我々の研究所は、最初からデジモン研究のために設立されたものではない。
正しい名前は「バイオシミュレーション研究所」。
生物の肉体をコンピューターシミュレーションで模倣し、様々なことに役立てることを目指す研究所である。
たとえば新薬の開発をしたり、電動義手・義足のシステム開発をやったりした。
シミュレーションの対象は人体だけではない。
微生物やウィルス、異常プリオンタンパク質などのシミュレーションを行い、肥料や農薬の開発に携わることもあった。
他にも、地層の画像データを解析して、生物の痕跡を探す…といった研究もしていたのである。
…そんな我々に、カンナギ・エンタープライズが、デジクオリアによるデジタルワールド観察を依頼してきたのは…
我々が『生命らしい情報』を見つける観察眼を持っていることを期待したかららしい。
実のところ、最初にポヨモンを発見するまでの間に、デジクオリアは何度も改良を重ねている。
当初は、デジクオリアの画面にはランダムノイズのようなものばかり映っていたが…
その中に、ほんのわずかながら、指向性のある動きをする標本データが見つかった。
生物のようであり、水の流れのようでもあった。
それらをより鮮明に認識できるように、デジクオリアの人工知能や画像出力システムを改良し続け…
そしてついに、我々はあの時ポヨモンを見つけたのだ。
…そういうわけで、我々でも研究所に在籍する研究員の多くは今でも、『デジモン研究よりも前にやっていた研究』に取り組んでいるのである。
そんな中、我々の研究を見て興味が湧いたのか、デジモンの研究を始めたがるチームが少しずつ増えてきている。
彼らは『それまでにやっていた研究』の知識を応用し、デジモン研究に役立つ技術の開発をしてくれている。
たとえば、微生物や肥料のシミュレーションをしていたチームは…
キノコ栽培について研究をしている。
我々はビオトープの暗室にて、デジタルワールドから採取した原木にキノコを植え付け、そこへデータマイニングで生成したデータを栄養として送り込むことで、キノコ栽培をしている。
しかしこのキノコ…
当初はあまり美味しくなかったようだ。
栄養価も少なく、大量に食べなくては十分な栄養が採れなかった。
だが、ただキノコ栽培をやみくもに続けるのではなく、効率を上げるために研究を進めている。
原木の種類選定、発育しやすい条件の調査、デジタルワールドのキノコの種類調査など…
そうした研究の成果が結実し、キノコの生産効率や栄養価は少しづつ、向上してきているのである。
また、デジモンの怪我の治療に関する研究も行っている。
スカモン戦で、我々はフローラモンを一切治療することができず、そのまま死なせてしまった(肉体だけだが)。
これからもクラッカーのデジモンと戦うことになるだろうが…
その度に深い傷を負っていては、いずれ戦闘不能になってしまうだろう。
だから、怪我を少しでもうまく癒せるようにするための技術を研究している。
デジモンから計測したデータをもとに、生体構造のシミュレーターを開発した。
それを使い、デジタルワールドから採取した植物やキノコを薬草として使えないか、試しているのである。
その結果…
いくつかの植物には、傷口を塞ぎ、傷ついた細胞に栄養を与え活性化させる効能があることが分かった。
また、飲み薬や薬膳スープとして使えそうな植物もあった。
キノコだけでは不足しがちな栄養素を含む野草が、いくつか発見された。
それを採取してデジモン達へ与えたところ…
スタミナの向上や、骨格の発達、ほか諸々の有用な効果が得られた。
そういうわけで、パルモンやマッシュモン、コマンドラモン達は今、デジタルワールドへ出かけて食材採取をやることもあるらしい。
…進化という手段に頼らずともをトレーニングと食材研究によって、我々のパートナーデジモンは少しずつ強くなっているのだ。
こうした基礎研究分野のプロフェッショナルが集まっていることは、我々の明確なアドバンテージだ。
クラッカーが何者であろうと、こうした『パートナーデジモンを大事にする』路線の強化においては、絶対に負けたくない。