しばらく経つと、ここを通りかかったテントモン達が、木の枝に引っかかったスターモンを発見した。
テントモン達は、スターモンを担ぎ上げると、自らの巣へと運搬した。
テントモンの巣へ運ばれたスターモンは、弱々しく呼吸をするものの、立ち上がることができず、どんどん弱っていった。
どうやら、一瞬毒針を突き刺された際に、スコピオモンの尻尾から神経毒を少量注入されたようだ。
テントモン達は、スターモンの口元へと蜜を運ぶ。
だが毒で身体が麻痺しているスターモンは、それを飲み込むことさえできなかった。
昆虫成長期デジモンの守護者であるスターモンが倒れた今、森はどうなったであろうか。
スターモンが育てたゴツモン軍団が、彼の代わりに昆虫成長期デジモンのボディーガードを引き受け、食虫植物デジモンと戦っていた…?
…否、そんな生易しい状況ではなかった。
テントモン達も、ゴツモン達も、食虫植物デジモン達でさえも。
次々とスコピオモンの餌食となっていったのである。
スコピオモンの闘争欲求は異常なほど強かった。
腹が減っていないときでさえも、動くデジモンを見つけ次第襲いかかり、麻痺毒を注入。
そして巣へと運び、貯蔵したのである。
スコピオモンの巣には、明らかに食べ切れずに持て余している、大量の獲物が転がっていた。
ゴツモン、テントモン、ワームモン、ベジーモン…。
麻痺させられ保存食と化したそれらのデジモン達を、スコピオモンは時折まるで自慢のコレクションかのように眺めていた。
スコピオモンはやがて、巣で産卵した。
麻痺している保存食デジモンの腹部へ毒針を突き刺し、それを産卵管として使い、体内へデジタマを産み付けたのである。
やがて、デジタマは保存食デジモンの体内で孵化した。
そして生命維持に必要最低限の心肺機能などの器官を後回しにし、消化器官、筋肉、骨などを体内で貪り食っていく。
やがて、体内で成長期まで育ってから…腹を食い破り、スコピオモンの子供は顔を出した。
これは…ワームモンによく似ているが、顔や体つきが微妙に異なる。
私はポイズンワームモンという名称を提案したが、女性研究員が提案したドクネモンという名称がカワイイとチーム内で評判になり、そのまま採用された。
…何が悪かったのであろうか。
しかし、盲点であった。
捕食されやすい幼年期を、どのように生き延びるかは、デジモン達の最大の課題ともいえる問題だったが…
スコピオモンは、寄生バチのように他デジモンの体内で幼年期を成長させるという生存戦略をとったのである。
これは危険だ。
成長期まで育ってしまえば、デジモンはかなり活動能力が増す。
スコピオモンの子供達は、きっとスコピオモンのコレクションを食べて成長し、外敵に襲われることなく成熟期まで育つのであろう。
…スコピオモンの巣へ侵入し、ドクネモンを狙う度胸のある捕食者などいるであろうか。
並大抵のデジモンであれば、自分と同じ姿のデジモンが食い散らかされた残骸の転がる巣を見た時点で、戦意を喪失することであろう。
だが…。
無謀にも、スコピオモンの巣へと侵入し、ドクネモンを捕食する命知らずのデジモンがいた。
ご存知、ウッドモンである。
ウッドモンは、枯れ木に完璧に擬態してしまうため、スコピオモンをやり過ごすことができた。
そしてあろうことか、枯れ木に擬態したまま、少しずつスコピオモンが留守中の巣へと近寄り…
ドクネモン達にすら枯れ木だと勘違いされたまま…
ドクネモン達に根を伸ばし、体液を吸ってのけたのである。
コレクションを持ち帰ったスコピオモンは仰天した。
自分の子供達が、巣で干からびているのだから。
スコピオモンは、子供達の仇を探したが、視界内にあるのは地面に転がった枯れ木のみ。
怒り狂ったスコピオモンは、コレクションの山をハサミでズタズタに引き裂き、それらを生き残った数匹のドクネモンと共にヤケ食いした。
ウッドモンという、己の弱さと強さの両方を知る捕食者だからこそ可能な荒業である。
スコピオモンは、枯れ木にも八つ当たりのハサミ攻撃を放った。
すると、枯れ木はその苦痛で苦しんだ。
スコピオモンは驚いた。
完全に枯れ木だと思っていた物体が、生きたデジモンだったのだから。
身を起こすウッドモンの姿を見たドクネモン達は、怯えてスコピオモンの後ろに隠れた。
我が子の怯えようを見て、スコピオモンは確信した。
このウッドモンこそが、我が子達をミイラにした張本人なのだと。
スコピオモンは、ウッドモン目掛けて怒りの突進をした。
そして、毒針による一撃をウッドモンへ放った。
だがウッドモンは、根を伸ばしてスコピオモンの尾へ絡みつかせ、この一撃を回避した。
ウッドモンはスコピオモンの尾へ根を食い込ませ、体液を吸い始める。
予想外の反撃を受けたスコピオモンは、ウッドモンの根をハサミで切断しようとした。
ウッドモンの根を断ち切ろうとしたハサミに…
…空から飛来した隕石が直撃し、ヒビが入った。
スコピオモンは周囲を見回した。
この厭らしく強力な攻撃を仕掛けてくるヤツの姿を探した。
…宿敵スターモンが、ふらふらとよろめきながら、巣に乗り込んできたのである。
どうやら注入された毒が少量だったため、テントモン達の看病により息を吹き返したようである。
私には、スコピオモンが笑ったように見えた。
スコピオモンの最大のライバルが、今再び姿を現したのだから。
スコピオモンの巣には、一箇所不自然に土が盛り上がった台座のような部分があった。
これまでは、あの台座が何なのか分からなかったが…
今ならば分かる。あの台座は、スターモンをコレクションとして飾るために作った特別席なのだと。
さて、スターモンはどうする気なのであろうか?
スコピオモンの手が届かない空中を飛行しながら、隕石を降らせ続ける作戦であろうか?
否、それは不可能だろう。
スターモンは長い間飛び続けていることはできないし、隕石も連発はできない。
弱ったスターモンでは、やがてスタミナが尽きて墜落し、今度こそ神経毒を回復不可能なほど多量に注入されてしまうことだろう。
研究員としての私見を述べるなら…スターモン取るべき最善の選択肢は、飛行能力を活かして逃げることだ。
スターモンはズルモンから進化したため、毒に対する耐性がある。(今考えれば、そのおかげでスコピオモンの毒を解毒できたのかもしれない)
だから、ゴツモン達もテントモン達も忘れて、以前見かけた活火山の周辺に逃げ延びればよい。
そうすれば、スコピオモンは追ってくることができない。
仮に活火山周辺まで追いかけて来ようものなら、スコピオモンが食えるものが殆ど無い環境であるため、スコピオモンは飢えて弱ってしまうことであろう。
森を離れ、逃げ去ることが、スターモンが取るべき最善の生存戦略といえる。
だが、スターモンは逃げなかった。
あろうことか、ウッドモンと取っ組み合っているスコピオモン目掛けて突進し、スコピオモンの顔面へパンチを放ったのである。
スコピオモンは一瞬よろめき、即座に尻尾の毒針での反撃を試みた。
だが、ウッドモンはさらに深くスコピオモンの尾へ根を食い込ませ、体液を吸いながら毒針攻撃を封じる。
スコピオモンが根を切断しようとウッドモンへハサミを振りかざすと、スターモンはすかさずそのハサミの付け根を殴りつけた。
かつて宿敵同士として争った、スターモンとウッドモンの、奇妙な連携攻撃が、意外にもスコピオモンに効果を発揮していた。
だが、スコピオモンは成熟期を超えたレベル5の存在。
スターモンに対して、ハサミによるパンチ攻撃を繰り出した。
スターモンの硬い外殻にヒビが入る。
負けじとスターモンもパンチを繰り出し、スコピオモンのハサミの付け根を殴りつける。
激しく殴り合う、スコピオモンとスターモン。
そのダメージは、やはり成熟期であるスターモンの方が大きく、スターモンの外殻はどんどん砕けていく。
だが、スコピオモンはだんだんバテて来ているように見える。
ウッドモンにどんどん体液を吸われ、ブドウ糖や酸素が足りなくなってきているのだ。
スコピオモンは、再度ウッドモンの根を切断しようとハサミを繰り出すが…
「それだけはさせない」と言わんばかりに、ボロボロのスターモンがハサミを払いのける。
このまま戦えば、スターモンはもたないかもしれないが…
ウッドモンが、スコピオモンを仕留めるかもしれない。
レベル4の2体のデジモンが、下剋上を成し遂げ、レベル5のスコピオモンを仕留めるかもしれない。
そう思った矢先…突如、ウッドモンが吐血した。
そして、よろよろと体をふらつかせた。
…ウッドモンの足元に、大量のドクネモンが群がり、親譲りの毒針を突き刺していたのである。
兄弟を殺された怒りのこもった毒針は、ウッドモンへ麻痺毒を注入し、体を痺れさせた。
先に下剋上を成し遂げたのは、ドクネモン達だったのである。
ウッドモンが弱ったのを察したスコピオモンは、体液を大量に吸われて痩せこけた尾に力を込めて、ウッドモンを持ち上げ、それをスターモンへハンマーのように叩き付けた。
その衝撃で、ウッドモンの根は外れた。
怒ったスコピオモンは、麻痺したウッドモンをハサミでズタズタに切り裂いた。
トドメの毒針攻撃で、ウッドモンを仕留めようとしたとき…
スコピオモンの毒針に、スターモンの繰り出した隕石攻撃が直撃した。
体液をさんざん吸われた尾は、先端が脆くなっていたらしく、毒針がばきりと折れた。
苦痛と怒りで、恐ろしい咆哮を上げるスコピオモン。
だが、スコピオモンは毒針攻撃がなくても、純粋な格闘能力だけでも強い。
スターモンを滅多打ちにするスコピオモン。
ついにスターモンの外殻は完全に砕け散った。
柔らかい軟組織がむき出しになったスターモンの腹部へ、スコピオモンのハサミのパンチが突き刺さった。
スターモンは大量に出血しながら吹き飛び、ズタズタになったウッドモンの上に打ち付けられた。
うつ伏せのスターモンは、かすれた目で下を向いた。
ウッドモンの下には大量の保存食デジモンの山が積み重なっていた。
その中には、かつてスターモンが鍛錬した彼の子供達…ゴツモン達の姿があった。
それを見た瀕死のスターモンは察した。
彼の子供達…ゴツモン達は、テントモンを護り共生するという己の生き方に殉じて、スコピオモンに挑み、仕留められたのだと。
スターモンは涙を流していた。
研究員である私にはとしては、何ともコメントし難い。
生物の強さとは、環境への適応能力である。
時には己の生き方という固定観念から脱することも、生存戦略としては重要なはずである。
私には…ゴツモン達の生き方が、スターモンがここへ来てスコピオモンへ挑んだ理由が…分からない。
スコピオモンは、ドクネモン達を連れて、瀕死のスターモンの方へとにじり寄ってきた。
スコピオモン本体の毒針が折れた今、ドクネモン達の神経毒を使ってスターモンを麻痺させるつもりのようだ。
スターモンは、スコピオモンを一瞥した後、彼の下敷きになっているウッドモンを見た。
すると、スターモンは、腹部から流れる血液を、ウッドモンの口内へ流し込んだ。
これは、何をしているのであろうか…?
スターモンは、かつて硫化水素で満ちた猛毒の環境で産まれ育ったズルモンであった。
その頃に獲得した、毒耐性のある血液をウッドモンへ与え、解毒でもしようというのであろうか…。
やがて、麻痺していたはずのウッドモンは、己の根を伸ばし…
樹液をスターモンの口元へと垂らした。
ウッドモンはウッドモンで、スターモンを治癒しようとしているのだろうか…。
互いが互いを必要としている。
戦うための力として、互いの存在を、己の身を削ってでも生かそうとしている。
互いが、己の肉体を分け合って、力を与え合おうとしている…。
の時、奇妙な現象が起こった。
ウッドモンの肉体が、細かい根へと分解されていく。
スターモンの肉体が、硬質の岩石と強靭な肉体へと分解されていく。
それらは互いに絡まり合った。
そして、保存食として積み上げられているスターモンの子供達…ゴツモン達の瀕死の肉体もまた、小さな石片へと分解されていく。
一度分解されたそれらは複雑に、絡み合い、まとまり合い…
やがて、一つの存在となった。
スターモン譲りの筋肉と、ゴツモン譲りの硬い外殻。
それを支える、ウッドモン譲りの植物の肉体。
両方を兼ね備える、ひとつのデジモンへと融合したのである。
我々は後に、このデジモンをジャガモンと名付けることになる。