デジタルモンスター研究報告会   作:タマリリス

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植物型デジモンと光合成

植物と植物型デジモンの違いは何だろうか?

 

結論から言おう。全くの別物である。

植物型デジモンは、植物の特性を習得することで、地中から栄養を吸ったり光合成する力を身に着けたというだけの、れっきとした動物デジモンである。

いわば植物への収斂進化だ。

 

 

そもそもデジタルワールドに自生している植物も、厳密には我々の世界の植物そのものではないのだが…

あるデジタル生命体が、空から太陽光のように降り注ぐデータを吸収して栄養にし、その場から動かずに殖えるという生態を突き詰めた結果、我々の世界の植物に収斂進化したという結果は合理的といえる。

 

樹木という生物は、全身を構成する細胞のうち、生きた状態のものの割合はかなり少ない。

中空部分は死んだ細胞でできており、生きた細胞は表皮や成長点、枝葉の部分、根くらいしかない。

 

だが樹木型デジモンであるウッドモンやジュレイモンは、角質など一部を除けばほぼ全身の細胞が生きている。

 

 

また、細胞の構造も植物とは異なる。

動物のように動き回ったり戦ったりする必要があるため、駆動部には筋繊維ないしそれと同等の動きをする細胞が詰まっている。

 

つまり植物型デジモンは、軟体型デジモンの一種なのである。

 

 

 

我々は「植物型デジモンの祖先は何か?」を調査したことがある。

その結果、最も可能性が高い種として挙げられたのがこれだ。

 

軟体型レベル3デジモン…サンゴモン。

珊瑚のように硬い骨格で身を包んだ、軟体のデジモンであり、海に生息している。

 

こいつが上陸し、植物を食べて暮らしている中で、やがて表皮の中に葉緑素を取り入れることに成功し、植物型デジモンへと進化したということらしい。

 

植物の姿をまねることによって、維管束に似た硬いチューブが体の中を通り、身体を支える骨格のような働きをするようになった。

そのため、植物型デジモンは運動能力も決して低くないのだ。

 

 

まるで太陽光のようにデジタルワールドへ降り注ぐエネルギー…

 

それは我々の世界から失われていった情報である、と、いうのが定説だ。

 

ここでひとつ疑問がある。

デジタルワールドにおいて、デジモン達の中を巡ったエネルギーは最終的にどこへ行くのか?ということである。

 

我々のいる現実世界では、太陽光は地上の生物の中を様々なエネルギーとして循環した後、最終的には熱エネルギーとなって、空気中や水中へ放出される。それがそのまま地球の中へ留まっていたら、地表はどんどん高熱化してしまうだろう。

だが、それらが持つ熱は熱輻射線という電磁派へ変換されて、宇宙の外へ放出される。だから太陽光に照らされても、地球の温度は維持されるのである。

 

では、デジタルワールドではどうなのか?

熱輻射のように、世界の外へ排熱するシステムはあるのだろうか。

 

…少なくとも『それらしいものがある』という仮説を立てなければ、生態系が維持されていることを説明できないといえるだろう。

 

 

熱されたものが冷えるのは当然の摂理だ。

それは空気や水への熱伝導だけでなく、熱エネルギーが赤外線として放射されるためでもある。

 

その仕組み自体が、デジタルワールドにも備わっているのか、我々はコマンドラモンの協力を得て実験によって確かめた。

 

サーバー上のローカルなデジタルワールド空間で、コマンドラモンの爆弾を爆発させた。

その後、デジクオリアのカメラを調節し、可視光線外の波長…赤外光が発せられるかを確かめた。

 

その結果、爆発によって温まった物体や空気が、遠赤外線を発していることが確認された。

 

つまり、デジタルワールドにも熱放射の仕組みはあると考えられる。

 

 

…しかし。

デジタルワールドの太陽光は、その全てが熱と光だけでできているわけではないようだ。

 

なんと、デジタル生命体にとって栄養素そのものとなる、データ…情報が、粒子のような形で、太陽光とともに降り注いでいるのである。

 

熱や光は熱放射で捨てられるだろうが、こちらは捨てられることはなく、そのまま栄養分としてデジタル生命体の肉体を構成する粒子として残存し、循環し続ける。

 

デジタルワールドにいる成熟期デジモンの数は、はじめに比べて随分増えた。

 

 

それはすなわち、太陽から発せられた栄養データが、そのまま生態系に蓄積し、どんどん高栄養状態になっていっているからだ。

 

 

 

 

 

 

…こういったデジタルワールドの栄養循環の仕組みを、高校時代からの友人に、宅飲みしながら話してみた。かつて携帯型デジタルペット「デジタルモンスター」の案を冗談交じりで提案してくれた彼だ。

彼はこういう話に興味を持ってくれる。職場以外でこの手の難解な話に付き合ってくれるのは、大変有り難いことだ。

 

 

友人は「まるで死んだ情報が辿り着く天国みたいだな」と言った。

 

なかなかおもしろい喩えだ。

死者の魂が辿り着く「冥界」という概念は、世界中の様々な宗教に存在している。

もっとも、冥界に行った後どうなるかは千差万別だ。輪廻転生するとか、いずれ神との約束の地へ復活するとか言われている。

 

そう考えると、我々の世界から消えた「情報」は、デジタルワールドでデジタル生命体の栄養となることで、輪廻転生している…とか言えなくもないのかもしれない。

 

 

友人はさらに続けて言った。

「ところでさ、デジタルワールドって実は、人の脳や植物の根っこみたいなアナログの情報媒体にも繋がってんじゃないか?」

 

論理の飛躍がすぎると思うが…

まあ否定はできない。

ひょっとしたら、人間のデジタルネットワークが発明されるまでは、それらを媒介としたデジタルワールドが既に存在していたかもな。

 

「じゃあさ、人間が死んだ後…その人の脳の中の記憶や人格といった情報も、デジタルワールドに送られるのか?」

 

 

とんでもないことを言うやつだ。

そんなこと考えたこともなかった。

 

 

ハハハ、何言ってんだ…と思ったが。

 

冷静に考えると怖くなった。

 

なぜデジタルワールドに栄養として送られる情報が「www(ワールドワイドネットワーク)に接続されたコンピュータ機器内の情報」だけだと言い切れるのか?

 

外部に接続されていないローカルネットワーク上で失われた情報が、デジタルワールドに送られないという保証がどこにあるというのか。

 

そもそも、ネットワークなんてのは物理的に言えば「情報を規格化し、電気信号や光回線信号、電波信号に変換して、機器間でやりとりしているだけ」の概念である。

物理的な連続性はないのだ。

 

それならば。

視聴覚によって外部との情報交換ができる、我々人間の脳が、スタンドアローンの端末だなどと何故言い切れるのか?

 

光や音を入力とし、手や声を出力としてネットワークに接続されている生体コンピュータと捉えれば、我々の脳も「ネットワークに接続されている」と言えるのではないだろうか。

 

 

ならば。

我々の記憶や人格が「失われた後、デジタルワールドに送られる」ことを否定しきれないのではないか?

 

…その晩、私は久々に恐怖と好奇心のせいで眠れなくなった。

 

こんな感覚は、子供の頃に心霊番組を観た時以来であった。

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