デジタルモンスター研究報告会   作:タマリリス

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動物性タンパク質の確保問題

それにしても、キャンドモン5体か。

一体どうやってAAAはこの戦力を揃えたのだろうか。

粘菌型デジモンのように、成長期のまま殖えるのか…?

 

ファンビーモンの巣に運び込まれたキャンドモンの肉団子の断片を採取し(めちゃくちゃ大変だった)、遺伝子を解析してみたところ…

粘菌型デジモンの遺伝子も含まれていたが、バブモンの遺伝子がメインのようだ。

 

これらのデジモン達を、ジョグレス進化させたりパッチ進化させたりして、バブモン由来のワックスで体をコーティングしたり、炎の燃料にする力を身に着けさせたりした…ということだろうか。

 

するとこいつらには親となる成熟期がいることになるな…。

クラッカーはすでに成熟期デジモンを飼育して、デジタマを産ませて増やせるだけの餌を確保できるようになっているということだろうか…。

 

こちらはマッシュモンくらいしか殖やせるデジモンがいない。

そろそろ成熟期デジモンへの進化を試み、その餌を賄う予算を確保できるようにすべきだろうか。

 

…とはいっても、毎日トレーニングさせても一向に成熟期になる様子がないから、進化させようと思ってできるものではなさそうだが。

 

 

さて、ルドモンとズバモンだが…

鹵獲後、キノコを与えようとしたが食べない。

野菜や果実を与えようとしても食べない。

 

…なぜなんだ!

お前ら農園のトータモンの子孫なんだろ!

なら野菜くえよ!

 

…そう言っても、何も返事をしてこない。

 

AAAはこいつらにどんな餌を与えていたのだろうか…。

念のためゲレモンを近付けたが、もちろん食わない。

当たり前だ。粘菌デジモンの戦力増強のために運用されていたのだから。

 

…まさかと思って…

我々はファンビーモンの巣に貯蔵されているシャーマモンの肉の切れ端を採取し(※めちゃくちゃ苦労した)、それを見せてみた。

 

すると…

 

「ズァア!ズァアァア!」

「ルォオイ!ルルルルゥオオイ!」

 

…めっちゃ反応してる。

餌を与えたら、勢いよく肉片を食べ始めた。

 

ああ…

やっぱりそうかと思ったが。

 

AAAは、デジタルワールドで仕留めたデジモンの肉を、デジモン達の主食にしているのだ。

 

そりゃそうだ。

最もカロリー効率が良いのは、デジモンを狩って肉にすることだろう。

 

…そうか、クラッカー側は既にやっているのか。

それならば、成熟期デジモンの餌を賄い、デジタマを産ませ続けて殖やすのも可能かもしれない。

あれだけたくさんのハッキングデジモンを飼育することもできるかもしれない。

 

…それ自体を悪いことと言うつもりはない。

我々とて、ズルモン・ゲレモンを殖やしてマッシュモンの餌や戦闘訓練に利用している。

作戦のためにバクモンを狩ったこともあった。

 

…だが。

我々はいまだ、その効率よく餌を確保する方法に手を出せずにいた。

 

心理的な嫌悪感があるためか、誰も「それをやろう」と言い出せないのだ。

 

もしかしたら、クラッカーにはこういった生活インフラ面の競争で既に差をつけ始められているのかもしれない。

 

さて、ルドモンとズバモンは肉しか食おうとしない。

…せめて果実くらいは食ってくれよ。ファンビーモンだって果実は食うんだぞ。

 

このデジモン達を、我々の研究所で飼育し続けるということは…

それすなわち、AAA同様に、デジタルワールドで食肉用デジモンのハンティングを始めなくてはならないということだ。

 

…どうする?

やるべきか?

 

…私は、「やるべき」と言い出せなかった。

カリアゲも。シンも。クルエも。メガさえも。

 

皆、頭ではわかっているのだろう。

ハンティングによって動物性たんぱく質を含む餌を狩るのが、効率的かつ合理的な方法だと。

 

…やがてリーダーが口を開いた。

「オレが言うべきなんだろうな、真っ先に。やろう、と。…オレがその役割を担ったはずだ。ケンとはそう約束したはずだった」

 

…言えませんか。

 

「どうやらオレは自分を過大評価していたようだ。言うべきことが…言えずにいる。役割を果たせずにいる。オレもケン同様、デジモンに親近感を持ちすぎたか」

 

…クルエが隣で「やっぱり」と呟いた。

 

「だがこのまま沈黙を続けていても仕方がない。無為に時間を消費し、ルドモンとズバモンを餓えさせるだけだ。そうするならそうするで、オレ達は結論を先送りにせずに決断をしなくてはならない」

 

…そうする場合どうしますか?

ルドモンとズバモンをデジタルワールドへ逃がすのか、餓え死にさせるのか…になりますか?

 

「前者を選んだら、AAAに回収されることになるだろうな」

 

なんか、うまくこう、AAAに接触するための釣りエサとして活用できないでしょうか?

 

…私がそう言うと、メガが口を開いた。

「デジモンに仕込むスパイウェアやバックドアか。…悪いけど、まだできてない」

 

…『まだ』?

デジモンに仕込むマルウェアを作ってるってこと?

 

「正しくはマルウェアを作ってるんじゃなく、そういうことができるデジモンを作ってる。AAAの本丸を攻めるためには、必ず必要になることだ」

 

なるほど…。

このまま餓え死にさせるのもなんだか、嫌ですね。

 

「そうするくらいなら解剖してしまった方がいいよ」

 

それを聞いたカリアゲはぎょっとする。

「メガ…お前とんでもねーこと言うな…。狩りをするべきだとは言わねーくせに…」

 

「カリアゲ。君と僕、デジモン研究を始めた頃に比べてなんだか言うことが逆になったね。マッシュモン事件をどう解決すべきか…議論したのを覚えてる?」

 

「ああ。俺はマッシュモンを消すべきと言い、メガはそんなの良くないって言ったな。…いまの俺達なら逆の答えを出しそうだぜ」

 

「…そうだね」

 

やがてシンが口を開いた。

「あの…いまいち分からないから黙ってたんスけど…なんでデジモン狩猟をやっちゃいけねーんスか?」

 

なんでって…いや、だめじゃないし…合理的ではあるんだけど…

なんか嫌じゃない?

 

「…そんだけッスか?」

 

…うん。

 

「え…俺わかんねーんスけど。俺達だって屠畜場でぶっ殺した動物の肉とか、漁師が網で捕まえた魚とか食ってるわけじゃないッスか。なんで同じことやっちゃ駄目なんスか?」

 

…魚?

 

「そうッスよ」

 

…みんな。

魚は…どう?

プカモンとか、スイムモンとか。

 

カリアゲが口を開いた。

「…いんじゃね?」

 

リーダーが頷いた。

「…いい落とし所じゃないか」

 

メガも頷いている。

「いきなりは大変だからね…まずはその辺から慣らすのもいいかもね」

 

クルエも賛同している。

「まーそれならいっか…」

 

…というわけで。

野草や果実に加えて、「魚デジモン」の捕獲を、なんかふわっとした感じの議論の末に始めることにした。

 

 

「…まどるっこしいっすね。バクモン仕留めていいんじゃね~ッスか?」

それは…ちょっと…もうちょい、待って。

「はぁ…」

 

 

パルモンは、デジタルワールドの川で釣りを始めた。

ツタに餌を絡めて、それを水中へ伸ばすのだ。

 

隣ではコマンドラモンが、ぼーっと川を眺めている。

…釣れるかな。

 

しばらく待っていると、やがてパルモンが反応した。

引いてるらしいぞ!

…コマンドラモンは突如、パルモンの手を引っ張って川から離れた。

 

その直後、川から何かが飛び出してきた。

…サメ型成熟期デジモン、ティロモンだ!

やばい!食われる!

 

コマンドラモンとパルモンは陸へ逃げた。

ティロモンは屈強なヒレを手足のように動かし、しばらく陸上をのっしのっしと這って追跡してきた。

 

コマンドラモンの威嚇射撃や、パルモンの花粉を浴びせることで、なんとか逃げ延びることができた。

助かった。サンキューコマンドラモン。

 

驚いたカリアゲが問いかけてきた。

「うえー、川になんでサメがいるんだよ!しかも陸に上がって追いかけてきたぞ!?」

 

我々の世界でも、ホオジロザメだけは淡水で活動できるよ。

さすがにヒレで這って追いかけてくるサメは我々の世界にはいないけども。

「そうなのか…。もうバケモノじゃねえかよ」

 

そりゃそうだ。デジタルクリーチャーじゃなく、デジタルモンスターなんだから。

 

「そういう問題か…?」

 

うーん…釣りも楽じゃないなぁ。

川は危ないな…

もっといい方法はないか?

 

そう考えていると…

 

『ボクにまかせて』

ワームモンがチャットを打ってきた。

 

ワームモンはデジタルワールドへ出ると、川へ蜘蛛の巣のような粘着糸を放った。

粘着糸は、ワームモンの口と繋がったまま、水に沈んでいく。

 

『…いいよ、ひっぱって』

 

パルモンがワームモンを引っ張ると…

粘着糸には、ピチモンやプカモンがいくらかくっついてピチピチ暴れていた。

 

おお!すごいぞワームモン!

 

『いいでしょ』

 

…なんだろう。

ワームモンには幼年期の頃、ひたすらデジクロスを促すよう訓練したりデータを与えてきたけど…

 

ふつうにワームモンとして生まれ持った粘着糸が強くて便利だな。

 

「だろ?デジクロスしなくても、ワームモンはすげえんだって!」

なんでカリアゲがドヤ顔してるんだろう。

 

 

そうして、ワームモンが獲ったピチモンやプカモンを、我々のデジモンみんな(ゲレモンとファンビーモン除く)で食べることにした。

 

ルドモンとズバモンは、当初パルモンを威嚇していたが…

そのパルモンからプカモンを手渡されたら、しぶしぶそれを受け取り、美味そうに食べ始めた。

 

打ち解けたかどうかはまだ分からないが…

威嚇はしなくなったようだ。

ファンビーモンもこれくらい態度和らげてくれたら助かるんだけどな…。

 

 

その様子を見たクルエが、私に話しかけてきた。

「いやー、シン君が魚がどうこうって言ってくれて助かりましたね~」

 

クルエさんはどう思ってました?

 

「正直あたしは別に、まあみんながいいと思うならいいかって感じでしたけど…でもあの空気で言えないじゃん?そんなこと」

 

ああ、そういう感じなんだ…。

 

 

夜。

カリアゲとブイモンが、なにか話していた。

 

「なあカリアゲ…。おいらだけさ、よええよな…」

 

「ん?どうしたんだブイモン?」

 

「だってさ、コマンドラモンはかしこくてぶきがあるし、きえれる。パルモンはツタのばせる。マッシュモンはふえる。ワームモンはいとだせる。…おいらだけ、なにももってねえな、っておもってさ…」

 

「そうか?鎌をうまく使ってスカモン倒したり、ワームモンと連携してたじゃねーか」

 

「…でもさ。それっておいらじゃなくても、だれだってできるじゃん。パルモンがかまやワームモンもったほうがつえーだろ?」

 

「…」

 

「ルドモンとズバモンが、もしなかまになったらさ…おいら、もういらねーじゃん」

 

「…」

 

「ワームモンはさ、デジクロスしなくてもつえーけど…おれだけ、よええ…。デジクロスできなきゃ、なんにもできねえ…」

 

「…」

 

「…ブイモンの気持ち、分かるよ。俺もさ、研究チームのみんなに比べて、ぜんぜん役に立たねえんだ。リーダーみたくしっかりしてねえし、メガみたくいろいろ作ったりできねえ。ケンみたく頭よくもねえし…。クルエみたいに気が利いた立ち回りもできねえ。いいとこねえなって思う」

 

「そんなこというなよ。おいらはカリアゲのことすきだぞ!みんなのなかで、いちばん!」

 

「俺もブイモンのこと好きだ。まあ、一番とか決めて言うわけにはいかねーけどな」

 

「…カリアゲはさ。そうやっていうけど、ちがうじゃん…」

 

「違うか…?」

 

「ちがうんだよ…!おいらのは、そういうんじゃ、なくて…!」

ブイモンは泣き出してしまった。

自分の気持ちを分析して言葉にできるだけの語彙がまだないようだ。

 

「…難しいよな」

 

「…うっ、うぅぅっ」

 

そこへ…

『どうした』

 

コマンドラモンがチャットで会話に入ってきた。

 

「コマンドラモン…。おいらだけ、なにもつえーとこねーからさ。このままなかまがふえたら、おいらいらなくなるんじゃねえかなって…」

 

『ならない』

 

「なんでそういいきれるんだよ!」

 

『なぜなら ブイモンがいてくれれば われわれに てかずが ふえるからだ』

 

「…てかず?」

 

『それは めいかくな つよみだ ばくだんが2こあっても わたしひとりでは1こしかなげられない ブイモンがいれば 2こなげれる』

 

「そんなの…だれにだってできるだろ!」

 

『そのとおりだ だけど 2こめのばくだんをなげれるのは そのとき そのばにいて ばくだんをもつものだけだ』

 

「…」

 

『ほかのみんなに ちがうしごとがあったら けっきょく1こしか なげられない でも ブイモンが そのばにいてくれれば 2こなげられる』

 

「…だから、だれでもいいじゃんかそんなの!」

 

『そうだ だれでもいい だが だれかがいなければ できない ブイモンが それになれるのは つよみだ』

 

「…うるせー!おまえはいーよな!つよくてあまたいーからよ!ちくしょー!」

 

ブイモンは走り去って、ビオトープのジャングルジムの中へ引っ込んでしまった。

 

『…なにになやんでいるのか わからない』

 

…きついなあ…色々と。

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