デジタルモンスター研究報告会   作:タマリリス

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サラマンダモンとの対話

「ケン、まずはお前がやってみろ」

 

リーダー直々に私が指名された。

断ったら怪しまれる。素直に従おう。

 

えーと、サラマンダモンくん。

こんにちは。

『クァ~…』

 

…それにしても、このサラマンダモンというデジモン。

DPが低い成熟期デジモンらしいのだが、どうにも不思議だ。

全身がメラメラと燃えているように見えるのだが、いったい『何が』燃焼しているのだろうか。

 

炎とは、有機物が高温状態となって酸素と結合し、二酸化炭素が分離する際に熱と光を放つ連鎖現象のことを指す。

そうであれば、このサラマンダモンは、炎を維持するために常に燃料を出し続けているはずだ。

そうなると、体の熱量(カロリー)は凄まじい勢いで消耗されていくはずだ。

さらに、火だるまになっている肉体は当然、表面が常に1400℃の高温にさらされている。

 

そんな温度で加熱され続けたら、肉体はあっという間に焼き肉、ないし黒焦げになってしまうはずだ。

 

さらに、炎の放熱によって隔離チェンバー内の温度はどんどん高温になるだろう(空気を循環させているので酸欠にはならないはずだが)

 

だが、このサラマンダモンはそうはならない。

隔離チェンバー内の温度も上がっていない。

一体なぜなのか…?

興味が湧いた。調べてみよう。

 

まずはサラマンダモンの体表の温度を調べてみる。

…30℃。

両生類型デジモンとしてはやや高めだが、予想よりもずっと温度が低い。

メラメラと炎が燃えているように見えるのだが…!?

 

…これは本当に炎なのだろうか。

乾燥した枯れ草を拾ってきて、サラマンダモンの炎へ近づけた。

 

…燃えないな。

炎が燃え移らない。

加熱されてすらいない。

 

『クワァ~』

…サラマンダモン君。

体の炎を熱くできる?

『クワッ!』

 

サラマンダモンが力むと、体表を包む炎の温度は一気に上がった。1500℃だ。

枯れ草はメラメラと燃える。

やがて、サラマンダモンは炎の温度を下げた。

 

『クワァ~』

 

どうやら密室で炎を燃やし続けると、高温になり、酸欠になることを分かっているらしい。

空気を循環させているから心配ないが、賢いな。

 

…さて。

どうやら、サラマンダモンを常に包んでいるものは、どうやら炎ではないらしい。

意識すれば実際の炎を出せるようだが。

なんだこれは?

熱をほとんど伴わず、赤くゆらめく光だけが出ているようだ。

ウミホタルやカブトクラゲがやるような、ルシフェリン・ルシフェラーゼ反応による生物発光だろうか…?

しかし、蛍光を発する物質を常に放出し続けているというわけでもないようだ。

なんというか、これは…

『オーラ』のような、不思議なエネルギー…としか言えない。

 

デジモンは時々、我々の世界の物理法則を完全に無視することがある。

スターモンは原理不明の推進力を得て空を飛ぶし、狙った場所へ隕石を落として攻撃できる。

ベーダモンは、光線銃の光の輪によって他のデジモンを操ることができる。

トゲモグモンやアイスモンは、水晶のような体から冷気を放ち、周囲の物体を凍らせることができる。

なんだ凍らせるって!?炎を放つなら分かるが、凍らせるのは流石に意味がわからない!液体窒素を放ってもああはならないはずだ。

 

そう、一部のデジモンは、超能力とでも呼ぶべき不思議な力を獲得しているのだ。

…サラマンダモンの見せかけの炎も、そういった超能力の一部…なのだろうか。

 

だが、超能力を使うデジモンは、どうやら無限に使い続けることができるわけではないようだ。

スターモンは飛行に多くのエネルギーが必要らしく、あまり好んで飛ばない。

…エネルギーを消費するということは、デジモン世界には我々の世界とは異なる物理法則やエネルギーがあり、デジモン達はそれを利用しているといえるだろう。

サラマンダモンは、『超能力を使うデジモン』のサンプルとしても優秀かもしれない。

 

尚、先程サラマンダモンが背中の炎で枯れ草を焼いたときは、背中の皮膚の腺からジメチルエーテル水溶液が噴霧され、燃料として使われていた。

…超能力を使うにしても、100%を超能力頼りにするよりは、ある程度物理法則に則った現象を起こして超能力でエネルギーを補助する方が効率的なのかもしれない。

 

「調子はどうだ?ケン。何やらいろいろ調べているようだな」

あ、リーダー!

サラマンダモンの体表を覆う炎の性質について調べていました。

「は?」

 

結論から言うと、サラマンダモンの体表の炎は「超能力によって、燃焼物に擬態する」ために存在しています。

 

動物やデジモンにとって、炎は脅威です。

できれば触れたくないものといえます。

 

サラマンダモンは、炎に見せかけた超能力光によって、自分の身を火だるまであるかのように見せかけることで、外敵に狙われるのを避けているんです。

 

さらに、怖がらずに触ってきた相手には、体表からジメチルエーテルを噴霧し、超能力で種火をつけることで、実際に燃やしてしまうこともできます。

そうやって自分の身を守っているんですね。

とても機能的な形質といえます。

 

「…で、そのサラマンダモンの飼い主の情報は聞けたか?」

飼い主?何の話でしたっけ。

「いや、お前には飼い主の情報を聞き出せと指示していたんだが、なぜ炎の解明などしているんだ?」

…はっ!そうだった!

炎が気になり過ぎてガチで忘れてた!

「なんだと…何をやっているんだケン!?」

 

『ハッハッハ!リーダー君、これがケン君の良いところだよ!とんだじゃじゃ馬だ、しっかり乗りこなしたまえ!』

 

うぅ…つい。

「次は俺がやる」

頼みますリーダー。

「…サラマンダモン。君の飼い主について聞きたい」

『クワァ?』

「君の飼い主は、クラッカーか?」

『クワァ、クワァ!』

 

首を横に振っている。

 

「では、まともな研究者か?」

『クワァ~!』

 

首を縦に振っている。

 

「だそうだ。サラマンダモン曰く、飼い主はまともな研究者だそうだ」

そ…そのようですね。

 

『リーダー君!君はクラッカーが、飼ってるデジモンに自分がクラッカーだと名乗ると思うのかね!?』

「うっ…」

『私には、今の証言は信用できないな』

「…ならばどうやって聞き出せばいいというんだ」

 

そうなんだよな…

サラマンダモンが嘘をついてる可能性や、嘘を信じ込まされてる可能性を否定できないだろうし…

それを見破れる方法など、正直思い当たらない。

 

「よう、調子どうだー」

 

おお…カリアゲ。

喋れない相手から情報を聞き出すのは、ちょっと無理そうだ。

飼い主がクラッカーじゃなくまともな研究者だとは言ってたけど、そもそもその言葉自体の信憑性が疑わしい。

 

「嘘付いてるってことか?」

 

そもそも、クラッカーとか研究者って言葉の定義をちゃんと理解しているのかも怪しい。

強敵だ…

 

「そうか…これからどうするんだ?」

どうしようかな…

逃がしてしまえば無害なんだけども。

「…なんか可哀想だな」

『カリアゲ君も話してみるかね』

「…少し話してみるかね」

頼んだぞカリアゲ。

 

「よ。サラマンダモン…でいいんだっけ?」

『クァ~…』

「まずは…ごめんな。俺達は、お前の飼い主だった奴じゃない。別の人間だ」

『クァ!?クァ~!クァ~~!クアアァァーーーー!!』

「…悲しいよな。飼い主さんのこと好きか?」

『クァ!クァ!』

サラマンダモンは首を縦に振っている。

「そうか。いい飼い主さんなんだな。俺達もお前の飼い主さんに会ってみたいぜ」

『クァ…』

「いつか会えるかな?」

『クァー!クァ!クァ!クァー!』

サラマンダモンは首を縦に振っている。

「そうかそうか!俺も会いてえな、お前をこんないい子に育てた優しい飼い主さんに」

『クァ~!』

「でも…どうしてデジタルワールドにいたんだ?迷子になったのか?」

『クァ…』

「…わかんないよな」

『クァ!クァ!クァァ!』

 

サラマンダモンは首を横に振っている。

 

「理由が分かるのか。…さっきデジタマを壊して焼いてたのと関係あるのか?」

『クァァァ~!』

 

首を縦に振っている。

 

「自分のタマゴを壊すの…嫌じゃないのか?」

『ク…クァ!!クァァ!』

 

首を横に振っている。

 

「…ほんとか?タマゴを壊してるときのお前の声…すごく悲しそうだったぞ」

『クァ…』

「…ホントは壊したくないけど、壊さなきゃいけない理由があるんじゃないのか?」

『…クァ…クァ!!クァァー!クアァァー!』

 

サラマンダモンは何度も首を縦に振っている。

 

「辛いよな、悲しいよな。ずっと、嫌だったんだよな、ホントは」

『クァァァ!クァァァーーーーー!』

 

頷くサラマンダモンの声は…どこか泣いているかのような悲しい響きがあった。

 

「…でも、飼い主さんのことは好きなのか?ホントはどうなんだ?誰にも言わないから教えてくれ!」

『クァ!』

頷いている。

 

「…そっか。それでも飼い主さんが好きなんだな。それよりお前、腹空いてないか?飯あるけど、食うか?」

『クアァ!』

「キノコしかないけどごめんな。ほらよっと」

カリアゲはデジドローンできのこを与えた。

『クゥゥーン!クゥゥーーン!ハムハム!モグモグ!』

「おお、食いっぷりいいな。これ好きなのか?」

『クァ!クァ!』

 

…その後カリアゲは、サラマンダモンと2時間ほど話したり、ボールで遊んだりしていた。

 

 

サラマンダモンとカリアゲはすっかり打ち解けたようだ。

 

「ふぅ…。色々聞けたぞリーダー」

「ご苦労だったなカリアゲ。収穫はあったか?」

「ああ」

おお!凄いぞ!

「それでは、飼い主が誰かわかったのか?」

「いや。全然わからん」

分からんのかい!!

2時間も何話してたの!?

「…どうやら諦めた方がいいらしいな」

『安全性が不明確な以上、やはりクラッカーが差し向けた罠かもしれないからねぇ!マルウェアを仕込まれている可能性は大いにある。このまま隔離チェンバー監禁し続けるか…処分した方が安全ではないかね?殖えられても困るだろう』

うぅ…

どっちもやりたくないな。

「おいリーダー、スポンサーさん!まだ話の途中だぞ、聞いてくれよ!」

「まだ何か報告があるのか?」

「このサラマンダモン、温泉が好きなんだってよ」

「はぁ…」

「何か分からないが、仕事が終わった後は、飼い主と一緒に天然の温泉に入ってさ。そこでフルーツを食わせてもらうのが楽しみだったんだと」

「…飼い主と一緒に?」

「デジドローンVRで映したアバターのことらしいぞ」

「なるほど…それでカリアゲ、結論は?」

「結論を急がないで聞いてくれ、リーダー」

「おぉ…?」

 

カリアゲは、サラマンダモンから聞き出した様々な情報を報告した。

飼い主は、デジタルゲートでデジタルワールドのいろんなところへ連れて行ってくれたらしい。

花のきれいなところを見つけたら、サラマンダモンをそこへ連れていき、綺麗な花を見せた。

ボールを使って一緒に遊んでくれたし、ピンボールなどのゲームも一緒にやってくれた。

デジタルワールドの野草などを組み合わせて、お菓子を焼いてくれたこともあったらしい。

とても甘くて、美味しかったそうだ。

…まだまだ、たくさんの思い出があるらしい。

 

カリアゲは、これだけの情報を…

YESかNOかの2択で聞き出したのだ。

 

「…それが何だと言うんだカリアゲ…?思い出を羅列したようだが、どの情報も飼い主の特定には至らない。もう聞き飽きたぞ」

「待ってくれよ!!クラッカーってのは、デジモンにこんなに…愛情を注いで!いろんなとこに連れてって!一緒に触れ合うもんなのかよ!!」

「…」

「あのスカモンもそうだったと思うか!?リーダー!」

「…」

「そんな優しい飼い主が…サラマンダモンをブービートラップに使う悪党だなんて…俺には思えねえ…!思えねえよ!」

「だがそのサラマンダモンを、飼い主は捨てたんだぞ、カリアゲ。そういう奴だったんじゃないのか」

「…それでもだ!なにか理由があったんじゃねえのか!?デジタマを増やせない理由とかよ!そのまま無理に世話し続けても、生き延びさせられないとかさ…!」

「…そう言われても」

 

その時。

拍手が聞こえてきた。

 

『…カリアゲ君。ようするにこう言いたいのだね。クラッカーがブービートラップにしたと考えるには…あまりにも、飼い主が世話を焼く時間を使いすぎていると。そういうことだね?』

「…スポンサーさん…。そうだよ…俺は、ここまでデジモンと心を通わせて、長い時間触れ合って、幸せにしてあげようとする奴がいるとするなら…それはクラッカーじゃねえと思うんだよ…!」

『…そう吹き込んだだけかと、一瞬考えたが…。ここまで根気強く、思い出を聞き出す者がいるなんて、クラッカーの計算外だろうねぇ』

『ちなみに、そこまで詳しい話をどうやって聞き出したのかね?』

「写真とか絵を見せたりして、聞いた」

『…』

スポンサーさんは肩をすくめて、リーダーの方を向いた。

 

『…クラッカーが、口のきけないブービートラップデジモンにこれだけのエピソードを吹き込む合理性はあるだろうかね?』

「…考えられないな。そんなことを聞き出そうとする者がいるということすら思いつかないんじゃないか」

『…飼い主が何者かは分からない。だが、その愛情を、私は信じてみることにしたよ』

「いつもと違って随分感情的ですね」

『同情ではないよ。合理性さ』

「…そうですか」

『…万が一ということもある。君達の研究所でブービートラップが発動したら、オペレーション・テイマーズは水の泡だ。それに…君達のビオトープは少し手狭だ。サラマンダモンは我々が預かろう』

「いいんですか?あなたの会社…クロッソ・エレクトロニクスにマルウェア被害が出る可能性があるのでは?」

『社内ネットワークに繋がなければ済む話だろう?様子を観察するには十分だ』

「…引き取ってどうするつもりですか?」

『我々のグループには、君達にセキュリティデジモンの勢力が集中しすぎることを危惧する輩もいてね。我々の中でも、セキュリティデジモンを独自に育てたいという声があるんだ』

「面倒を見る…と?」

『そうしようと考えているが、いいかね?』

「…どうぞ」

 

 

こうしてサラマンダモンは、とりあえずスポンサーさんの会社、クロッソ・エレクトロニクスに引き取られることになった。

いつか飼い主が見つかるときは来るのだろうか。

…私かクルエが情報を漏らさない限り、飼い主と巡り合うことはできないだろう。

 

サラマンダモンが、クロッソのビオトープで生活して3日後…

サラマンダモンは、デジタマを1個産んだ。

 

サラマンダモンは自分のデジタマを見て、破壊しようとしたが…

スポンサーさんはそれを制止した。

 

「よしたまえサラマンダモン君!君のそのデジタマには非常ゥーに価値がある!破壊しないでくれ!」

『クワ!?』

「君のようにコミュニケーションが取れるデジモンは貴重だ。そんな君の優秀なデジタマ!買いたがる者達はごまんといる!育てさせてほしいとな!」

『クワ…!』

「もう君は、デジタマを破壊しなくていい。いいんだよサラマンダモン君!好きなだけ産んでくれたまえ!」

『クワ~!クワァァーーー!クワァァ~~~…!』

 

 

数日後。

エクスブイモンとスティングモンのデジタマが孵化して、幼年期デジモンが産まれた頃。

スポンサーさんから連絡がきた。

なんだろう!

 

『君達!大変なことが起こった!?』

どうしたんですか?

『我々の社内ネットワークに、例のランサムウェアが侵入したんだ!ファイルが次々と暗号化されていくゥゥ!』

え!?

 

 

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