デジタルモンスター研究報告会   作:タマリリス

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数の力

我々は、対デジモンサイバー攻撃用のセキュリティとして、「見張りマッシュモン」のサービスを運営している。

 

マッシュモンは生真面目な性格だ。

仕事をサボらないし、発見したサイバー攻撃をきちんと報告してくれる。

 

デジモンの侵入だけでなく、不審なマルウェア全般を目視で見張ることもできる。

そのため、見張りマッシュモンを導入している組織では、マルウェアが添付されたメールアドレスを見張りマッシュモンが発見・警告してくれたという報告もある。

 

このように、理解をもって導入してくれている人達もいるのだ。

 

しかし、我々がこれまで発見・対処できたデジモンサイバー攻撃は、全体の中の一部でしかないはずだ。

 

見張りマッシュモンサービスを導入していない組織が、知らないうちにどれだけデジモンサイバー攻撃による情報窃盗の被害に遭っているのか、我々は知る由もない。

 

事実、近年ではクレジットカードの不正利用被害が増えてきているという報告がある。

 

サービス存続のための餌代捻出の必要があるため、サブスクの料金は個人が支払うにはちょっとハードルが高い額なのである。

 

そんなわけで我々は、普通のマッシュモンよりも小さいチビマッシュモンを使った「ぷち見張りマッシュモン」サービスを運用した。

 

これなら餌代も少なくて済むので、個人でも導入しやすいサイズなのだ。

 

これを発表しサービス運用開始した後、早速サービスに加入してくれた人がいた。

陰謀論者や悪意あるメディアが流布した悪質なデマや風評被害に負けず、我々を信じてくれるのは有り難い。

 

それからしばらくして、チビマッシュモンから発報があった。

個人でぷち見張りマッシュモンサービスに加入している家のPCからだ。

 

私はチビ見張りマッシュモンから送られてきた映像をチェックした。

 

するとそこに映っていたのは…

いつもの顔ぶれ。

ゲレモンとズルモンである。

 

だが、いつもと違う点がある。

それは、敵勢力が非常に小規模だということだ。

 

ゲレモン1体が、これまででいうスカモンと同様の司令塔を兼ねている。

それらをとりまくズルモンたちの数は、これまで目撃してきた数よりずっと少ない。

 

会社のサーバーを狙うのでなく、個人をターゲットにするのなら、これくらいで十分ということだろうか。

 

だが難点がある。

いくら敵勢力が少ないとはいえ、見張っているチビマッシュモン側に戦力がなさすぎるのである。

 

個人向けの廉価なセキュリティということで、チビマッシュモンはDPを抑えるため、見張りができる最小限のスペックに抑えているのだ。

 

このチビマッシュモンがゲレモンに立ち向かったら、あっという間に丸呑みにされてしまうだろう。

 

『かみよ わたしが いこう』

そう言ってきたのはボスマッシュモン。

オンラインで出撃してくれるつもりのようだ。

 

でも…マッシュモン一人で大丈夫かな?

他にも戦力が待ち構えているんじゃ…

 

私がそう言うと、リーダーが口を開いた。

「むしろマッシュモン一人で生かせた方がいい」

 

どういうことですか?

 

「あれは陽動の可能性がある。我々セキュリティ側の戦力を個人向けのしゃばい犯行の対処に奔走させ、その隙に本命を攻めに行こうとしている可能性がある」

 

くっ…!そうか、その可能性がある。

厄介だな。

 

「我々セキュリティ側の戦力デジモンは、先日の訴訟沙汰で無実証明をするために、種類や個体数までを洗いざらい暴かれてしまった。故にクラッカーは、我々のセキュリティの構造的な弱点を狙う戦法をとったのかもしれない」

 

ゲレモン単体では弱いデジモンだけど…

その対処のために我々の戦力が分散されるのなら、大局的に『強い』動きができる。

 

クラッカーめ…

なんというか連中、『弱いデジモン』の使い方が上手いな。悔しいけど。

 

そんなわけで、マッシュモンがオンラインで緊急出動しようとした。

 

その時。

コマンドラモンがマッシュモンにチャットを送った。

『マッシュモン ばくだんと ナイフを ひとつ もっていけ』

 

コマンドラモンからナイフと爆弾を貰ったマッシュモンは、それを持って出動した。

 

被害者は発報があった時点でネットワーク回線を切断しているので、電話をして一時的に回線を繋げてもらった。

 

今回は、ネットワーク回線が粘菌トンネルで埋め尽くされていないので、スムーズに被害者のパソコンに入ることができた。

 

パソコン内部では、ゲレモンとズルモンが、キーボードの入力を見張る箇所へ押し寄せていた。

 

これは『キーロガー型スパイウェア』だ!

パソコン内に保存されているクレジットカードの情報だけを盗んでも、セキュリティコードやパスワードを都度手打ち入力するタイプのセキュリティは突破できないことがある。

 

そのため、ユーザーがブラウザへ入力したキーボードの情報をそれと併せて盗み出すことで、パスワードを入手しようとするマルウェアが存在するのだ。

それがキーロガー型スパイウェアである。

 

このゲレモンは、クレジットカード情報を盗んだ後、キーロガーとなってしばらくキー入力情報を集めてから帰還するつもりらしい。

 

やり口がどんどん巧妙になっているな…

 

マッシュモン!倒せるか!?

 

『まかせてほしい』

 

そう言い、ボスマッシュモンはゲレモンのほうへ駆け寄った。

 

ゲレモンはボスマッシュモンを威嚇した。

おお、知性ある反応を返しているあたり、司令塔としての機能を持っているらしい。

 

ボスマッシュモンはナイフを持ってゲレモンに襲いかかった。

 

ゲレモンの頭部から生えている目を掴み、ナイフでバツンと切断した。

「ギョオオオォ」

ゲレモンは絶叫する。

ボスマッシュモンは切り取った目を食べた。放り投げておくとズルモンとして再生する可能性があるためだ。

 

続いてボスマッシュモンは、ウネウネと蠢いて抵抗するゲレモンの頭部を切り開き、思考中枢をナイフでくり抜いた。

 

ゲレモンは動かなくなった。

ボスマッシュモンはゲレモンの脳も食べた。

 

…あっけないな。

まあ、トレーニングの成果だろう。

 

司令塔はこれで倒せたが…

それで終わりではない。

 

小さなズルモン達は、マッシュモンの手が届かない狭い隙間へ侵入して身を隠し始めた。

 

倒したゲレモンの胴体も、徐々に分裂し始めてきた。

そう。脳を切り取ってもこいつは死なないのだ。

このままでは細かいズルモンとなって分裂し、身を隠すだろう。

 

うーん…

今まではスカモン大王になってくれていたから、まとめて倒せたのに。

普通に逃げられると、普通に厄介だ!

 

このままズルモン達を放置すると、パソコン内のデータを食べて殖え、やがて集合してゲレモンとして復元し、再びにスパイウェア活動を再開するかもしれない。

 

…というか、隠れたままデータを食うこと自体がかなり厄介だ。

 

くそっ…!攻撃して倒せば解決!となれば楽なのに。

倒してからの後始末のほうがずっと厄介だ!

クラッカーはなんでこんな面倒くさいデジモン作ったんだよ!

リーダーはボスマッシュモンへ指令を出した。

 

「チビマッシュモンを殖やして見張らせてくれ。あとは帰還していい」

 

『わかった』

ボスマッシュモンはチビマッシュモンを殖やして見張らせて、うち一体へコマンドラモンの爆弾を手渡した後、我々のサーバーへ帰還した。

…あとはチビマッシュモン達で対処できるの?

 

『できるはずだ』

 

チビマッシュモン達は、デジタル空間の隅々へ菌糸を張り巡らせて、ズルモン監視網を作った。

 

マッシュモンは菌糸のデジモン。

キノコ型に見える個体は、その子実体である。

 

チビマッシュモン達は、潜伏しているズルモンを次々と発見し、引きずり出して捕食していった。

 

ゲレモンには勝てないチビマッシュモンだが、ズルモン程度なら数にものを言わせて捕食できるのだ。

 

やがて、完全にパソコン内のズルモンの根絶に成功した。

殖えに殖えたチビマッシュモン達は、我々のサーバーへオンライン経由で帰還した。

 

これでようやく一件落着だ。

それ以降、ぷち見張りマッシュモンサービスで見張りをしているチビマッシュモンには、コマンドラモンの爆弾が1つ届けられた。

 

ぷち見張りマッシュモンサービスでは、1ユーザーにつき2体のチビマッシュモンがいるので、2体で1つの爆弾をシェアする形だ。

 

 

ある日。

複数のユーザーのPCから、ぷち見張りマッシュモンの発報が同時に上がった。

 

うぅっ…

ゲレモンが複数箇所で同時発生した!

なんと20件同時だ!…やりすぎだろ!どんだけいるんだよ!

 

「ゲレモンは戦闘力が低いが、その分基礎代謝量が少ないデジモンだ。大量に飼育するのは苦ではないんだろうな。うちは今の数でもなかなか苦労しているんだがな」

連中ずいぶん活発に動き始めましたね。リーダー。

 

「我々に出資する者がいるように、クラッカーに出資する者達もいるということだな。風評被害は我々にとっては向かい風だが、連中にとっては追い風だろう」

 

一体一体は弱いだろうけど、とにかく数が多い。

 

ボスマッシュモンがひとつずつ巡回していくうちに、いくつかのユーザーは情報を盗まれるかもしれない!

 

どうする…!?

リーダーは指示した。

「まずは爆弾で攻撃!あとは戦力を集めて対処しろ!」

 

…私は被害を受けたユーザーのひとつのパソコン内で、戦況を見守った。

 

まずは各ユーザーのPC内のチビマッシュモンが、ゲレモンへ爆弾を投げた。

 

体が小さなゲレモンは爆弾で吹き飛び、細かく散らばった。

 

その後、チビマッシュモンが合図をすると…

なんとネットワーク回線のトンネルから、10体のチビマッシュモンがわらわらと押し寄せてきた。

 

こ、これは!?

このチビマッシュモン達はどうしたんですかリーダー!?

うちのサーバーから出撃したわけじゃなさそうですが…!?

 

「各ユーザーには2体のチビマッシュモンをペアでつけている。だから、10名のユーザーのパソコンからペアのうち1体だけを呼び寄せたんだ」

 

な、なるほど…

そんな手が。

ペアの片方が残っていれば、見張りはできますからね。

 

セキュリティのユーザーが増えるほど、こっちは強くなる。

クラッカーにはできない戦い方だ。

 

…そうして、ボスマッシュモンによる巡回だけでなく、大勢のユーザーの協力もあって、同時多発ゲレモンからユーザーを護ることができた。

 

ただし、サービス未加入の人々の中には、ゲレモンにまんまと侵入され、情報窃盗をされている者もいるかもしれない。

 

それを観測する手段は今の我々にはないが…。

こうして、少しずつだがユーザーは増えている。

 

だが未だに「マッチポンプをやめろ!」「お前達がクラッカーなんだろ!」「警察と繋がっている悪の組織め!滅びろ!」などと罵声を浴びせられることもある。

 

中には「お前達が俺のクレカ情報を盗んだんだろ!訴えてやる!」という奇妙な苦情を寄せてきた者がいる。

 

見張りマッシュモンサービスに疑いを持っているが故に、クラッカーにつけこまれ、クレカ情報を抜き取られてしまったようだ。

 

まあ、なんというか…

そういう連中は、我々には救いようがない。

 

つくづくこの風評被害は、クラッカーにとって追い風となっている。

 

マルウェアが「電子コンピュータに感染するウィルス」であるならば…

 

デマや陰謀論による風評被害は「人間の脳という生体コンピュータに感染するコンピュータウィルス」といえるのかもしれない。

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