現在このPCは隔離状態にあるため、ひと安心…
…ではない。
私が今使っているサブPCは、今危険な状態にあるメインPCよりもはるかに性能が劣る。
決してサブPCも一般家庭用のPCに比べて性能が低いというわけではないが…
メインPCは、ビッグデータ分析用のモンスターマシンである。
これが使えないと、我々の研究はかなり遅れることになる。
メインPCでやっていた作業が具体的に何かというと…、デジモンの肉体構造解析と、進化のシミュレーションによる数理モデル予測である。
これらの解析作業用に作成したデータマイニングソフトは、サブPCでキノコ栽培用のデータ生成にも流用している。
つまり、このゴミ箱異変を解決しない限り、我々の研究は滞ってしまうことだろう。
余談だが…
そもそも、何故フローラモンの餌としてキノコ栽培をしているのかだが…
結論から言うと、今の我々の技術で栽培できる唯一のデジモン用飼料だからである。
このキノコは、デジタルワールドに存在するデジタケという菌類の子実体である。
デジタケは、デジタルワールド内で、枯れた植物や、死亡したデジモンの肉体を分解しながら繁殖している。
そして、菌糸が受精を行うと、子実体であるキノコを作って胞子を飛ばすのである。
我々は当初、このキノコを持ち帰り、適当なゴミデータを複製しまくって与えてみた。
だが、無価値なゴミデータでは、生育があまり早くはなかった。
そこで、先述のデータマイニングソフトにデジタルワールドの各種情報を与えて、シミュレーションデータを生成し、これをデジタケに与えたところ、デジタケは以前とは比較にならないほど発育した。
正直言うと、このシミュレーションデータはそれ単体で論文の材料にできるほど価値のある情報であり、キノコ栽培の餌にするのはやや惜しい。
どうやらデジタケは、容量の大きなデータよりも、情報量の多いデータを好むらしい。
データの情報量は、複製されるほど薄まってしまう。
そのため、キノコ栽培用に出力したデータは、非常に惜しいが複製せずにそのままキノコへ与えているのである。
さて。
我々研究グループでは、今意見が真っ二つに分かれている。
メインPCの調査のために、フローラモンを利用するべきかどうか、という点である。
フローラモンは、とても人懐っこくはあるものの…
毎日遊びながら何不自由なくストレスもなく暮らしていたせいで、なんというか…問題解決能力が、我々の期待よりもやや低いのである。
そもそもフローラモンは、「ストレスをほとんど与えずペットのように育てたらどうなるか」という実験のために育成したデジモンである。
ミッションをこなさせる実験用の個体ではない。
故に、フローラモンを今回の目的に使うのはやめて、ミッション用に別の個体を飼育・訓練すべきではないかという意見が出たのである。
我々は相談した結果、両方の案を採用することに決めた。
すなわち、私がフローラモンの訓練を行い、他の人員がミッション用にもう一体のデジモンを飼育することに決めたのである。
…こんな面倒なことになるくらいならば、もういっそメインPCはフォーマットしてしまえばよいのでは?という意見を主張する者もいた。
だが、それは研究者にあるまじき行為だ。
あらゆるセキュリティソフトで検出されない、不可思議な事象。
もしかしたらデジモンが起こしているのかもしれない。
そうであれば、この事態を解明すれば、大きな研究成果となるのである。
それに、これはピンチというより逆にチャンスともいえる。
もし、これと同じ事象が、金融機関のデータベース等で発生したら一大事だ。
そのような事態が起こる前に、サンプルをスタンドアローンの状態にできたのは幸運と言えよう。
ならば、これと同じ「ウィルス」がいつかネットを脅かすことに備え、我々で「ワクチン」を作ることは有益な研究といえるだろう。
さて、フローラモンの飼育によって、デジタマから育てたデジモンは育て方次第で人に懐くことが分かった。
そのため、今回もデジタルワールドからデジタマを採取し、それを育てることにしよう。
これまでに我々が観察した成熟期以上のデジモンの中で、どのデジモンのタマゴを採取しようか…
そうだ。
最強の戦闘能力を持ち、平和を愛するが故に己を律する理性を持ち、秩序の守護のために働いてくれる…
まさしく守護神のようなデジモンがいるではないか。
我々は、デジタルワールドの森林へデジドローンを飛ばした。
そして、目的のデジモンのいる場所へ到達した。
…そこには、体からたくさんの苔を生やしながら眠る、守護神ジャガモンの姿があった。
寝ている…。そう。ジャガモンは眠っている。
代謝量を極限まで下げているのである。
これだけ代謝を下げていれば、産卵という大変なカロリーを要する行為などしないのではないだろうか…?
女性研究員が、とんでもないことを言い出した。
「ジャガイモっぽいし、体表の岩を持ち帰れば、種芋みたいに殖えるのでは?」と。
なんてことを思いつくんだ。いろんな意味で。
そんなことよりなら、私は二代目スターモンあたりのデジタマを採取した方が良いと思うのだが…
デジモンの形質は、ある程度子に受け継がれることがわかっている。
ただ強いデジモンが欲しいのであれば、モリシェルモンやスナイモン等のデジタマを採取すればよいのだろうが…
今回のミッションを成功させるには、戦闘能力よりも必要なものがある。
知能が高く、手先が器用であり、高い課題解決能力を持ったデジモンの遺伝子が欲しい。
スターモンもいいが…
ディノヒューモンはどうだろうか。
研究チームは皆、満場一致でこの案に賛成した。
私はサバンナへデジドローンを飛ばし、ディノヒューモン農園を目指した。
…
ディノヒューモン農園を、デジドローンで上空から観察した。
すると、あまり目立たないところに、ディノヒューモンが産んだと思われるデジタマがいくつか安置されていた。
デジドローンを、デジタマへ近づけると…
物凄い勢いでフロッグモンが近寄ってきた。
私は、やばいと思って、咄嗟にデジドローンをゲートを通じて回収した。
デジドローンがゲートから出てきた直後…。
なんとゲートの穴から、凄まじい勢いでフロッグモンの舌が飛び出てきた。
危なかった。
もう少し遅れていたら、デジドローンはフロッグモンの舌に捕らえられ、そのまま食べられてしまっていたであろう。
私は、フロッグモンが寝鎮まるのを待った。
フロッグモンが寝た後、デジタマ安置場へデジドローンを飛ばしてみた。
すると…
安置場には、3匹程の成長期デジモンがいた。
トカゲのような姿をしたデジモン。スナリザモンと命名した。
くっ…!警備されている!
なんと抜け目のない。
余計にこのデジタマが欲しくなった。
私は、安置場からやや離れたところへ、データマイニングで生成したデジタケをばら撒いた。
すると音を聞きつけたスナリザモン達は、デジタケに気づき…
それへ群がり、夢中で食べ始めた。
きっと夜中の警備でお腹が空いていたのだろう。
夜食をしているスナリザモンを横目に、私は無防備になったデジタマ安置室へ、デジモンキャプチャーを放った。
マシンアームが、ディノヒューモンのデジタマへと伸びる…!
捕獲成功!
マシンアームは、見事にディノヒューモンのデジタマを掴んだ。
スナリザモンが戻ってくる前に、私はゲートを通じてデジタマを回収し、ビオトープへ置くことに成功した。
…デジドローンでその後の様子を観察すると…
デジタケを食べ終わったスナリザモン達は、デジタマ安置場へ戻ってきた。
デジタマの数が減っているのには、気付いていない様子だ。
何食わぬ顔で警備をし続けている。
…翌朝。
スナリザモン達は、ディノヒューモンに怒鳴られ、叱られていた。
3匹ともゲンコツで頭を軽く殴られていた。
…すまない、スナリザモン達。
君達は何も悪くない。
だがまあ、こちらにも切実な事情があるのだ。許してくれ。
その日の正午には、デジタマ安置場の前には、サラマンダモンが一匹陣取っていた。
あいつ、兄弟の農園に合流していたのか…。
おそらく、次のチャンスはもうないだろう。
さて。このデジタマだが…
フローラモンと同じビオトープで育てるか?
あるいは、別の環境の部屋を用意するか。
どちらがよいだろうか…
私は、フローラモンと同じビオトープで、ディノヒューモンのデジタマを飼育することに決めた。
調査ミッションでは、デジモン同士の連携も重要になるかもしれない。
できれば、仲良くなってほしいものである…。
やがてディノヒューモンのデジタマからは、幼年期デジモンが産まれた。
ぼた餅に似てるからボタモンと名付けられた。
ディノヒューモンが幼年期だった頃は、確かツブモン、ウパモンという両生類型デジモンだった筈だが…
ついに幼年期から完全に陸上適応に成功したようだ。
これからは、ボタモンの飼育と、フローラモンの訓練の両方が始まる。
…正直、ボタモンにはかなり期待している。
見ただろうか、ディノヒューモンの農園を。
あの農園は、デジタマの警備のためにデジモンを配備できるくらいまで指揮系統が整っていた。
つまり、デジモン間で意思伝達を行い、組織運営ができているということだ。
その遺伝子を受け継いだボタモンは、果たしてどう育っていくのであろうか…。
そして最近、メインPCでは…
データマイニングソフトをフル稼働させてデータを生成し、ゴミ箱へ放り込みまくっているのだが…
だんだん、追いつかなくなってきている…気がする…。