デジタルモンスター研究報告会   作:タマリリス

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肉食哺乳類型成長期デジモン、その名もガジモン

森の中を、大きな川が流れている。

対岸までの距離は50mはあるだろう。

 

そこへ肉食獣型成長期デジモン、ガジモンがやってきた。

ガジモンは川の水を舌で舐め取って飲んでいる。

 

…デジモンにとって、水分補給はどれくらい重要なものなのだろうか。

 

我々のビオトープでも、デジタルワールドから飲み水を定期的に汲んでおり、デジモン達はそれを飲んでいる。

しかし、デジタルワールドから採集した野菜やフルーツを食べた後は、しばらく水分補給を必要とする様子が見られない。

食べ物に含まれる水分だけで十分な量を得られるためだろう。

 

ちなみに、当初は汲んだ飲み水を煮沸していたが、最近は特に煮沸をしていない。

 

デジモンは凄まじいスピードで進化するデジタル生命体であるため、免疫力の進化も凄まじい。

そのため、デジタルワールドにいる細菌やウィルス等は、デジモンの進化した免疫力に打ち勝てるものが少ない。

故にデジモンは、生水を飲んでも腹痛になることが少ない。怪我をしても破傷風になったケースは目撃例がない。

病原体にとても強いのである。

 

免疫云々は一旦置いといて…

過去の事例から考えると、デジモンに水分補給が必要とは言い切れないのである。

 

…以前出現したクラッカーのデジモン、ゲレモンやアイスモン達は、一見して水がなさそうなデジタル空間上で活動していた。

 

アイスモンは一時的に派遣されたのだろうが、ゲレモン達は明らかに長期間あのデジタル空間に滞在し続けている。

飲み水が見つからなさそうな環境にもかかわらず…だ。

 

デジモンの代謝系は、水分への依存度が少ないか、そもそも不要なのか…

もしくは、デジモンが餌としているデータの中に、デジモンにとって「水」として働くものが存在しているためか。

はたまた、食べたデータを分解・再構築して、水分を作り出すことができるのか。

 

…ともかく、めったに水を飲まなくても平気な種が多いようだ。

 

それでも今、ガジモンが水分補給をしているのは…

ガジモンが「哺乳類型デジモン」であるため、発汗や排泄の際に水分を多く利用するためか…と考えられる。

 

我々の世界の哺乳類は、一般的に爬虫類や鳥類よりも乾燥に弱いとされる。

 

その理由は、代謝活動の過程で生成される有毒なアンモニアを、水に溶ける尿素へと変換するためだ。

尿素を排出する際は、体内の水分を失うことになる。そのため失った分の水分を補給しなくてはならない。

 

対して爬虫類は、アンモニアを水に溶けない尿酸という物質へ変換して排出する。

尿酸は水に溶けないので、排出の際に水分を失わずに済むのである。

 

…デジモンの代謝系が、どの程度我々の世界の生物に近いのかは分からない。

 

そもそも、我々が「哺乳類型」「爬虫類型」と呼んでいるデジモン達が、どの程度現実の哺乳類や爬虫類と似た形質を持っているのかは分からない。

 

先程は、ガジモンが水分補給をしている理由を「哺乳類型だから」と仮定したが…

あくまで仮定であり、断定ではない。

安直に我々の世界の哺乳類と同じ性質を持つものと決めつけるわけにはいかないのだ。

 

さて、全く無関係な話になってしまうが、せっかくなのでここでついでに話そう。

「グレイモンやティラノモン、コカトリモンなどの恐竜型デジモンが、なぜあんなに強いのか」だ。

 

恐竜型デジモンは強い。

獣脚類型デジモンは特に強い。

 

ゴートモンを追っかけて崖から落っこちた恐鳥類型デジモン、ディアトリモンは、出番こそ少なかったが…

酸素の少ない高山で、あれほどの運動能力を発揮できるのは、明らかに身体能力が異常に高いのだ。

 

その理由は…

『気嚢』という呼吸システムにある。

 

我々の世界では、鳥類や獣脚類恐竜のみがもつ呼吸器官だ。

両生類や哺乳類、一般的な爬虫類がもつ横隔膜型の肺よりも、はるかに高効率で酸素を吸収することが可能であり、体温冷却能力もはるかに高い。

 

鳥がコウモリよりも繁栄している理由は、この「気嚢」という武器の有無が最大の理由といわれている。

 

我々哺乳類がもつ肺は、横隔膜を使って肺を広げることで息を吸い、横隔膜で肺を潰すことで息を吐く。

このとき、息を吐くときと吸うときでは、気流の向きが正反対となる。

 

そのため、気流を変えるためにエネルギーを消耗することになる。

加えて、息を吐いている最中は酸素を取り込むことができないのだ。

 

しかし、鳥類や獣脚類恐竜がもつ「気嚢」は、肺の前後にポンプがついており、吸気時と排気時では別のポンプが膨らむ。

これによって、肺の中の気流の向きは、循環するように常に一方向にのみ流れ続けるのである。

そのため横隔膜型の肺と違って、気流の向きを変えるためのエネルギーを消耗する必要がない。

さらに、気流が一方向に流れているおかげで、吸気時でも排気時でも酸素を血中に取り込むことができる。

加えて、吸気と排気が混ざらないので、排熱効率もいい。冷たい外気を取り込み続けながら、体内の熱で温まった息を排出し続けることができるのだ。

 

そのため、恐竜型デジモンは、凄まじいスタミナを持つ。

酸素を大量に血中へ取り込んで高パフォーマンスの運動エネルギーを発揮し続けられるし、体温を冷却し続けることが可能なのだ。

 

…もっとも、それは我々の世界の常識だ。

デジモンにおいては、哺乳類型や昆虫型デジモンが、気嚢を獲得している可能性は大いにあり得る。

 

なにせシャコモンやスイムモンは、たった位一度の進化でヌメモンやシーラモンとなり、鰓呼吸から肺呼吸へ切り替えたのだ。

我々が見てきた哺乳類型デジモンの中にも、進化によって横隔膜を獲得したものがいるのかもしれない。

 

ただし、気嚢があるだけで最強になれるわけではない。

我々の世界では、恐竜が絶滅した後に、獣脚類型の恐竜とほぼ同じ暮らしをする「恐鳥類」という巨大な鳥が出現した。

一時期は、かつての恐竜を髣髴とさせる強力さで、生態系のトップに立ったこともあった。当然、鳥は恐竜から進化した動物なのだから、恐竜譲りの気嚢も持ち合わせている。

 

しかし現在、恐鳥類は絶滅してしまっている。

理由は簡単。

生存競争に負けたのだ。

 

何を隠そう、恐鳥類を絶滅に追いやった、現代最強の肉食獣は…

狼や虎、熊といった哺乳類である。

 

気嚢は間違いなく強力な武器であるが…それだけで覇者となれるわけではないのだ。

 

 

さて…話が脱線してしまって申し訳ない。

我々は今、肉食哺乳類型成長期デジモンのガジモンを観察しているところだった。

 

ガジモンはすでに、その長い爪と牙を駆使して、2匹のプカモンを捕獲したようだ。

陸上でピチピチともがき苦しむプカモン達。

 

ガジモンはそのまま、3匹目のプカモンを狙った…。

 

…だが。

水の中から突如飛び出した何者かが、ガジモンの頭部へ齧り付いた。

 

ガジモンはじたばたと暴れて抵抗する。

しかし、水中から飛び出したデジモンは、ガジモンの頭部に噛みついたまま、凄まじい勢いでグルグルと横回転を始めた。

 

ガジモンの頭部は捩じ切られて、ぶちんと食い千切られた。

水棲デジモンは、ガジモンの死骸を丸呑みした。

 

そのデジモンの正体は…

サメ型成熟期デジモン、ティロモンであった。

 

ティロモンの捕食行為は…

サメのそれというよりも、ワニに近いといえる。

 

奇妙なことだが、デジタルワールドの爬虫類型デジモンの中には、ワニに似た姿へと進化した成熟期デジモンがまだ存在しない。

その代わりに、サメ型デジモンのティロモンが現実世界でいうところのワニに近い生態を獲得したのである。

 

我々の世界では、陸上の脊椎動物は単系統である。

陸上へ進出し、完全な肺呼吸を獲得した魚類が一種しか存在しないためだ。

 

しかし、ここはデジタルワールド。

デジモン達は驚異的なスピードで進化を遂げる。

タコ型デジモンのオクタモンですら、陸上適応してベーダモンへ進化を遂げたのだ。

 

ならば、シーラモン以外にも陸上適応に成功した魚類型デジモンがいても何らおかしくはない。

我々の世界でも、ミシシッピ川、アマゾン川、ニカラグア湖などの淡水域に、オオメジロザメという鮫が適応・進出に成功しているのだ。

 

もしかしたら、シーラモンの次に陸上適応する魚類型デジモンは、このティロモンの子孫かもしれない。

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