…数分前、メガ視点…
クレカ会社への出撃は、リーダー、ケン、カリアゲが担当した。
その間…僕が担当するのは、僕のチーム独自のデジモン研究だ。
今の世間におけるデジモンの立ち位置は…
ペットや、テレビ番組のネタなどの娯楽の対象。
そして、クラッカーが操るサイバー犯罪の道具や、それから人間を護るセキュリティなどだ。
世間の人々の思考は驚くほど単純だ。
「自分にとって快いか、不快か」というくだらない線引で「善悪」を決め付けてしまう。
今はまだ、世間に好意的に受け取られているが…
クレカ決済処理が止まった原因として報道されれば、世間は掌を返し、デジモンを悪魔化するだろう。
そんなことがあっちゃいけない。
デジモンは、戦いの道具や娯楽なんかより、遥に有用な役割を持てる存在になれる可能性があるんだ。
人々の生活の利便性の次元を上げるだけのポテンシャルがデジモンにはある。
僕はそれを探求することを自分の使命と受け取った。
そうして人々にとってプラスの存在になることこそが、デジモンを護ることになるんだ。
だから、今僕がやるべきことは…
僕自身の研究だ。
僕は今、研究所内で独自のチームを編成して、カンナギ・エンタープライズやギーク仲間たちと独自路線のデジモン研究開発を進めている。
僕がその研究に取り組めるのは、リーダーやスポンサーさん達がセキュリティデジモン開発のために予算確保してくれたおかげでもある。
それぞれに、それぞれの役割がある。
だから僕は僕の…
『メガのかみよ たいへんだ』
ん!?
このチャットはボスマッシュモン…?
出撃したはずじゃ?
『あれは わたしを きおくごとふくせいした ぶんしんだ わたしの ほんたいは ビオトープの じめんに ねをはっている』
ああ、そういえば君は菌糸が本体のデジモンだったね。
キノコ型のあれは子実体というか端末みたいなもんか。
キミのことは真・ボスマッシュモンと呼ぼう。
『かっこよさを かんじる』
それでどうしたの?
『たいへんだ ネットワークかいせんの かべが やぶられそうだ』
なんだって…ファイヤウォールが!?
サイバー攻撃を受けているのか!?
僕はデジクオリアの映像と、セキュリティソフトの情報を確認した。
な…何者かが侵入しようとしている!
一体なぜ!?何かにバックドアでも仕込まれていたのか!?
とにかく…侵入を阻止しなくては!
僕は外部からの不正アクセスを遮断しようと試み、特別製のセキュリティソフトを起動した。
デジクオリアの映像では、ひび割れた壁を上塗りするように新たな壁が出現した。
よし、バックドアを開いてるマルウェアらしきものを発見したぞ。
侵入経路は…
初めて見た経路だ。
端的に言うと『この侵入者自身が自ら発見した、一般的なソフトの脆弱性』を突いたものだといえる。
いずれ修正されるだろうが、まだ修正されていない脆弱性だ。
クソ!
そんな腕があるなら、クラッカーなんかやめてもっと真っ当に稼げよ!
なんて説得をしてやめてくれる相手じゃなさそうだ。
…マッシュモン!マルウェアを排除できるか!?
『おおいそぎで ぶんしんを つくっているが まだじかんがかかる』
つ、土に餌たくさん撒いとくよ!
『たすかる』
最近気付いたが、デジモンはコンピュータのデータを肉眼で見て意味付けすることができるため、一般的なソフトやマルウェアも肉眼で観測しの必要とあれば破壊できるのだ。
故に、未修正の脆弱性を補う存在になり得る。
…解説してる場合じゃない!
マッシュモンの分身が終わるまでの間、僕自身の力で対処しなくては!
と、とにかく!
まずはネットワーク回線を切断して、これ以上何も入ってこないようにしなきゃ!
僕はパソコンから物理的にLANを引っこ抜こうとしたが…
その時。
デジクオリアから、何かが破壊される音がした。
画面を見ると…
…火が灯った蝋燭のような姿のデジモンが、5体ほど侵入しているのが確認できた。
さらに…
茶色い肌の、小さな人型(小鬼型?)デジモンも1体いる。
ま…まずい!
クラッカーのデジモンが来てしまった!
くっ…このパソコンにはまだオフラインライセンスのデジクオリアを入れてない!
だから回線を切断すると、こいつらを僕自身が見れなくなる…!
止むを得ない!
真ボスマッシュモン!そいつらを見張っててくれ!必要に応じてチャットで連絡して!
『わかった』
僕は大至急、オフラインライセンスの使用承認の申請をカンナギへ送った。
…返事が来て、ライセンスキーが届くまでは、僕自身がどうにかしなくちゃ…!
というかこいつら、何をする気だ…?
「ウワーオゥ!」
骨棍棒を持った茶色い肌の小鬼型デジモンが叫んだ。
そして小鬼型デジモンは、デジタル空間内のデータや壁を骨棍棒で叩き始めた。
ある程度叩いて損傷させると、蝋燭型デジモン…仮称キャンドモンは、火を吐いてその損傷箇所に火を灯し始めた。
火を灯された箇所には、蝋燭のロウらしきものが貼り付いており、それが燃えているようだ。
…炎が炎として存在し続けるには、『燃料』が必要不可欠だ。
それがサラマンダモンの場合は、エタノールに飽和脂肪酸を添加した粘着質の液体燃料であり、このキャンドモンの場合はロウがそれにあたるらしい。
なんて陰湿な…!
小鬼型デジモンがデータを損傷させ、キャンドモンがそれを炎でさらに破壊している…!
やめろ!やめてくれ!
くそ、僕じゃどうしようもない!
僕のチームで育成中のデジモン達は、お世辞にも戦闘向きじゃない。そもそも戦闘行為というものを教えていない。
このクラッカーデジモン達へ差し向けても倒されてしまうだろう…。
マッシュモン…
分身ができたら、あいつら倒せる?
『かくじつとは いえない』
そうだよな…
炎を吐けるのはやばそうだ。
どうする…
ファンビーモンは僕らの指示を聞かないから、差し向けても意味がない。
詰んだのでは…?
「まずはリーダー達にホウ・レン・ソウじゃないですかねー?さっきニュースで速報入りましたよ、クレカ会社の決済処理再開したって」
クルエ!?
よかった…リーダー達は粘菌デジモンを倒せたんだ。
シン!電話おねがい!
「はいッス!」
リーダーに電話したからといって、どうにかなるとは思えないけど…やらないよりマシか?
「や、やべーっすよリーダー!うちらのサーバーに敵デジモンが来て破壊活動をしてますゥゥウ!」
『何だと…!?状況を教えてくれ!』
「ロウソク型デジモンが5体と、小鬼型デジモンが1体!小鬼がデータを叩いてから、ロウソクが火を灯して焼いてるッス!」
その報告の後、ケンの声が聞こえてきた。
『ロウソク…蝋。ワックスか。ワックスを使うデジモンはバブモン、ランサムウェア事件のバブモンだ!その進化系がそいつだ!そして小鬼型デジモンは…蛮族デジモンのコエモンに近い可能性がある!』
うわ。
一瞬でそんな分析をするなんて…。
こういうところはケンには敵わない。
「な、なんで蛮族デジモンが!?」
『前にスカモンと一緒にいたチューモン…あいつが怪しい。蛮族と繋がりがあるのかも』
け…ケン!どうすればいい!?
何か今の僕たちにできることはあるのか!?
『対処法はあります。ファンビーモンを放ってください』
ファンビーモン!?
あいつは僕たちの指示を聞かないからアテにならないよ!
仲間のデジモンに襲い掛かるくらい凶暴で、命令なんて聞きやしないんだ!
『大丈夫です。ファンビーモンはやれます』
く…くそ!もうどうにでもなれ!
僕はファンビーモンをデジタル空間内へ放った。
ファンビーモンは、キャンドモン達のいる方へ飛んでいき…
高い壁の上に着地した。
そして、キャンドモン達の狼藉を…
ただひたすら傍観した。
ふ、ファンビーモン!戦って!
…そう言ってみたが、無反応だ。
ほらあああやっぱりアテにならない!