「ん?待てよ…武器じゃねえけど、あれはどうだ?」
カリアゲが何かを思い付いたようだ。
あれって?
「最近、製鉄やってたじゃん?溶けた鉄をブッかけるんだ」
…
いや、それはちょっと用意するのに時間がかかりすぎる。
ププモンが食い尽くされるぞ。
「やっぱし?」
しかしすげーこと思い付くな…
やったとしてどうにかなるもんじゃないと思うけど。
「そっか…まあそうだよな」
八方塞がりか…?
「オイラがやる!」
その時、ブイモンの声がした。
ぶ、ブイモン!?
どうした!?なんか手があるのか!?
「かまがあるだろ!あれをつかう!」
鎌…スナイモンの鎌か…。
うーん、成熟期最強クラスのスナイモンの鎌なら、確かにガニモンの装甲を貫ける可能性はあるけどさ…
「まかせろ!ぶったおしてやる!」
だ、だが待て。
相手は四体まとまってるんだ、近接格闘では分が悪いぞ。
「このひのために…たくさんとっくんしてきたんだ!やるぞワームモン!」
ブイモンの言葉に、ワームモンが反応した。
「せいこうさせるんだ!デジクロスを!」
な、なに…!?
お前らデジクロスできるようになってたのか!?
「まだなってない!」
なってないんだ。
と、とにかく…
スナイモンの鎌で戦うなら、ひとまずデジクロスを成功させてくれ!
じゃないとガチで手足もがれかねないぞ!
「やってやるぞ、ワームモン!デジ…クロース!はああーーー!」
ブイモンが力むと、隣でワームモンも力んで、ギチギチと顎を鳴らした。
「うおおおおおおーー!」
ど、どうだ…?
「…だめだぁ、やっぱできねえ…」
…ナイストライ。
くそ、もう手札がない。
もう壊されるのを見ているしかないのか…?
「へっくし!」
ど、どうしたカリアゲ。
「んー、もう季節が季節だから、涼しくなってきてな…。ズズッ。スギ花粉の時期よりマシだけどな」
花粉症あるんだ。
「あーもうあれだけはシンドいよ…地元で畑仕事してるときに飛んでくると最悪でさあ…!」
人類が未だに克服できてない敵だよね。
ってこんな事喋ってる場合じゃない。
手札がもうないぞ…
「ああ…ぁ…ぁああああ!?」
ど、どうしたカリアゲ!
「ある!まだ一つだけ!手札が!」
お、おお!?
…
ガニモン達がププモン貪り晩餐会をしていると…
パルモンがそこへ走り込んできた。
追撃しようとハサミを向けるガニモン達。
そんなガニモン達へ…
パルモンは、大量の花粉を浴びせた。
ガニモン達の眼球は複眼でなくカメラ眼だ。
大量の花粉がベットリとガニモン達の目にくっついた。
「ギシシシシィィィイイィィ!!??」
ガニモン達は悶え苦しんでいる。
おお…効いてる!
ゲレモン達にはぜんぜん効果なかったから忘れてたけど、パルモンには前世フローラモンから引き継いた花粉攻撃があった。
強いアレルギーを引き起こす作用がある花粉だ!
「ギシイイィィ!」
どうだ!痒いだろう!
そのハサミじゃ顔を擦れまい!
ガニモン達は、海の中へ潜っていった。
だが海水をかけたとて花粉は簡単には取れないぞ。
花粉はペクチンという接着剤のようなタンパク質を分泌して、触れたものにまとわりつくんだ。
だから熱湯ならともかく、水で擦った程度じゃすぐには取れない!
そのまましばらく待ったが…
ガニモンは上陸してこなかった。
マッシュモンが子分(チビマッシュモン達)を連れてきて、パルモンを胴上げした。
コマンドラモンとワームモンも拍手を送っている。
…うーむ…
若干危なかったが、ギリギリ瞬膜を閉じられる前に花粉を眼に浴びせることに成功したな。
「瞬膜?なんだそれ?」
カリアゲが聞いてきた。
瞬膜というのは、鳥やラクダ、ワニなど一部の動物が持っている透明な眼球プロテクターだ。
ワニが泥の中で眼が傷つかないように。
鳥が高速飛行中に目が傷付かないように。
ラクダが砂埃で眼が傷付かないように。
まぶたの下に、透明な第二の瞼みたいなのを持ってるんだよ。
ガニモンがもしかしたらそれを持ってる可能性があったけど…
先手を取れたからなんとかなった。
「パルモンやるなー…お手柄だ!」
どれだけ硬い防御力を持った敵だろうと…
どれだけ強靭な武器を持った敵だろうと。
しっかり観察して、弱点を探し…
多様な戦力を揃え、それをうまく運用すれば。
ときに武力の差をひっくり返せる事があるのだ。
…数日後。
再び二体のガニモンが上陸し、ププモンの小屋を襲った。
そこへ、二体のデジモン達が駆けつけた。
パルモンとブイモンだ。
ブイモンは、コマンドラモンから借りたガスマスクを装着している。
そしてパルモンとブイモンは、重くて大きな鉄製のツルハシを握っている。
「たあーーー!!」
まず、パルモンが花粉をぶちまけた。
「ギシイイイィィ!?」
二体のガニモンの目に花粉が命中する。
そしてすかさずブイモンが、ツルハシを掲げる。
「てめえええええしねやああああ!」
パルモンとブイモンは、重くて大きな鉄製のツルハシを、ガニモンの頭部へ振り下ろした。
硬いツルハシが、ガニモンの脳天を抉り、頭部を砕いた。
「おっしゃああ!こんやはカニなべだあああ!」
…まあ、武力はあって困るものではない。
…
パートナーデジモン達は、ガニモンを食べるつもりのようだ。
成長期にしてはDPが高めなガニモン。
食べれば栄養がつくことだろう。
自然に生きるデジモンを殺傷したのだ。
せめて食べて糧にしてやることが弔いになるだろう。
「いやーそこまで気負わなくていいんじゃないッスかケン先輩?連中はフローティア島の食糧を略奪しに来た侵略者なんッスよ!よく釣ってるプカモンみたくフツーに食べてもらえばいいじゃないッスか」
…どうかなシン。
侵略者は本当にあっちの方か?
むしろ、元々ガニモンが巡回しに来る土地に我々が後から来たのだとしたら…
侵略者は我々のほうかもしれない。
「う、確かに…」
仕方ないこととはいえ…
そう考えると、少し罪悪感を感じてしまう。
…ププモンを釣り餌にして魚デジモンを釣ったりしている我々が今更言うようなことじゃないけどね。
「…それでいいんだよ、ケン。僕たちはこれでいい」
メガ…?
「フローティア島…浮島(フローティングアイランド)とフロンティアをかけた名前だったね。それなら、今ぼくたちはきちんとやるべきことができてるってことじゃないか」
どういうことだ…?
「何故なら、僕たちの世界でのフロンティア…開拓前線とは。そのまま原住民の虐殺戦線だったじゃないか」
…。
「はじめの志通りのことを、きちんとやれている。何も後ろめたさを感じる必要なんてないはずだよ、ケン」
それを聞いたカリアゲは、頬杖をついて聞いている。
「メガ…お前ほんと言うこと変わったな。マッシュモン事件の頃のお前だったら口が裂けても言わなさそうだぜ」
「そのときは何も見えていなかっただけだよ、カリアゲ。僕らがやるべきことがね」
…少しの間、沈黙が続いた。
そこへ、スポンサーさんから連絡が来た。
『やあ諸君!島開拓の調子はどうだね?』
あ、どうもスポンサーさん。
ププモンを使った排泄物リサイクルシステムを、ガニモンに破壊されかけましたが…
なんとか倒せました。
『ほほう!それでは今後ガニモンが来てもへっちゃらになったということかな?』
いいえ全然。
まともにやりあったら勝ち目がないから、目潰しをしたり鉄の武器を使ってうまく張り合ってるんです。
今回来たのが2体だったからツルハシの数が足りましたが…
前同様に4体とか来てたらやっぱりしんどいですね。
『仮に来たらどうするんだい?』
…来ないようにすることが大事ですね。
とりあえず、岸側に設置してた木箱を、島の中央あたりに移動させました。
ガニモンは海から来るので、しばらくどうにかなるはずです。
『しかし、鉄の武器とはすごいじゃないか!製鉄所があれば何でも作れるね!』
我々の世界の工業製品のツルハシほど立派じゃないですけどね。
なにせ鍛冶場があまり立派じゃないし、鍛冶の技術も素人の見様見真似です。
手先が器用なブイモンがDIYしてくれてますが…
「ちゃんとしたのが作れねえ」って嘆いてます。
今はそれっぽい粗雑な鉄の棒があるだけでも十分役に立つから、気負わなくていいって伝えてるんですけどね。
『ハッハッハ!ブイモン君は完璧主義なとこがあるねえ!』
『ところで、ブイモン君は卑屈なところはあるが、随分働き者だねぇ』
そうですね…。
ブイモンという名前の由来が何か、わかりますか?
『額のVマークかね?』
いいえ。私も最初はそうだと思ってたんですが…
どうも違うみたいで。
ブイモンという種は、ディノヒューモン農場で様々な肉体労働をしている爬虫類型デジモンです。
小竜型という呼び方もありますね。
おそらくディノヒューモンの子供や孫達ですね。
ディノヒューモンは、自分のような司令塔ではなく…
「指示をよく理解し、忠実にこなす労働者」を欲しがった。
ブイモンという成長期デジモンは、それに向いた進化をしたデジモンです。
『つまり、ブイモンという名前は…』
"Blue-color Employee"…
肉体労働従事者の略だそうです。
『ハッハッハ!ブイモン君本人にはちょっと教えられない由来だねえ!しれっと額のVマークからとったことにしたほうがいいんじゃないか?』
…まあ、由来そのものは今更変えられるものではないですよ。別に学術的に意味があるものでもないですし。
『ブルーカラーといえば、ブイモン君の体色は青だね』
偶然の一致…ではないかもしれませんね。
ブイモンの体色は、青色の色素ではなくモルフォ蝶のような構造色によって発色されているものですが、これが紫外線を高い効率で反射できるんです。
ゆえに強い日差しの下で長時間の肉体労働をしても、紫外線による肌のダメージが軽減されるんです。
『本当に特化した形質なんだねぇ』
そういえば、スポンサーさんは今日はどうかしたんですか?
『互いにちょっと挨拶がてらに近況報告でもどうかと思ってね!』
近況報告ですか。いいですね。
こちらはご覧のとおり、かくかくしかじかです。
『ふむふむ、いいねえ!随分広い島だ!よくこんなに大きくて住心地良さそうな島が、今まで成熟期デジモンの巣窟にならずにいたもんだね!』
そうですね。
ここを見つけられたのは奇跡的です。
『作りは雑だが鉄の箱でデジタルゲートを囲い、クラッカーが侵入できないようにできてるのか。セキュリティもできてるね!これならキウイモンの島みたいにはならずに済みそうだ!』
…ちょっと待ってください。
キウイモンの島がどうしましたって?
『なんだ知らないのかい?あの島がどうなっているのか…』
…どうなったんですか?
『君達が蛮族と呼ぶ種族のデジモン達がいつの間にか入植していたよ!キウイモンは彼らのエサの卵を生む家禽扱いさ!』
なんだって!?
そ、そんな…!
なんて酷いことを!
『おや?君達がやっていることとは何か違うのかな?』
違…
…
…う!
『おおっ違うと言うのかな?』
我々がやっているセキュリティデジモン育成には、社会的な正当性がある!
奴らと違ってサイバー犯罪に利用するんじゃない!
ガニモン達に今更許しを請う気は毛頭ないが…
それでも必要なことのために野生デジモンを殺傷したことについて、世間から後ろ指をさされる謂れはない!
『なるほど!良い覚悟だ!我々はそんな君のことをこれからも応援する。安心したまえ!ハーッハッハッハ!』
…意地悪ですね。
『つまり、君達がその島へ入植しなかったとしても、どの道ガニモン達は殺されていたよ。君達の糧になるか、蛮族の胃袋に入るかの違いだよ』
慰めてくれてるんですね。
…キウイモンの島も、先に我々の陣地にしていたら、蛮族に支配されずに済んだってことですか。
『そういうことだな!』
…つらいですね、この戦い。
『しっかり胸を張りたまえ!君達はやるべきことをしっかりやっているさ。応援というのは、資金面だけの話をしているつもりはないよ』
ありがとうございます。
それで、そちらの近況は?
『ふむ…近頃また現れたそうだ、ランサムウェアデジモンが』
ランサムウェア…!?
アイスモン一味ですか!?
あの時アイスモンは倒したはずでは!?
『おそらく、クラッカーがアイスモンと共に寒冷地から保護した子供デジモン達が成熟期にでもなったのだろうね!また手駒を増やせるようになったんだろう!』
くっ…
ポンポン成熟期を育てやがって。
そいつをまた退治はできないんですか!?
『何度かサラマンダモンでランサムウェアデジモン討伐をしているんだが…現場の司令塔はキャンドモンという成長期デジモンだ。アイスモンじゃない。これが画像だ』
スポンサーさんから、ランサムウェアデジモンの司令塔の姿が画像で送られてきた。
こ、こいつは…!
前に見たことがあります。
クレカ事件の後、うちのサーバーに襲撃しに来たデジモンの中に、こいつがいました!
「むむ!するとその時に来たキャンドモン達は、ランサムウェアデジモンとしての運用テストも兼ねていたのかもしれないね…」
なんにせよ厄介な敵ですね。
キャンドモンも。
そして…まだ見ぬ、「キャンドモンの親である成熟期デジモン」も。
「本拠地を攻めに行ければ手っ取り早いんだけどねぇ…」
そうですね。
「カリアゲーーー!なべくれーー!でっかいなべーーー!」
『おや、ブイモン君の声だね』
デジクオリアの画面からブイモンの声がした。
どうしたんだろうか?