デジタル生命体は成長と進化が早い。
その中で、デジタルモンスターは成長や進化が飛び抜けて早いが…
デジモン以外の、たとえば植物やキノコなども、我々の世界のそれに比べて非常に成長が早いのである。
我々がデータマイニングでキノコ栽培をして餌の確保ができるのは、この成長スピードのおかげだ。
ディノヒューモンの農園が成功しているのも、デジタルワールドの植物の生育スピードが早いためである。
ちなみにディノヒューモン農園で育てている野菜や穀物、観葉植物、他用途がよくわからない植物は、品種改良がほとんど進んでおらず、デジタルワールドに自生している植物と同種だ。
にもかかわらず、それらは我々現代人から見て「野菜」と断定してよいほど過食部位が多く、栄養分に富んでいる。
果実ならともかく、根菜類ですらそうなのだ。
植物自身の生存競争からするとそれほど有益とはいえないこの形質を、なぜデジタルワールドの植物達が持っているのかは不明だ。
さて…
ちょっとデジドローンを飛ばして、ディノヒューモン農園を観察してみよう。
別に蛮族達のように野菜泥棒をしようとしているわけではないので安心してほしい。
農園を見ると、カメモンやブイモンなどの成長期デジモン達が、石器のハンマーで畑の柵を修復している。
こないだの蛮族の襲撃によって破壊された設備を直しているのだ。
何事も、破壊は容易だが、修復するのは大変なのである。
ディノヒューモン達は、道具を使うことができる。
ただし今使えるのは、石器や木材、骨…そして原始的で脆い、『土器』と呼べなくもない土の器などだ。
まだ金属を精錬する技術は持っていない。
ディノヒューモンが背中に抱えている大きな鉄の剣は、ベタモンからの進化と同時に出現したものであり、技術的に複製できるものではない。
しかし、デジモン達の中には、金属に匹敵する硬度の爪や甲殻をもつ種もいる。
それらを仕留めて解体すれば、金属のナイフと遜色ない性能の道具が手に入るのである。
そんなディノヒューモンは…
農園にて、よくわからない植物に水をやっていた。
この植物は、イネ科の…エノコログサによく似ている。
見た感じ、食えそうな種子を実らせるわけではなさそうだ。
花が美しいわけでもなく、正直言って、有用な農作物になる見込みはなさそうである。
だが、ディノヒューモンにとってはそれでも別にいいようだ。
ディノヒューモンにとって、拾ってきた種子や苗を生育するのは『趣味』である。
役に立つなら畑で殖やすが、役に立たないならそれはそれで眺めて楽しむ。
…ディノヒューモン農園が、蛮族デジモン達と異なり農耕文明を得られたのは、ディノヒューモンの精神性によるものかもしれない。
しかし、ディノヒューモンの様子はどこか妙だ。
なんというか、『知識が豊富すぎる』のである。
ディノヒューモンの集落では、デジモン達の糞尿は枯れた雑草と共に肥溜めで発酵され、肥料として再利用される。
…この農法を手探りで、いちから編み出したのだろうか?
さすがにそうとは思えない。
さらに集落では、日本語のオノマトペによく似た単語で会話をする原始的な言語が使われているが…
人類が言語を手にするまでは5~6万年がかかったのだ。
それを、短期間で編み出した…?
ベタモンから進化したデジモンが…?
にわかには信じがたい。
ディノヒューモン農園は、あまりにも先進的すぎるのだ。
『車輪』がまだ発明されていないとはいえ、これは明らかに頭がいいというだけでは説明がつかない。
人類が手探りで模索しながら研鑽した技術を、原始的ながら持っている理由について、我々はまだ仮説を立てられていない。
ディノヒューモン達の畑に、一体のデジモンが近づいてきた。
イモムシ型デジモン、クネモンである。
デジタルワールドと我々の世界における、農業へのハードルのひとつが『害虫』、『害獣』の事情だ。
イナゴやアブラムシ、チャドクガのように、「小さな害虫」がなかなかいない。
植物を食べに来る害虫デジモンは、数が少ないが、デカいのだ。
クネモンは畑に踏み込もうとした…。
…その瞬間。
一体のカメモンがその様子を見て、笛を吹いた。
すると、ワームモンが2体ほどやってきて、クネモンに蜘蛛の巣のような網を吐きかけた。
捕縛されたクネモン。
もはや食事どころではない。
やがてクネモンは、カメモン達に石の槍で滅多刺しにされ…
バラバラに解体された。
そして集落の中で、餌として消費された。
…現実の農業に比べると、害虫駆除はいくらか楽なようだ。
かつては畑への侵入者の排除は、故モスモンがやっていた。
モスモンはこの集落の言葉が分からない。
意思疎通を取ってすらいない。
そもそも最初の頃は、モスモンはどちらかといえば害虫側の立ち位置だった。
だが、畑を襲撃して故エクスブイモンから手痛い反撃をくらいながら作物を狙うよりも、畑の手前で他の害虫を狩る方が楽だということに気付いてからは、そっち専門にしたらしい。
つまり、モスモンは集落の住人というよりは「益虫」に近い立ち位置なのだ。
我々のデジタマ捕獲作戦の際に、モスモンがマッシュモンを攻撃したりコマンドラモンを追い詰めたのは、どちらかといえば警備よりは狩りのつもりだったようだ。
それでもディノヒューモンの制止を受け入れたあたり、全く知能が無かったわけではないようだ。
…こんな良くも悪くも自由奔放なデジモンのデジタマを、我々は育成できるのだろうか…。
さて、ディノヒューモン農場の畑で栽培されている農作物を見てみよう。
尚、各作物の名前は、カリアゲやクルエが勝手に名付けたそうだ。
まずは「挑戦ニンジン」。
我々の世界でいう、キク類セリ目のニンジンに近い種である。
これはとても綺麗な花を咲かせるため、ディノヒューモンは花を眺めて楽しんでいるときもあるそうだ。
そしてその根は、我々の世界のニンジンよりデカい。
カロテノイドを含んでいるのだろうか、しっかり赤い。
集落の住人デジモン達は、これを収穫して、ザクザクと切ってから、火で炙って食っている。
…ちなみに、先述の通り、このニンジンは野生種と全く同じ形質であり、品種改良は加えられていない。
野生種を採集して、火を通してからコマンドラモンに食べてもらったところ、「甘くて美味しい」のだそうだ。
…野生種の植物が、こんなに食用に適した根を持つ理由は全くの不明だ。
我々の世界には、人が栽培されていたものが野生化した「ノラニンジン」という種があるのだが…
根は細く、木の根のように固く、甘味もない。美味しくないのだそうだ。
…当然だ、野生で生きる植物にとっては、『食われにくい』方が生存しやすいのだから。
なにゆえ挑戦?と聞いたところ、どうやら集落の住人は戦いやトレーニングの前に挑戦ニンジンを食べることが多いためだそうだ。
成分を解析したところ、挑戦ニンジンはカフェインを含んでおり、コーヒー程度の軽い覚醒作用を持つようだ。
…味見したコマンドラモンは、挑戦ニンジンをとても気に入っているのだとか。
次に紹介するのは、「サクラ鳥大根」。
アブラナ科のダイコンに似ているが、桜の花のような桃色をしており、鳥のようなシルエットの根菜である。
コマンドラモンは、火を通さない生のサクラ鳥大根の味を『食えなくはないが辛い』と評している。
戦死した初代サラマンダモンや、四天王のフレアリザモンは、これを火を通して加熱することで辛味を抜いて食べている。
生で食べたときの辛さ故か、あまり成長期デジモンには人気がないようだ。
余談だが…我々の世界には、人の手から離れ野生化した『ハマダイコン』という種があるのだが、ワサビのようなとんでもない辛さを持つという。
野生の虫に食われないようにするために辛さを増したのだろう。
それに対して、デジタルワールドの野生のサクラ鳥大根は、生でも『食えなくはない』程度の辛さに収まっているのは不思議だ。
他にも「ペンペンペン草」という、ニラに近い植物も栽培されている。
疲労回復する効果があるようだが、味が苦いらしく、野菜というよりは薬に近い扱いをされている。
ちなみに、ペンペンペン草はパルモンの大好物だそうだ。
野菜以外にも、果実の栽培も試みられているようだ。
「ブルーリンゴ」、「オレンジバナナ」、「超電磁レモン」…と名付けられている。
しかし、農園で育成しているものは、種から育てた若木ゆえか、まだ果実を採集するには至っていない。
自然に自生しているそれらの果実は、コマンドラモンやパルモン曰くとても美味なのだそうだ。
レモンの形をした超電磁レモンは、食レポを聞いたかんじグレープフルーツの味に近いらしい。
…尚、マッシュモンにもこれらの野菜や果実を食べてもらったが…
「うまい」とは言うが、具体的に何がどういった味であるかは言及しなかった。
マッシュモンは何でも食えるデジモンであるが故に、味覚がコマンドラモン達に比べてあまり発達していないのかもしれない。
ここで紹介した以外にも、様々な野菜が栽培されている。
芋類に似た「ジャガーイモ」、ナスに似た「ガモンナス」、カボチャに似た「軟金カボチャ」、トウモロコシに似た「デカコーン」、大豆に似た「ビートゥビーンズ」等だ。
ちなみに、蛮族達に一番盗まれやすいのはデカコーン、次いでビートゥビーンズだ。
まあ根菜類は掘り返さなきゃいけないので、襲撃しながら持ち去ることはできないのだろう。
…やがて農園が果実の収穫に成功したら、それらが真っ先に狙われることになるかもしれない。
夜になると、ディノヒューモン集落から、賑やかな音が聞こえてきた。
たくさんのカメモンやブイモンが、木材や石材、狩ったデジモンの骨で作ったと思われる原始的な打楽器を打ち鳴らしていた。
ディノヒューモンやスティングモンが、歌を歌っている。
カメモンやブイモン達は、それを真似して歌っている。
スナリザモンやトータモンは、音程を合わせてはいないが、ギョオオオと鳴き声を発している。
ワームモン達も、ギチギチと音を鳴らしている。
どうやら宴なのか祭なのかは分からないが、飲み食いしながら音楽を演奏して楽しんでいるようだ。
…一部の学者は、人類が言語という高度なコミュニケーション手段を獲得できた理由を『言語能力は、歌を歌う能力が発展したもの』と考えている。
実際のところ、人類以外では、言語を使う動物はいないが、歌を使う動物はかなり多い。
例を挙げるなら、アザラシ、インコ、キツネザル、キリギリスやセミ等だ。
鳥や哺乳類だけでなく、昆虫も音楽を奏でる動物なのである。
スティングモンが言葉を喋れるのは、セミやクツワムシのように鳴く力を発展させて声帯に近い機能を獲得したためだと考えられる。
私は今、第一印象では『ディノヒューモン集落は言語だけでなく歌まで獲得したのか…』と驚いた。
だが、正しい順番としては『歌を獲得した上に、さらに言語まで獲得した』ということになる。
ちなみに、我々の世界の鳥類やイルカの一種は、独自の言語を使うことが明らかになっている。
もしかしたら、ホエーモンや鳥デジモンのデジタマからは、パルモンやスカモンのような高度な発話能力をもつデジモンが生まれるかもしれない。
ちなみに、彼らが歌っている歌詞はどんなものだろうか?
…聴いてみよう。
ディノヒューモンやスティングモンが発した言葉を、他のデジモン達が復唱しているようだ。
『ウホウホー!ゴロリ!』
『ウホウホー!ゴロリ!』
『ウホウホー!グサグサ!』
『ウホウホー!グサグサ!』
『ウホウホー!スパスパ!』
『ウホウホー!スパスパ!』
『ウホウホー!ゴロリ!』
『ウホウホー!ゴロリ!』
…彼らはなんと言ってるのだろうか。
メガに尋ねてみた。
「蛮族殺す、蛮族刺す、蛮族斬る、蛮族殺す。それをひたすら繰り返してるよ」
…よほど恨んでるんだな。