デジタルモンスター研究報告会   作:タマリリス

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探索不能領域

デジタルワールドの自然環境は、おおむね我々の世界…リアルワールドに似ている。

 

だが、デジタルワールドの物理法則は、リアルワールドとは多少異なっているらしく、その差異が環境の違いにも表れている。

 

最も顕著なのはジャングル…熱帯雨林である。

 

リアルワールドの熱帯雨林は、赤道上に位置している。

強い日照りゆえに気温が高く、それによって生じる上昇気流の影響で一年中雨が振り続けるのが特徴だ。

 

雨が多く日差しが強いため、植物が育ちやすく、木が高く伸びるのだが…

あまりの雨の多さゆえに、枯れ葉などが分解されても、腐葉土や養分が地面から流れてしまう。

ゆえに土壌は非常に薄く、酸化鉄や酸化アルミニウムを含む赤い土が露出している。

 

そのため、「植物が生い茂っているのに土壌が貧弱」なのがリアルワールドの熱帯雨林の特徴である。

 

その一方で、デジタルワールドの熱帯雨林は、リアルワールドに比べて肥沃な土壌となっている。

 

浅いジャングルの地面を見ると…

リアルワールドでは見かけることのない、キラキラした美しい透明な粒が地面を覆っている。

 

…これは、太陽から太陽光とともに降り注がれる「データ粒」である。

 

デジタルワールドの太陽は、熱と光だけでなく、デジタル生命体の栄養分となる「データ粒」を撒き散らすことがある。

これが雲に混ざり、やがて雨とともに地表へ降り注ぐ。

熱帯雨林では、粒が大きい「データ粒」は、雨に流されずに留まるのだ。

このデータ粒は、そのままデジタル植物たちの肥料となるのである。

 

それ故か、デジタルワールドのジャングルはリアルワールドよりさらに植物が密集しているのである。

 

深層になると、あまりに植物がめちゃくちゃに生えすぎていて、我々のデジドローンでは物理的に入っていけないのだ。

 

そのため、ジャングルの深層は「未探索領域」となっている。

 

…蛮族デジモン達のルーツは、ジャングル深層だとも考えられている。

 

このように、デジタルワールドには我々のデジドローンの性能では探索不可能な領域がいくつか存在するのだ。

 

たとえば深海。

あまりに深い深海だと、デジドローンが水圧に耐えきれず潰れてしまうことがある。

それ故に、深海の海底にどのようなデジモンが潜んでいるのか、今の我々には観察できない。

レベル5の元祖ホエーモンが「姿を消した」のはこのためだ。

レベル5ホエーモンの死骸は未だ見つかっていない。故に、まだ「深海で生きている」のかもしれない。

 

未探索領域は、他には「大空」もある。

我々のデジドローンは、最大20mほどの高さしか飛行できない。

故に、それより遥か上を飛び交うデジモン達がいたとしても、地表から見上げることしかできないのだ。

そんな大空へ常に滞空し続けているようなデジモンがいるのかどうかは知らないが…

いたとしても、観測することはできない。

 

他には「地下」もある。

もしかしたらデジタルワールドの地下には、巨大な空洞があり、地下文明みたいなものが存在している可能性があるかもしれない。

 

しかし、デジドローンで地面を掘ってそれらを見ることができるわけではないのだ。

 

また、デジタルワールドは地球によく似た惑星上に広がっていることが分かっているのだが…

デジドローンを出現させられるアクセスポイントが全く存在しない領域がいくつかある。

 

砂漠などは、アクセスポイントがほとんどない。ど真ん中へ辿り着くまでに充電が切れてしまうだろう。

故に砂漠にどんなデジモンが住んでいるのかはよく分かっていない。

 

…明らかに何かがありそうな領域なのに、そこまでデジドローンを飛ばそうとしても充電がもたない…

そういった土地は、今の技術では観測できないのだ。

 

いちおう、オポッサモンの風船の原理を模倣した「空撮用デジドローン」というのもある。

我々がエクスブイモンとスティングモンのデジタマを捕獲する作戦の時に使ったやつだ。

50mほどの高さにデジドローンを固定し、そのまま地上を撮影するためのものだ。

だが、それは自在に飛び回ったりすることはできず、その位置へ固定することしかできない。

…ままならないものだ。

 

そして、我々が最近断念した未探索領域に…

「シーホモンの砦」というものがある。

これは海中にあるものなのだが…

何故これを観察しようとしたか、そしてなぜ断念したかは、いずれ聞かせることができるだろう。

 

このように、デジタルワールドには技術的に探索が難しい領域がある。

しかしながら、直接観察できないことであっても、その周囲のデータを解析することで、間接的に知る方法もある。

 

たとえば、空の動き。

デジドローンで、夜空を毎日同じ位置で撮り続け、星の動きを観察する。

 

すると、日に日に太陽が上る高さや、星の位置が少しずつ変わっていくのだ。

 

天体望遠鏡はないが…

デジドローンの感度で観測できる情報だけでも、デジタルワールドの星空がどのようになっているのか、少しずつ理解を深めることができる。

 

どうやらデジタルワールドにおいても、太陽のまわりを地球が自転しながら公転しているらしい。

 

だが、リアルワールドの夜空と比べると少し奇妙な点がある。

ここ数ヶ月観察し続けてたところ、全く同じ軌道を回り続けている星がいくつかあるのだ。

 

ふつうの恒星なら、時期によって見える位置が異なるはずなのだが…。

 

ここから言えることは…

『デジタルワールドの地球には、恒星のように光る衛星がいくつか回っている』ということだ。

 

この衛星は何なのか?

なぜ光っているのか?

…それは不明だ。

 

他にも…

『地層』もまた重要な手掛かりになる。

 

最近、我々は非常に興味深い地層を発見した。

それは「石炭層」と、その上にある土砂の堆積層である。

 

デジタルワールドの地層から、分厚い石炭層が発見された…

これは、我々の研究所内では大発見だった。

 

「石炭を採掘してエネルギー源にできる」とか、そういう話ではない。

 

結論から言うと…

「デジタルワールドでは過去に、樹木が二酸化炭素を吸いすぎたことが原因で、氷河期が訪れた」と言えるのだ。

 

…我々のデジドローンでは、地層を掘って化石を発掘することはできないので、なんとも言えないのだが…

氷河期より更に前の地層を掘ることができたり、永久凍土層を掘ることができたら、何らかの古代デジモンの化石が見つかるかもしれない。

 

さて…

なんだか中途半端に話を終わっても味気がないので、「シーホモンの砦」の話をしよう。

 

フローティア島に我々のパートナーデジモン達を上陸させ、ビオトープ作りの要領で居住区を作ってもらった。

 

例の有機肥料作りの木箱は、マッシュモンの手を借りて、デジタルゲート越しにフローティア島へ数個を並べて設置した。

 

この木箱には、ジャスティファイアへ協力を依頼し、シューティングスターモン達のトイレの転送先座標に指定してもらった。

 

…おかげで、毎日凄い量の「有機肥料の材料」が木箱へ送られてくる。

やっぱ食う量が凄いと、出す量も凄いんだな。

 

さて…

この木箱では、有機肥料の副産物として、あるものが生産される。

 

それは…

丸々と太ったププモンそのものである。

 

スカベンジャー型のププモンの生活環だが…

 

まず、羽つきのププモン(成体タイプ)が、排泄物や死骸に小さなデジタマをたくさん産み付ける。

 

やがて、翅のない状態の小さなププモンが孵化し…

死骸や排泄物の中の有機物を食べて肥え太る。

 

そうしてある程度の大きさになると、死骸や排泄物から離れて湿り気のない場所へ移動する。

 

そこで、翅を生やすのである。

 

翅を生やしたあとのププモンは、やはり排泄物や死骸を食べたりもするが…

それは主食ではなく副食だ。メインは花の蜜や花粉を食べるようになる。

 

その中で、大きくなったものは幼年期第二形態の小蜂型デジモン、プロロモンへ進化することもある。

 

そうして、翅の生えたププモンやプロロモンは、再び糞や死骸へデジタマを産み付けるのだ。

 

さて…

ここで重要なのは、「肥え太った翅無しププモンは、乾いた場所へ移動する」という性質だ。

 

これを利用すると、木箱から這い出たププモン達が、そのまま落下することで、有機肥料からププモン達を分離して貯めておけるのだ。

 

このププモン達を、タンパク源として利用することが可能なのである。

 

さすがにそのまま食わせるのはどうかと思うので…

釣り餌として利用しようと考えたのだ。

 

しかし、私はその試みに「待った」をかけた。

 

私は寒冷地帯での出来事を思い出したのだ。

トゲモグモンとゴマモン達、そしてアイスモン親子が、寒冷地帯でプカモンを獲って暮らしていると…

 

シーホモンというタツノオトシゴ型成熟期デジモンに見つかり、捕捉された。

 

それ以来、トゲモグモンやアイスモン親子は、シーホモンに見張られ、シードラモンから狩られるようになってしまったのだ。

 

この離島で釣りをするようになったら、例の事件のように、シーホモンから目をつけられるのではないかと危惧したのだ。

 

いちかばちか見つからないことに賭けた結果、フローティア島の沖がシードラモンに襲撃されるようになった…となっては大変だ。

 

故に、海釣りには「ちょっと待った」をかけたのだ。

 

そこで私は、囮作戦を提案した。

 

ププモン達の生えかけの翅をむしり取った後、フローティア島から数キロ離れた小さな島へ搬送し、そこでパルモンに釣りをしてもらったのだ。

 

ププモンを餌にしたプカモン釣りは、とても順調だった。

たまに成長期のスイムモンが釣れたこともあったが、そういうときはコマンドラモンが倒した。

 

…ある日。

島のまわりを見張っていたチビマッシュモンが、とうとうシーホモンがこちらを見ているのを発見したのである。

 

…翌日、我々はその小さな島から撤退した。

島の周囲には、しばらくシードラモン達がたむろしていた。

 

危なかった…。

もしフローティア島でいきなり釣りをしていたら、開拓開始早々シードラモンから氷のミサイルを飛ばされる毎日を送ることになっていただろう。

 

まあそれ以来、釣りをするときはププモンを入れた箱をデジタルゲート経由で搬送し、フローティア島から離れたところで釣るようにした。

 

おかげでプカモンやスイムモンというタンパク源を得られるようになった。

 

まあ、それはさておき…。

 

シーホモンの情報収集能力、指揮能力は凄まじい。

DPは低いが、実質的な脅威度は下手にDP高めのデジモンよりはるかに高いだろう。

 

そこで、シンが提案したのだ。

「シーホモンのデジタマを採取してみないか」と。

 

もし陸地に適応したら…

コミュニケーション能力が高い、高知能のデジモンが育つ可能性がある。

 

そうして我々は、フローティア島近海でシーホモンの産卵場所を探したのだ。

 

そうして見つけたのが「シーホモンの砦」だ。

 

そこはまるで、竜宮城のようだった。

頭から手足とサンゴが生えた姿の成長期デジモン、サンゴモン達が、蟻塚のような大きな砦を作っていた。

 

シーホモンは、その砦に空いた穴から入り、中を棲み家にしているようだ。

弱い割に良いご身分である。

 

…デジドローンで中に入れないか、試そうとしたのだが…

サンゴモンの見張りはなかなか厳しい。

 

結局、シーホモンのデジタマを採集することはできなかった。

 

このように…

『警備が固すぎて侵入できない場所』もまた、我々にとっては未知の領域なのである。

 

まあ、何はともあれ…

 

複数箇所をランダムに転々と移動しながら釣りをする分には、シーホモンから目をつけられることはなかった。

 

我々のデジタルゲートとパートナーデジモンの勝利だ!

どんなもんだシーホモン!

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