エクスブイモンは、勢いよく餌を食べていたが…
急に首の後ろを押さえて、うずくまった。
そして、その場で嘔吐してしまい…
鼻血を出して倒れた。
倒れて痙攣するエクスブイモンを揺さぶるスティングモン。
ある程度歩ける体力を補給したスティングモンは、エクスブイモンを肩に担いで集落へ向かった。
…ディノビーモン形態だったときに、ハヌモンから後頭部をしこたま殴られたダメージが効いてきたようだ。
コマンドラモンの爆弾が頭部に直撃したダメージもあるのだろう。
パイルドラモン及びディノビーモンは、エクスブイモンがスティングモンを装甲として身に纏う合体をする。
そのため、後頭部へのダメージは殆どがエクスブイモンに行くようだ。
ディノビーモンを地面に組み敷けるパワーをもつハヌモンから、何度も急所である後頭部を殴打されて…
無事なわけがなかったのだ…。
レベル5のデジモンは、成熟期以下のデジモンでは歯が立たない無敵の存在…というわけでは、決してないようだ。
途中でディノヒューモンと合流したスティングモン。
ディノヒューモンは、首がへし折られて動かなくなったモスモンを抱きかかえながら、集落へ走っていた。
…
農園では、猿と原始人の中間のような姿をした、布切れをまとった霊長類型成長期デジモン…コエモンの群れが、2~3体のジャングルモジャモンと共に、作物を略奪していた。
襲撃者に対するディノヒューモン集落は…
善戦していた。
ワームモンがネバつく糸を吐きかけて、コエモンを拘束する。
この糸がかなり頑丈であり、コエモンだけでは自力で外せない。
成熟期のジャングルモジャモンでさえ、糸を簡単には千切れないようだ。
その上、集落には四天王の残り3体のうち、ゲコモンとフレアリザモンがいた。
トータモンは遠征中で出掛けているようだ。
ゲコモンは、指向性の超音波攻撃を出して、コエモンを吹き飛ばしている。
格闘戦は得意でないようで、ジャングルモジャモン1体と互角のようだ。
だがフレアリザモンはかなり強い。
炎のツメを振るい、コエモン達を次々と倒していく。
炎を吐いて、ジャングルモジャモンの毛皮を燃やす。
そうして、作物や死んだ成長期デジモンの死骸がいくらか持っていかれてしまったが…
ひとまず蛮族デジモンを追い返すことに成功したようだ。
…
夜。
集落で、エクスブイモンが手当を施されていた。
だが、どんどん衰弱していく。
…そして、エクスブイモンはその夜に死亡した。
ディノヒューモンとスティングモン、残りの四天王は悲しみ、エクスブイモンとモスモンの二体のデジモンの葬儀を行った。
うぅ…こんなことになってしまうなんて。
我々は平和利用のために、ちょいとデジタマを貰おうとしたのだが…
偶然にも、蛮族が不意打ちをする絶好の機会を与えるきっかけとなってしまった。
さすがに罪悪感がある…。
こんなことを引き起こすつもりはなかったのだ。
作戦を主導したシンとメガも複雑そうな表情をしている。
ディノヒューモンとスティングモン、四天王のうち3体は、何かを話し合っている。
スティングモンが、大げさな身振り手振りを交えながら、ディノヒューモンへなにか言っている。
『ウー!イーコロコロガッシ、グイグイ!』
な…何を言っているかわからん。
そう思っていると、メガが同時翻訳してくれた。
「スティングモンがディノヒューモンへ、『お前がタマゴを取り戻す邪魔をした』って言ってる」
凄いな。あいつらの言語が分かるのか。
「どうやら彼らの会話はボディランゲージが主で、口語はその補助らしい。ゲコモンやフレアリザモンが二足歩行になったのは、作業だけでなくボディランゲージが使えるようになるためだったみたいだよ」
なるほど…。
ディノヒューモンは、スティングモンへ言い返す。
『イーバブバブ、ウーコロコロシュパシュパ!イーバブバブシュパシュパ!』
「『スティングモンのデジタマを奪ったのは、俺の子供だった。俺の子供も盗まれた』…と言っているね」
ディノヒューモンが怒りに震えながら話す。
『ウホウホ…ウホウホ、ゴロリ、ブイブイ!パタパタ!ウホウホワルワル!』
「『蛮族がエクスブイモンとモスモンを殺した。蛮族が悪い』と言ってる」
スティングモンは、少し考えたあと、頷いた。
『ウホウホ…シュパシュパ、ウーコロコロ、イーコロコロ…?』
「『蛮族が、お前や俺のタマゴを盗んだのか?』」
ディノヒューモンは地団駄を踏みながら頷いた。
『ンー!ウホウホ!ウホウホワルワル!』
「『そうだ、蛮族が悪い』だって」
そう聞いた一同は、一斉に同じことを繰り返した。
『ウホウホワルワル!ウホウホゴロリ!ウホウホワルワル!ウホウホゴロリ!』
「…『蛮族が悪い、蛮族を殺す』って繰り返し言ってる」
つ、つまりだ、メガ…。
ディノヒューモンやエクスブイモン、スティングモンのデジタマを採取したのは全部蛮族の仕業ってことになったのか。
コマンドラモンは、蛮族に捕まって犯行に協力させられてる…みたいな?
「彼らの原始的な言語にそこまで細かい情報をやりとりできる語彙はまだないだろうけど…、おそらくそういう共通認識になったと思うよ」
まあ確かに…
ゲートの向こうの人間がどうこうした、なんて想像つかないだろうからな。
「言語を扱う集団の語彙力は、そのまま集団の思考力となる。彼らは農耕ができるほど文明を発達させてはいるが、細かい問題分析ができるステージには達していない。だから外敵に何かをされたら『目に付く外敵を排除する』以外の選択肢をまだ選べないんだ」
問題解決の基本スタンスが暴力による解決なんだね…。
「今のデジタルワールドでは、暴力で解決できないレベルの複雑な問題は発生しないからね」
四天王のトータモンも叫んでいる。
『オオォォ!オオォォ!!』
…トータモンは喋らないのか?
「トータモンは他の四天王や2トップより、脳の言語野の進化が進んでいないようだ。言われた言葉は理解できるが、自分で話すことはできないよ」
話せないデジモンも集落にいるんだ。
「モスモンに至っては言語を理解してすらいない。周囲の動きを見て、なんとなく敵対者へ銃を向けているだけだ」
昆虫型デジモンはそんななんだ…。
スティングモンだけ例外的に話せるんだな。
「言語野は我々人類が長い時間をかけて進化させてきた脳の機能だ。そうそう簡単に真似できるものじゃない」
そう考えると、うちの3体は凄いんだな。
「ディノヒューモンの子供のコマンドラモンや、独自言語をもともと使ってたマッシュモンは分かるけど、フローラモンがなぜあんなに早く言語を習得できたのかは未だに分からない」
…ディノヒューモン、やっぱおかしいよな。
ベタモンがいきなりあれになったんだよな、確か。
「蛮族でさえ、長い長い進化を続けて最近やっとディノヒューモンのレベルに追いつき始めたんだ。ディノヒューモンはやはりどこか、進化が特別におかしい」
パッチ進化で…何かを取り込んだのかも。
何をかは知らないけど…。
…
コマンドラモンに、なぜあの時ディノビーモンへ爆弾を投げたのか聞いてみた。
『わけのわからない てきが たくさんあらわれた。 ぶじにかえるには やつらに ねらわれない ひつようがあった』
なるほど…
あの攻撃は、ディノビーモンへの追い討ちというより、蛮族側に巻き添えで攻撃されないためにやったのか。
『でぃのびーは つよい ばんぞくを けちらしてくると おもった だからすこしでも きずをあたえる ひつようがあった』
…そうだな。
確かにコマンドラモンが生き延びるには、それが最善策だった。
私は「何もディノビーモンを攻撃しなくても…」とか考えた自分を恥じた。
そう考えられるのは、私が安全な司令室で、デジモン達を駒として見て、後からあーだこーだ言える立場だからこその余裕なんだ。
現場で命を張って実際に任務に当たっているコマンドラモンとは、視点が異なっていたんだな。
…なあ、コマンドラモン…。
仮にディノヒューモン陣営に協力してたらどうなってたと思う?
『わたしが ばんぞくに ころされていた』
じゃあ、もし一緒に蛮族を退治できていたら?
『でぃのひゅーから やさいを もらえたかもしれない だが たまごは かえさなくてはならないだろう』
…そうだよな。
『助けたお礼にデジタマを貰える』なんて都合のいい話はないよな。
『たまごは いちばん たいせつなもの じぶんのいのちより それをわたす とりひきは ありえない』
だよな…。
私の仮に自分に子供が産まれたとして。
『100万円やるから子供をよこせ』なんて言われて、取引に応じるはずがない…。
その大事なデジタマを…
我々は、奪った。
そのことの意味を、我々はしっかりと理解しなくてはならない。
我々にデジタマを奪われたスティングモンのことは、可哀想だとは思うが…
『だからやめよう』というわけにはいかない。
これは善と悪の戦いじゃない。
生存競争なのだ。
…
コマンドラモンは、モスモンに撃たれた傷に包帯を巻いた。
幸いにも傷は深くない。
立って歩けるように十分回復できるだろう。
さて、今回採取したデジタマはあれか。
エクスブイモンのデジタマと、スティングモンのデジタマと…
…んん!?
なんかもう一個あるけど!?
シン、あれは!?
「あー、死神モスモンのデジタマっすよ。モスモンは死んじゃったんで、木の見張りがいないわけっすよね?だからパルモンに頼んで、木登りして取ってきてもらいました」
…棚からぼたもちだな…。
モスモンが死んだ原因は我々にもある。
せめて大事に育てよう。
「おーい!ケン!ちょっと来てくれ!」
ん?どうしたカリアゲ!
「なんか変なことやってるデジモンがいるんだけどさ…あれ何やってるんだと思う?」
どれどれ…?
私はカリアゲの席の画面を見た。
デジドローンで、デジモンの観察をしているようだ。
デジドローンに映っていたのは…
燃える体の両生類デジモン。サラマンダモンだ。
あれ?農園のサラマンダモンは死んだはずでは…?
「メガはそう言ってたけどな。子供がいたとか?でもこのサラマンダモン、なんかおかしいんだよ」
おかしいとは…?
画面に映っていたサラマンダモンは…
『クワー!クワァー!』
…何をやってるんだ、こいつは。
自分が産んだデジタマを…
自分で割って、火を吐いて燃やしている…!
デジモンにとって、あんなに大切なはずのデジタマを、何故…!?
リーダーは不思議そうにサラマンダモンを見ている。
「自分が産んだデジタマを燃やしている…?食べる気か…?」
シンがリーダーに問う。
「あれなんか意味あるんすか?デジタマからしか採れない栄養があるとか…?」
「いいや、エネルギーロスになるだけだろうな。デジタマを産むのには多大なカロリーを消費する。それを焼いて食ったところで、消費カロリーとは釣り合わないはずだ」
そのままサラマンダモンを観察する一同。
やがて割れたデジタマから火が消えた。
デジタマだったものは、黒焦げになっている。
カリアゲは訝しげに観ている。
「ど…どうするんだ、あそこから」
『クワーァ!』
なんとサラマンダモンは、自分のデジタマの燃えカスを食うわけでもなく、尻尾で薙ぎ払って破壊した。
『クワーァ!クォーー!!』
そして周囲に、何かを報せるかのような鳴き声を発している。
「え、ええ…食うわけじゃなく、ただ自分のデジタマを破壊するだけかよ!?何の意味があるんだ!?」
リーダーは引きつった表情をしている。
「理解できない…。非合理的だ。こんな行動になんの意味があるんだ」
シンはドン引きしている。
「気が狂ってるんじゃないですか…?」
『クワーァ!クワアアァァ~~!』
メガはサラマンダモンの動きを観察している。
「周囲をきょろきょろ眺めている…。なにかを探してるんだろうか」