かつて森のエレキモンが川や海で生活するようになり、ルカモンに進化したことがあった。
研究員の一人が、ルカモンのその後を観察したら、とても興味深いことになったと報告を上げてきた。
さっそく見てみよう。
ルカモンは海へ進出し、海で狩りをしながら生活していた。
超音波によって敵デジモンを痺れさせてから、噛みつきで仕留めるのがルカモンの戦術だ。
肺呼吸であるがために長時間潜水してはいられないが、陸上で培った強靭な骨格や、高温性によって高い運動能力を維持する仕組みによって、生存競争では優位に立っていた。
ルカモンは子供を産んだ。なんと、掟破りの卵胎生だ。
デジタマではなく、幼年期デジモンを直接産んだのである。
産まれたのはウパモン。両生類型の幼年期デジモンだ。
ルカモンの胸部にはポケットがあり、幼年期デジモンはそこへ潜り込んだ。
息継ぎは大丈夫なのだろうか…と思ったが、なるほど両生類型デジモンなら、子供のうちは鰓呼吸ができるから溺れないのだ。
これは面白いことになった。イルカ型の水生動物型デジモンなのに、幼年期デジモンが両生類型の特徴へ回帰し、母体は有袋類の特徴を獲得した。
現実の動物の特徴から逸脱した形質を獲得した、デジモンらしい破天荒な進化である。
やがて、ウパモンはオタマジャクシ型デジモン、オタマモンへ進化した。
これは意外だった。てっきりゴマモンあたりの水生哺乳類型デジモンへ進化すると思っていたのだが。
そう…これがデジモンだ。
かつてシーラモンが、一世代で肺呼吸を獲得したように。
ルカモンの子供は、一世代で鰓呼吸を獲得したのである。
ルカモンの子供であるオタマモンは、かつて我々がサバンナで見たことのある、ベタモンの兄弟だった個体群に比べて、はるかに戦闘能力が高かった。
水中をスイスイと高速で泳ぎまわり、同じ成長期のスイムモンを捕食してしまうことも多々あった。
どうやらこのオタマモンは、両生類型というより、「鰓呼吸の哺乳類型デジモン」らしい。ややこしくなってきたぞ…!
さて、そんなルカモンだが…
ある時、二枚貝型成長期デジモンであるシャコモンを食べまくっていたときに、ルカモンは目をつけられた。
タコ型成熟期デジモンであるオクタモンと、イカ型成熟期デジモンであるゲソモン、そして…二本の強い腕と強い顎を持つ、巻貝型成熟期デジモン、シェルモンに。
この三体の軟体型デジモンは、オクタモンをリーダーとした「海のギャング」と呼ばれる強力な捕食者集団であった。
遊泳能力の高いゲソモン、硬い守りのシェルモン、そして知能の高いオクタモンのチームワークにかかれば、シードラモンのような強力な水棲デジモンですら餌食となってしまう。
恐るべき智略で狩りを確実に成功させる、危険な集団だ。
ある日、オタマモンが海底で狩りをしているとき…
砂の中を潜って迫っていたシェルモンが、突如オタマモンの目の前に出現し、一瞬でオタマモンを丸のみにしてしまったのである。
我が子が食われたのを見て激高するルカモン。
シェルモンへ一直線に襲い掛かった。
そこへ、横からゲソモンが飛んできて、ルカモンにタックルを浴びせた。
ルカモンは少しダメージを受けたが、軟体型デジモンのタックル程度では、頑丈な肉体はそうそう傷つかないようだ。
ゲソモンとシェルモンの二体を相手に善戦するルカモンだったが…
こっそり忍び寄っていたオクタモンに絡みつかれた後、頭部に空いた呼吸孔へ粘着質な墨汁を注入されてしまった。
急いで陸に上がろうと逃げるルカモン。しかし、オクタモンに加えてゲソモンに絡みつかれ、おまけにシェルモンにもしがみつかれてしまった。
そのまま海底へと引きずり込まれてしまうルカモン。
オクタモンは、ルカモンが肺呼吸であることを見抜いたのだろうか…?
このままルカモンを溺死させる気だ…!
絶体絶命の状況で、ルカモンの体は…
突如、光り輝いた。
進化の輝きだ。
全長2mほどだったルカモンの肉体は、一気に15mの巨体へと変わった。
頭部は硬質の外殻で覆われており、口もでかくなった。
これはイルカというより…マッコウクジラだ!!
これはとても珍しい…!
ルカモンは、スコピオモンへ進化したスナイモン以来となる、単独でのレベル5への進化に成功したのだ。
鯨型デジモン…ホエーモンは、全長15mのビッグサイズだ。
これだけの図体差を見せつけられたら、さすがに敵わないと思ったのだろう、ゲソモンとオクタモンは死に物狂いで逃げた。
だが、移動が遅いシェルモンはホエーモンに一口で丸のみにされた。
恐れをなしたゲソモンは、岩山の隙間に潜り込んで隠れた。
だがホエーモンは、ルカモン時代よりもさらに強大になった超音波攻撃を、爆発的な威力で岩山に向かって放った。
岩山は一気に吹き飛び、轟音とともに爆発した。
大量に沸き立つ泡、地面をえぐり舞い散る砂。
それらが止んだとき、こなみじんに吹き飛んだゲソモンの断片がそこにわずかに残っていた。
明らかに桁違いの戦闘能力である。
リーダーのオクタモンは、必死に逃げている。
命乞いが通じる相手ではないのだ。逃げるしかない。
だがホエーモンは、泳ぐスピードも圧倒的だ。
オクタモンは、どんどん距離を詰められていく…!
その時。
ホエーモンは突如、動けなくなった。
岩場に乗り上げてしまい、座礁してしまったのである。
オクタモンは、浅瀬の方へ逃げていたのだ。
そして、子供を喰われたことで頭に血が上ったホエーモンは、岩場に気づかずにオクタモンを追跡してしまった。
そして…
オクタモンの策略に引っかかり、座礁したのである。
ホエーモンが動けない間に、オクタモンは遠くへ逃げていく。
遠くというか…さらに浅瀬のほうへ。
なんということだろう。オクタモンはそのまま、河口を登り、川へと逃げて行ったのである。
淡水でも生きていけるというのだろうか?
ホエーモンは、死に物狂いで暴れた。
そして…
先ほどの超音波攻撃によって岩場を粉砕して吹き飛ばすことで、脱出に成功したのであった。
ホエーモンを座礁させることで逃げおおせたオクタモンも大したものだが…
そこから自力で脱出したホエーモンも大したもんである。
その後のホエーモンは、かつてのスコピオモンを彷彿とさせる暴れっぷりを見せた。
その巨体を維持するために、毎日猛烈な数のデジモンを捕食しまくった。
ホエーモンの恐ろしさに、海のデジモン達は逃げ惑った。
かつてのジャガモンのように、太刀打ちできる対抗戦力は、いつか現れるのだろうか…?
しかし、その目立つ巨体はやがて警戒されるようになり、海のデジモン達はホエーモンの接近を察して避けるようになった。
ホエーモンは得られる餌の量が減っていき、どんどん痩せていった。
やがて、ホエーモンは子供を産んだ。
かつてと同じウパモン、そしてウパモンが進化したオタマモンだ。
順調に育ったオタマモンは、やがて成熟期へ進化した。
我々は、それらがルカモンに進化すると想像していたが…
なんと驚くべきことに、オタマモン達はホエーモンへと進化したのである。
まさか一気にレベル5になったのか!?と思ったが…
このホエーモン達はレベル4…つまり成熟期デジモンと判定された。
体長は、15mある親よりもスケールダウンし、7mほどである。
親の半分ほどではあるが…それにしてもでかい。
おそらく基礎代謝量はグレイモン以上だろう。
もしかしたら、あのスコピオモンにすら勝てるかもしれない。
そうしてレベル4のホエーモン達もまた、海の覇者として君臨した。
ただし、親と違ってそれほど狂暴ではない。
食う餌の量も、そりゃ並みのデジモンに比べれば格段に多いが…親よりもずっと少ない。
超音波攻撃の威力も、親に比べれば控えめだが、それでもルカモンより格段に増していた。
だが、親の劣化版というわけではない。
過剰な筋力を削減した分、空腹に強くなったのだ。
必要以上の過剰戦力を得てしまったがために、四六時中死に物狂いで餌を探し回り、飢えに苦しんでいるレベル5ホエーモンに比べて…
それをスケールダウンさせて戦力低下したようなレベル4ホエーモンの方が、はるかに安定した生き方ができていた。
やがて、レベル5ホエーモンは姿を消した。
どこか我々のデジドローンでは観察できない領域へ泳いでいったのだろうか。
あるいは、どこかで骸となっているのだろうか…。
さて。
今回の観察で、最も目を惹いたのは…
レベル5ホエーモンの圧倒的な戦闘能力。
…ではなく。
「レベル5デジモンが、スケールダウンして、レベル4として最適化された」という現象である。
世代を超えたレベルダウン現象だ。
人によっては、これを「弱くなったのだから退化だ」と感じるかもしれないが…
私個人の主観でいうならば、これは「進化」だ。
デジモンの個体としての進化ではなく、遺伝子としての進化、という意味合いの方だ。
ホエーモンというレベル5デジモンの優れた点を引き継いだうえで、無駄を省いてダウンサイジングし、成長期から直接進化できるようになったことは、環境への更なる適応といえるだろう。
この「レベルダウン進化(仮称)」だが…
実は、陸上デジモンでも同じ例が目撃されている。
「ゴキモン」と「ヌメモン」だ。
ゴキモンはかつて、ゴキブリ型のレベル4デジモンだった。
レベル4なのだから、それなりの戦闘力と基礎代謝量があったのだが…
主に分解者として他のデジモンの糞や死骸を食べるゴキモンには、逃げ足さえあれば、戦闘力など不要だったのである。
そうしてゴキモンの子供達は、レベル3(成長期)にして、親と同じ姿に進化したのである。
戦闘力は親よりも低下したし、体のサイズも小さくなったが、逃げ足は親に負けず劣らず速い。
そうしてレベル3にレベルダウン進化したゴキモンは、レベル4の頃よりもはるかに広い生息域へ進出できるようになったのである。
ゴキモンはシンプルな例だが…
ヌメモンはさらに面白いことになっていた。
我々が一番最初に観察したデジモンは、ヌメモンだったわけだが…
湿地のヌメモン集落のその後を観察していた研究員がいたのだ。
次は、彼が記録した、ヌメモン一族のその後を紹介しよう。