デジタルモンスター研究報告会   作:タマリリス

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ガニモンの完璧な強さ

ど…どうしますリーダー!?

ププモン飼育箱は、我々が目指す「持続可能性のあるデジモン飼料確保」の要ですよ!

 

あれを占拠されてたら、堆肥を取れないから野菜を生産できないし、ププモンを取れないから釣り餌も手に入らない!

またキノコと採集生活に逆戻りですよ。

 

「ああ。生活インフラは早急に取り戻さなくては…」

 

私の隣でカリアゲも驚いている。

「あいつらどっから来たんだ!?前に見たときはあんな奴ら住んでなかったぞ!」

 

おそらく…

海底を歩いて、島を登ってきたんだな。

 

「完全に想定外だぜ…まさかデカい蟹の化け物が海から登って来るなんて思ってもみなかった…」

 

無理もないさ。あんなの我々の世界にはいないニッチの存在だから。

想像がつかないのもやむなしだ。

 

「ケンはすげーよなぁ…。前にフローティア島で釣りをしようって提案したときも、シーホモンやシードラモンに目を付けられるからダメだ、他の島で釣りをしよう、ってすぐに思いついてさ…」

 

リーダーはカリアゲの肩をぽんと叩く。

 

「逆に考えるんだ、カリアゲ。我々は、シューティングスターモンの排泄物を使って、ガニモン4体をおびき寄せることに成功した、と」

 

…ピンチをチャンスに変えるつもりですか。

しかしどうやって?

 

「それは…まずは奴らの観察をしてから考えるぞ」

 

分かりました。

 

…私達は、ガニモン達の観察を開始した。

 

ガニモンは木箱を破壊している。

直径10cm程もある太い木材を、左手のハサミでいともたやすくバチンと切断した。

 

ウエッ!なんだあの切断力!

うちのパートナー達はあの木材を切るのにだいぶ苦労したんだぞ。

 

さすがにスカモンが握っていたズバモン剣ほどの威力ではないが…

あれに挟まれたら、成長期デジモンの手足は即座に切断されるだろう。

成熟期デジモンとて油断したら指の一本や二本を簡単に持っていかれるに違いない。

 

くそ…苦手なタイプだな。

「弱点らしい弱点がなく、インファイトが強いデジモン」。

 

それにしても、あのハサミの威力。

いくらなんでも尋常ではない。

あのデカいハサミの中に筋肉がぎっしり詰まっていたとしても、あんな切断力を出すのは容易ではないだろう。

 

一体どんな原理で、あの破壊力を出しているのか…?

 

…強いデジモンを倒すための、最も有効なアプローチ。

それは「強さの正体」…すなわち「大きな運動エネルギーを生み出す仕組みと、エネルギーの供給源」を解き明かすことだ。

 

どこから大きなエネルギーを生み出して、どんな仕組みでそれを発揮しているのか…。

 

そして、我々が持っている手札から、敵の「強さを生み出す仕組み」を突き崩す決め手を選び…

切り札のサポートをすること。

それができれば、我々のチームはスカモン大王のような格上にすら勝てるんだ。

 

そのためにも…しっかりと、ガニモンの強さの正体を突き止めなくてはならない。

強さには、必ず理屈があるから。

 

さて。

ガニモンの右腕は小さく、左腕は大きい。

よく見ると、でかい左腕は本当に破壊のためだけに使っているようだ。

 

左のハサミでバチンバチンと木材を切断し…

そして小さい右のハサミで、ププモンをつまんで食べている。

 

左手のでかいハサミでは、ププモンをつまもうとしない。

 

なるほど…なんとなく、見えてきた。

ガニモンは、左右の腕の役割が異なるのだ。

 

でかい左腕は、完全に武器としてのみ利用しており、右腕は餌をつまむなど、物を掴んで動かす役割を持っているようだ。

 

その右のハサミの握力も相当強いらしい。

 

私はさらに観察を続けた。

ププモンはどんどん減っていく。

 

すると、だんだん左ハサミの仕組みがわかってきた。

短時間に連続で物体を切断できるわけではなく…

力を「溜める」必要があるようだ。

 

…そうか。分かった。

左のハサミは、根本的に蟹のハサミとは内部構造が異なっているんだ。

 

あえて例えるなら…

「アギトアリ」という蟻のアゴの構造が、最もそれに近い。

 

「あ、アギトアリ?なんだそりゃあ?」

アギトアリ。

体長1cmの大型の蟻だよ、カリアゲ。

 

「1センチで大型か…。まあ蟻基準ならでかい方か」

 

最大の特徴は、その巨大なアゴ。

常にアゴを開いており、獲物が近付くと、秒速64メートルという凄まじいスピードで顎を閉じて捕らえる。

そのスピードは、地球上のあらゆる生物が発生させる運動のスピードで最速といわれている。

その破壊力は、ゾウムシ等といった甲虫の硬いキチン質装甲をいともたやすく突き破ってしまうほどだ。

 

「ヒエッ…すげえな」

 

アギトアリのアゴが、なぜそんなに速くて強いのか。

それは、アゴの構造が「トラバサミ」の仕組みになっているからだ。

 

アゴの筋肉は、「閉じる」方向に力を加えているのではなく…

アゴを「開く」方向に力を入れ、強靭な腱をバネのように伸ばし、腱へ運動エネルギーを蓄える。

 

そして、そのままの状態で顎をロックし…

獲物が近付いたらロックを解除する。

するとアギトアリの顎は、腱に蓄積した運動エネルギーを使って物凄いスピードで閉じるんだ。

 

おそらくガニモンのハサミも同じだ。

ガニモンはふだん、ハサミを開いた状態にしている。

これは、「閉じる」方向に縮む強靭な腱を、「開く」方向の筋肉で伸ばして、それをロックしているからだ。

 

物体を切断するときは、物を挟んでからそのロックを解除することで、腱に蓄えた凄まじいエネルギーを開放し、物体を切断するんだ。

 

「な、なるほど!武器の仕組みはわかったけどよ…。じゃあ奴らに勝てるのか?弱点が見つからないっつーか、『単純に強い』ってことだけが分かったような気がするんだが…」

 

…確かに、そうかもしれない。

私はコマンドラモンへ指示し…

透明化したまま、ガニモンへ銃撃をさせた。

 

銃弾はガニモンの甲殻に弾かれてしまった。

ゲッ、うちの主力火力がノーダメージだと!?

 

撃たれたガニモンは驚き、ハサミを掲げて周囲を威嚇している。

 

…ガニモンの甲殻はトゲトゲしており、平らな部分がない。

そこへ銃弾を放っても、真っ直ぐに胴体へ突き刺さらずに、表面で滑って軌道がずれてしまうのだ。

 

では、コマンドラモンの爆弾なら効くかというと…

正直、望み薄だ。

 

それはまあ、ガニモンの甲羅の真上で爆発させられればダメージは入るだろうが…

ちょっとでも離れられたらダメージは入らない。

 

なぜなら…

ガニモンは常に「地面に伏せている」状態だからだ。

 

コマンドラモンの爆弾は、爆風で撒き散らした破片でダメージを与えるのだが…

こんなに地面に伏せていると、爆発四散した破片がぜんぜん当たらないのだ。

 

現に、人間の兵士が手榴弾のダメージを最小限にして生き残るための最も効率的な防御態勢は「地面に伏せる」ことだ。

ガニモンたちは、常時その態勢をしているのだから、爆弾は効き目薄だろう。

 

「くそ…つええぞこいつら!弱点なんかないんじゃねえのか!?」

 

…蟹は「甲殻類の完成形」とよく言われる。

 

「完成形?」

 

リアルワールドには、「カニと名がつくがカニでない甲殻類」が夥しい種類存在する。

タラバガニ、ヤシガニ、ハナサキガニ…等は、蟹に似ているがすべてヤドカリの仲間だ。

収斂進化によってカニそっくりになった種だ。

それも、すべて異なる系統であるにもかかわらずだ。

 

なぜそんなにカニに似た甲殻類が多いのかというと…

甲殻類が自然淘汰によって最適化されると、最終的にカニの姿になるからだ。

この現象をカーシニゼーション(カニ化)という。

 

「名前までついてんのか…」

 

それほどカニの姿は、攻防に秀でているということだ。

 

そして、デジタルワールドでカーシニゼーションをしてカニの姿に収斂進化した、ガニモン達もまた、隙のない強さを持っているようだ。

 

「…なるほどな。それで、分析結果は?」

 

…分析したが、「ガニモンはとにかく強い」らしいことが分かった。

 

「マジで弱点どこだよこいつら!」

カリアゲがため息をついた後、何か思いついたように呟いた。

 

「なあ、そんなに強いならさ…こいつらのデジタマゲットできねーかな?」

 

うーん…

ファンビーモンみたいなのがまた増えそうな気がしないでもないけど。

 

だが、恐れていては何事も始まらない。

ガニモンのデジタマを見つけたら、ゲットしてみるのもいいかもしれない。

 

我々がそう話していると、クルエが後ろを向いて画面を見ないようにしながら話しかけてきた。

「ケン君どうなの?ガニモン達追っ払えそうなんですかー?」

 

…なんで後ろを向いたままなんですか?画面見えなくないですか?

 

「私ププモン無理なんです」

 

…気持ちは分かる。

羽と目がついてるだけで、見た目はどう見ても…

 

「言わんでいい!」

 

はいスミマセン。

 

さて…どうするみんな?

カリアゲ…なんか思いついた?

 

「オタマモンで火をつけたらどうなるかな…」

 

海に逃げ込んで火を消すんじゃないかな。

 

「だよなぁ…」

 

リーダーはどうですか。

「ワームモンの糸…パルモンのツタ…は、切断されそうだな」

ですね…。

 

「マッシュモンの毒はどうだ?」

 

毒を飲ませるわけですか。

耐性がなければ、それでいけるかもしれませんね。

 

マッシュモン、できるだけ強い毒を持たせたチビマッシュモンを突撃させてみてくれ。

 

『わかった』

 

…少数のチビマッシュモン達が、ガニモンへ突撃していく。

 

「マシーーー!!!」

 

ガニモンはそれらをハサミでバラバラに解体した。

そのまま飲み込め!

 

…ガニモンは、マッシュモンの死骸をペロッと舐めたが…

すぐにオエッと吐いた。

 

ああ、ガニモンの口から、咀嚼されたププモンの白い体液がちょっと流れ出た。

 

「イ゛ヤ゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!実況すんな!」

 

いてっ!

クルエに殴られた!

 

シン、なんかアイデアある?

 

「シューティングスターモン呼べませんかね?」

 

島が無くなるわ!

 

「じゃあティンクルスターモンはどうすか?」

 

国防用デジモンをこんなことに呼べないでしょ…。

だいたい、いちいちティンクルスターモンに頼ってたらうちのパートナーが強くならないぞ。

 

「うーん…サラマンダモンもだめそうすね」

 

…他力本願だな。

もうちょっとうちの戦力を使ってあげて?

 

メガはどう?なんか…役に立つデジモンいない?

ニューとデルタだっけ。

 

「彼らは戦闘向きじゃないってば」

 

うーん…難しいな。

 

クルエが手をポンと叩いた。

「あ…そうだ!ファンビーモンはどうですか?」

 

私とメガとリーダーは声を揃えて言った。

「「「絶対ダメ!!」」」

 

「えー、なんでですか?」

 

なんでって…勝ったほうが厄介な敵になるだけだから。

 

「あー」

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