の古代デジモンとかいう噂は、あり得ないということになる。
しかし、デジタルワールドの地層を調査したところ、ポヨモンやズルモン、ピチモン等の幼年期デジモンの化石が堆積している層が見つかった。
まだデジタルワールドの物理法則は完全には分かっていないが、これらの化石は明らかに数百年前のものだった。
つまり…
「デジタルワールドは、人類のインターネット技術が発明されるよりも前から存在している」という可能性が高い。
だがこの説には反論もある。
「デジタルワールドは20年ほど前に、数百年、数千年分の歴史とともに突然形成された」というものだ。
うん、まあ…無碍にはできない意見だ。
現在でも、進化論を否定し、「あらゆる生物や世界は神が最初から現在の姿で作った」と主張する者は大勢いるが…
彼らの論説では、地層に埋まっているウン万年ウン億年前の生物の化石は、「神が初めから化石の状態で作った」らしい。
デジモンの化石もそれと同様に、「20年前に、はじめから化石の状態で形成された」のだという。
この「デジタルワールド20年前仮説」を聞いて、失笑する人は多いだろう。
しかし、真面目な話、「デジタルワールド20年前仮説」は馬鹿にできない説なのだ。
なにせ現在、確たる根拠を持って正しいと裏付けられている説はないのだから。
人類の科学は、オカルトと隣合わせで発展してきた。
たとえば人類は遥か昔から「火」を利用してきたが、火の正体を正しくは知らなかった。
古代の神話では、火の神プロメテウスが人類へ授けたものであるとされていた。
紀元前4世紀、古代ギリシャの哲学者ヘラクレイトスは、火とは「土、水、空気、火の四大元素のひとつ」と主張した。
18世紀、ドイツの学者シュタールは、「火とは可燃性物質が含むフロギストンという元素による反応である」と主張した。
現代の正しい科学知識を持つ我々からすると、彼らのオカルト混じりの主張は失笑に値するものだろう。
だが、彼らは彼らなりに、大真面目に世界の理を解き明かそうとして、学説を遺し、未来に託したのである。
オカルトと隣合わせである彼らの研究の末に、我々は火の正体を知ることができたのだ。
そう。
科学は常にオカルトと隣合わせで発展してきたのだ。
現在の科学がオカルトから切り離されているのは、オカルトと混ざった状態の仮説が何度も何度も検証され、その果てに真理を究明することに『成功した』からに他ならない。
そして、我々が研究しているデジタルワールドやデジタルモンスターもまた、オカルト的側面を最初から完全に排して考えることは難しいのだ。
なぜなら、研究黎明期の現在では「一切誤りのない仮説」を最初から導き出すことはできないからだ。
たとえ我々がデジタルワールドの真理を究明できなかったとしても、いずれ未来の科学者は我々が提唱した仮説を否定し、真理を知るだろう。
そして未来の一般人達は、オカルト混じりの仮説を提唱した我々を愚か者だと嗤うのだろう。
それは決して避けることはできない。
だからこそ、せめて今ちょうど研究の最前線にいる我々だけは、他者がどれだけオカルト的な仮説を提唱したとしても、決してそれを嘲笑してはならないのだ。