今まであまり見ることのなかった、火山周辺を探索してみた。
住んでいるデジモンはほとんどいない。
それどころか、植物すら見当たらない。
さすがにこんな環境に住んでいるデジモンはいないのだろうか。
…そう思っていたら…
黄色いスライム型デジモン、ズルモンが数匹這い回っていた。
冷え固まった溶岩を特種な酸の泡で溶かして、栄養になる物質を吸収しているらしい。
…しばらく観察していると、ズルモンは体の一部を分離し、黄色い球体をいくつか作った。
これがズルモンのデジタマのようだ。
これらも『幼年期のまま殖えるタイプ』のデジモンのようだ。
それにしても、ズルモンというデジモンは、個体群によってあまりにも形質に差がありすぎる。
海底の熱水噴出孔で硫化物を食べる個体群。
分離・合体してゲレモンへ進化する粘菌デジモンの個体群。
そして今見つけた、火山に住む個体群。
どうやらズルモンというデジモンは…
同じ見た目でも、個体群によって生活環は完全に別物となっているようだ。
餌も違う。性質も違う。
共通しているのは、酸で物質を溶かして、栄養を吸収すること。
そして毒を持っていること。
…この環境適応能力は凄まじい。
幼年期から進化せずとも、既に完成されたデジモンといえる。
どうやらこの環境、ズルモン達の捕食者がいないらしい。
この過酷な環境で暮らすズルモンは、生活の中で体に毒や熱によるダメージが溜まっていき…
やがて寿命が来て、どろりと溶けて死に至るようだ。
我々は、デジモンが寿命で死ぬところを始めて見た。
…調べてみると、海に住むポヨモンもまた、寿命があるらしい。
他にも探してみたが、我々が明確に「寿命で死ぬ」ところを目撃したのはこの2体だけだ。
他のデジモンが寿命で死ぬところは、まだ見たことがない。
我々の世界には、寿命のない生物はたくさんいる。
単細胞生物…バクテリアは、ほとんどがそうだ。
細胞分裂によって1個体が2つに殖える。そのため、ひとつの個体に明確な寿命が存在しないのだ。
植物もそうだ。
カリフォルニア州ホワイト山脈にあるブリッスルコーン・パインというマツの一種は、なんと樹齢4000年という途方もない年月を生き続けた個体が存在する。
多細胞動物においても、エビの一種のロブスターには理論上の寿命が存在しないことが知られている。
しかし永遠に生き続けることができないのは、捕食以外にも、脱皮の失敗や病気などの要因によるものだ。
…『寿命がない生物』自体は、珍しくもなんともないのである。
その一方で、驚くほど短命な生物も存在する。
有名な短命の動物といえば、1年しか生きられないハツカネズミ等が存在するが…
さらに短命な多細胞動物がいる。
マダガスカルに住むラボードカメレオンは、生後五ヶ月で寿命が来てしまう。
爬虫類なのに昆虫のような短命さだ。
ワカレオタマボヤというオタマジャクシに似た姿のホヤは、生後5日で死んでしまう。
成体になるとすぐに体内で精子と卵子を作り、体を破裂させてそれらをばら撒いて死ぬのだ。
…「寿命は逃れ得ない宿命」などと云われているが、その宿命を持たない動物がいれば、やたらと死に急ぐ動物もいる。
この世が適者生存の理であるなら…
寿命など無い方が、生存に有利ではないのだろうか?
現存する生物種の多くに寿命があるのは…
一見直感に反するようだが、『寿命のない生物種は滅び、寿命のある種が生き残った』からだ。
つまり、寿命がある方が、遺伝子を遺しやすいのである。
たとえば寿命のない猿がいたとしよう。
寿命がないからといって、健康な肉体がいつまでも維持できるわけではない。
自然界には細菌やウィルス、寄生虫などがウジャウジャ生息しており、生きとし生けるもの達の肉体を常に蝕み続けている。
また、木から落下して骨折したり、外敵に噛み付かれるなどして肉体は損傷していく。
『どんな怪我や病気も完璧に治してくれるお医者さん』など自然界に存在しないので、寿命がなければそれらのダメージをずっと抱え続けることになる。
それでも生き続けることはできるだろうが…
限られた餌を、若い個体と長く生きてダメージを負った個体が奪い合うことになる。
そうなると、若くて未熟な肉体の子供達は、成熟し発達してはしているが病気や怪我でボロボロになった成体に餌を奪われ、やがて餓死していくだろう。
餌は有限であるが故に、集団は長く生きている個体の比率が高くなる。
集団は、怪我や病気、寄生虫によるダメージがどんどん蓄積し弱っていくのだ。
その一方で、寿命のある猿の場合はどうなるだろうか。
たとえ年老いた個体が怪我や病気を負おうとも、それらはやがて寿命で死に、病気のない若い個体がその分の餌を得て成長する。
そうして群れ全体が、比較的若くて健康なままの肉体を維持できるのである。
…さて、そんな『寿命を持たない猿』と、『寿命のある猿』が、縄張り争いをしたらどうなるか。
答えは明白だ。
寿命のある集団は、怪我が病気が少ない上に、世代交代によって進化したおかげで長い爪や鋭い牙など争いに有利な形質を獲得しているだろう。
一方、怪我や病気のダメージが重なった個体ばかりの群れが、そんなものを相手にして戦ったら…
為す術なく蹴散らされるだろう。
これが、多くの動物が『寿命』をもつ理由だ。
医者のいない世界では、世代交代を促進するこそが、(見かけ上)唯一の『治療』方法といえる。
この火山のズルモン達も同じだ。
火山噴出物という毒のあるものを餌にしている以上、否応なく体にダメージが蓄積する。
火山のズルモンという個体群は、寿命を獲得することで、それらのダメージをリセットしつつ、より強い酸を吐いて岩石を溶かせるように進化してきたのだろう。
さて…
火山の麓には、ズルモンが住んでいるようだが…
硫化水素などの有害な火山ガスが立ち込める山頂には、さすがに何も住んでいないだろうか…?
山頂は厳しい環境だ。
我々のデジドローンも、ガスのせいでダメージを負っている。
引き返そうかと思ったとき…
我々は、予想外のデジモンを発見した。
煙のような体に、顔がついた小型デジモンが、ふわふわと浮いている。
あ!知ってるぞこいつ!
モクモンだ!
カンナギの社長が仮定する、想像上のデジモン…
それとほぼ同じ姿のデジモンがいたのだ。
モクモン達は、ふわふわと空中を漂いながら、火山ガスを吸っている。
これが餌なのだろうか。
モクモンのいち個体は、岩場のすみにふよふよと着地すると、小さなデジタマを少量産み付け…
ぼふんと破裂した。
モクモンだったものは、小さなデジタマの周囲に飛び散った。
もしかしたら、産まれたばかりの幼体モクモンの餌になるのかもしれない。
…ズルモンによく似た生態だ。
これらのデジモンの細胞片を採取して、遺伝子を解析したところ…
モクモンは、ズルモンとよく似た原始的な遺伝子をもっていた。
共通の祖先を持つデジモン、ということだ。
我々は当初、これらのズルモンやモクモンが、『過酷な環境に適応できるように進化したデジモン』と考えていた。
しかしどうも、これらの個体群は、今までに見てきたデジモンの中で、最も原始的な遺伝子を持っているようだ。
むしろ逆に、デジモンの共通祖先に、最も近いのかもしれない。
…
我々の世界に現存する生物の中で、最も原始的な生き物は何だろうか。
人によっては、アメーバと答えたり…
詳しい人はシアノバクテリアと答えるかもしれない。
だが、現在発見されている中で最も原始的な生き物は、「OD1」と呼ばれる微生物である。
この微生物は非常に稀少であり、日本では長野県の白馬八方温泉など僅かな土地にしか存在しない。
OD1の特徴は、「ゲノムサイズが極めて小さい点」…
そして「自力で栄養補給ができない」という点だ。
周囲の物質や微生物と共生し、その力を借りなくては、栄養補給ができないのだ。
こんな原始的な生物がなぜ生き延びていけるのかというと…
競争相手がいないためだ。
OD1は、他の生物が生きていけない高アルカリ性の環境下でも平然と繁殖できるのである。
そして意外なことに、OD1が生き残る環境は、『生命誕生直後の地球に近い環境』なのだ。
どこかズルモンやモクモンと似ているところがある。
『最も原始的なゲノムをもつ』『他の生物が住めない環境に適応している』…など。
火山のズルモンやモクモンが、もしもデジモン達の祖先に最も近いとするならば…
デジタルワールドの火山地帯は、デジモンが最初に誕生した環境に近いのかもしれない。
さて、これ以上滞在するとデジドローンが傷つく。
そろそろ帰還させるか…
そう思った時。
麓のズルモン達のいるあたりで、突如デジタルゲートが開いた。
そこからマシンアームのついたデジドローンが出てきて…
ズルモンを捕獲し始めたのである。
あれは…デジモンキャプチャーだ!
我々の研究所のものではない。
他の何者か、だ。
信号パターンを解析したところ…
レアモンが出てきたときのゲートと同じパターンだ。
ズルモンを数匹捕獲したデジドローンは、やがてゲートへ帰っていった。
あのズルモン達をどうするつもりなのだろうか…?