…
我々は、観察対象を再び海中に移した。
かつての海中では、スイムモン、ガニモン、シャコモン等の成長期が生態系の頂点になっていた。
だが、それも昔の話。
現在は、それらの進化系である成熟期デジモン達が、海中で猛威を振るっていた。
シャコモンが進化した姿…ゲソモン。
ゲソモンはイカの姿をしたデジモンである。
軟体動物…貝であるシャコモンが、殻を脱ぎ捨て、頭足類に似た進化を遂げた。
これにより、素早い遊泳能力を身に着け、スイムモンを捕食するようになった。
これに負けじと、ガニモンも進化した。
エビの姿をしたエビドラモンである。
エビドラモンもまた高い遊泳能力と、強靭なハサミで獲物を仕留める力を持つ。
さて、これら2つの系列は、既に陸上へ進出済みである。
シャコモン系列は、陸上へ進出してヌメモンとなった。
ガニモン系列は、陸上へ進出して昆虫型デジモンへと進化した。
だが、スイムモン系列は、未だに陸上への進出はしていなかった。
しかしそんなある日、スイムモン系列から成熟期デジモンが誕生した。
…シーラカンスの姿をしたデジモン。シーラモンである。
シーラカンス。
かつて絶滅したと考えられていたそれが、アフリカで発見されたとき、世間では大きな騒ぎとなった。
たかが古い魚が見つかっただけで、なぜ大きな騒ぎとなったのか?
それは、シーラカンスという種が、人類の祖先であると考えられていたためである。
この説は、遠からずも近からず、といったところである。
魚類は大きく3つのグループに分けられる。
サメ等が属する軟骨魚類。
シーラカンスや肺魚が属する肉鰭魚類。
そして、それ以外の一般的な魚が属する条鰭魚類。
我々人類の祖先…両生類は、このうち肉鰭魚類から進化したものと考えられている。
つまり、シーラカンスが属するグループは、両生類の祖先である肺魚と非常に近縁なのである。
シーラカンスの発見は、旧約聖書に例えるならば、エデンの園のアダムとイヴが見つかったのと同レベルといえる衝撃なのである。
さて。
シーラモンは、河口を目指して泳いだ。
シーラモンは、鰓だけでなく肺や皮膚、腸による呼吸が可能であった。
川へ到達したシーラモンは、時折川辺へ身を乗り出し、幼年期デジモンなどを捕食した。
やがてシーラモンは、川でデジタマを5個ほど産んだ。
デジタマが孵化すると、一本のトサカが生えた幼年期デジモン…ツブモンが産まれた。
それらが進化すると、ウーパールーパーと呼ばれる両生類によく似た鰓を持つ幼年期デジモン、ウパモンに進化した。
素晴らしい。
シーラカンスに似たデジモンから、両生類に似たデジモンが産まれた…。
やはり、進化というのはデジタマの中で既に起こっているのだ。
デジタマの中の卵細胞そのものがレベル0のデジモンであり、それが胚となり幼年期の肉体を形成する過程で、一度進化が行われているという予測は正しいものとみて間違いない。
これら5匹のウパモンは、そのうち2匹はオタマジャクシのような姿…オタマモンへ進化した。
残りの3匹は…なんとも形状しがたい姿へと進化した。
緑色の体色をしており、全体的なシルエットはカエルに近い。
しかし手足の先端には一本の爪が生えている。
目は飛び出ておらず、背中には橙色の大きなトサカが生えている。
ピョンピョン跳ねて移動する姿から、これはカエル型のデジモンではないかという意見が多かった。
だが、カエルと決めつけるのは早計である。
このデジモンの背中には、大きなヒレがついている。
これは肉食単弓類であるディメトロドン…爬虫類の動物がもつ特徴である。
単弓類は、単なる爬虫類ではない。我々哺乳類の祖先である。
つまり、このデジモンは、両生類の形質を持ちながら、爬虫類にも哺乳類にもなり得る、それらの中間ともいえる身体的特徴を備えているのである。
我々の研究チームは、この様々な進化の分岐点に成り得るデジモンを、なんと名付けるか議論した。
フロッグモンやディメトロモン等の案が挙がったが、最終的には女性研究員が提案したベタモンという名前に決定した。
今回ばかりは彼女のネーミングに賛同する。
無理に実在する動物になぞらえて名付けても、進化の可能性を狭めるだけになるだろうから。
さて、成長期となった3匹のベタモンは、乾燥に強い皮膚を獲得したらしく、川から少しずつ離れて暮らすことに決めたようだ。
ベタモン達は、二匹がサバンナへ、もう一匹が森林へと移動を開始した。
二匹のオタマモン達は、ヌメモンやヤンマモンがいる沼へと移動した。
親であるシーラモンは、移動していく5匹の子供達を見送った。
きっとシーラモンは、自分自身というよりは、自分の子供達を上陸させるために、はるばる海の底から大移動をしてきたのであろう。
このシーラモンは、肺呼吸も一応できるが、水棲に適した肉体である。
故に、このままの肉体では陸上生活には適応できない。
レベル5へ進化すれば、陸に上がることができるかもしれないが…。
3体のベタモンをA、B、Cと呼ぼう。
サバンナへ向かったAとB。
ベタモンの肉体は、シーラモンやオタマモンに比べれば強くはあるが、それでもあまり乾燥に強くはないようだ。
普段は川や湿地帯に住み着いてキノコや果実を食べ、雨が降ったら活動する…というサイクルで生活をしていた。
現在のサバンナにいるデジモンはどんなものがいるか、調査を行った。
川や沼など、水辺に大量に住んでいる…
微生物型の幼年期デジモン、ピチモン。
これらは数がとにかく多い。
おそらく、ヌメモンのように繁殖力が強く、代謝量の少ない、非戦闘向きの成熟期デジモンがあちこちで産卵していると考えられる。
木や草にぶらさがっているのが、昆虫型の幼年期デジモン、ミノモン。
幼年期デジモンは、常に厳しい淘汰圧が加わるが…
ミノモンはミノに隠れて外敵をやりすごすという生存戦略をとったらしい。
そして、幼虫型デジモン…クネモン。
これはスコピオモンの子供達であるドクネモンに酷似した姿をしている。
草食性であり、外敵が来たら糸を吐いて攻撃するようだ。
サバンナを高速で這い回る、黒光りする昆虫型デジモン…ゴキモンも発見された。
ゴキモンは、デジモンの死骸や、朽ち木などを漁って食べている。
デジモンスカベンジャーとでも呼ぶべきだろうか。
夜行性であり、日中は木陰や地面の穴に隠れて眠っていることが多い。
そしてゴキモンは、様々な場所で産卵する。
川や沼、木陰など…。
ピチモンもミノモンも、このゴキモンが産んだデジタマから産まれたのだろうか。
他にいたのは、蝶(蛾かもしれないが…)の姿をしたデジモン…モルフォモン。
モルフォモンは花の蜜を吸いながら暮らしているようだ。
しかし、花が蜜を出すということは、その花は受精をデジモンに手伝ってもらう必要があるということ…
つまり単為生殖をするデジモン達と違って、有性生殖をするということである。
デジタルワールドの、デジモン以外の生物の進化もまた、興味深いところがある。
そして、そのモルフォモンが進化したと思われる、蜜蜂の姿をしたデジモン…ハニービーモン。
蜜蜂というからには、どこかに巣を作っているかもしれないが…
今の所、巣は見つかっていない。
昆虫以外では…ヌメモンの亜種とみられる、カラツキヌメモンが見つかった。
ヌメモンがサバンナの乾期に耐えられるように、殻を獲得した種のようだ。
カラツキヌメモンもまた、ヌメモン同様に、他のデジモンの排泄物を食べたり、苔や草を食べている。
デジモンスカベンジャー02といったところか。
今見てもらった通り、このサバンナには、まだ草食性デジモンやスカベンジャーしかいない。
肉食に進化したデジモンが、まだいないのである。
その割に繁殖力が高いデジモンが多く見受けられるため、デジモンの個体数はどんどん増加していくものとみられる。
やがて草食デジモン同士で、餌の奪い合いが始まるかもしれない…。
さて、そんな環境に来たベタモンAとB。
ベタモンAは、樹上の果実を餌にすることにしたようだ。
樹上といっても、サバンナに生えている木は低木が多い。
森と違って植物がそれほど密集していないため、縦に高く伸びる必要がなく、横に広がっていくようになる。
ベタモンは木登りが得意とはいえず、最初は草の実や、熟して落ちた木の実を食べていた。
だが、やがて木の枝に実っている果実を食べれるように…
背が高くなった。
その見た目は、パラサウロロフス…恐竜によく似ていた。
我々はこれをパラサウモンと名付けた。
一方のベタモンBは、水辺で遊びながら暮らしていた。
ある日、ベタモンBは、遊びで毎日同じ草に水を吹きかけてみたところ…
その草は、まわりの草よりも大きく成長することを発見した。
またある日は、遊びで毎日同じ草の根本で排泄をしてみたところ…
同様に、周りの草よりも大きく成長することを発見した。
ベタモンBは、これを面白いと感じたのか、野イチゴらしき草の種を集め、地面にそれらを埋め、川の水や排泄物、枯れ葉などを草に与えた。
草はどんどん育ち、たくさんのイチゴを実らせた。
ベタモンBは、植物の栽培を楽しむようになった。
驚くべきことに、両生類の身でありながら、人間のような農耕を覚えたのである。
これは、知能の高さというよりは…遊び心による発見と考えられる。
しかし…草食性デジモンが多く暮らす環境で農耕をするなど、彼らに餌付けするも同然の行為であった。
ベタモンBが育てた植物は、カラツキヌメモンやクネモン、パラサウモンに横取りされてしまうことが多くなった。
ベタモンBは怒った。
そして、自ら育てた作物を横取りされないように…
より効率的に農耕ができるように…
農耕と戦闘向きの進化をした。
爬虫類的でありながら、人間のような二足歩行を行い、発達した器用な量腕を持つデジモン。
硬質化した自身のヒレを取り外し、農具兼武器として振り回す…
我々は彼を、ディノヒューモンと名付けた。
ディノヒューモンは強かった。
その大きな農具で、土地を耕し、種子を収集し、外敵を打ち払って、作物を育む。
ベタモンの頃よりも、遥かに農耕の能率は上がっていた。
ディノヒューモンの面白い点は、彼にとって農耕は作物を得るための「手段」ではなく、それ自体が「目的」なのである。
つまりディノヒューモンは、園芸を楽しむついでに、食えそうな部分があったらそれを食っているだけである。
故にディノヒューモンの農園には、大して可食部位のない植物もたくさん生えていた。
だが、ディノヒューモンはそれを見て落胆したりはしない。
それが成長するのをただ楽しんでいた。
…やがて、ディノヒューモン農園は、どんどん面積を増加していった。
やがてディノヒューモンは、農園の中で産卵をした。
ディノヒューモンのデジタマから産まれた幼年期達は、主に2種類に分かれた。
川から汲んだ水や、あちこちから集めた肥料を運搬するのが得意な、亀型デジモンであるカメモン。
そして、外敵を追い払ったり、細かい作業をするのが得意な、手先が器用なブイモン。
ディノヒューモン農園は、原始的な文明ともいえる発展をし始めたのである。
…さて。
サバンナへ到達した2匹のベタモンは、どちらも成熟期へ進化した。
特にディノヒューモンは、個体の進化というだけでなく…
農耕という技術を進化させた。
驚くべき発展である。
やがてこのサバンナには、彼らの兄弟である2匹のオタマモンも、進化した姿でやってきた。
体を炎で包むことで外敵を払うことができるようになった、両生類型のサラマンダモン。
そして、オタマモンが真っ当に成長したのだな…ということがうかがえる、カエル型のフロッグモンである。
サラマンダモンは、火力の調節が得意なデジモンであった。
イモ翌類の植物を、火で炙ってから食べることで、効率よくデンプン質を消化する術を身に着けていた。
少ない餌で、多くの栄養を得られるように進化した…ということであろう。
そしてフロッグモンは、舌を伸ばして昆虫デジモンを捕食する、肉食のデジモンであった。
フロッグモンは、このサバンナに出現した初めての肉食デジモンということになる。
ディノヒューモンは、フロッグモンを自身の農園に招き入れた。
もしかしたら、かつての兄弟であることが分かっているのかもしれない。
ディノヒューモンとフロッグモンは、共生関係を築いた。
ディノヒューモンの農園にやってくる昆虫デジモンを、フロッグモンが食べる。
これによって、互いにwin-winの関係となった…
…かに思えたが。
ハニービーモンやモルフォモン達までフロッグモンに食わせたところ、なんと作物が実を結ばなくなってしまった。
我々の視点から見れば当然である。
受粉の担い手を農園から排除したら、実が実らなくなる。…至極当然といえるだろう。
そんなある日、農園に新たなデジモンが訪れた。
蛾の姿をした、モスモンである。
モスモンはなんと尾に機関銃を備え持っており、フロッグモンへ機銃掃射を行った。
弾丸をしこたま撃ち込まれたフロッグモンは、たまらず物陰に隠れた。
普段はフロッグモンと一緒に外敵の排除をしていたブイモンも、これには敵わんとばかりに物陰に隠れた。
そしてモスモンは、農園の作物の葉っぱを食べたり、花から蜜を吸ったりした。
モスモンが去った後、悔しがったディノヒューモン達であったが…
不思議なことに、再び農園に実が実るようになったのである。
ディノヒューモン達は、この現象がどういうことなのか、随分頭を悩ませたようだ。
花が受粉によって有性生殖を行うことで実を実らせる…という法則に気づけるその日が来るのを、暖かく見守ろう。
さて…
ベタモンやオタマモンが来たことで、サバンナの勢力もかなり変動したようだ。
サバンナは一旦置いておいて…
再び、森へ視点を移そう。
さて、前回スターモン達がいたのは、過ごしやすい気温の土地だった。
だが、このデジタルワールドはどうやらひとつの天体であるらしく、故に寒冷地と熱帯地が存在する。
ベタモンCが向かったのは、熱帯雨林であった。
まさにジャングルと呼ぶに相応しい土地だ。
アマゾン川のように巨大な大河が流れており、背の高い木々が生い茂っている。
まさしく生命の溢れる大自然といっていいだろう。
…この大きな川には、スイムモン、ガニモン、シャコモン達の姿も見える。
ベタモンCは、川で泳いでいると、懐かしい者と再開した。
彼の親である、シーラモンである。
どうやらシーラモンは、この熱帯雨林にて、さらにデジタマを産むつもりのようだ。
ベタモンCは、この熱帯雨林でどんな暮らしをするのであろうか…。