デジタルモンスター研究報告会   作:タマリリス

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ゲイン・ロス効果

~ケン視点~

 

私達は無事に研究所へ帰還した。

研究所のサーバーへやってきた敵デジモン達は、うまくメガとファンビーモンが倒してくれたようだ。

 

ファンビーモンは、我々の命令を聞かない。

だからセキュリティデジモンとして作戦を遂行するのには向かない。

 

しかしそれは、決してファンビーモンが劣ったデジモンだからではない。

 

我々の世界にいるスズメバチの女王は、親から何を教わるでもなく、ハニカム構造の巣の作り方を知っている。

コマユバチ等の狩り蜂は、誰から教わるでもなく、卵を寄生させるターゲットを特定する術を知っている。

イチジクコバチは、誰から教わるでもなく、自らの卵がイチジクの花へ産み付けるものだと知っている。

 

後天的な学習を必要とせずに、持って生まれてくる知識。

進化によって洗練され、生まれるときに脳へあらかじめ書き込まれた、優れた生命活動のプログラム。

…それが本能だ。

 

モスモンから受け継いだ、生まれついてのハンターとしての完成された狩猟本能が、このファンビーモンには備わっている。

 

…ファンビーモンは命令を聞かないし、トレーニングもしない。

だがそれでいいのだ。

縄張りへの侵入者を攻撃し、活きのいい餌を仕留めるだけでいいのなら、ファンビーモンには命令もトレーニングも要らず、それを本能で行えるのだ。

 

デジモンは道具じゃない。

我々の仲間…

いや、仲間であるとすら断言し得ない。

 

デジモンは生物だ。

己の生存のために、全力を尽くす命だ。

 

道具扱いできなくても、仲間扱いできなくても。

その生物としての在り方そのものを、活かすことはできるのだ。

我々デジモンテイマーに問われるのは、その手腕と言えるだろう。

 

…とはいえ。

デジタルワールドで見かけるファンビーモンはもっと大人しい。

親のモスモン譲りの凶暴性と戦闘力を兼ね備えたこの個体は、特殊な存在のファンビーモンといえるだろう。

 

…いま困っていることがあるとするなら…

ファンビーモンはサーバーに居座って勝手に巣を作り、キャンドモンとシャーマモンの死骸を肉団子にして貯蔵していることだ。

…まあ、食い終わった頃に、餌の匂いで誘導して第二ビオトープへ戻すとしよう。

 

さて。

我々は一時的に、第3ビオトープを増設した。

ルドモンとズバモンを保護するためだ。

 

…あの戦いの後、ルドモンとズバモンの捕獲を試みた。

餌で釣って隔離チェンバーへおびき寄せようとしたのだが…どちらも餌に寄ってこない。

スカモンを見殺しにはしても、自衛をするつもりはあるようで、無理矢理捕まえようとしたら抵抗してきた。

 

ルドモンは割と楽に捕獲できたが、ズバモンが強敵だった。

頭部の剣は、武器へ変形したときほどではないとはいえ、並の成熟期デジモンにすら小さくないダメージを与えられそうな破壊力を持っていたのだ。

 

どうやって捕獲したかというと…

まずパルモンがフローラモン譲りの花粉をズバモンへ浴びせて、アレルギー症状を起こさせる。

そして、コマンドラモンからガスマスクを借りたブイモンが、ワームモンを抱えて、ルドモンを粘着糸で捕縛したのである。

ワームモンはおやつに花粉を食べる昆虫デジモンであるため、パルモンの花粉を浴びても平気なのだ。

 

…ズバモンという武器は凄まじい性能だが。

こっちのワームモンも負けてないな。

 

…そんなわけで、無理矢理鹵獲したズバモンとルドモンは我々のデジモンへ敵対心を向けているため、同じビオトープに入れたら戦いが始まるだろう。

そのため隔離しているのだ。

 

ちなみに遺伝子を解析したところ、ルドモンとズバモンは、トータモンの子孫であるらしい。

 

一体どうやったらこんな進化を促せるのか…

AAAとやらの技術力は凄まじいが見習いたくはない。

きっと悍ましい方法で生み出されたのだろう。

 

 

さて、それはいいのだが…。

クレジットカード決済が停止したのは、クラッカーによるサイバー攻撃への対処によるものと発表された。

顧客情報は盗まれていないと発表し、エンジニア達を納得させるには、その根拠を示す必要があった。

 

そのため、我々は…

この事件がスパイウェア型デジモンを使ったクラッカーの犯行であり、セキュリティデジモンによってそれを排除したと正直に言う必要があった。

 

クレカ会社は信用を取り戻せたようだが…

案の定世間はパニックになった。

次に狙われるのは自分かもしれないという不安感。

クレジットカードのようなライフラインが再び止められるかもしれないという恐怖。

クレカ決済ができなかったせいで様々な不利益を被った人々の、やり場のない怒り。

それらが社会に渦巻いていた。

 

そんな彼らの不安を、我々は和らげてあげられる現実的に意味のあるアプローチは一つだけだった。

見張りマッシュモンサービスのサブスクに入るように促すことだ。

我々とて、タダで見張りマッシュモンサービスをタダで無尽蔵に運営することはできない。

彼らへの餌はデータマイニングや、デジタルワールドへの食糧採集で賄って送付する必要がある。

それを提供し続けるには、サーバー維持のための料金が必要なのだ。

 

そう説明したのだが…

分かってくれる者がいれば、分かってくれない者もいる。

「サブスクが高い!タダでやれ」

「政府は国民全員分の見張りマッシュモンサービスを国の金でやれ。ただし増税はするな」

…などなど、非難轟々の講義の電話が来ることがある。

中には「全てのデジモンを根絶するウィルスプログラムを作ってデジモンを絶滅させろ」なんて声も少なくはない。

…無茶を言いよる。

 

それだけならばまだ良かったのだが…

ある日、状況は一変する。

三流ゴシップ誌が、デタラメな陰謀論を吹聴したのだ。

 

『セキュリティデジモン開発研究所とクラッカーは裏で繋がっていた!…と有力筋からタレコミがあった!』

『卑劣なマッチポンプ!違法アクセスと見張りマッシュモンの両方でも儲けようとしている!…と元関係者が話していた!』

 

…など、根も葉もないデマが流れたのだ。

誰だその元関係者は、そんなの知らん!

 

しかし、この陰謀論を鵜呑みにして真に受けた者が多発したのである。

ありもしない疑いを向けられ、日夜電話で抗議や強迫、意味不明な罵詈雑言が浴びせられた。

 

もちろん、陰謀論を真に受けない者もいるのだが…

動画配信者やマスコミが、再生数や視聴率を稼ぐために、いたずらにこの風評被害へ便乗し、人々の不安を掻き立て始めたのだ。

 

世間の人々の一部は、怒りの矛先を…

クラッカーでなく、我々の研究所やカンナギエンタープライズへ向けたのだった。

やがてついに、我々は起訴され、警察に調べられた。

我々は不正アクセス禁止法違反の疑いで…

カンナギ・エンタープライズ・ジャパンは犯罪幇助の疑いでだ。

そうして我々は、否が応でも飼育中のデジモンを公開して無実の証明をしなくてはならなくなった。

尚、カンナギは事前にデジタルワールドの洞窟へ赤オタマモンを隠し、代わりにモクモンを飼育していた。

あっずりい!

 

そうして我々は取り調べの結果、後ろめたいことがなかったため、無罪放免となった。

逆に例のゴシップ誌を名誉毀損罪で訴え、勝訴を勝ち取った。

 

のだが…

ネットの陰謀論は止まらない。

『デジモン研究所は警察や政府とグルになって証拠を隠蔽している!』

『政府はデジモンを使ったデジタルネットワークの支配を目論んでいる!』

などなど、根も葉もない悪意のデマが大喜利状態で増えている。

 

なんなんだよ…

我々はクラッカーから人々を護ろうとしているのに。

これはなんなんだよ!!

 

私がげんなりとしていると…

メガが話しかけてきた。

 

「AAAは、クレカ会社の事件を意図してやったものじゃないと言ってたけど…本当だと思う?」

 

どういうこと?

 

「…僕達は…。現に、戦力を暴かれた上に、社会的なダメージを負っている。これ自体が、クラッカーが意図して起こした攻撃なんじゃないか…?」

 

…わからない。

だけどそう決めつけるのはどうかと思う。

くそ、やりづらくなったな…。

…世間でのデジモンに対する風評が悪化したゆえ、仕方ないのだろうか。

 

…そうへこんでいると、クレカ会社の社員さんが我々を訪問しに来て、感謝を述べてくれた。

菓子折りまで持ってきてくれた。

 

…私はその日の夜、自室で一人、泣いてしまった。

なぜだろう、何の涙だろうか…

わからない。

 

だが我々はそれでも、デジモンの汚名を返上し、クラッカーと戦わなくてはならないのだ。

いつか、然るべき手段で…

奴らの本丸を落とし、この戦いを終わらせてやる。

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