スカモンの駆除には成功した。
鉄鋼会社の社員達みんなから感謝された。
だが、勝利の代償として…
フローラモンは息を引き取った。
我々はどうすれば良かったのだろうか。
スカモンと出会ってすぐに、戦闘を回避してデジモンを全員引き連れて退却し、サーバーやネット回線を放置すればよかったのだろうか。
それとも…我々は最善を尽くしたのだろうか…。
どれだけ反省会をしても、フローラモンが息を吹き返すことはない。
哀しみに暮れる一同。
フローラモンを愛した大勢の研究員達が、涙を流していた。
今回の調査で、コマンドラモンやマッシュモンが、我々のために…
いや、見ず知らずの鉄鋼会社のために、命を懸けて戦ってくれた理由は何だろうか。
彼らには、スカモンと会ってすぐに逃走するという選択肢もあったはずだ。
彼ら自身には、命を賭してスカモンと戦わなくてはならない理由などなかったのだから。
もしも我々人間が、「見ず知らずの会社のサーバーを守るために、命がけで強敵と戦ってくれ。報酬は特にない」などと言われたら、言われるがままに戦うだろうか?
少なくとも私は、そんなことはできない。
自分の家族を守るためならともかく、赤の他人のために命を懸けて戦うことなどできはしない。
これまでデジタルワールドで、デジモン達の戦いを観察してきたが…
それらの殆どはあくまで、生存競争で己が生き残るためや、餌を手に入れるため…だった。
今回の戦いは、そういうものではない。
純然たる人助けの戦いだった。
ではなぜ、コマンドラモンやマッシュモンは戦ってくれたのだろうか…?
何が彼らの戦いの動機だったのだろうか?
少なくとも、「デジモンは命じられれば戦うのが当たり前」なわけがないのだ。
デジモンはロボットでも奴隷でも、ましてや正義のヒーローでもないのだから。
今回のスカモン戦で、いの一番に真っ先に動いたのは、戦闘能力が低いフローラモンだった。
花粉を使って粘菌をおびき寄せて敵の戦力を削ごうとしてくれた。
それをきっかけにして戦闘が始まった。
私の個人的な推測だが…
コマンドラモンとマッシュモンは、フローラモンを守るために戦ってくれたのではないだろうか。
そしてフローラモンは、我々に喜んでもらうために、敵を排除し、勝利をプレゼントしようとしてくれたのではないだろうか…
恩返しのために。
そうだ。
コマンドラモンやマッシュモンが我々とコミュニケーションをとれるのは、フローラモンが彼らと心を通わせたいと願い、言葉を教えたからだ。
コマンドラモンが我々に懐いてくれているのは、フローラモンが我々のことをコマンドラモンに仲間だと教えたからだ。
フローラモンは、今回の戦いではサポートに徹していたし、スカモン大王戦では何もできなかった。
戦闘力の低いデジモンだったと言わざるを得ない。
だがフローラモンは、「チームを結びつける」という、戦いを成立させるために最も重要なタスクを完遂してくれたのだ。
『心を通わせ、絆を結ぶ力』…。
それは時に、戦場ではいかなる武器よりも強大な力となり得るのだ。
これは奇麗事でもポエムでも、青臭い精神論でもない。
戦術論である。
古代中国の軍事思想家、孫武が書き記した有名な兵法書「孫子」では、戦いの最重要な5つの基本事項を「一に曰く道、二に曰く天、三に曰く地、四に曰く将、語に曰く法」と述べている。
そのうち最も重要とされている「道」とは…
「民の心を君主と一つにさせること」を指す。
フローラモンが我々にもたらしてくれたのが…まさにそれだ。
戦ってくれたデジモン達の活躍に、序列をつけることはできないし、やりたくない。
各々が自分にできる精一杯の活躍をしてくれたおかげで、勝利を手に入れたといえるだろう。
それでも、今は…今だけは…。
フローラモンに特別な感謝と、祈りを捧げたい。
そうしてフローラモンの遺骸は、ビオトープの一角に掘られた墓穴へと、コマンドラモンの手で埋められた。
…
翌日。
我々は驚いた。
なんと、フローラモンの墓の土から、芽が生えている。
我々は、あまり気が進まないが…
フローラモンの墓を暴いた。
すると、さっそく芽の正体が顔を出した。
ニョキモン…
かつてフローラモンが産まれた直後と同じ姿のデジモンだった。
種子から芽が生えたような姿のデジモンである。
墓土の中には、フローラモンの頭部外殻の破片と、植物の種が真っ二つに割れたような殻があった。
…花とは、やがて果実になり、実をつけ、種を残す器官だ。
フローラモンは死の間際に、自分の頭部の花の中で種を…
ニョキモンのデジタマを遺したのだ。
まるで植物が実を落とすかのように。
我々は、フローラモンが遺したニョキモンを、大切に育てることに決めた。
数日後、ニョキモンは花のついた球根型デジモン…ピョコモンに進化した。
フローラモンと同じ幼年期デジモンだ。
そろそろチャットによる会話を教えてみようか…
すると、信じられないことが起こった。
「あるじ!あし はえた! また きたえて!」
…ピョコモンは、口を動かして人語を発したのだ。
これにはピョコモンの世話をしていたコマンドラモンとマッシュモンもぶったまげた。
まだ言葉を教えてないぞ…どうなってんだ!?
ピョコモンはさらに続けて喋った。
「ふろーら、うんこに まけた くやしい! うんと つよくなる! きたえて!」
…なん…だと?
このピョコモン、自分を『フローラ』と名乗ったぞ。
コマンドラモンは、ピョコモンにチャットを打った。
『おぼえているのか あの たたかいを』
「こまんど かこよかた!ふろーらも こまんど みたいに つよくなる!」
…
フローラモンは、ただデジタマを遺していただけじゃない。
頭部の中にある…脳を、記憶を。
肉体の死の間際に、デジタマとして切り離すことで、前世の記憶と自己同一性を維持したまま、幼年期への転生に成功したのだ。
誰も気にしていなかった。
「なぜフローラモンは、花が頭部なのか」などと。
そういうデザインなのだろう、程度にしか考えていなかった。
だが違う。
フローラモンには、こういうことができる身体機能が、初めから備わっていたのだ。
デジモンの生命力の強さは。
生存能力の強さは。
決して、白兵戦闘力だけを物差しとして測られるものではない。
一見弱そうなデジモンが。
誰よりも強い生命力を秘めている事があるのだ。
今起こったことは、奇跡だろうか?
否、違う。
デジタルワールドの激しい生存競争を生き抜いてきたフローラモンの祖先達が、遺伝子を研鑽し、鍛え上げ紡いできた生存能力。
それを受け継いだフローラモンが、自力で生き延びたのだ。
誰に頼るでもなく自力で勝ち取った勝利を、奇跡などと呼ぶことは、フローラモンの生命力に対する冒涜であるかのように私は思う。
…
ピョコモンは現在、コマンドラモンの指導のもとで、ハードなトレーニングを積んでいる。
トレーナーを務めるコマンドラモンの表情は、どこか嬉しそうだ。
さて…
あまり感傷に浸り続けてはいられない。
今回の鉄鋼会社で起きた、ゲレモン及びスカモンによる粘菌事件。
その顛末について分析し、今後どうするかを考えなくてはならない。
ワルモノをぶっとばしたから万事解決!というわけにはいかないのだ。
あの粘菌達はどこから来たのか?
なぜゲレモン達はサーバーのデータをペロペロ舐めてばかりで、食べようとはしなかったのか?
なぜネットワーク回線の内壁にびっしりと粘菌デジモンがくっついていたのか?
結局スカモンは何をしようとしていたのか?
そもそもあのスカモンはどこから来たのか?
あのチューモンはどこへ去ったのか?
…ひとつひとつ、限られたヒントから分析しなくてはならない。
※オマケ※
これまでに確認されたレベル4デジモンのDP比較表を、Tier表形式で発表する。
上から見れば強さの順となるが、空腹に弱い順でもある。
下から見れば、長い間食事を摂らずに生きていける順となる。
そのどちらが生存に有利かは、時と場合によりけりだ。
S+ ホエーモン グレイモン グラウモン ティラノモン
S コカトリモン ディアトリモン
A+ スターモン スナイモン
A タスクモン モノクロモン エクスブイモン スティングモン
B+ クワガーモン スカモン大王 カブテリモン ゴーレモン モリシェルモン
B ディノヒューモン レッドベジーモン ドクグモン ボアモン シードラモン ドビウモン オクタモン ゲソモン シェルモン
C+ フロッグモン サラマンダモン モスモン ウッドモン アイスモン ユキダルモン
ヤンマモン
C ベジーモン トゲモグモン ゴートモン シーホモン
D ヌメモン ゴキモン カラツキヌメモン ハニービーモン
次回、最終回
本作に登場した中で、好きなデジモンを教えてください
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スターモン
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ウッドモン
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スナイモン
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スコピオモン
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ジャガモン
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ディノヒューモン
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フローラモン
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コマンドラモン
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マッシュモン
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タスクモン
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グレイモン
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ブロッサモン
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パイルドラモン/ディノビーモン
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コカトリモン
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ゴートモン
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ピヨモン
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ホエーモン
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オクタモン
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スカモン/スカモン大王
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その他(メッセージ等で教えてください)