デジタルモンスター研究報告会   作:タマリリス

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まとめ

我々は、事件の分析を試みた。

 

ゲレモンはともかく、スカモンはどう考えても自然発生したデジモンだとは考えれない。

 

スカモンは粘菌型デジモンだというのに、極めて流暢に人語を話した。

これは、デジモンまたは人間から、言語とコミュニケーションの高度なトレーニングを施されていると考えてよいだろう。

 

さらにスカモンは、ネットワーク回線を圧迫したり、データバンクをゲレモンに舐めさせたことを「崇高なる使命」と呼んだ。

 

これが自発的な行動であれば「使命」などという言葉は使わないだろう。

故に、スカモンが敬愛する何者かからの命令で動いていたと考えるべきだ。

 

そして、ゲレモン達はスカモンの命令に従い、鉄鋼会社のデータを「食べる」のではなく「コピー」していたのだと考えられる。

 

ネットワーク回線のトンネルの内壁が粘菌で埋め尽くされていたのは、ゲレモン達がコピーした情報を送るパスを専有するためだった…と考えれば筋は通る。

 

 

つまり、今回の事件は…

デジモンを利用したサイバー犯罪だ。

 

鉄鋼会社のデータを盗むことを目的にしていたのだ…という可能性が最も高い。

 

既存のセキュリティソフトでは、デジモンの侵入は防げない。

 

今後も同じ手口が使われるとしたらゾッとする。

 

研究所内では、「この事件を公表し、デジモンによるサイバー犯罪の対策を啓発すべきか?」と議論が行われた。

 

だが結局「公表しない」ことにした。

人類のIT技術では対策しきれない上に、むしろ犯行グループの広告となってしまい、デジモンを利用したハッカーが得をしてしまう可能性があるからだ。

 

 

 

 

ひとまず方針を決めた我々は、さらに事件の詳細について考察を続けた。

 

会議室でリーダーは、巨大ディスプレイにスカモンの分析データを映している。

 

「本格的に対策を考えるなら、犯人の動機だけでなく、手口の分析も必要だ」

 

リーダーの言葉に一同は頷く。

 

「そもそも犯人は、一体どうやってゲレモンとスカモンという、情報窃盗に最適な形質のデジモンを用意したのだろうか?」

 

そうですよねリーダー。

スカモンやゲレモンは、情報窃盗犯罪用デジモンとして高性能すぎます。

 

人語を話せる司令塔スカモンの指示のもとで、基礎代謝量を削減した粘菌型デジモンのゲレモン達によって、データをかき集める。

 

他のデジモンとの戦闘になったら、ゲレモン達も戦力になるし、いざとなればスカモン大王の強力なパワーでごり押しもできる。

 

しかもスカモンは、使命に対して極めて忠実だ。

 

こんなに優秀なハッキングデジモンを、犯人はどうやって調達したんだろうか…?

 

女性研究員が口を開いた。

「デジタルワールドから拾ってきたんでしょーか?」

 

リーダーがそれに返答をする。

「いいや、それではスカモンがあんなに流暢に喋れる発声器官を持っている理由が説明できない。デジタルワールドでは人語を話すデジモンはいないからな」

 

「そりゃそーすよねぇ~。じゃあ、デジモンを作ったんすかねー?」

 

「デジモンを作る…か。あり得ない話ではないが、一体どうやって…」

 

そんな話をしているとき、ちょうど私の席のコンピューターで、スカモンの遺伝子の分析照合が完了した。

…予想通りだ。

私は結果を伝えることにした。

 

「リーダー!みんな!スカモンの死骸やゲレモンからDNAを解析してみたんですが…面白いことが分かりましたよ」

 

私の言葉に、リーダーが反応する。

「ん?そうか、鉄鋼会社ではあまりじっくり時間をかけてられないから、簡易的なDNAシーケンサーを使ったんだったな」

 

「はい。今回はじっくり時間をかけて分析しました。そうしたら見えてきたんです。スカモンやゲレモンのルーツが」

 

「聞かせてくれ」

 

「結論から言います。スカモンやゲレモンは、マッシュモンから進化したと考えられますが…なんとヌメモンの遺伝子が混ざっていたんです」

 

「遺伝子が混ざっていた…?どういうことだ!?」

 

「ゲレモンはもともとは、成長期のマッシュモンだったようですが…それが成長期のヌメモンの遺伝子と合わさって、成熟期のゲレモンへと進化したんです」

 

「成長期のヌメモン…?そうか、ヌメモンはもともと成熟期だったが、レベルダウン進化で成長期になったんだったな。しかし、遺伝子が合わさるとはどういうことだ…?まさか、何者かがデジモンの遺伝子操作をしたということか!?」

 

驚くリーダー。

カリアゲがガタッと音を立てて立ち上がった。

 

「ありえねえ!デジモン基礎研究の最前線にいる俺達でさえ、まだデジモンの遺伝子に手を加える技術は持ってないのに…!犯人はその百歩くらい先を云ってるってのかよ!」

 

 

「いいえ、もしかしたら、特別な遺伝子操作技術は必要ないかもしれません。デジモン達が元から持っている力を、人為的な環境変化で誘発してやればいいんです」

 

「人為的な環境変化ぁ?なんだそりゃ…」

 

困惑するカリアゲの隣で、リーダーがはっと何かに気づいた顔をする。

 

「…ジョグレス進化か」

 

「お気づきになりましたか。そうです、スターモンとウッドモンがやったようなジョグレス進化を、マッシュモンとヌメモンにやらせた結果、ゲレモンが誕生したのではないでしょうか」

 

「なるほど…それなら、飛躍した技術がなくてもデジモンの遺伝子を合成できるな。ゲレモンがヌメモンの姿に酷似していることの説明もつく。…だが、どんな環境ストレスを与えたらジョグレス進化を誘発できるんだろうな」

 

「それは分かりませんが…現在考えられる中で、最も可能性が高いのはそれです」

 

「…確かに、不自然だとは思っていた。菌類を模倣したマッシュモンが、いきなり粘菌型デジモンになるのは…いくらなんでも形質が飛躍しすぎている」

 

リーダーの言葉を聞いたカリアゲは、いまいちピンと来ていないようだ。

「そうかぁ?菌が粘菌になるんだろ?それほど不自然じゃないような…」

 

「菌と粘菌は全くの別物ですよ」

 

「え!?そうなの?同じ『菌』ってついてるのに!?」

 

「菌と粘菌は、真核生物ってとこまでは共通してますが…粘菌は原生生物という括りに入っていて、菌とは全く別の系統です」

 

「そうなんだ…紛らわしいな」

 

リーダーが、オホンと咳払いをする。

「でだ、マッシュモンとヌメモンがジョグレス進化してゲレモンになったと…。それから?続きを話してくれ」

 

「すいません、話がわき道にそれましたね。その後、ゲレモンがデジタマを産み…、ゲレモンの子は、『レベル3で』親のゲレモンと同じ姿へ進化したと考えられます」

 

「ゲレモンという種が、レベル4からレベル3へと移り変わった…。レベルダウン進化か。ホエーモンやヌメモンがやったやつだな」

 

「はい。そしてその後、レベル3のゲレモンがレベル4のスカモンへと進化したのだ…と考えられます。途中に何世代か挟むだろうから、実際にはこんなスムーズに形態変化していったわけではないでしょうけどね」

 

「なるほど…。分析ご苦労。しかし、犯人はゲレモンをどうやってスカモンに進化させたんだろうな。またジョグレス進化を誘発させたのか?」

 

「それが…ヌメモン以外の遺伝子が混ざっているようには見えません」

 

「そうか…。ふむ…マッシュモンがゲレモンに進化したところまでは、まあ自然に起こりうるだろうと納得はできる。だが、その進化形態であるスカモンについては、どう考えても自然な進化としては説明がつかない。明らかに進化の傾向が違うぞ」

 

「そうですね…」

 

「いちどマッシュモンから退化したであろう知能が、人と会話し、命令を遂行できるほど高度に進化している。しかも、ゲレモンは戦闘力を捨てていたフシがあるが、スカモンは強かった」

 

「はい。合体形態のスカモン大王は戦闘向きのデジモン達と遜色ないDPを持っていました」

 

「スカモンはハッキング目的に特化した形質を得るように、人為的に進化させられた…?一体どうやって?そもそも人間がデジモンの進化を制御することはできるのか?」

 

「…『人間がデジモンの肉体に手を加えた例』なら、我々は既に一度目撃しています。瀕死のティラノモンを機械…というよりプログラムボットで改造したレアモンです」

 

レアモンの名前を聞いた途端、カリアゲは眉にしわを寄せた

「レアモン…あのグチャグチャに腐った奴だろ?ひでえことするよな…」

 

ずっと黙っていた、痩せた研究員が口を開いた。

「あの後、レアモンを分析したところ、どうやら『デジモンの欠損した身体機能を、人工のプログラムで代替する実験』の実験台になっている…ぽい感じがありました」

 

報告を聞いたリーダーは頷く。

「スカモンと直接の関わりはないが…、『望み通りのデジモンを作る』ためのアプローチと考えると、どことなく共通した目的があるようにも見えてくる。…根拠は無いけどな」

 

話を聞いていた女性研究員が、不思議そうな顔で口を開いた。

「レアモン以外にももう一体いますよね?」

 

「え、いたっけ?」

 

「コマンドラモンちゃんです」

 

「コマンドラモン!?俺らコマンドラモンになにかしたっけ!?」

 

「何知らんぷりしてるんですかカリアゲさん…。コロモンちゃんに飛行型ボットとコントローラーを食べさせてコマンドラモンちゃんにしたんじゃないですか」

 

「あ…そういえばそうだったな。いや、でもあれは別に無理矢理食べさせたわけじゃ…」

 

カリアゲと女性研究員の会話を聞いていたリーダーが、突如呟く。

「それだ」

 

「え?どうしましたリーダー?」

私はリーダーに聞いてみた。

 

「そういえば気になっていた…あの時コロモンは、なぜ栄養になりそうにないボットやコントローラーを食べたのか。そして何故それがトリガーになり、コマンドラモンに進化したのか…」

 

「そういえば…確かにいままで見てきたデジモンの進化とちょっと違いましたよね」

 

「もしかしたら、だ。デジモンの進化には、通常の進化以外にも…、『他のデジタルデータを吸収することで、その形質を肉体に組み込む』という進化方法があるんじゃないか?」

 

「うーん、確かに…爬虫類型デジモンの子孫であるコロモンが、突然機銃や爆弾や光学迷彩やガスマスクを獲得したのはちょっと不自然ですね。そういう進化の仕方があるのかもしれません」

 

私たちの会話を聞いたカリアゲが目を輝かせた。

「すげーなそれ!なんかその進化方法に名前つけようぜ!名前!」

 

カリアゲの提案に、リーダーは頷く。

「それがいい。今はまだ仮説段階だが…なんと命名する?」

 

私は頭を悩ませて、とりあえず提案した。

「うーん…『吸収進化』とか?」

 

カリアゲは首を横に振る。

「ダメダメ!かっこよくない!もっとこう、ジョグレス進化やデジクロスみたいにかっこいい名前つけてくれ!」

 

「そう言われても…」

 

痩せた研究員がぼそりと呟く。

「『パッチ進化』ってのはどうですか…?もともと持っていなかった情報を、パッチを当てるように継ぎ足して進化するって意味で」

 

カリアゲはそれを聞いて、にやっと笑う。

「パッチ進化…うーん。まあ、それでいいか!しっくりくるし!」

 

「分かりました、パッチ進化ですね」

私はその名称を受け入れた。

 

リーダーは少し何か考えて、口を開いた。

「もしかしたらジョグレス進化は、パッチ進化の応用なのかもしれない」

 

「どういうことですか?」

私は詳細を聞いた。

 

「二体ないしそれ以上のデジモンが、お互いのデータをお互いに吸収し合うことで発生する進化…。パッチ進化の発展形が、ジョグレス進化なんじゃないだろうか」

 

「あり得ますね。筋が通ってます。スターモンとウッドモン、ゴツモン達が急に合体したときは、一体何があったらこんなことできるんだって混乱してましたが…、彼ら全員が同時にパッチ進化をし、互いのデータを取り込み合うことで一体化したと考えれば、無理なく受け入れられます」

 

一同はうんうんと頷く。

 

…しばらくの間の後、女性研究員が口を開いた。

「で、私たちなんの話してたんでしたっけ?」

 

スカモンの進化の秘密にちょっと歩み寄ったところで、我々は話を本題に戻した。

そうだ、事件の解明が本題だった。

 

 

 

 

 

もしも、スカモン人工進化説が正しいのであれば…

先の事件で出現したスカモンを倒せば万事解決、と終わるはずがない。

 

むしろ、あのスカモンが量産されたら、次々と同じ手口によるハッキングで情報窃盗が行われかねない。

これが公的機関や軍需企業、金融機関に差し向けられたらひとたまりもない。

 

(なぜ今回は鉄鋼会社が狙われたのかは不明だ)

 

しかも、今回はスカモンが一体だけだったからギリギリ勝てたが…

さらに強力なハッキングデジモンが配備されたら、うちのレベル3デジモン達では太刀打ちできないだろう。

 

そもそも今回だって、フローラモンが犠牲になった上に、敵が油断して頭部の装甲にスキを作ったから勝てたのだ。

今度同じ盤面で戦ったら、しっかり対策してくるだろう。そうしたら正直太刀打ちできないと思う。

 

 

どう対策したものか…と頭を悩ませていた頃に、マッシュモンから通信があった。

 

『かみよ スカモン大王の 処分がおわったようだ かれらをむかえてくれないか』

 

…え?彼らって誰?

そういえばスカモン大王ってどうやって処分したんだ?

あんなバカでかい巨体を…

 

私は鉄鋼会社のサーバーを見た。

かつてスカモン大王があった場所には…

大量のチビマッシュモンがいた。

 

 

うわ!なんだあの数!

おい、どういうことだ処分作業担当者!

マッシュモンにやらせたのか?

 

私は処分作業担当者に問いただした。

 

「ち、違うよ!あいつら元々あそこにいたんだ!」

 

「元々…?」

 

「スカモン大王の攻撃で、チビマッシュモンがたくさん粉砕されてただろ?そいつらだよ」

 

「え?スカモン大王にやられて死んだんじゃなかったの?」

 

ボスマッシュモンがチャットを送ってきた。

『かみよ われわれは 菌糸のデジモンだ たとえコナゴナにされようと 菌糸はいきている またかたまればいいのだ』

 

 

…あー。なるほど。

撃たれたゲレモンがバラバラになってズルモンへと分裂するようなことを、君らもできるのね。

そして、スカモン大王の残骸を食べて殖えに殖えたと。

 

…なんかゲレモンにならずとも、マッシュモンの時点でそうとうチートなデジモンだな。

さっきまでフローラモンの生還に感動してたのに…桁違いの生命力を今まじまじと見せつけられた。

 

 

しかし…この数のマッシュモン。どうしよう…

ランドンシーフで飼えるのか…?

 

 

 

 

そこへ、スポンサーの方から連絡がきた。

 

『ハーッハッハッハ!ご機嫌よう諸君!君達の戦いは見せてもらったよ…素晴らしいい!』

 

私は返事をした。

「ど、どうも」

 

『特に、君達とデジモンの絆が素晴らしい!デジモンがただ命令に従っただけじゃない、その場に適した意思決定をデジモン自身が行い!君達人間に協力まで求めた!こんな素晴らしいことは、あんな薄汚い排泄物デジモンになどできやしないだろう!』

 

「お褒めにあずかり光栄です。それで、あの…このマッシュモン達どうしましょうね?こんな数うちの研究所で養えるかどうか…」

 

そこへ、女性研究員がひょいっと会話に混ざってきた。

「またペットとして売ります?」

 

『それもいいだろう!需要はたくさんある!こないだ売ったマッシュモン達だがね、動画サイトで大人気なんだ!生きたデジタルペットとして大変愛されている!購入希望者続出だ!』

 

「おお、それは良かったですね。マッシュモンを買ってくれた人の中に、動画サイトでバズった人がいたんですね」

 

『というより、購入希望者の中からインフルエンサーを数名ピックアップし、抽選で優先的に当選させたからだよ!ハーッハッハッハ!』

 

「さすが…。で、このマッシュモン達ですが」

 

『また売ってもいいが…君達は、可愛いデジタルペットとしての用途以上に価値のある使い道を見せてくれたじゃあないか!そっちはどうかね?』

 

スポンサーの言葉に、首をかしげるカリアゲ研究員。

「え?どういうこと?」

 

私はおそるおそる口を開いた。

「つまり…マッシュモンを、ハッキングデジモン対策用の傭兵として運用するって案ですか?」

 

『察しが良くて助かるねえキミ!』

 

「可能なんでしょうか、そんなこと…。正直、マッシュモンだけじゃスカモンに勝てなかったと思いますが」

 

『相手がマッシュモンを品種改良したからだろう?ならば君たちも同じことをすればいいじゃないか』

 

「まさか…マッシュモンをこちらも人為的に進化させる、と…?」

 

スポンサーの言葉を聞いたカリアゲ研究員が立ち上がった。

「あ、あんた、命をなんだと思ってんだ!人工進化だなんて…その中で犠牲になるマッシュモンだっているんじゃないのか!だいたい、望み通りに進化してくれるとは限らないぞ!凶暴化して暴れ回るかも!」

 

『…「餌の確保のしやすさ」「早い成長速度」「飼育下での繁殖能力」「穏やかな気性」「パニックを起こさない性格」「序列性のある集団を形成する習性」…。何のことか分かるかね?』

 

「んあ?…マッシュモンの良いところか?」

カリアゲ研究員の回答に続いて、リーダーが回答をする。

 

「いや、それはそうだが…違う。今スポンサーさんが挙げたのは…『家畜化しやすい動物の条件』だ」

 

『おおっ!その通り、ピンポーンだよリーダー君!』

 

「か、家畜化ぁ!?あんたマッシュモンを家畜にしようってのか!!」

カリアゲ研究員は声を荒げている。

 

『言い方を変えよう。マッシュモン達は、人類の良き友…パートナーデジモンに相応しいということだよ。彼らに強くあれと望めば、きっと彼らも想いに応えてくれることだろう!』

 

「どうだか…マッシュモンが進化した姿のひとつがスカモンやゲレモンだろ?あんな風に悪さして暴れる可能性があるって、ついさっき示されたとこだろうが!」

 

『悪さ?とんでもないよカリアゲ君。むしろスカモン達はとてもよく人類に尽くしたじゃないか』

 

「ああ?何言って…」

 

リーダーは頷きながら口を開いた。

「いいや、スポンサーさんの言う通りだ。スカモンは命令を指示した人間に対して、とても忠実に従ったんだ。大ダメージを受けても逃げずに戦闘を続行していたしな。

それは即ち…マッシュモンの、人間のパートナーとしての高い適性を意味するんだ」

 

「…適性…」

 

「暴れていたのは、命令した人間に悪意があったからだ」

 

「…善人のパートナーにも、悪人のパートナーにもなれるってことか…」

 

『理解したかね?マッシュモンのデジタル傭兵としての有用性と、スパイボットとしての危険性を!デジモンからシステムを護れるのはデジモンだけだ!きっと今に皆が欲しがるぞ、セキュリティデジモンを…!』

 

そうだろうか…。

「どうでしょうね。ハッキングデジモンの存在が周知されない限り、その需要もあまり…」

 

『いや需要は伸びる。なぜなら既にマスコミに売り込んだからだ!デジモンハッキング事件のあらましをね!』

 

「なんだって!?か、勝手なことを!」

私は思わず叫んでしまった。

 

そこへ研究所の副所長がやってきた。

「いやー、まあ、世のため人のためになるかと思ってつい…許諾しちゃった★テヘぺろ☆」

 

「もうーーーーー!副所長ー!」

大丈夫なのかよ本当に…。

 

『ハーッハッハッハ!遅かれ早かれパンドラの箱は開けられていたよ!ならばジリ貧まで追い詰めれるよりも、早期に手を打つ方がいいに決まってるだろう!』

 

「そりゃそうですけどね…」

 

『だがおかげでセキュリティデジモン開発資金の投資は非常ォ~にたくさん集まっている!設備ならガンガン増設してあげるから、頑張って研究を進めてくれたまえ!』

 

なんでそう勝手に話を決めてしまうんだ…!

「もぉ~勝手に決めちゃうんだから…リーダーはいいんですか?」

 

「…遅かれ早かれパンドラの箱は開けられていた、それは確実だ。ならやらざるを得ないだろう」

 

「し、しかし…気が進まないですよ…」

 

「それはそうだ。お前達はデジモンに、感傷的になりすぎている。非情にはなれないだろう」

 

「…はい」

リーダーの言葉通りだった。私は少し、デジモンに親近感を持ちすぎた。とてもじゃないが、デジモンの人工進化だのといった取り組みはできそうにない。

 

「部署を分けよう。デジタルワールド観察班はお前に任せる。セキュリティデジモン開発班は俺に任せろ。汚れ仕事はこっちで請け負う」

 

「…お願いします。リーダー」

 

私も…本当は分かっている。

このままハッキングデジモンが増え続けたら、うちの3体じゃ太刀打ちできなくなり、どこの会社のサーバーもハッキングされ放題になってしまう。

戦力図が一方的に染められてしまう…ということを。

 

「人には向き不向きがある。お前は頭が回るが…手を汚すのには向いていない。適材適所だ」

 

「…すみません。」

 

「いいさ。お前の研究成果は、オレ達にとっても役立つことだろう。そういう手伝い方をしてくれればいい」

 

「引き続き、デジモン観察頑張ります」

 

私たちのやりとりを聞いた女性研究員が、ぼそっと呟いた。

「リーダーにもその適正があるとは思えませんけどね…」

 

 

 

 

 

「ところで。マスコミにハッキングデジモン事件を広めさせたことで、セキュリティデジモン研究費用がたくさん貰えたのなら…逆にハッカー達の方も、やべえ奴らから資金提供されたり、仕事をたくさん依頼されてるんじゃないですか?」

私はふと、疑問をスポンサーに尋ねてみた。

 

『ハーッハッハッハ!そりゃされてるだろうな!』

 

笑いながら答えることか!?

「笑い事じゃありませんよ!国際機密を狙う国際テロ組織とかが、ハッキングデジモンを利用するようになりかねませんよ!」

 

『なら我々は国家からセキュリティデジモン開発予算を貰えるようになるなあ!ハーッハッハッハ!』

 

「だから笑い事じゃありませんってば!そうなったらもう戦争じゃないですか!」

 

『そうだが?』

 

「そうだがじゃありませんよ!」

 

『戦争ができるだけマシじゃないか!このままハッカー共を野放しにして、事なかれ主義で日和見していたら、戦いさえさせてもらえずにデジタルジェノサイドされていたぞ君ィ!』

 

「うぅ…否定できない」

 

リーダーは私の肩をポンと優しくたたいた。

「…先手を打つ者はいつだって非難にさらされるもんだ。そのくせ大事件を未然に防げても感謝されない。損な役回りさ…。だが、誰かがやらなきゃいけないんだ。今回はそれがオレ達だ」

 

「…やるしかないか…。頼みましたよリーダー」

 

 

 

 

 

昼食休憩中。

 

ビオトープ内で、トレーニングをしているコマンドラモン、マッシュモン、ピョコモン…

 

彼らの様子を見ながら、カリアゲ研究員は感慨深そうに話し始めた。

 

「しかしよ、よく考えたら今オレ等のもとにいるデジモンってさ。動物、植物、そして菌類だよな?」

 

海苔弁当を食べている私は、口の中の食べ物を飲み込んでから答えた。

「そういえばそうですね…」

 

「なんか感動的だよな!生物界の三界がよ、ああやって並んでるのを見ると!なんかデジモンの多様性?っていうのを感じて、ちょっと感動しちまうよ!」

 

「ああー、わかるかも」

 

そこへリーダーがやってきた。

「残念だがカリアゲ。あいつらは全員動物型だ」

 

「ええー!?そうなの!?コマンドラモンはともかく、のこり二体は植物と菌類じゃないのか!?」

 

「植物型デジモンは、厳密には植物じゃない。海に住んでいた無脊椎動物型デジモンが上陸し、植物の形質を身に着けたものだ。だいたい植物に目や手足なんてないだろう」

 

「そりゃそうだけどよ…じゃあマッシュモンは?どう見てもキノコだろ!」

 

「あれは植物型デジモンが、キノコの形質を得たものだ。だからマッシュモンは植物型デジモンの一種だ」

 

「や、ややこしい…!ってか納得いかねーっすよ!光合成しないし、胞子で殖えるんだからキノコだろ!?」

 

「光合成しない植物はいるぞ。ギンリョウソウやキヨスミウツボといってな、少しキノコに似ている。胞子で殖える植物もいる。苔やシダ植物だな。それらに似た進化をしたと考えれば、キノコっぽい植物といえるだろう」

 

あまりにズタボロな論破っぷりに、私は少し引いた。

「り、リーダー…単なる感想にそこまで切り込まなくても…」

 

カリアゲはちょっと落ち込んでいる。

「はぁー…。なんか俺だけぜんぜんみんなのレベルについていけねーな…。俺、役に立てるのかな…」

 

私はフォロー…というか、本音で答えた。

「…いや、いいこと言いましたよカリアゲさん」

 

「え、そうか?どこが?」

 

「パッチ進化の存在が示唆された今、植物型デジモンが何故植物型なのかとか、菌類型デジモンがなぜ菌類型なのか、とか…そこに立ち返るのは大きな意味があります」

 

「そうなの?」

 

「はい。ずっと謎だったんです。サンゴモンがどうやって植物の形質を獲得して植物型デジモンへ進化したのか?そして植物型デジモンがどうやってマッシュモンに進化したのか?…今まで未解明だったんですが、ひとつ仮説が立てられました」

 

「…パッチ進化か!植物や菌類のデータを吸収したってことだな!」

 

「多分そうです」

 

「…なるほど。確かに、その可能性が高いな。お手柄だぞ、カリアゲ」

 

「やったぜ!…ん?ところでさ、デジモンにデータを吸収させたら、そのデータを身に着けた進化をするんだろ?」

 

「そうらしいな」

 

「じゃあさ…犯人は、鉄鋼会社から抜き取ったデータで、何をする気なんだ?」

 

 

「「あ」」

 

私とリーダーは同時にハモった。

 

「まさか…犯人が鉄鋼会社のデータを盗んだ理由は…。デジモンに吸収させるため、か…?」

 

 

 

 

 

我々は、これからもデジモンを研究し、観察し続ける。

 

フローラモンが転生したピョコモンは、どんな姿へ進化していくのか?

 

ハッカーが従えるデジモン達は、どのように進化していくのか?

 

スカモンから脳を奪ったチューモンは、どこで何をしているのか?

 

 

 

…それだけじゃない。

 

ディノヒューモンの集落は、どのように発展していくのか?

 

ジャガモンから守護者の地位を継いだジュレイモンは、これから何をするのか?

 

グレイモンは、これからどこで何をして生きていくのか?

 

寒冷地帯の闘争の結末は、どうなるのか?

 

…まだまだデジタルワールドは、デジモン達は、観察のしがいがある。

研究レポートのネタは尽きることがないだろう。

 

だが。

我々はいったん、ここで一区切りをつけるとしよう。

 

 

これまで我々の研究報告を聞いていただいたことを、深く感謝したい。

 

またいつの日か、我々の研究報告を聞いてもらう日が来るかもしれないし…

もうその機会は訪れないかもしれない。

 

だが、それでも我々は、この世界でデジモンの観察と研究をし続ける。

 

まずは今回の報告会で発表した研究成果について、皆様に楽しんでもらえたのなら、とても幸いだ。

 

 

 

 

 

それでは、皆さん。

またいつの日かまた会おう。




今までご愛読いただき、ありがとうございました!
もしよろしければ、活動報告の方にちらっと目を通してもらえたら嬉しいです。

本作に登場した中で、好きなデジモンを教えてください

  • スターモン
  • ウッドモン
  • スナイモン
  • スコピオモン
  • ジャガモン
  • ディノヒューモン
  • フローラモン
  • コマンドラモン
  • マッシュモン
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  • グレイモン
  • ブロッサモン
  • パイルドラモン/ディノビーモン
  • コカトリモン
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  • スカモン/スカモン大王
  • その他(メッセージ等で教えてください)
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