「一体何故だ!?やはりサラマンダモンは罠だったのか!?」
『いいやリーダー君!サラマンダモンは社内ネットワークからは隔離していたので、感染経路は彼ではないはずだ。我々のネットワーク回線には、見張りマッシュモンがいてだね。外部からランサムウェアがやってきたのを目撃したそうだ』
「マッシュモンが目撃していた…?ではなぜその時即座に回線を断たなかったんだ!そうすれば侵入を阻めたはずだ!」
『ハッハッハ!マッシュモン達はきちんと我々にシグナルを送ってくれたんだが…我々がそれを受け取れなかった!伝達ミスだよ!いかんねえ!』
それを聞いたメガがジト目をしている。
「せっかくマッシュモンの警告を受け取るシステム組んだのに…なんでちゃんと運用してくれないんだ。誰だその戦犯無能は…?」
そう言うなよメガ。
サービス運用初期ではよくあることだ。
「仕方ないか…それは置いといて、なぜランサムウェアが動いているのにこんな悠長に電話してられるんですか!?さっさとPCの電源切ってランサムウェアを止めなきゃダメですよ!シス管仕事してます!?」
『いいや、やってもダメだろうな!君達へ電話したのは…こいつへの対処法を知らないか聞くためだ。見てくれくれえよ』
そう言ってスポンサーさんは、クロッソ・エレクトロニクスの社内ネットワークに入れたデジクオリアの映像を我々に見せてくれた。
そこに映っていたのは…
かつてデジタルワールドの寒冷地帯で目撃した、雪のような体を持つ幼年期デジモン、ヒヤリモン…
それが多数。
さらに、体表が泡立っているスライム型幼年期デジモン、バブモンも多数見受けられる。
そして、ゴツモンをそのまま大きくしたようなシルエットで、体が氷に覆われている成熟期デジモン…アイスモンが一体だ。
アイスモンは、胸部に大きな傷痕がついている。
デジタル空間内のたくさんのデータへ、バブモンがプクプクと泡を吐きかけて、ヒヤリモンやアイスモンがそれに息を吹きかけて硬めている。
次々とデータが、透明な固形物に覆われていく。
『これが今流行りのランサムウェアの正体らしいんだ』
なるほど…
ウィルスセキュリティソフトで防げなかったのは、デジモンだからか。
そして、PCの電源を落としても止められないと言ったのは…
『君達が研究して突き止めたことだろう?デジモンはパソコン上で動くソフトウェアじゃなく、情報の中で生きる生命体だから、シャットダウンしても構わずに活動し続ける…とね!』
ゴミ箱マッシュモン事件のときもそうでしたね。
『このままでは全部やられる!クラッカーのデジモンに対抗できるのは君達だけだ!どうにかしてくれたまえ君達!』
一体なぜクロッソ・エレクトロニクスが狙われたんでしょうか?
『このランサムウェアの被害を受けた会社は無差別に狙われているようだ!カネを持っていることくらいが共通点だ!我々が狙われる理由があるとしたら…君達に出資してるからだろうかね!ハッハッハ!』
サラマンダモンがバックドアになった、とかではないんですね。
『人はつい事件があると、怪しいもの同士を結び付けてしまいたがる!そのせいで冤罪をかけられてしまうのは古今東西あるあるだねえ!ハッハッハ!』
なるほど…
奴ら我々の資金源を狙ってきたわけですね。
そうして我々の弱体化を狙ったり、発展を妨害しようとしていると。
『その話は後だ!セキュリティデジモン達は出撃できるのかね!?』
できます!
ただ…
オンラインで出撃させた場合、前のスカモン戦みたいにデジタル空間内の好きな位置へ自在にデジタルゲートを開いて戦う戦術は使えません。
『なぜだね!?』
普通、デジタル空間内へデジタルゲートを開く場合、アクセスポイントと呼ばれる位置の周辺にしかゲートを開けられないんです。
そこから離れた位置にゲートを開けるのは、そうとう長い準備が要るし、開ける時間も短くなり、ゲートの大きさも狭くなります。
しかし、我々の高性能パソコンであるランドンシーフを直接接続したネットワークは、任意の場所へアクセスポイントを設定し、ゲートを開けるようになるんです。
前にスカモン大王に勝てたのは、奴の直上にゲートを開けてマッシュモンを降下させることができたからと言えます。
『勝率を上げるには、直接来てもらったほうがいいが…そうこうしていると、あっという間にデータを暗号化されてしまう!どうすれば…!?』
見たところ…
バブモンが吹き付けているのは石鹸ですね。
『石鹸…!?』
はい。
バブモンは体内の脂肪酸を、水酸化ナトリウムと反応させて石鹸を作った後、それを酢と混ぜることで蝋…ワックスを生合成できるんです。
普段はそのワックスを身に纏うことで、肌の乾燥を防ぐんです。
しかしバブモンは今、ワックスを作らずに石鹸のままデータへ吹きかけています。
『なにか理由があるのかね?』
…ヒヤリモンが冷やし固められるようにするためかもしれません。
『どういうことだ?』
寒冷地域に済むヒヤリモンは、水を凍らせて氷を作り、自分の巣を作ることがあります。
その際に、水と尿酸を混合させることで、溶解吸熱を発生させつつ、水分の蒸発による気化熱を発生させることで、ふたつの冷却原理を同時に起こして急速に冷却するんです。
『ほほう、よく調べているね…』
ワックスは水に溶けません。
そのため、バブモンだけでは、じっくりじわじわと固形ワックスをデータの周囲に塗りたくって地道に固めることしかできませんが…
バブモンが水と混ざった石鹸を出してデータをぱぱっと包み込み、ヒヤリモンがその水分を利用して冷却することで、データを効率的に次々と冷却できるんです。
奴らはそうやって連携し、データを石鹸で固めることで『暗号化』しているんです。
『…こ、この一瞬で奴らの手口を見抜いたのかい?ケン君…』
もともとデジタルワールドでの調査で、あれらのデジモンの性質は調査済みでしたので。
それをこうやって組み合わせてくるのは全く想定外でしたが。
『…キミが味方で心強いよ。して、石鹸で固められたデータは、元に戻せるのかね?』
…石鹸ですからね。融点は60度くらいです。
サラマンダモンは、オーラのように炎のようなものを纏っていますが…
これの温度を石鹸の融点丁度に維持すれば、データを焼いて損失することなく、石鹸だけを溶かして無傷で復旧できるかもしれません。
『サラマンダモン…彼に賭けてみるか』
まずはランサムウェアデジモン達を倒すのが最優先です。
我々のセキュリティデジモンをオンラインで出撃させ、バブモンやヒヤリモンを排除するので…
スポンサーさんは、サラマンダモンでアイスモンを排除してください!
『分かった。…サラマンダモン、君に頼みたい…。我々のサーバーを護って欲しい。やってくれるかね?』
スポンサーさんがそう言うと、『クワ!クワァ!』とサラマンダモンの声がした。
『…ありがとう。共同作戦、開始といこう!』
分かりました。
コマンドラモン、マッシュモン、パルモン!
出番だ!
バブモンは、水でふやかした固形石鹸をデータへ次々とかけている。
ヒヤリモンとアイスモンは、それを次々と冷却し、固めていく…。
そんなアイスモンの頭上から、何かの液体が突如降り注いだ。
アイスモンの頭上…天井には、ヤモリのようにサラマンダモンがぺったりと貼り付いていた。
口から出した液体をアイスモンの頭へ吐きかけたのだ。
驚いたアイスモンは、サラマンダモンに気づいた。
反撃しようとしたアイスモンは、凍ったデータを持ち上げて、投擲しようとした。
…サラマンダモンは、アイスモンの頭上から火炎放射を放った。
それを浴びたアイスモンは、全身火達磨になって炎上した。
サラマンダモンが最初に吐きかけたのは、エタノールだった。
メラメラと燃えるアイスモンは絶叫し、地面を転げ回った。
アイスモンは自前の冷却能力で体を冷やして火を消そうとするが…
サラマンダモンは天井に張り付いたまま、アイスモンの頭に燃料を注ぎ続けている。
火の勢いは増すばかりだ。
一方的な展開だった。
つ…強いなサラマンダモン。えげつな。
アイスモンは、そのままサラマンダモンに何一つ有効な反撃をすることができず…
やがて倒れ、燃え尽きた。
え、も、もう勝ったの…?
早くない?
『ハーッハッハ!真正面からヨーイドンで戦っていたら勝負の行方は分からなかったがね!奇襲させた方が悪い!』
…さすがはカンナギが破壊活動デジモンとして育成した切り札だ。
ガチの破壊活動に特化している分、火力は物凄い。
…サラマンダモンはそのまま、ヒヤリモンやバブモンを焼き払い続けた。
だが、火炎放射にはかなりのエネルギーを消耗するらしい。
サラマンダモンはバテた。
マッシュモンは、バブモンやヒヤリモンを食って、毒がないことを確かめると…
サラマンダモンは倒したそれらを食べて、体力を回復した。
…後は容易いものだった。
幼年期デジモン相手に、真正面から戦って、こちらの鍛え上げたデジモン達が負けるはずがなかった。
ボスマッシュモンは、チビマッシュモンを放って索敵し、ランサムウェアデジモンを引きずり出した。
パルモンは、腕から伸びるツタを使ってデジタル空間内をワイヤーアクションのように華麗に飛び回り、鋭いツタの攻撃でランサムウェアデジモン達を突き刺して始末した。
コマンドラモンは…
逃げる敵デジモンを、自動小銃で葬った。
途中から可哀想になってきたが…
中途半端に逃がしたところで、他の会社のサーバーへ送られるだけだろう。
鹵獲したところで、我々のサーバー内で破壊活動をするかもしれない。
…慈悲はない。
我々は敵を一匹残らず殲滅した。