デジタルモンスター研究報告会   作:タマリリス

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検索と案内 進化の条件

ブイモンの様子を見ると…

倒したガニモンの死骸をどうするか困っているらしい。

 

「カニなべがくいてーんだよ!オイラはー!なあカリアゲ、カニなべってうめーんだろ?」

 

「あ、ああ…ブイモン。そうだな、蟹のダシが出てうめーぞ!しかしまあ…こんなデケー蟹なんて鍋にできねーぞ」

 

「カリアゲー、こんなちっこいドナベじゃガニモンはいんねーよ!」

 

そう言い、ブイモンは土鍋を見せてくる。

これは鍋料理用に作ってもらったものだ。

 

鍋料理は、食材の栄養分をすべて逃さずに摂取できる優秀な調理方法だ。

農耕メインで栄養を得る路線の我々には重要なアイテムである。

 

だが…

ガニモンほどの大きさのデジモンを丸ごと煮込めるサイズではない。

 

どうにかブイモンに蟹鍋を食わせてやりたいけど…

どうすればいいかな。

 

なにか煮込むのに適したデカイ器はないか…?

「今からデカイ土鍋を作ったら、ガニモンが腐っちまうな。…あ、鉄鍋を使うのはどうだ?」

 

鉄鍋?

そんなのあったっけ。

 

「デジタルゲートを覆ってる…あの鉄の檻…ちょっとだけ借りれない?チョットだけ」

 

セキュリティホールを作るのは勘弁してくれ。

 

「うーん駄目か…なんかねえか?」

 

…あるにはあるけど…入手するにはリスクがある。

そこそこ強い成熟期デジモンの住処に侵入しなきゃいけないからね。

 

「オイラいくぞ!やってやる!」

 

…わかった。

コマンドラモン、パルモン、ワームモン、マッシュモン…そしてオタマモン。

フォローお願い。

 

そう言い…

我々は湿地帯に向かった。

 

湿地帯には、ヌメモンの住処がある。

今では珍しくなった、成熟期のヌメモンだ。

 

彼らの進化前の姿は、二枚貝型デジモンのシャコモンである。

 

シャコモンの天敵は、トンボ型成熟期デジモンのヤンマモン…

そして、エビ型成熟期デジモンのエビドラモンだ。

 

そして、ヌメモン達のボディーガードとして、シェルモンというデカイ貝殻をもつ巨大な成熟期デジモンがいる。

 

 

我々が探しているものは…

『ヤンマモンやエビドラモンに食われたシャコモンの貝殻』だ。

解体したガニモンをこれで煮れば、鍋代わりにはなるだろう。

 

これを、前述の捕食者やシェルモンに見つからないように探し当て、回収しなくてはならない。

 

大丈夫だろうか…?

危険な任務だが、その見返りがシャコモンの貝殻では、割に合わないのではないか。

 

我々が、現地を見てどうやってシャコモンの貝殻を探すか話し合っていると…

 

「ケン。この任務、ぼくらのデジモンに手伝わせてくれないか?」

 

おや、メガ。

手伝ってくれるの?

 

君らのデジモンというと…

デルタやニューみたいな…『人の役に立つデジモン』のこと?

 

「うん。デジタルワールドで通用するか、試させてほしい」

 

おお、それは心強い。

さあ、初めてくれ。

 

「…秘匿義務があるから、しばらくの間デジクオリアの画面を見ないでいてくれる?」

 

わ、わかった。

 

…しばらく経った後。

 

「ケン、カリアゲ。戻ってきていいよ」

 

おお、もういいの?

 

「地図を作った。ここにシャコモンの貝殻が埋まっているはずだ」

 

そう言い、メガは地図データを送ってきた。

地図には赤いバッテンがいくつか記されている。

 

我々はそれを信じることにした。

パルモンを向かわせ、バッテン印のあるところへツタを伸ばさせると…

 

「ん!なんかある!」

 

おお、マジか!

パルモン達は、綱引きのように連なって、ツタを引っ張った。

 

すると…

望み通りに、泥だらけのデカい貝殻が出てきた!

 

おお…すげえ!

こんな沼に埋まったものをどうやって見つけたの!?メガ!

 

「今はまだ教えられないけど…いずれ教えられるときが来ると思う。今はとりあえず、仮称『ガンマ』および『ニュー』と識別している個体がやってくれた、とだけ覚えておいて」

 

ガンマとニューか…

ニューは前に自動運転ドローンで私を空のドライブに連れて行ってくれた子かな。

 

「そうだね」

 

サンキュー!

我々はメガのおかげで、危険な探索作業をせずに済んだ。

 

その調子で、3つほど湿地から貝殻を発掘した。

 

さて、あとは貝殻を持ち帰らなきゃいけないな。ヤンマモンやエビドラモンに捕まらないように…

 

「その帰還ルートも僕らが案内するよ、ケン」

 

…マジ?

すごいな。

 

メガの指示通りのルートを進むと、まったく捕食者に出会わずに危なげなくデジタルゲートまで戻ってこれた。

 

これでガニモンを煮るための鍋を、3個持ち帰れたぞ。

 

…そうして、フローティア島にて、無事にガニモン鍋を作ることができた。

 

貝殻の中で、塩味スープの野菜入り蟹鍋がぐつぐつと煮えている。

 

シャコモンの貝殻は、別に火に強い素材ではないので、何度も繰り返し使えるものではない。

駄目になったら砕いて畑に撒くことにしよう。炭酸カルシウムの貝殻は植物の生育に役立つはずだ。

 

「よっしゃ、カニなべできた!いただきまーす!」

パートナーデジモン達は、ブイモンに続いてガニモン鍋を食べ始めた。

 

「ハフッハフッ!うめー!」

おお、ブイモンが喜んでいる。

こうも嬉しそうにしてくれると、なんだか嬉しいな。

 

尚、ガニモンの殻はパルモンとブイモンが頑張ってほじって他デジモンへよそっている。

コマンドラモンやマッシュモンの手では、器用さがやや足りず、こういう細かい作業が苦手だからだ。

 

ガニモンの殻はメチャ硬いからな…

剥くのもかなり大変そうだが、それでもブイモン達は楽しそうだ。

 

…せっかくなので、キンカクモンのデジタマも晩餐会の場に置いた。

デジタマはレベル0のデジモンだ。この場の和やかな空気が、多少なりとも産まれてくる幼年期デジモンにプラスの影響を与えてほしいものだ。

 

コマンドラモンも、少しふふっと笑ったような表情をしてから、ガニモンの蟹味噌を食べた。

『うまい』

 

おお、コマンドラモンも喜んでくれている。

『な なんだ これは』

え、どうかしたコマンドラモン?

 

…コマンドラモンは、スプーンと器を置いた。

 

荒い呼吸をしている…

なんだ?

コマンドラモンの様子がおかしい。

 

コマンドラモンの身体が、突如光りだした。

 

これは…

進化の光だ!

 

コマンドラモンは慌てている。

おお、ついに…成熟期になるのか!?

 

思えばコマンドラモンは我々のパートナーデジモンの中で最古参だ。

コマンドラモンが成長期でいる間に、デジタルワールドでは何世代ものデジモン達が、デジタマから産まれ、成熟期へ育ち、またデジタマを産んでいた。

 

様々な戦いや任務で、命を危険に晒す機会もあった。

 

その甲斐あって、成熟期への進化条件が整ったということだろうか。

 

『リーダ わたsは どうなれbあいい』

 

 

コマンドラモンは、慌てながらチャットを飛ばしてきた。

誤字を訂正する余裕も無いようだ。

 

突如名指しされたリーダーも、流石に驚いている。

「ど、どうなればいいか…だと?ッ…」

 

リーダーといえそ、咄嗟に返答できることじゃなさそうだ。

研究チームのみんなが慌てている。

 

『はやく こtえてkれ』

 

コマンドラモンはガウゥと吠えながら、光り輝く体を押さえている。

 

ど、どうなればいいんだ…コマンドラモンは!?

我々はなんと返事すればいい!?

 

正直パニクっている。

心の準備ができていない!!

 

カリアゲが叫んだ。

「お前がなりたいものになれ!コマンドラモン!俺達はそれをすべて受け入れる!」

 

お、おお…

なんかいい感じの返答だ!

ナイス、カリアゲ!

 

 

コマンドラモンは、苦しそうな表情をした。

 

そして…

光が消えた。

 

コマンドラモンの姿は変わっていない。

だが、体の端々が、時々バチバチとノイズのようにチラついている。

 

な、なんだ…?

進化しないのか?

 

「…進化を押し留めたんだ」

なに!?

メガ、どういうことだ!?

 

「コマンドラモンは…進化することを拒絶したんだよ、ケン」

 

コマンドラモン!?

い、一体どうして!せっかく進化できるところだったのに!

 

コマンドラモンはぜぇはぁと荒い息をしている。とても辛そうだ。

 

コマンドラモンからチャットが送られてきた。

 

『わたしは じぶんが なりたいものに なるわけには いかない』

 

ど、どういうことだ…?

 

『わたしは マッシュモン あなたのように なりたかった ぶんしんを ふやし ひきいる あなたに あこがれていた』

 

そ、そうなの?

 

『そして パルモン あなたのように やさしく かしこい しどうしゃに なりたかった あなたにも あこがれていた』

 

そうなっちゃ駄目なのか?

 

『だが それを めざしても マッシュモン あなたほどの つよさは えられない わたしの からだの こうぞうでは だから やめた』

 

…。

 

『わたしは じぶんの なりたいものに なるわけには いかない なるべきもの もとめられるものに ならねば ならない』

 

 

そ、そんなに悩むことなのか?コマンドラモン。

 

『ケン あなたの ビデオで わたしは いろいろな デジモンを みてきた コカトリモンや タスクモンの ようには なりたくない』

 

…コカトリモンに、タスクモン…。

どちらも「強さを手にはしたが、環境に適応できずに滅んでいったデジモン」だ。

 

そういうことか、コマンドラモン。

君は、ずっと先を見据えているんだな。

これからのクラッカーとの戦いを。

 

デジモンが成熟期に進化する条件の仮説として、「生命の危機を感じること」が挙げられているが…

 

コマンドラモン、君にとっては…

これから先の、手口が高度化していくクラッカーとの、予想がつかない戦いこそが、「生命の危機」だということか。

 

『そうだ ケン いちど しんかをすると もう にどと あらたなすがたには なれない だから むけいかくな しんかを しては ならない わたしは』

 

…「進化を間違いたくない」…そういうことか、コマンドラモン。

 

『そうだ だから わたしが どうなるべきか きめてくれ わたしに おしえてくれ リーダー ケン』

 

 

…そう必死にチャットを打つコマンドラモンは、とても苦しそうだ。

パルモンはコマンドラモンを抱きしめ、揺すっている。

 

マッシュモンは驚いた顔をしている。

 

…我々は、コマンドラモンの成熟期への進化を目指していた。

 

コマンドラモンの産んだデジタマからは、間違いなく優秀なセキュリティデジモンが産まれるだろう。

それにコマンドラモン自身も成長期としては格段に優秀だ。それが成熟期になれば、どうなろうと優秀なデジモンになるだろうと考えていた。

 

だから、コマンドラモンをどのように進化させたいか…ということについては、全く拘っていなかった。

 

だが…

当のコマンドラモン本人は、そう考えてはいなかった。

 

自分がどのような姿へ進化し、どんな役割を果たすべきか…

クラッカーに対してどんな戦いができるようになるべきか。

それをずっと悩んでいたのだ。

 

そして、その結論が出ない段階のまま…

肉体が成熟期への進化条件を満たした。

ゆえにコマンドラモンは、自身の進化を止めた。

 

成熟期へ進化するということは…

『進化する機会を失う』ということだ。

(レベル5への進化という特例ケースは、打算に入れていないようだ)

 

だからこそ、コマンドラモンは自身の進化に慎重になりブレーキを踏んだ。

 

だが、「己の進化を無理矢理止める」とは、間違いなくデジモン自身の肉体に強い負荷をかけてしまうだろう。

体にバチバチと走るノイズと、苦しそうな表情がその証だ。

このまま結論が出なければ、その肉体が崩壊してしまう可能性すら有り得る。

 

…コマンドラモン…

成長期にしては賢すぎるデジモンだ。

 

だが、その賢さが、今は仇となってしまっている…。

 

…隣を見ると、クルエが口元を押さえて、涙を流している。

 

クルエさん…

コマンドラモンが哀れに感じて泣いてるのか。

 

「ううん、違う」

 

え、違うの?

 

「エモすぎて泣いてる」

 

どゆこと!?

 

「だって、あのクールなコマンドラモンが…一番強いまであるようなコマンドラモンが!マッシュモンとパルモンに!こんなクソデカ感情を抱えていたなんて…!エモすぎてやばない!?」

 

解説されて尚理解できないんだけど!?

 

私が困惑していると、メガがクルエのそばに来た。

 

「わかる」

「わかる!?メガ君も!?だよねぇ!!」

 

メガとクルエはハイタッチした。

…分からないの私だけ?

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