マッシュモンは続けてチャットを打ってきた。
『かみよ わたしのちからを ためすきかいが ほしい コマンドラモンに まもられればかりでは あしをひっぱってしまう』
な…なんか勇敢になったな。
前はもっと怖がりで図々しかったのに。
まあ、そんなに言うならいいか…頑張れよ。
私はデジモンキャプチャーのゲートを開き、他のゲレモンに近づけた。
するとやはりゲレモンはゲートの中に入ってきた。
隔離チェンバー内で、コマンドラモンが見守る中、マッシュモンとゲレモンが対峙する。
マッシュモンがゲレモンに突撃した。
コマンドラモンはじっと見守っている。
ゲレモンは、触手を伸ばして迎撃しようとしてきたが…
マッシュモンに殴られると、触手は千切れ飛び、壁にベチャッと貼りついた。
おお、いけるじゃないか!
続けていけ、マッシュモン!
マッシュモンは、ゲレモンにパンチやキックの連打を浴びせた。
ゲレモンはたちまちバラバラに千切れ飛び、それぞれがズルモンとなって再生した。
マッシュモンは、ズルモン達を食べた。
やったな!圧勝だったぞ、マッシュモン!
お前こんなに強かったのか!
『わたしも やれる たたかえるぞ』
じっと戦いを観察していたコマンドラモンが、チャットを打ってきた。
『たしかに マッシュモンも つよくなった だが あいてのパワーが よわすぎる われわれにとおく およばない』
そ、そうなのか?
…なんかチャットを見たマッシュモンがムスっとしてるんだが。
『やつらは ちからでなく どくでみをまもる マッシュモンいがいでは なぐりあえない』
おお、チャットを見たマッシュモンがご機嫌そうに笑みを浮かべたぞ。
研究グループのリーダーが、戦いを観終えてから発言した。
「だが、あまりに力の差がありすぎるな。相手も一応レベル3なのでは…?」
…リーダー。
まだ思い付きの段階ですが…今の戦いを見て、仮説をひとつ思い付きました。
奴ら…ゲレモンが何者なのか。
「ふむ?聞かせてみろ。駆除のいいヒントになるかもしれん」
けっこう長い話になりそうですがいいですか?
「構わない。鉄鋼会社のサーバーのデータを奴らに食われてるわけではないからな」
…結論から言います。
奴らゲレモンは、「マッシュモンが進化して、独立栄養生物に回帰したデジモン」だと考えられます。
「ほう…?独立栄養生物に?」
はい。
デジモンはデータを食べる生物と言われていますが、我々人間が生み出すデータをそのまま直接食べるデジモンは、実は現在ではごく少数派となっています。
ほとんどのデジモンは、データそのものではなく、植物や他のデジモンなどを食べています。
「確かにそうだな…。例外は、幼年期の植物型デジモンくらいか…?」
それもありますが。
他にもわずかに、『データそのもの』を食べているデジモンの個体群が確認されています。
ズルモンと、ポヨモン。そして今ここにいるマッシュモンです。
「ポヨモン…あれか。我々が最初に見た小型クラゲのデジモンか」
そうです。
ただし、我々が最初に見たポヨモンは、やがて成長期へ進化していきましたが…
今挙げたポヨモンとズルモンは、成長期に進化せず、幼年期のまま殖える個体群なのです。
「なるほど…小型化するように進化したというわけか」
いいえ…違います。逆です。
これらの個体群は、今まで発見された中で、最もDNAのサイズが小さいんです。
つまり…
『デジモンの共通祖先にもっとも近い』んです。
「デジモンは…そいつらから進化した、ということか…!?」
おそらく、最初に出現したデジモン…ズルモンとポヨモンは、プランクトンのように漂い、データをそのまま食べる生物だったんです。
そのせいで、あまり強いパワーが出せず、幼年期のまま殖えるしかなかった。
しかし、やがてデジモンが他のデジモンやデジタル生命体を食べるようになってからは…、さらに強い体を手に入れて、もっと多くのエネルギーを補給できるようにするために、いち個体のうちにレベルを上げる「進化」ができるようになったんです。
「デジモンが進化の力を獲得した起源か…。我々の世界では、独立栄養生物は『光合成によって炭素固定をする生物』と定義され、従属栄養生物とは『他の生物から炭素を得る生物』と定義されるな」
デジモンでは、炭素のポジションがデータになるわけです。
「それで…マッシュモンも独立栄養生物デジモンなのか?」
我々が初めてマッシュモンと出会ったときを思い出してください。
あのときマッシュモンは、ゴミ箱の中のデータや、我々がデータマイニングで生成したデータをそのまま食べていました。
「そうだな。む、すると…マッシュモンも独立栄養生物型デジモンなのか。いちど従属栄養生物型になってから、独立栄養生物型に戻ったと」
しかし今は、我々がデータマイニングで生成したデータを、一度キノコに与えてから、それを餌として与えています。
「確かに餌が変わったな…それが何か?」
マッシュモンが、急に強く、そして勇敢になったのは、『餌が変わったから』ではないでしょうか?
「餌が変わると…なるほど。キノコからデータを奪うから、従属栄養生物型デジモンの振る舞いとなったわけだ」
マッシュモン。
今でもまだ、データマイニングで出したペレットや、ゴミ箱の中のデータを美味しそうだと思うか?
『わたしは したが こえてしまった グルメになって しまった』
やはりか…。
マッシュモンは、『菌糸』のデジモンです。
我々がキノコを餌として与え続けたことで、マッシュモンを構成する菌糸たちが進化し、従属栄養生物型デジモンに戻ったんです。
進化とは言っても、一個体のうちのレベルアップの方ではなく…
世代交代して遺伝子が変異していく、我々の世界での原義に近い意味合いでの「進化」です。
「…つまり『テセウスの船』というわけか。今のマッシュモンは…。いち個体としての記憶や自己同一性は維持しているが、身体を構成する菌糸が戦闘力の高い遺伝子の種へと置き換わっているんだな」
では、今ここにいる従属栄養生物型の個体とは逆に、マッシュモンが独立栄養生物型デジモンとしてさらに先鋭化した姿へ進化したらどうなると思いますか?
「余計なエネルギー消費を抑えるために…、手足が無くなり、脳も退化し…粘菌型になる、か」
そう考えられます。
我々のパートナーと正反対の進化を遂げたのがゲレモンなのではないでしょうか。
だからパワーにもこんなに差があるんです。
「ゲレモンの幼体がズルモンなのも、一種の先祖返りということだな」
それが私の仮説です。
「なるほど…確かに尤もらしい。だがそれなら、なぜ鉄鋼会社のサーバーデータを舐め回してばかりで、食べてしまわないのだ?奴らはゴミ箱の中のデータばかり食べているじゃないか」
それは…まだ分かりません。
「ふむ、ではその仮説を元にして駆除作戦を立てよう。えーと…どうするんだ?マッシュモンを殖やして襲わせるのか?」
それだとマッシュモンが届かないところへ逃げ込まれてしまう可能性があります。
「そうか、粘菌デジモンだからマッシュモンより狭い隙間に隠れるのか。厄介だな…」
奴らはデジモンキャプチャーのゲートに自分から飛び込んでくる習性があります。
これを利用できないでしょうか?
「なるほど。デジモンキャプチャーのゲートで掃除機のように吸い込み、中でマッシュモンに食わせるのか」
そうです。どうですか?
「なぜこんな習性があるのか、まだ分からないからな。絶対のものだと考えると、条件次第で作戦が破綻しかねないぞ」
う、それは確かに…。
しかもこいつら、ちょっとでも取り逃がせばすぐ殖えますよねきっと。
「だろうな。一匹も逃さないような作戦が必要だ」
どうするか…
なにかいい作戦はあるだろうか…。
おっとそうだ。試しておかなくてはならないことが一つあった。
このズルモンやゲレモンに、フローラモンの花粉攻撃は効くのか?という検証だ。
隔離チェンバー内にゲレモン、チビマッシュモン、フローラモンを閉じ込め、花粉を撒いてみた。
すると、ゲレモンとチビマッシュモンは、花粉を吸い込んでもアレルギー反応を起こさなかった。
どうやらゲレモンやマッシュモンは、微生物の集合体であるため、コマンドラモン等に比べて免疫機能が原始的であるため、「アレルギー反応を起こすほど高度ではない」らしい。
ゲレモンにくっついた花粉は粘菌の肉体によって吸収・消化されたようだ。
ますますキイロタマホコリカビに似ているな…。あいつらも細菌をこうやって貪食するし。
尚、このゲレモンはコマンドラモンの爆弾で焼いて処分した。
同じレベル3だというのに、歴然たる力の差である。
ふむ…
やはり今回の相手は、マッシュモンとコマンドラモンで対処にあたり、フローラモンは待機するのがいいのだろうか。
粘菌型で毒があるので、くっつかれると厄介だし。
しかし、やはり「一匹残らず駆除する」のは難しいか…?
そう考えていると、研究員の一人が作戦を提案した。
①データマイニングで、データ(餌ペレット)を大量に生成し、デジタルゲート内に溜めておく。
②デジタルゲートを開く。
③ゴミ箱の中のゴミデータを、すべてデジタルゲートへ移動する。
④フローラモンがゲート内からペレットを撒き、ゲレモン達をゲートへ誘い込む。
④集まってきたゲレモン達は、隔離チェンバーへ誘い込んでから監禁し、マッシュモンとコマンドラモンで駆除する。
ふむ…
ゲレモン達が、最初から最後まで一匹残らずデジタルゲートへ誘引されるという前提の作戦だが…
まあ安全ではある。
これでいくか…?