そんなある時…。
『やあ諸君!毎日大変だね!』
スポンサーさんから通信が来た。
『忙しいところ何だが…テレビ番組の取材を受けてはくれないかね?』
取材?
一体どんな…。
映像を切り貼りして悪事の企てであるかのような印象にするのはご免ですよ。
『そうじゃない。君等が日夜どのようにコミュニケーションをとり、どのように研究し…そしてどのようにハッカーと戦ってきたか!そして今、心無い上にオツムもない輩にどんな見当違いの迷惑をかけられているのか。それをドキュメンタリーにするんだ!』
…正直メディア云々は疲れましたよ。
『取材を受けてくれたら研究費を増額しよう!』
やらせていただきます。
我々はテレビ局から取材を受けた。
撮影は順調に進んだ。
そして、テレビ番組は放映された。
その番組は…
…いつも我々が、デジタルワールドの様子をデジクオリアで撮影し、それをテレビ番組用に編集した動画を放映する、デジタルワールド観察番組であった。
(トーカンモンの人気が爆発したのもこの番組だ)
我々バイオシミュレーション研究所が、デジクオリアで撮影した映像からどのように情報を解析し、理論体系化しているか。
パートナーデジモン達とどのように交流し、心を通わせ、愛情を込めて育ててきたか。
フローラモンが非業の死から蘇ったエピソードや、チームワークを駆使してスカモンを倒したこと。
そして、見当違いな迷惑行為に悩まされて、足を引っ張られる日々。
それらがテレビ番組で伝えられた。
…その日以来。
嫌がらせの件数は減ってきた。
SNSでは、我々を励ましてくれるような投稿が増え始めた。
『よかったねえケン君達!』
はい、よかったです。
良心的なマスコミや、良心的な人達が、世間にはこんなにいたんですね。
『…ははは。どうだかねえ』
…え?
『ときにケン君!マスコミ共やゴシップ誌、動画配信者や週刊誌がこぞって君達がクロであるかのように…いや、デジモン達の存在が悪であるかのように報じてきたのはなぜか、わかるかね!?』
えっと…
不安を掻き立てると、視聴率が上がったり、発行部数や再生数が増えるからでしたっけ。
『そうだ。だが、今までデジモンというブランドを育んで良好なイメージを保つことで商売を続けてきた者達がいる!あの番組と、それに付随する様々な関連ビジネスに携わる者達!そしてそれを統括する我々クロッソ・エレクトロニクスだ!』
…はぁ。
『おおっと、我々がトーカンモンを拐ったわけでは断じてないよ?そうではないが、マッシュモンやトーカンモンのキャラクターグッズを製作して販売してはいるがね!パイルドラモンの合体フィギュアはウケたよ!ディノビーモンに変形可能なギミックがとても好評だ!』
そんなん作ってたんですか…。
『だからねえ…ダメなんだよ!我々が育んできたデジモンブランドが!あんな社会の迷惑になることでしか儲けられないクズ共に使い捨てられるなんてことがあってはね!だから今回は汚名返上のために、センチメンタルな番組を撮らせてもらったんだ!』
…なるほど。
我々の側に立ってくれるマスコミがいたのはそういう理由なんですね。
では、嫌がらせの件数が減ったり、SNSで励ましてくれる風潮ができたのは…?
『ああいう嫌がらせをする奴らはねぇ、何も得られなかった、何も成し得なかった、何者にもなれなかった者達の吹き溜まりなんだよ!ハッハッハ!』
どういうことですか?
『コンプレックスをもつ者が、現実から目を背けるための唯一の方法はね…。自分より劣った者を見つけ、攻撃を加えることだけなんだよ!』
そ、そうなんですか?
『ああそうだよ。そして彼らの吹き溜まりはねぇ…。何かを攻撃するのに加担するだけで、居場所を与えてくれる集団。自分が優れた側であると錯覚させてくれる集団なんだよ!それが君達に嫌がらせをしてきたクズ共、陰謀論者の正体だよ!ハーッハッハッハ!』
知らない世界だ…。
『世間への逆張りをすることで、自分達を「気付いている少数側」「世間大多数の凡人とは一味違う存在」だという幻想を持ち続けたいわけだね』
うわ、嫌だなぁ…。
『しかし…あの番組以来、「逆張りの逆張り」とでもいうべき集団が現れ始めたんだよ。陰謀論者にとっては我々が攻撃のターゲットだが…。逆張りの逆張りをする集団のターゲットは、「アホで有害な陰謀論者」なんだ』
えぇ…。
『彼らは根っこの部分ではほとんど同じだ。だが、陰謀論者を見下すことで自身のコンプレックスを紛らわす存在が、今君たちの味方をしてくれているということだな!…モチロン、純粋な善意で味方してくれている者達もいるぞ!ハーッハッハッハ!』
…ちょっとがっかりしました。
もう少し、こう…人々の良心が目覚めた、とか…そういうのだと思っていたので。
『…すまなかったねケン君。言わなくていいことを言ってしまった。私の悪い癖だよ』
悪い癖?
『そうだ。私は純粋な善意とか人間の善性というものを信じない。ただカネの繋がりと相互利益の関係だけを信じているんだ。だから、何でもついカネ有りきで考えてしまう』
…悪いことなんですか?
『ああ。私はね…純粋な善意が怖い。タダより高いものはないと思ってしまうんだ。だからね、カネを介した繋がりしか、私には持てないんだ。人との繋がりを持ちたいと考えたら、そのためにカネの繋がりを持たなくては、と考えてしまう。あぁ、だめだねぇ…駄目な癖だ。ハッハッハ』
…。
いえ、駄目ではないと思いますよ。
あなたの癖のお陰で、我々は少し救われました。
純粋な善意を期待して祈っても何も変わらなかったでしょうけども…
純粋な善意を信じないスポンサーさんが、カネの力で、世の中を少し良くしてくれた。
それはスポンサーさんにしかできなかったことです。
感謝していますよ。
『…ハッハッハ。それはよかったよ。この性格のせいで、私はいろいろ損をしていてねぇ…。あまり人に話せるようなことではないが』
…うちのワームモンは、インファイトの格闘戦ができないし、機動力も全くない。駄目なデジモンだと思いますか?
『とんでもない。あの粘着糸は強力な武器だ。それに機動力はブイモン君がカバーしてくれている』
ボスマッシュモンは、毒を出したり殖えたり器用なことができます。しかし毒に耐性のある敵には決め手がない。駄目なデジモンだと思いますか?
『いやいや。決定力ならコマンドラモンやブイモンにあるじゃないか。彼らのサポートとして十分いい働きをしてくれている』
ファンビーモンは、命令をぜんぜん聞かないし、敵味方の区別せず襲う。駄目なデジモンだと思いますか?
『そのファンビーモンが留守番をしてくれたおかげで、君達のセキュリティデジモンがもぬけの殻になっても本拠地を護れたんだろう?いいことじゃないか』
…人間も同じですよ。
『…なるほどねぇ』
それに先程、スポンサーさんは言っていました。
人との繋がりを持ちたいと考えたら、そのためにカネの繋がりを持たなくては、と考えてしまう…と。
それはつまり、私達とまだ仲間でいたい、と望んでくれているという気持ちが先立ったからこその行動ってことですよね?
『…自分では気付かないものだね』
その気持ちがあることが、我々にとって有り難いことですよ。
『…今後も引き続きよろしく頼むよ』
はい。
『そうだ、そういえば気になっていたんだが…キャンドモンに放火された件はもう大丈夫なのかい?キャンドモンを倒しただけでは火は消えないだろう?』
…かなり大変でしたよ。
消火活動しようとしたデジモンは、サーバーに居着いたファンビーモンに獲物として狙われるので。
『うん…やはり短所を許容するのにも限度ってものはあるね!?ハーッハッハ!』