するとそこへ…
「やぁ、すまない。待たせたね」
我々のいる応接室へ、スーツ姿の男性が入ってきた。
「カンナギエンタープライズジャパンCEOの神木だ。待たせてしまってすまないね、前の会議が長引いたもので」
私はCEOに挨拶した。
「お久しぶりです、ケンです。実際に会うのは、最初にデジクオリアとデジドローンのテストをご依頼頂いた時以来ですね」
「ああ、ケン。君のレポートはよく読んでいる。我が社の製品をうまく活用してクラッカーのデジモンを倒したそうだね。嬉しいよ」
リーダーやスポンサーも挨拶をした。
「待っている間、うちの岸部が話を聞いたそうだね。どこまで話したかな」
リーダーは、話の流れを説明した。
CEOは静かに話を聞いていたが、やがて口を開いた。
「なるほど、結論から言おう。クラッカーへの販売規制をする気は毛頭無い」
それを聞いたカリアゲは、ガタっと音を立てて席から立ち上がる。
「なんだって!?そこの美人秘書さんはさっき、ライセンス料金を吊り上げれば応じるって言ってたぞ!?」
だから本人の前で『美人』秘書ってつけるんじゃないよ…
「岸部にそんな決定権は与えていない。部下が勝手に口走ったことだ。一旦白紙に戻そう」
「でぇっ!?な、なんだそりゃ!ズルいぞ!さっきはいいって言ってたのに!」
「彼女の発言は言質として機能しない」
「なんだそりゃ…」
「岸部、あとは私が対応する。お茶の代わりを持ってきなさい」
「は、はい…失礼しますCEO」
カリアゲは不満そうにしている。
私の考えすぎかもしれないが…
このCEO、はじめからこれを狙っていたんじゃないんだろうか。
挑発が得意な岸部にこちらの腹の中を探らせて、本性を暴く。
そして話の流れが不利になったらバトンタッチして、なんやかんや言って白紙に戻す。
そうして一度だけ、話をリセットできるように仕掛けておいたのではないだろうか…。
疑いすぎかもしれないが。
カリアゲは納得行かないようだ。
「で、でもよお!そっちだってハッカーに製品を悪用されてマイナスイメージが付くのは不本意じゃねえのか!?」
スポンサーがそれに続けて話す。
「正直に言うが、規制がかかるのは時間の問題だと思うぞ神木くん!デジクオリアが悪用されて社会が混乱してから、君の不本意な形で規制をされることだって考えられる。それが分かりきっている以上、ある程度君の望む形で規制案を盛り込んでおいた方が、のちのち損せず済むと思うがねぇ!」
CEOはふーっと息を吐く。
「私には優秀なハッカーの友人が数多くいる。彼らと区別するために、悪意のあるハッカーをクラッカーと呼称させてもらう」
「それはすまなかったね。そうしよう」
「…我々が戦う相手は、クラッカーだけじゃない。我が社のソフトウェアを違法コピーしたり、我が社の特許権を侵害して同様の技術のハッキングツールを勝手に作るような奴が現れることも危惧しなくてはならない」
「ふむ…。もともと違法行為をはたらくクラッカーには著作権侵害など気に留めないだろうからねぇ」
「デジクオリアは、我が社が莫大な予算を投じて苦労して開発したソフトだ。そう簡単にコピーされることはないはずだ。少なくとも、有償ライセンスの料金を払えば誰にでも使用させている今はね」
「今は…か」
「そう。同じものを作り直すよりも、我が社から買ったほうが遥かに安上がりだ。だからクラッカー共も、今は我が社のデジクオリアを正規購入して使用しているだろう」
そういうとこは律儀なんですね。
何に使ってるかは監視してないんですか?
「していない。あえてね」
あえてですか…
「だが我々が販売規制を行ったならば、クラッカー達は違法コピーソフトを開発して使うようになるだろうな」
そう簡単に真似できるものなんですか?
「可能なはずだ。我々が莫大な予算を投じたのは、根幹となる基礎技術の研究開発の部分だからね。特許を取っている以上、システムの基礎理論は論文で公開している。それを実装しているプログラムは企業秘密だがね…。だからサルマネは言うほど簡単でないが、言うほど難しくもない」
カリアゲが顔をしかめながら答える。
「論文で公開しなきゃよかったんじゃねーか?」
「そうはいかない。基礎理論を公開しなければ、デジクオリアの映像を『カンナギエンタープライズ社が捏造したフィクション映像だ』と疑われても反証できなくなるからね。再現手順を示すことは、インチキ技術だと疑われないために必要なことだ」
「うーん…違法コピーされるかもしんねーけどよ、とりあえず販売規制しとけばクラッカーの勢力は落とせるだろ。だめなのか?」
「ああ、駄目だ。販売規制という安直な手段で対策した気になったら、誰もセキュリティデジモン開発に予算を回さなくなる。君達の戦力は育たない。…そんなときに違法コピー品のデジクオリアで戦力強化したクラッカーがデジモン犯罪を仕掛けたら、誰が対抗できる?」
「…あ」
カリアゲは黙ってしまった。
リーダーは苦い顔をしている。
「…それは、そうだな…」
スポンサーは扇子を取り出して、ぱたぱたと扇いでいる。
「ハッハッハ!結論が出てしまったね!神木CEO!この話し合いは君の勝ちだ!降参だ、ハーッハッハ!」
カリアゲは、はぁーっと溜め息をついた。
「そんな面倒事を引き起こすソフトをよぉ…なんで開発しちまったんだ?こんなことになるなら作らないほうがよかったんじゃねーか…」
「…?君は知らないのか?デジクオリアが元々何をするために作られたソフトなのか」
「ん?デジモンを見れるようにするためじゃないのか」
「いいや。デジタルモンスターそのものが初めて発見されたのは、デジクオリアを使って君達がデジタルワールドを調査したときだろう」
「そういやそうだな…。ん?あれ?え?どういうことだ?分かんなくなってきたぞ?」
要するに…カリアゲ。
因果関係が逆だ。
デジモンを見るためにデジクオリアが開発されたんじゃない。
デジクオリアが開発されたからデジモンを発見できたんだ。
「???あれあれあれ?えっと、じゃあ…デジクオリアが発明された時点じゃデジモンは見つかってなかったのか?」
そうなる。
「じゃあ、デジクオリアって元々なんのために作ったんだ?」
そう話しているうちに、岸部さんがお茶をもってきてくれた。
笑顔がちょっと怖い。
神木CEOは、お茶を飲むと、少しだけ目を瞑った。
「…時間が余った。少しだけ、昔話をしないか」
「え?昔話ぃ?なんの?」
カリアゲが首を傾げる。
CEOの提案に、リーダーが答える。
「そうだな…研究が進んできた今、デジクオリアに対する認識を深めるためにも、今一度振り返っておきたい。どうやらデジクオリアの論文を読んでない者もいるようだ」
リーダーはカリアゲをちらっと見る。
「う…すまねえ、詠もうとしたけどアレ難しくってよ…一語一句がよくわかんねえ」
スポンサーはカリアゲを扇子で扇ぐ。
「ハーーッハッハッハ!分からないものを素直に分からないと言えるのは優秀な側の人間だよカリアゲ君達。見栄を張って知ったかぶるような、使いものにならない輩が世の中には大勢いるんだからねぇ!」
「褒められてる気がしねぇ~…」
CEOはスクリーンにプロジェクターで資料を映した。
「では、改めて振り返ろうか。デジクオリア開発の経緯を」
一同のやりとりを聞いたクルエが、私にひそひそ話をしてきた。
「てかこの人達、なんで敬語使わないんすかねー?」
それは言及するな。
今その…なんか…そういうノリのあれなんだよ…うん。
マジで言及しないで。
season1で好きなエピソードはどのへんでしょうか?
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1話~ジャガモン編
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ベタモン分岐編
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マッシュモン事件編
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グレイモン・ブロッサモン編
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寒冷地帯編~コカトリモン編
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各種閑話休題(考証フェーズ)
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スカモン戦編