私とクルエは、カンナギエンタープライズ・ジャパンへ向かった。
新型デジドローンVRのテストや、各種研究報告をするためだ。
新型のデジドローンVRは凄い解像度だ。まるで本当に自分がデジタルワールドにいるかのようだ…
触覚やにおいは感じ取れないが、視聴覚は極めてリアルだ。
一通り体験した後、神木CEOへ、各種研究報告をした。
オペレーション・テイマーズで、採取を狙っているデジタマについて…等など。
そうして話していると…
オフィスのパソコン一台から、突如警報ブザーが鳴った。
な、なんだ!?
「きたぁー!」
岸部エリカさんの、何やら嬉しそうな声が聞こえてきた。
か、神木さん!
なんですかあの音!
「ああ…あれは、我が社の製品のコピープロテクトが反応したことを報せる音だよ」
コピープロテクト?
「ああ。デジクオリアには特殊なコピープロテクトを仕掛けていてね。半端なコピー品なら、起動不可なだけだが…。少々腕の立つ輩がライセンスを偽造して起動に成功したら、そのまま少しの間は使わせてやっている」
少しの間は…?
どういうことですか?
「違法コピーしたデジクオリアを使用した場合、我が社では先程の警報が鳴る。そして、違法ユーザーのサーバーへ、足がつかずに我々がデジモンを送り込める伝送路を自動で確保するんだ」
何故そんなことを…?
「そうだな…ケン、クルエ。君達二人だけになら、特別に見せてやってもいいが…どうする?きっとセキュリティデジモン開発の参考になるはずだ」
他言無用ってことですね。
大丈夫なんですか?そんなこと私達に教えて。
「構わないさ」
じゃあ…お願いします。
何をする気か分かりませんが。
「では…岸部、この二人に仕事を見せてやってくれ」
神木さんがそう言うと、岸部さんが自席に座ったまま、我々二人を手招きして呼んだ。
我々は岸部さんの席のモニターを後ろから見た。
「ふふふ、今からナニするか、わかりますかぁ?」
何でしょうか…
情報を抜き取って、訴訟の準備でも?
「うふふ、それをやったらスパイウェアでしょぉ?違法に得た証拠は裁判で使えないんですよぉ」
じゃあどうするんですか…?
「ぶっころしまぁす♪」
!?
私とクルエは驚く。
すると、神木さんが横から解説した。
「もしも、我々のデジクオリアと同等のテクノロジーを、いちからコーディングして作り上げた者がいたならば…。無論特許侵害で訴訟はするが、敬意は払ってやろう。そう簡単にできることではないからな」
はぁ…。
「だが、我が社の製品をそのままコピーし、社員達の血と涙と汗の結晶を何の対価も払わずに使おうとする不届き者がいるならば…『処刑人』を送り込む」
し、処刑人!?
何ですかそれ!?
「我々もデジモンを育成しているんだ。対クラッカー用ではない。『対違法コピーユーザー』用のデジモンをね。岸部、見せてあげなさい」
「はいはーい♪」
そう言うと、岸部さんはデジクオリアを起動して、カンナギ社内サーバーのビオトープ映像を映した。
「我々はある条件に該当するデジモンを探した。『デジモン同士の交戦は不得意でもいいので、DPが低く、それでいて火力と破壊力が凶悪なデジモン』だ」
そ、そんなのいるんですか?
何故そんなデジモンを?
「理由はひとつ。運用上、対人用の破壊活動だけを想定しているからだ。…このタスクは岸部に任せたんだ。彼女は理想的な恐怖の破壊デジモンを見事に用意してくれたよ」
「やん♪CEOってばぁ♪」
そ、それで、その処刑人というのは…?
「では、お見せしよう」
神木さんがそう言うと、ビオトープ内にデジモンの姿が映った。
画面に映ったデジモンは…
オタマジャクシ型成長期デジモン、オタマモンだった。
それが8匹。
温泉を模した風呂にのんびりと浸かっていた。
それを見たクルエは、通常のオタマモンとの違いに気付いたようだ。
「ん…?このオタマモンちゃん、赤いですね?ふつう青じゃないでしたっけ」
「うふふ、サラマンダモンっていうデジモン、覚えてますぅ?」
サラマンダモン…。
炎を纏ったサンショウウオみたいなデジモンですよね。
ディノヒューモン農園で、炎を使ってイモを焼いたり、木を焼いて農地開拓やってるデジモンだったかと。
「そうそう、あのコ達の子供なんですよぉー
~。うっふふ、カワイイでしょぉ~?」
クルエは渋い顔をしている。
「まあ…たしかに可愛い…とは思いますけど」
サラマンダモンの子供達…
ってことは、あのサラマンダモンからデジタマ8個も盗んだんですか!?
「いえ、一個…。一個よ」
え?じゃあ八つ子?
「その話は後にさせてもらいますねぇ~♪じゃ、アカタマちゃん達、今日もどぴゅっといっちゃいましょ~♪」
なんか…怪しい号令だ。
オタマモン達は、デジタルゲートに飛び込んだ。
例の伝送路を使い、違法コピーユーザーのパソコン内へ侵入した。
今回違法コピー品がインストールされたパソコンは3台。
オタマモン達は、3・3・2にチームを分けたようだ。
パソコン内のデータで構成されたデジタル空間に潜り込んだオタマモン達は…
口から粘度の高い泡をぷくぷくと吹き、デジタル空間のそこら中を移動して、どんどん泡まみれにしていった。
な…何してるんですか?
この泡なんですか?
「なーんでしょぉ?」
たっぷり時間をかけて、デジタル空間を泡まみれにしていったオタマモン達は…
パソコン内だけでは飽き足らず、そこに接続されているデジタル機器内のデジタル空間を虱潰しに泡まみれにしていった。
ルーターやテレビ、スマートフォンやスマートウォッチらしきもの、ゲーム機など…。
光回線のモデム以外、すべてを泡まみれにした。
「モデムは見逃すんですね」
クルエの言葉に、岸部さんが答える。
「だってぇ、モデムはプロバイダーの業者さんから借りてるものでしょぉ?そっちにとばっちりで迷惑はかけられませんよぉ~」
変なとこ律儀だな…。
しかし、泡まみれにしただけで…終わりですか?
「うーっふっふふふふふ♪これからが…お楽しみターイムですよぉ~…♪」
ヒエッ…
なんか恐ろしい笑みを浮かべている。
そういやこの人、警報ブザーが鳴ったとき、なんか喜んでなかったか…?
気のせいだろうか。
オタマモン達は、デジタル空間から退避した。
そしてデジタルゲートまでやってくると…
ぽっと火を吐いた。
火はデジタル空間内にびっしりしきつめられた泡に着火した。
すると、泡はすぐに火がついた。
まるでガソリンだ。
デジタル空間内を埋め尽くしている泡は、瞬く間に燃え広がり…
五分と経たずに、デジタル空間内は火の海となった。
様々なデータがどんどん燃えていく。
うわっ…!やべえぞこりゃ!
OSを構成してる重要なデータや、マザーボード上の絶対消えちゃ駄目なデータがどんどん燃えてる!!
ひいぃぃい!グロ動画だぁぁ!!
「うっふふふふふふ♪綺麗ぇえええええええええーーーーー♪この瞬間がたまりませんのですわぁぁぁーーーーーー♪」
岸部さんは恍惚の表情でそれを眺め、口の端から涎を垂らしている。
クルエはそんな岸部さんにドン引きし、怪訝そうな視線を向けている。
デジタル空間の壁や天井、床はごうごうと燃えていき、がらがらと崩れ始めた。
「はぁぁーーーん♪破滅って素敵ぃぃいーーーーーー♪最高ぉーーーーーー♪」
うわ…
今の岸部さんには話しかけないでおこう。
やがて、ネットワークが遮断された。
前もって避難していたため、取り残されたオタマモンはいないようだ。
そうして、オタマモン達は無事に帰還した。
餌としてたくさんフルーツを与えられたオタマモンは、歓喜してフルーツを食べた。
…あれ?そのフルーツは?
「デジモンキャプチャーで、デジタルワールドの森の木からひょいっと」
あ、そっか。
デジモンキャプチャーって餌の採取にも使えるんだ。
そ、それで岸部さん。
あの違法コピーユーザーのパソコンはどうなったんですか?
「うふふふふ♪どうなったんでしょーね♪知る術が無いのでなんとも…♪」
か、神木さん。
これは一体どういうことなんですか?
「…まあ、再起不能だろう。お高いマシンを用意したようだが、お釈迦だ」
…器物破損罪!!!
不正アクセス禁止法違反!!
アウトオォォォォオ!!!
「相手も著作権法違反だ。お互い様だ」
そういう問題じゃないでしょ!
アナタそんなやくざな性格でしたっけ!?
ガチ犯罪じゃないですかこんなの!!
「そうだね」
そうだねじゃないですよ!!
「違法コピー品が出回ったら、苦労して私についてきてくれた我が社の社員達が被る損失は、こんな程度では済まなくなる。我々を違法コピーから未然に護ってくれる何某などいないのだから、自衛するしか無いだろう」
まあ、それはそうですが…。
目には目を、違法行為には違法行為をですか。
「サイバー犯罪の立証は簡単じゃない。お互いにその条件ならば、あとは殴り合いで決着を済ますしかないだろう。それなら、デジクオリア導入直後に、マシンを丸ごとデジモンの力で潰してしまう他ないだろう。もたもたしていたらあちらもデジモンで武装してしまう」
まあ…
放置したら、悪質なクラッカーがそのマシンでデジモン使い始めるでしょうからね。
「悪質なクラッカーといえど、我が社の正規品を購入して使うのならば、不利な条件は与えない。だが違法コピーをする者はあらん限りの手段で抹殺する」
こ、こええ…
神木さんってとんでもない世界で戦ってきた人なんだなぁ。
法が護ってくれない世界で…。
いやしかし。
あなた確か…デジクオリア承認機関の暴走を危惧しているとか言ってませんでした?
私は今まさにあなたの暴走を危惧しているんですが。
「わたしもそうおもう」
クルエが首を縦に振った。
「別に我々は、無害なユーザーや未購入者のデジタル空間に放火するつもりはないよ。そうしたら客が減るだけだ」
そ、それはそうでしょうとも。
「それにオタマモン達は戦闘能力が低い。何者かが我々のサーバーを狙って、アグモン一匹送り込んだだけで全滅するだろう」
白兵戦はそんな弱いんですか…。
「破壊活動の強さ」と「戦闘能力の強さ」はぜんぜん違うんですね。
「だが、我々の正規品デジクオリアがクラッカー達に使われており、我々が彼らを冷遇しない限り、そうそう我々を攻めては来ないだろう」
まあオンラインでデジクオリアのライセンス認証できるあなた達が倒れたら、クラッカーもデジモンに指示できなくなりますからね。
…ああ、その状況を維持するために、過剰なくらい熾烈に違法コピーユーザーを撲滅してるのか。
合点がいった。
ま、まあ他言無用の意味は分かりましたよ。
「君達には弱みを握られたわけだね」
…しかし、なぜ教えてくれたんですか?
こんなこと誰にも教えないほうがよかったのでは?
「君達に知っておいてもらいたかったからさ」
クルエがひょいと顔を出す。
「岸部さんの性癖をですか?」
「違う。…あのオタマモン8兄弟のことだ」
そういえば、デジタマ1個から産まれたって言ってましたね。
どういう事ですか?
「…オタマモン達は、正しくは、ディノヒューモン農園にいるサラマンダモンの『子供』じゃない。…『孫』だ」
孫…?
「少し前のことだ」
「我々はサラマンダモンのデジタマを一個採取した。そこから産まれた幼年期デジモンは、青いオタマモンへ進化した」
青い方ですか。
「我々は違法コピー対策の『処刑人』を作るために、オタマモンを育成し、サラマンダモンに進化させようと試みたんだ」
なぜサラマンダモンを?
「DPが低くて燃費がよく、それでいて破壊活動が得意…そんなデジモンがほしかったからだ」
なるほど。
「ビオトープ内ではデジモンは成長期以上に進化しなくても平気だから…、成熟期へ進化させるには様々な環境負荷を与える必要があった」
うちのデジモン達も成熟期にならないな。
「そうしてオタマモンはサラマンダモンへ進化した。これで処刑人の力で、違法コピーユーザーを撲滅できる…!そう考えていた。実際、サラはよく働いたよ」
名前つけてたんですね。
「だが、思わぬ弊害があった」
な、なんですか?
「…君達は、デジタルワールドからなぜ幼年期や成長期のデジモンがいなくならないか、考えたことはあるか?」
幼年期や成長期が…?
よく考えると、成熟期デジモンがデジタルワールドにどんどん増えていくのなら、それに狩られる幼年期や成長期デジモンは減っていきそうですよね。
「デジモンは、幼年期や成長期を最終形態とする個体群を除いて…成熟期にならないとデジタマを産まない。だが、成熟期になったとたん、生態系のピラミッドの最下層を補填する勢いでデジタマを産むんだ」
そ…そんなに。
「高いDPのデジモンはそれほど産まないが…DPが低いデジモンは産卵のペースが凄まじい。スカモンやゲレモンは凄かっただろう」
ええまあ…。
…つまり…
「サラもまた、デジタマを産みすぎた」
…
「我々の世界の有性生殖ならば、交尾をさせないことで繁殖をセーブできる。だが…単為生殖となると、それは止めようがない」
まあ生理現象みたいなもんでしょうからね…。
産んだデジタマを逐一捨てたら、怒って言うこと聞かなくなるでしょうし。
「苦肉の策だった。我々は…サラを手放した」
手放したって…
「デジタルワールドへ放逐されたサラは、ずっと我々のデジドローンを探し続けていたよ。…心が傷んだ。そこの岸部さえもね」
…そのデジタマを、他の誰かに譲ることはできなかったのですか?
「誰にだ?他の国の支社にか?社外にか?」
前者でしょうか。
「…キリがないだろう。増え続ければやがて秘密は漏れる。サラの存在を知るものは、日本支社の最上層部だけだ」
…なるほど。
社外には譲れるわけありませんよね。
「同じ過ちを繰り返さないように、サラが残した8つのデジタマは成長期のまま大切に育てると決めた」
なるほど…。
「君達が…我々と同じ過ちを繰り返さないことを祈っているよ」
分かりました。
ありがとうございます。
私とクルエは、帰りの車の中で、終始無言だった。
きっとクルエも、神木さん達の苦悩を想像して頭がいっぱいいっぱいなのだろう。
車を降りて、しばらくしてから…
クルエは口を開いた。
「ってかパソコン燃やしてるときの岸部さんめっちゃキモくなかったですか?」
そっちかよ!!!
season1で好きなエピソードはどのへんでしょうか?
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1話~ジャガモン編
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ベタモン分岐編
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マッシュモン事件編
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グレイモン・ブロッサモン編
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寒冷地帯編~コカトリモン編
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各種閑話休題(考証フェーズ)
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スカモン戦編