ある日、とある鉄鋼会社から我々の研究所へ電話がきた。
曰く、会社のサーバーが未知の悪質なコンピュータウィルスに感染し、ネットワーク回線のトラフィック量が爆増してしまったそうだ。
様々なセキュリティソフトを試したが効果がない。
もしかしたらデジモンの仕業かもしれないので、調査してほしい…との依頼であった。
我々は依頼を引き受けることにした。
早速、鉄鋼会社のオフィスへ向かった。
我々は今後のデジモン調査のために、専用PCを用意した。
名付けて『ランドンシーフ』。揚陸艦という意味だ。
このPC端末には、マッシュモン、フローラモン、コマンドラモンが居住するためのスペースと、彼らヘの餌となるデータをマイニングするソフトウェアが仕込まれている。
強固なセキュリティによって内部のデジタル空間を保護しており、対デジモン用の様々な設備を搭載している。
我々は、ランドンシーフを鉄鋼会社の回線へ接続した。
まずは様子見のため、ネットワーク内にデジドローンを飛ばして偵察を行った。
やがてデジタル空間可視化ソフト「デジクオリア」のウィンドウ画面に、デジドローンから送信された映像が映し出される。
デジタル空間の中は、図書館を彷彿とさせる風景であった。
様々な資料が入ったバインダーが、棚に陳列されている。
だが、異変はすぐに見えた。
黄色いスライム状の物体が、デジタル空間の床や棚をウジュウジュと大量に這い回っているのである。
これは…見たことのあるデジモン。
ズルモンだ。
やがて、ズルモンは動きを止めると…
進化を始めた。
レベル3…成長期デジモンとなったのである。
そのデジモンの姿は…一見するとナメクジ型デジモン、ヌメモンによく似ていた。
だが、大きな違いがあった。
この成長期デジモンは、自重を支える力があまり強くないようだ。
かなり体高を低くした状態で、床をズルズルと這い回っている。
そしてこいつは、頻繁に体を分裂させたり、異個体間で結合したりしているのである。
まるで粘菌だ。
ヌメモンならこうはいかない。
同僚の一人が、このデジモンに「ゲレモン」と名付けた。
ちょっと品のない響きだが…まあド直球でないだけ良しとしよう。
ゲレモンの胴体から飛び出た2つの眼球のようなものは、どうやら視覚を担う器官のようだ。やはり眼なのだろう。
周囲を見回すと、どうやらズルモンだけでなく、この成長期デジモンも大勢いるらしい。
ゲレモンは、棚からバインダーを取り出すと、それを開き、資料を舌でベロンベロンと舐め回した。
舐められた資料は消えてはいないため、どうやらデータを食べているわけではないようだ。
ゲレモンやズルモン達の群れの動きを見ると…
どうやらゴミ箱の中のデータを食べて栄養を補給しながら、資料舐めをしているようだ。
…私は、このデジモンの形質に覚えがある。
これと似た性質の生物が、現実に存在するのだ。
名を「キイロタマホコリカビ」という。
キイロタマホコリカビは、普段はアメーバ状の単細胞生物として振る舞い、細菌などを食べて成長する。
だが、環境が変わると、多数の個体同士が合体し、ナメクジ体と呼ばれる多細胞生物へ姿を変え、地面を這う。
そして、やがて子実体を伸ばして、そこから胞子をばら撒くのである。
これらのズルモンとゲレモンを見ていると…
どうやらズルモン達は一個体がそのままゲレモン一個体になるのではなく、多数のズルモン達が集合してひとつにまとまることで、一体のゲレモンとなるようだ。
もしもこいつらがキイロタマホコリカビを模倣しているのであれば…
「ナメクジ体」の名にちなんで、ナメクジ型デジモンであるヌメモンに似た姿へ収斂進化するのも頷ける。
こいつらも、マッシュモン同様に、幼年期や成長期のまま分裂して増殖する『デジタマを産まないデジモン』なのだろうか。
さて、どうやらこいつらのせいで、ネットワークのトラフィック量が増大しているらしいが…
それはどういうことなのだろうか。
我々は、デジドローンを移動させ、ネットワーク回線の出入口付近付近を調査した。
やがて、トンネルのようなものが見えてきた。これがインターネット回線だ。
すると…
おお、なんということだ。
インターネット回線のトンネルの壁は、まるで悪玉コレステロールのプラークが詰まった血管のように。
ゲレモンないしズルモンと思われる粘菌が、びっしりと張り付いていたのである。
内部はもはや黄色いトンネルであった。
わずかな隙間の中を、データが行き来している。
なるほど…これがトラフィック量増大の原因か。
こいつらが壁に張り付き、トンネルを狭くしていたせいで、データの送受信が滞っていたのだ。
今回は、デジドローンを飛ばすだけで、あらかた事態が把握できた。
デジモンの仕業であることを鉄鋼会社の社員へ伝えた。
さて、問題はここからである。
これらのズルモン&ゲレモン軍団をどうすればよいのだろうか?
マッシュモンのように高い知性は感じられない。対話は無理だろう。
各パソコンのデータをバックアップし、すべて初期化すればよいのだろうか。
戦って殲滅すればよいのだろうか…?