「ちょっと待てシン」
「なんっすかリーダー?」
「仮にそうだったとして…何故自分のデジタマを破壊するようになると?別に放っておけばいいんじゃないのか」
「えっとそれは、だから…自分のデジタマから蛮族デジモンの幼年期が産まれてこないように…と」
「それなら産まれるまで待って様子を見たほうが合理的ではないか?ちゃんと両生類系デジモンが産まれる可能性もあるだろう」
「そ、それは…そうッスけど…心ある生き物は常に合理的な判断ができるとは限らないッスよ」
「…それはそうだな。だが仮説としては弱い」
「じゃあ他にどういう理由があるんスか!?」
「…分からん」
わかんないよね…。
膠着状態だ。
「だが、今できることはある。デジタマ捕獲作戦の下調べだ」
「何するんッスか?」
「丁度いい。メガが作った試作品を試そう」
なんか作ったんですか?
「対クラッカー用撹乱兵器…ダミー・デジドローンだ」
ダミー・デジドローン…。
これはリーダーが、対クラッカー戦を想定してメガに作らせた秘密兵器だそうだ。
デジモンを従える者同士がデジタル空間で戦闘を行う場合、司令塔を破壊することが最も有効な戦術だ。
我々が操作しているデジドローンは、簡単に作れるものではない。
我々がデジタルワールドやデジタル空間を視認するのに使っているソフトウェアであるデジクオリアは、古の時代に実在したシャーマンの特殊な才覚と霊能力を人工知能によって再現するものだ。
そして、その視聴覚を担うデジドローンとは…
日本では昔「管狐」や「飯綱」と呼ばれ、海外では「使い魔」と呼ばれた霊能力技術を再現したものである。
ある意味では擬似的な人工デジタル生命体に近いかもしれない。
そのため、一度破壊されてしまうと、再構成するのには長い時間がかかってしまうのだ。
もしクラッカー戦でデジドローンが破壊された場合、我々はデジタル空間を一切視認できなくなってしまう。
デジタルゲートを安全な位置へ開いてデジモンを避難させることすらできなくなる。それは戦闘を大きく左右するだろう。
そこで、クラッカー戦でデジドローンを破壊されないために、簡単に作れるダミーのデジドローンを開発したのだ。
これを使い、サラマンダモンがどのようにしてデジドローンを攻撃するのか探るつもりらしい。
我々は、ダミー・デジドローンを操作して、サラマンダモンへ近づけた。
どう来るか…!?
サラマンダモンは、デジドローンへ気づいた。
すると意外なことに、サラマンダモンは…
『クワー!クワーァ!クワアアァァ!』
なんと、デジドローンへ抱きついたのであった。
近接攻撃は苦手そうなのに。
『クワー!クワー!クワー!クゥーン!クゥーン…!』
サラマンダモンは、デジドローンへ頬ずりを繰り返したり、ひっくり返って腹を見せたりしている。
リーダーは驚いている。
「…?何をしてるんだ?敵対心がある反応とは思えないな」
シンは訝しげに見ている。
「ぜんぜん攻撃してこないッスね…燃えた体で頬ずりしてくるのが攻撃?いや、あんま温度高くないッスねあの炎…」
カリアゲは、その様子を見てははっと笑った。
「うちの実家の犬みてえだ。けっこうな老犬でさ、白内障なんだけどよ、俺が会いに行くとあんな声出して甘えてくるんだよ」
「甘えて…いる?まさか…?デジドローンに…?」
「ん?どうしたんすかリーダー?」
「…まさか、あのサラマンダモン…誰かに飼われていたのか?」
「飼われてた!?な、何に!?」
「他の研究者か…あるいは、クラッカーに、だ」
おおっ!すごい!
みんな凄いぞ!!
この調子なら、近いとこまで推理できそうか…!?
その様子を見たシンは、顎に手を添える。
「ははーん、分かりましたよ!こんどこそ!」
「おお、シン!次の推理を聞かせてくれ!頼むぜ!」
「任せてくださいッスカリアゲ先輩!…コホン。あのサラマンダモンは、クラッカーに飼われていたんです」
リーダーは頷く。
「ふむ…」
「サイバー攻撃用のデジモンとして育てられていたけど…、デジタマを産んだ結果、飼い主のサーバーにダメージを与えてしまったんス!」
「ダメージ?」
「炎のデジモンだから…火事とか」
「なるほど…?」
「それで怒った飼い主に棄てられたんッスよ。それ以来、ああやって罪滅ぼしのために自分のデジタマを焼くようになってしまい、また飼い主のところに戻りたがっている…!どうッスか!」
「ふむ…先程よりは無理がないな」
おお!だいぶ近いぞ!
飼い主はクラッカーではないが…
…いや悪質なサイバー攻撃による器物損壊をやるような連中だからクラッカーみたいなもんか。
合ってる合ってる!
「あとは、デジタマを採取して隔離チェンバーで育てれば、元飼い主のサーバーを燃やした幼年期デジモンが見れるはずッス!」
「なるほど…。やってみるか」
すごいぞシン!
そのとき。
スポンサーさんから通信が入った。
『御機嫌よう諸君!調子はどうだね?』
かくかくしかじかです。
『なるほど素晴らしい!農園からエクスブイモンとスティングモン、モスモンのデジタマを採取したと!映像で見せてもらったが、あれらの戦闘力は一級品だ!オペレーション・テイマーズがうまく進んでいるようで何よりだ!』
どうも。
『あー、もしもだケン君。私がモスモンのデジタマを欲しいと言ったら…譲ってくれるかね?』
勿論。
あなたにはとてもお世話になっています。
こっちだけでは手狭になりそうですし、お譲りしますよ。
『では…他の研究所でもセキュリティデジモンを研究しているため、そっちがサンプルとして譲ってほしいと言ってきたらどうだね?』
他の研究所ですか。
勿論、喜んで…
「ダメだ」
リーダー!?
「あんたになら譲れるが、どこの馬の骨とも知れない奴らには譲れない。これは我々のパートナーデジモンが命懸けで手に入れたものだ。相応の対価がなければ譲れない。最低でも300万円は払ってもらう」
そ、そんな、デジタマを売り物にするような…
『ハッハッハ!今のはリーダーが正しいよケン君!デジタマは金になる!優秀なデジモンのは特にな!』
し、しかし…
『コマンドラモン君の命懸けの成果とは、それほど安いものかね!?そんなことではカモにされるぞ、しっかりしたまえケン君!』
うぅ…。
その通りですね。
ヒョイとカリアゲが顔を出した。
「それで、今日は俺達になんか用事があるんスか?」
『ああ、近況報告を聞きたくてね。そうだ、君達はランサムウェアの被害には遭っていないかね?』
「ランサムウェアぁ?なんだそれ?」
メガがヒョイと顔を出す。
「ランサムウェア…。マルウェアの一種だよ。感染したパソコンの…」
「マルウェアって?」
「あのさぁ…。…えっとね、コンピュータウイルスやトロイの木馬、ワームのような、悪質なソフトウェアの総称だよ。ランサムウェアは、感染したパソコンのデータを勝手に暗号化してしまうんだ」
「暗号化?嫌がらせのためにか?」
「それもあるが、暗号化解除ツールを売り付けるように要求するものもある。データを人質にとって身代金を振り込ませるような手口だよ」
「へぇー、こええな…」
『解説ありがとうメガ君!近年は、既存のウイルスセキュリティソフトでは防げないランサムウェアが流行っているらしくてね。君達も気を付けたまえ!』
怖いですね…忠告ありがとうございます。
『それで君達は、これからは例の3つのデジタマの育成に専念するのかね?』
シンがひょいと顔を出す。
「これから、サラマンダモンのデジタマを拾おうと思ってるんス!人懐っこくて甘えてくるから、きっと前に誰かに飼われていて、棄てられたんスよ。だから、デジタマが安全なら、サラマンダモンも拾おうかと思ってるッス」
『…誰がそれを捨てたのかね?』
「クラッカーじゃないか、と思われてますね」
『…イカン!そのデジタマとデジモンを拾ってはならない!』
え!?
「な、なんでッスか?」
『もしもクラッカーが棄てたのなら…、そのデジモンにはマルウェアが仕込まれている可能性がある!拾ったら悪質なプログラムが起動し、データを盗まれるかもしれないぞ!』
「な…なんだってーーーーー!?」
あーーーーもう!!
一旦話がまとまりそうだったのに、かえってややこしくなった!!
「そんなことできるんスか!?」
『デジタルモンスターは情報生命体だ。パッチ進化というものがあるんだろう?もしクラッカーが、そのデジモンに任意のマルウェアを食わせてパッチ進化させていたら、そのマルウェアをばらまく感染源になる可能性があるだろう!』
「う…確かに…!で、でもクラッカーじゃなくて一般研究者が棄てたのだったら可哀想ッスよ…」
『同情を誘うブービートラップなんて古今東西どこにでもあるじゃあないか。戦場では、ぬいぐるみのテディベアや、赤ん坊の泣き声を録音したベビーカー等に、爆発物を設置する…。そんな罠なんて典型的な手口だ』
「うっわ、えげつないッスね…」
『そのサラマンダモンもその類ではないかね!?』
「あ、ありえる…!」
うおおぉぉ!違うんだよ!!
これ以上話をややこしくしないでくれスポンサーさん!頼むから!
…そう言いたいけど…言えない…!
頭がいい人は、論理のわずかな綻びにこういう予想外のリスクを見出してくるからたちが悪い。
カンナギCEOの神木さんから聞いたことを洗いざらい話してしまえば、今この場の混乱を収めることはできるだろうけど…
それをやると、私は神木さんから二度と信用してもらえなくなる。そうすると、彼からの「ここだけの話」を二度と聞けなくなるし、ビジネスパートナーとして選んでもらえなくなる。…それは今後のキャリアのことを考えると得策とはいえない。
研究者の世界は一問一答の単純な道理だけで回ってはいないのだ。自分一人だけの未来を背負っているわけではないので、後先考えずに突っ走れるほど身軽でないのだ。
その時、クルエの声がした。
「このサラマンダモンさん、人の声やチャットに反応しますよー」
お、ほんとに?
「お腹すいた?って聞いたら首を縦に振ってました」
や、やはり…
人間に育てられたのは確定だ。
『あのスカモン同様、高い言語能力を持っているようだねぇ?んん?用心した方がいいのではないかな?』
お…お言葉ですがスポンサーさん!
私はこのサラマンダモンが、クラッカーの罠とは限らないと思います。
『ほほう!何故だね!』
理由は3つ。
1つ目ですが…、デジタマは金になると言いましたね。
これほどきちんと言うことを聞く母体デジモンなら、変な罠として使うより、殖やしてデジタマを仲間のクラッカーに売ったほうが儲かるのでは?
『それはケース・バイ・ケースではないかね?君達の研究設備をマルウェアで破壊することも彼らにとって後々利益を生むはずだ』
あっそれはそうですね。ハイ。
『それで2つ目は?』
2つ目ですが…
デジタマを焼くように仕込む意味がない!
デジタマを普通に放置するように育てた方が、金の匂いをちらつかせられるのでは?
『奇行で人目を引いて目立つためではないのかね?』
デジタマを焼くようにした場合、このサラマンダモンが野生デジモンに殺されたら計画は破綻します。
しかしデジタマを残すようにして、そこにもマルウェアが遺伝するようにしていたのなら、デジタマを産んだ数だけブービートラップデジモンが生き残って拾われる可能性が高くなるわけですよ。
そうした方が確実だったのでは?
『世代を重ねると、与えたマルウェアが遺伝子の中で変異して、元の想定どおりに機能しなくなる可能性があるのでは?』
うっ…たしかに…!
くそぅスポンサーさんつよい…どうする…!
『3つ目は何かなケン君』
このサラマンダモンは、人語を理解できます。
『そのようだね。幼年期からよく教育されているのだろう』
つまり!
このデジモンから、飼い主の情報が漏洩するリスクがあるわけです!
正体を隠しているクラッカーが、そんなのを野放しにすると思いますか!
『ムム!確かに…どれだけ喋れるかは知らないが、機密情報管理が余りにも杜撰といえるかもしれない』
それに、我々のランドンシーフにはマルウェアを封じ込めるための隔離チェンバーがあります。
そこで質問すれば、マルウェア感染を防ぎつつ、クラッカーの情報を聞き出せるかもしれませんよ!
『…それならやってみる価値はあるねぇ!たとえクラッカーの罠だとしてもだ!うむ、くれぐれも気を付けてやりたまえ!』
よっしゃあ!!
私はガッツポーズを取りそうになったけど堪えた。
そういうわけで。
我々はデジタルゲートを開き、サラマンダモンを隔離チェンバーへ招き入れた。
飼い主について聞き出す役割は…
私やクルエがやるのは、ちょっと危ないからやめておこう。
誰に頼むべきだろうか…